「日本で働きたい」ウクライナ避難民受け入れ表明から2か月超 継続取材して見えた課題「生活費への不安」国からの支援は「身寄り」のありなしで大きな差が

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2022年5月14日 (土) 10:01
「日本で働きたい」ウクライナ避難民受け入れ表明から2か月超 継続取材して見えた課題「生活費への不安」国からの支援は「身寄り」のありなしで大きな差が

岸田総理がウクライナからの避難民の受け入れを表明してから約2か月。これまでに800人を超えるウクライナ避難民が来日した。着のみ着のままで戦火を逃れてきた避難民たちは来日してしばらく経ち、どのような生活を送っているのか。果たして、支援は十分行き届いているのだろうか。取材を通じて、避難民の間でも支援に「差」があることも分かった。

■「日本に恩返しがしたい」身寄りなく来日した避難民の思い


海岸で、毎朝欠かさずゴミ拾いをしているウクライナ避難民がいる。

避難民 ウラジーミルさん
「受け入れてくれた日本にせめて何か恩返しがしたくて」

海岸でゴミ拾いをするウクライナからの避難民・ウラジーミルさん


ウクライナ東部ドニプロで医師をしていたウラジーミル・ピヴォヴァルチュクさん(65)。ロシア軍の侵攻が始まった日から空襲警報が鳴り響く日が続いた。しばらく自宅で耐えたが、統合失調症を患う35歳の息子が怖がる姿を見て、国外脱出を決意した。

ウラジーミルさん
「空襲警報におびえる息子を見て、ここにはいられないと思った。荷物をまとめる時間は2時間しかなく、思い出の詰まった写真も、せっかく育てた畑のトマトも捨てていくしかなかった」

避難の状況を語るウラジーミルさん


妻と息子、そして飼っていたネコを車に乗せ、48時間走り続けて西部の街を目指した。戦時下のウクライナでは18歳から60歳の男性は原則出国できない。国境では息子(35)が統合失調症を患っていることを証明し、なんとか一家全員ポーランドに脱出することができた。

そして4月5日、日本の政府専用機で来日した。ウラジーミルさんは日本に身寄りはなかったが、ウクライナにいた日本人の友人に「安全で食事もおいしく、豊かな国だ」と薦められ、日本行きを申し込んだ。そこで辛い別れもあった。

ウラジーミルさん
「専用機に動物は乗せられないといわれネコは他の避難民に預けました。家族を置いてきた気分です」

彼はこう言ってスマホ画面のネコを指でなでた。

ウラジーミルさんの飼いネコ 今は離れて暮らしている

■「身寄りのない」避難民には国から生活費支給 それでも残る不安


ウラジーミルさんのような日本に「身寄りのない」避難民は、出入国在留管理庁(入管庁)が用意した「一時滞在」のホテルに滞在している。食事は国が負担し、12歳以上には生活費として1人あたり1日1000円が支給される。今後は入管庁が受け入れ先を調整し、自治体などが提供する住居に移る。

ウラジーミルさん
「いまはホテルにいるのでお金はかかりませんが、ホテルを出たら食費もかかります。それを考えたら今のお金ではまったく足りません。なので日本で仕事がしたいと思います。仕事ができなければ生活していくことができません。」

一方、ホテルを出ると食事は援助されない。生活費として支給されるのは1人あたり1日2400円だ。11歳までの子どもや1世帯で2人目以降は減額される。ホテルから出た後の生活には、経済的な不安が残るという。

■「身寄りのある」避難民には国からの生活費なし


一方で、「身寄りのある」避難民にはさらに切実なケースもある。「身寄りのある避難民」とは日本に来る際のビザ(査証)で、身元保証人となる人がいた避難民のことだ。来日後、身元保証人から支援を受けることが想定されているため、原則、国から生活費が支給されない。「身寄りのある」といっても家族に身元保証人になってもらった人もいれば、遠い知人を頼った人もいる。

4月8日に日本に避難したオルガ・ティーシェンコさん(28)もその1人。もともと日本に身元保証人となれる人はいなかったが、避難民を支援するサイトに支援者として登録していた早稲田大学のアメリカ人教授、ダニエル・ドーラン氏と繋がり、身元保証人になってもらった。政府は公式には「身元保証人」がいない避難民も日本に来られるというが、オルガさんは査証を受ける際にポーランドにある日本大使館でこうした説明は受けておらず、書類に身元保証人を書くことが一番早く避難できる方法だと考えた。結果、日本に「身寄りのある」避難民の扱いで来日することになった。

ウクライナからの避難民・オルガさん


避難民 オルガさん
「いまお金は少ししかありません、将来が不安です。日本への渡航費もドーラン教授に払ってもらった。ドーラン教授に生活費を頼っている状況です。生活費のために早く働きたい、すぐに仕事を見つけたい」

オルガさんはもともと赤の他人だったドーラン教授の支援に頼りっぱなしであることに引け目を感じている。身寄りがあっても生活費をもらえる日本財団の支援に応募したが、来日して1か月以上経ってももらえるという決定は受け取っていない。金額は年間で100万円。それでやっていけるのかの見通しも立たない。

■支援内容が「国や自治体でバラバラ」「コーディネーター的存在がほしい」


神奈川県茅ヶ崎市で「Shonanloco(湘南ロコ)」というボランティア団体を作り、避難民を金銭面からも支援するドーラン教授は「身寄りのあるなし」で、国の支援に差があることに疑問を感じている。

オルガさんと身元保証人のドーラン教授


ドーラン教授
「避難民が日本に身寄りがあると、国からの支援金を受けられないというのは知りませんでした。私は身元保証人になりましたが、オルガさんの査証の際に必要だと思ったからです。同じ避難民なのに身寄りがあると経済的な支援がない、なんとも変な制度だと思います」

ドーラン教授はそれ以外にも、避難民支援で困ることがあるという。

「日本は全体としては避難民支援に前向きに取り組んでいます。しかし問題はその中身が国や自治体、企業によってバラバラで、わかりにくいことです。避難民や我々支援者にとって必要なものは、様々な支援の情報を1つにまとめて提示してくれるコーディネーターです。例えばワクチン担当大臣をつとめた河野太郎氏のような存在を、避難民支援でもつくれないのでしょうか」

ドーラン教授は避難民支援が抱える課題を指摘する

■「日本で働きたい」避難民の前に立ちはだかる言葉の壁


幼い頃から日本のアニメや文化にあこがれ、日本に避難したオルガさんは、戦争が終わっても日本で生活していくことを希望している。医師のウラジーミルさん一家も、ふるさとが落ち着くまで数年は日本にいたいと考えている。長期間の安定した生活のためには継続的な収入が欠かせない。避難民の就労に向け国はどう支援するのか。

4月28日、古川法務大臣の会見で「働きたいウクライナ避難民への具体的な支援策と、受け入れ企業に求めることはあるか」尋ねた。

古川法務大臣
「政府としては在留資格の切り替えを特例で認め、就労資格を与えています。これで就労を希望する避難民は働くことができます」

一方、オルガさんは就労資格があっても「日本語ができないと働くのは難しい。コミュニケーションができない」と漏らす。ウラジーミルさんはベーカリーショップでアルバイト体験をしてみたが、作業が書かれた紙や、「塩」「砂糖」「はちみつ」など日本語のラベルを見て、困惑していた。

容器には日本語のラベルが貼られている


ウラジーミルさん
「きょうは在日ウクライナ人の店員さんがウクライナ語で教えてくれたけど、彼女がいない時間帯だと一人でできるかどうか」

避難民が働くうえでは日本語の壁がある

■取材で見えた課題 「必要な支援」とは


医師だったウラジーミルさん、カフェ店員だったオルガさん。2人とも本心では、日本でもこれまでのキャリアを生かした仕事に就きたいと考えている。しかし、日本で言葉の壁に直面している今、妥協点を探っている。身寄りのない避難民には一時滞在施設で日本語教育などもスタートしたという。

ロシアの侵攻が長期化する中、さらに避難民が日本に来ることが予想される。抱える課題は人によって様々で、各自にニーズにあった支援ができるかどうかがカギだ。身寄りのあるなし、で支援を決めるのではなく、柔軟な姿勢が求められる。