「目きょろきょろ、語尾ふにゃふにゃ」リポートが苦手だった須賀川記者が中東で“しゃべり続ける”理由

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2022年4月20日 (水) 09:18
「目きょろきょろ、語尾ふにゃふにゃ」リポートが苦手だった須賀川記者が中東で“しゃべり続ける”理由
「原稿も、リポートも、苦手なんです」。そう話すのは、JNN中東支局長・須賀川拓記者だ。

そんな彼が中東取材を通して変わった。米軍の撤退により混乱を極めたアフガニスタン取材に従事し、タリバン広報官とのインタビューで丁々発止のやり取りを繰り広げる。現地リポートをウェブ配信すると100万単位のアクセスがあり、バズる。そして、2021年度の優れた国際報道に贈られる「ボーン・上田国際記者賞」を受賞した。

一体、須賀川記者に、何が起きたのか。

 
2022年3月 「ボーン・上田記念国際記者賞」を受賞
 

■「1分の原稿は間違えるのになぜ?」実は苦手だったリポート


ーー「ボーン・上田賞」受賞、おめでとうございます。

いやー、もらって大丈夫かなって。先輩記者に怒られそうな気もします。

ーー受賞あいさつの中で「民衆の声を伝えたい」と話していました。具体的にはどういう意味でしょうか?

複雑なものを複雑なまま伝えると言い換えられるかもしれません。

もともと文章を書くのは好きなんですが、ニュース原稿で簡潔にまとめることが苦手でして・・・。ある現象について時間を気にせず解説、ならしゃべり続けられるのですが、短く原稿にしてといわれると、目も当てられない状況なんです。複雑な要素を簡略化するのはいつも苦労します。

 
2020年 レバノン大爆発の中心部の撮影が世界で初めて許可された
ーーえ、ボーン・上田賞受賞した方が、原稿が苦手ということですか?

悪者が一人明確にいれば、伝えやすいんですが、世の中ってそんなにシンプルではないじゃないですか。パレスチナでも、アフガ二スタンでも、戦争の当事国、攻めるほうも、攻められているほうも、程度の違いこそあれ、どちらも非人道的なことはしています。簡単に白黒つけられない部分があるんです。それを1分の原稿でどうやってまとめるんだよって。まとめられないんです。もちろん、それも仕事でとても大切なんですが・・・。上手に原稿を書く先輩を真似ようとしますが、なかなかうまくいきません。

実は、原稿だけでなくて、顔出しのリポート(ニュースの中で10秒前後で記者がカメラ目線でリポートすること)も苦手です。まず、カメラが苦手なので、目がキョロキョロしてしまうし、原稿通りにうまく話せなくて、語尾がふにゃふにゃしてしまう。

 
2010年社会部記者になったばかりの頃のリポート

ーーえ、ボーン上田賞受賞した方が、カメラも苦手ということですか?

カメラの正面で話すのが嫌で、今でもカメラマンにどう撮りますか?と聞かれると「とりあえず後ろからついてきて」ってお願いしています。

ーーでも、ネット配信番組を見ていると、カメラの存在を気にせず、自由にしゃべり続けているイメージです。

支局のスタッフにも「1分の原稿は間違えるのに、90分のリポートよく間違えないですね」なんてよく不思議がられます。たぶん原稿にしても、カメラ目線にしても、予定調和なことが、嫌というより、できないんだと思います。ネット配信のときのように、原稿がないリポートだと、カメラを気にせず、いくらでも話し続けられるんですよね。

 
2021年5月YouTubeでLIVE配信した「ガザNOW」より 約90分間にわたりリポートし続けた


■「現地の人にとにかく寄り添おう」ガザ地区で変わった伝え方


ーーボーン・上田賞の受賞理由に「迫力ある映像、生の声はテレビの強みである。その強さを須賀川記者が実証して見せている」とありました。その場で起きたことをそのまま伝える須賀川記者だからこそなんですね。昔から「民衆の声を伝えたい」という思いが強かったのですか?

もともとそういう気持ちは強かったです。なぜなのか、理由はよくわからないんですが、よく思い出すのは中学の時の友達のことです。

私は子どものころの大半を海外で過ごしました。中学生の頃はオーストラリアに住んでいたのですが、インドネシア人の友人がたくさんいました。ですが、インドネシアで通貨危機があって、急にほとんどの友達が帰国をしなくてはならなくなりました。お別れのパーティーで悲痛な表情だった友人や家族のことをよく思い出すんです。

昨日まで当たり前だった生活が、自分ではどうにもできない理由で大きく変えられてしまうことがあると知りました。そして、徐々にですが、私にできることがあるなら、そんな自分の責任ではないことに生活を翻弄されている人々のために時間を費やしたいと考えるようになりました。

 
小6から中3まで過ごしたオーストラリア 北部で釣ったイケカツオ


ーー記者になってそれはすぐ実践できたのでしょうか?

事件や事故、災害の被害者に寄り添いたいという気持ちで記者になったものの、何をどのようにしたらいいのか、はっきりとはわからないままでした。でも、中東支局長になって大きな転換がありました。

赴任したてのころは、中東で起きていることをどう伝えたら日本で関心を持ってもらえるのかと悩みました。最初は日本にどうつなげるか考え、中東で活動しているNGOの日本人を取り上げるなどしました。でも、出来上がったものを見て、どうもうまくいってないと感じました。

なぜかと考えたときに気づいたんです。頭の中で“主役が日本”だったんですよね。でも違うよなって、初めてガザ地区に取材に行ったときに思いました。日本人に伝えるために切り口を考えるのではなくて、現地で起きていることをそのまま伝えないと意味がないって。

ガザ地区で起きていることはあまりにも凄惨で、起きていることをそのままちゃんと伝えなくてはいけないと思いました。
  
2021年 停戦後のガザからリポート

ーーあまりに凄惨だから、そのまま伝えなくては、とはどういうことですか?

どの紛争地もそうだと後々気づくのですが、ガザでは、空爆で子どもを亡くした親がインタビューにすぐ答えてくれたり、亡くなった家族の写真をすぐくれたり、私たちの取材にとても協力的です。なんでだろうって思った時に、一つは、メディアをすごく頼っているのだということがわかりました。

空爆で友人や親戚、子どもが次々に亡くなり、最後に藁にもすがる思いでメディアしかないと訴えてくるんです。だからこそ取材に協力的で、だからこそ自分はその想いに応えなくてはいけない。この現状をそのまま伝えなくてはいけないという、自分の責任を感じました。

これは中東だからということではなくて、自分を必要としてくれている人がいて、自分にできることがあると実感する出会いがあったのが、たまたま中東だったんだと思います。

ーー「現地の現状をそのまま伝える」ということはとても大切だと思いますが、それだけで日本に伝わるでしょうか?

日本に伝えるための切り口を探す必要はないと思う一方で、自分が日本語で伝えることは大切にしました。現地の映像は、BBC、CNN、アルジャジーラなど海外の報道機関からも伝えられますし、個人的にSNSでも発信されています。でもそこに日本人がいると全然伝わり方が違うと思うんです。

日本から遠く離れた場所で起きていることは、日本の方にとっては非現実的に映ることがあるかもしれません。一方で、日本人がそこにいて、現場の状況に共感すると、見ている方もその日本人を通して共感してもらえる感覚があります。どんな遠くの国の話でも、きっかけさえあれば日本人はものすごく共感することができる力があると思うんです。なので、どんなマニアックな取材でも、そこに日本人の自分がいて日本語で話せば伝えられるんだ、と吹っ切れました。

 

■虫や魚におしゃべりしていた子ども時代 今は妻にー


ーー須賀川さんの現地リポートは本当に流暢で、現地の様子を日本にいる私たちに通訳してもらっているような感じがします。しかもあんなにずーっと話せるのはすごいですね。昔からですか?

小さい頃は虫が大好きで、ずーっと虫を見ていて、虫と話していました。オーストラリアに引っ越してからは、海が近かったので、魚を好きになり、ずーっと魚を見て、魚と話していました。

ーー今も、虫と魚と話す生活ですか?

いまは、家で妻にずっと話しています。よく、夜遅く帰ってきても話し続けていて、「そろそろ寝たいんですけど・・・」と言われています。「本当におしゃべり好きなのね」って。なので、子どものころから、対象は何であれ、おしゃべりです。そういえば、息子も私に似たのか、かなりおしゃべりです。

 
須賀川一家 イギリス南東部・ウィツタブルでのキャンプ
  

■リポートは誰のためか?「これからも民衆の声を多く伝えていきたい」


ーーこれからどうしていきたいですか?ボーン・上田賞をとった人だと、きっとずっと注目されますね。

えらいことになっちゃって。でも、自分の中でやることは変わっていなくて。ひたすら現場に立ち続ける、民衆の声を伝える、ということだと思います。

一方で、実は、現場至上主義って危ないっていう思いもあります。現場から伝えることは大切なんですが、現場で起きていることも一つの側面でしかないよなとも思うんです。それを補足できるのが、一つは勉強。リポートの中に、その勉強してきたことを盛り込む。現場のことだけでなく、背景を加える。今後、それをブラッシュアップすることで、問題の全体像をより多角的に伝えられるようになりたいと思っています。

 
2021年9月アフガニスタンを制圧したタリバンの報道官に日本のメディアとしては初めてインタビュー


ーー確かに、民衆の声を伝える、ということは、一方で、もしかすると一面でしかないその声に報道が影響されることでもありますよね。

そうなんです。ですから、私の現場の取材に対して、外から専門家が評価するのが、一番の伝え方だと思っています。現場の中で伝えられることと、外から伝えられることは違います。現場にいないからいえることもあるんです。

例えば、最近はウクライナに取材に行きました。目の前で軍事侵攻による惨状を見たときに、外から見ている人と同じようにフラットな評価をできるかというと、自分はできないと思います。「公平公正」を目指さないといけないメディアが、自分でそれを言ったら終わりだろう、記者として甘い、といわれてしまうかもしれません。でも、現場で感情を入れないっていうのは無理だとも感じていて。だからこそ、現場の声と、外からの専門家の意見で、報道をフラットにしていくことを大切にしていきたいです。

 
2021年11月タリバンのパトロールに同行しリポート

ーーそんな報道の先に、須賀川さんが目指しているものってなんでしょうか?

最終的に誰のためにリポートをしているのかというと、もちろん賞のためではありませんし、実は視聴者の皆さんのためだけでもなくて、伝えることで、現地の人になにかしらの形で還元できないかという気持ちが大きいです。報道を通して、何かの支援や、政治的な決断など、結果的に現地の人たちにつながってほしいんです。少なくとも、自分はそういうことがしたいという思いが強くて、究極的には自己満足なのかもしれませんが、それでもいい、現地の人たちの喜ぶ姿が、自分が報道の先に目指している光景だと思います。


▼須賀川拓(すかがわ・ひろし)
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1983年、東京都生まれ。2006年TBS入社。スポーツ局を経て2010年より報道局に配属され、社会部警視庁担当。報道番組Nスタなどを経て、2019年から中東支局長。2021年度「ボーン・上田国際記者賞」受賞。映画『戦争の狂気 中東特派員が見たガザ紛争の現実』を監督し、2022年TBSドキュメンタリー映画祭で上映される。

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