「インベスト・イン・キシダ」の真実~菅前総理のアドバイスとは

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2022年5月14日 (土) 15:05
「インベスト・イン・キシダ」の真実~菅前総理のアドバイスとは

■乾坤一擲の演説も


現地時間の5月5日、岸田総理は世界最大級の金融街であるイギリス・ロンドンの「シティ」で演説を行った。大型連休を利用した、8日間にわたる東南アジア・ヨーロッパ外遊。そのハイライトといえる瞬間だった。

岸田総理
「私は、最近の総理大臣の中では、最も経済や金融の実態に精通した人間だと自負している」

日本市場への投資を訴えた岸田総理


控えめなイメージのある岸田総理が見せた強烈な自負心。元銀行員で、戦後初の金融業界出身の総理大臣。その自分こそが、金融市場について一番分かっているとして、日本への投資を訴えたのだ。

岸田総理
「安心して日本に投資をしてほしい。インベスト・イン・キシダ(岸田に投資を)です

岸田総理側近
「成長重視・投資呼び込みというメッセージを政権として強く出したかった」

演説後、一部の市場関係者からは「インベスト・イン・キシダです」ではなくて「インベスト・イン・キシダ・DEATH(岸田に投資したら死ぬ)だ」などと揶揄され、マーケットの岸田総理に対するアレルギーが依然強いことも浮き彫りになった。

また、「インベスト・イン・キシダ」は2013年にウォール街で安倍元総理が発言した「バイ・マイ・アベノミクス(アベノミクスは買いだ)」のオマージュだと思われるが、その安倍氏は周囲に「私はアベノミクスという政策を買ってくれと言っただけだけど、岸田さんの言い方だとまるで自分自身に投資して、って聞こえるよね」と皮肉混じりに語ったという。

ただ、この演説、内閣として新しいメッセージをいくつも打ち出していたことも事実である。少し振り返ってみよう。

■分厚い中間層のためのNISA拡充


岸田総理
「我が国個人の金融資産は2000兆円と言われていますが、その半分以上が預金・現金で保有されています。私は、貯蓄から投資へのシフトを大胆・抜本的に進め、投資による資産所得倍増を実現いたします」

岸田総理は、「資産所得倍増プラン」を掲げ、具体策としてNISAの抜本的拡充を挙げた。政府関係者によると岸田総理は、この真意について次のように語った。

岸田総理
「資産所得の話って、結局中間層の資産所得をどうやって増やせるか、そこがポイントだから」

自民党の「証券市場等育成議員連盟」の会長を長年務めている岸田総理は、NISAの仕組みにも精通していて、NISAを通じて特に中間層が資産運用できるように、と考えたのだ。

アメリカでは資産運用などによって家計金融資産が10年で3倍になっているのに、日本では1.4倍にとどまっている。日本も中間層のマインドが資産運用に向かえば経済成長のチャンスがあるのではないか、というのが岸田総理の考えだ。

投資初心者にも適している「つみたてNISA」は年40万円の非課税枠を最大20年使える制度。この限度額引き上げや時限措置の撤廃、投資できる商品の拡大などが検討事項となりそうだ。

■成長戦略の切り札?スタートアップキャンパスとデジタルサービス


自民・甘利明前幹事長
「総理が初めてスタートアップの国際キャンパスということに言及しています。これはおそらくほとんどの人が考えているよりも10倍くらい壮大な計画であります」

「スタートアップ推進議連」での甘利前幹事長


5月12日、国会内で行われた「スタートアップ推進議連」。甘利前幹事長は総理の演説を受けてこのように解説した。

岸田総理はシティ演説の中で、スタートアップ投資を成長戦略の柱のひとつに据えたうえで「海外の一流大学の誘致を含めたスタートアップキャンパスの創設」に初めて言及した。

実はこのスタートアップキャンパス構想、すでに水面下では動いていて、アメリカ東部の複数の大学を東京都内に誘致し、若者がスタートアップに気軽に飛び込んでいける環境を整えたいのだという。
甘利氏は「大学の公用語は英語というくらいにして、世界を変えるスタートアップは日本から、という勢いでやっていく」などと構想を語った。

一方、デジタルの分野では、平井前デジタル大臣らが4月21日に総理官邸を訪れ、次世代のインターネットであるWEB3.0(ウェブスリー)を「岸田内閣の成長戦略のど真ん中に位置づけるべき」と訴えたが、ロンドンで岸田総理は「NFT(非代替性トークン)、メタバースなど、WEB3.0の推進のための環境整備も含め、新たなサービスが生まれやすい社会を実現します」と発言。
政権としてもこの分野にコミットする姿勢を明確にした。

■水際緩和を後押しした菅前総理のアドバイス


4月22日、岸田総理が訪ねたのは国会内の菅前総理の議員事務所だった。政府与党が編成することを決めた補正予算案や、5月の外交日程などについて意見交換したとされている。
しかし、実はこの会談の中で菅氏からはあるアドバイスが伝えられていた。

議員会館から出る菅前総理


菅前総理
「インバウンドをやるべきです」

訪日外国人、特に外国人観光客の受け入れを再開すべきと主張したのだ。
インバウンドというのは菅氏が官房長官時代からの肝いり政策だが、円安の状況下というのは訪日外国人にとってみれば、物価の割安感が出て大きな魅力となる。このため、大きな経済効果をもたらす可能性がある、菅氏はそう読んでいた。

“海外から日本に来たいという需要がある以上、妨げるべきではない”などの菅氏の主張に、岸田氏は耳を傾けていたという。

その後、岸田氏は東南アジア、ヨーロッパをめぐる外遊に出発。その訪問先でも経済界などから次々に日本の“厳しすぎる”水際対策について不満が寄せられたという。
その結果、ロンドンの演説では現在、1日あたり1万人を上限とする水際措置をさらに緩和する方針を明らかにしたのだ。

岸田総理
「6月には他のG7諸国並みに、水際対策を更に緩和していきます」

政府は、大型連休後の感染状況を見極めたうえで6月には上限を2万人まで増やす方針だ。また、外国人観光客についても6月をメドに受け入れを再開することにしている。

岸田総理は周囲に「状況が変わった」と説明。外国人観光客についても「来たがっている人を受け入れない理由はない」と菅氏と同様の説明をしている。

確かに、JNNの最新の世論調査(5月7日、8日実施)では、「水際対策を緩和すべき」と答えた人が48%と「緩和すべきではない」の38%を上回るなど、実際に状況は変わりつつある。

JNNの最新の世論調査

■それでも鈍いマーケットの反応


岸田政権が掲げる「新しい資本主義」は「わかりにくい」「具体像がつかめない」という批判がつきまとっていた。今回の演説はそうした声を意識したものだったが、それでもマーケットの反応は鈍かった。演説翌日の6日以降、日経平均株価は下落傾向が続き、12日の終値は2万5748円72銭と、1000円以上下がっている。これは主にニューヨークなど海外市場の株価下落の影響とみられるが、少なくとも演説内容が好材料視されていないとも言える。

「総理官邸の戦略ミスだ」「なぜもっと広報しなかったのか」

与党内からこんな嘆きの声も聞こえる中、岸田総理は結果でマーケットを見返すことはできるだろうか。