「自分たちは侵攻するしかなかった。攻められる国なのだから仕方ないのだ」ロシアは“被害者意識”が強い国…“プーチン的思考”とは【国会トークフロントライン】

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2022年5月14日 (土) 14:53
「自分たちは侵攻するしかなかった。攻められる国なのだから仕方ないのだ」ロシアは“被害者意識”が強い国…“プーチン的思考”とは【国会トークフロントライン】
侵攻から2か月以上が過ぎましたがロシアのウクライナ侵攻は依然続いています。侵攻はどこまで続くのか?そしてプーチン大統領がいま何を考えているのか?こうした疑問について、TBS報道局の元モスクワ支局長で8年前プーチン大統領が欧米諸国と“袂を分かつ”きっかけとなったクリミア併合・ドンバス紛争を取材した、豊島歩外信部デスク・海外担当解説委員に話を聞きます。 (聞き手:石塚博久 政治担当解説委員)

 

■2014~15年のドネツク紛争から見る ウクライナ侵攻 


--ウクライナ紛争について現状をどう見ていますか?

豊島:
一つはロシアと欧米の代理戦争に発展している情勢。もう一つは今回もたくさんのウクライナ市民の命が失われています。今見ている景色というのは私が2014年から15年に取材したウクライナの東部地域・ドンバスの紛争で見た景色と全く同じ光景だという感じがします。
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(当時ドンバス地方で撮影した写真を紹介しながら)東部ドネツクで砲撃を受けた男性が病院にいました。「砲撃をくらった後、妻がいないんだよ」と話しかけてきて。
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男性は奥さんと寝ていた時に砲撃を受けたそうなのですが、見たら片手が無いんですよ。血止めの注射器が垂れ下がった状態で「痛くないんですか?」と聞いたら「痛くないんだよ。痛みよりも奥さんの居場所が心配で」と話していました。奥さんはたぶん亡くなったんだと思います。本当に衝撃的でした。
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--煙が上がっている画像はドネツク州のもの?

豊島:
2014年7月の州都ドネツク市です。取材中に出くわした砲撃ですね。当時はウクライナ軍と親ロシア派勢力の闘いが激しくなっていましたから、街の中心部にまで頻繁に砲撃が飛んでいました。こういった破壊された部屋や家などが無数にありましたが、ブロック塀でできているので簡単に壊れてしまうのです。

--この取材のとき豊島さんは親ロシア派勢力に拘束されたと?

豊島:
普段だと親ロシア派兵士からもウクライナ軍兵士からも「日本から来た」というと歓迎されます。しかし当時は双方が非常に緊迫していて、親ロシア派の本部に連れていかれ「何しに来たんだ」と聞かれました。その時出会った親ロシア派の隊長がお盆に大量の携帯電話を乗せていて、その携帯電話で次々に各地に指令を出していました。その隊長に「日本から来た」と伝えたら「拘束して悪かった」と言って取材に応じてくれました。
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西側のジャーナリストたちも拘束されていました。(ジャーナリストに)話を聞くと「扱いは悪くない」と言っていましたが、「危険はないけど早く帰りたい」と言っていましたね。拘束されている様子をとらえた映像は世界配信されました。
  

■「欧米の価値観に従うのはごめんだ」…プーチン的思考とは


--2か月以上たってわからないのは、「なぜ侵攻したのか」。プーチン大統領の発言を振り返りますが、クリミア併合直前2014年3月、今に至る始まりの発言として「ロシアは欧米との対話を目指した」「しかし次々と騙された」「ロシアはもう限界」だと言っています。そして今年の2月24日、ウクライナに侵攻した日に「NATOからロシアは歴史的に見捨てられたのだ」と。豊島さんがこれらの発言に注目する理由は?
 
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豊島:
今回の侵攻の理由についてプーチン大統領は主に2つ挙げている。一つは安全保障上の問題でNATOの不拡大。もう一つは「歴史的領土」と述べたウクライナと一体化するのだと。そしてナチスの傀儡政権であるゼレンスキー政権を転覆するということ。プーチン大統領はこのように西側にもわかる言い方をしていますが、実は2014年から今に至るまでまったく同じことを言っていて、その意図を汲めば「欧米の価値観に従うのはごめんだ」ということを言っていると思います。

つまり西側の協力はもういらないとばかりに捨て身でやってきている感じというか、プライドをかけて捨て身で自分の思いを何としてでも遂げようとしているのではないか。2014年から最近の演説まで、プーチンのロジックを説明すると「ロシアは欧米の諸国に誠実に付き合ってきた」のだが「NATOは勢力を拡大しないと言いながら拡大してきたじゃないか」と。去年12月に不拡大条約を欧米は反故にしたと。「無配慮かつ軽蔑的な態度をとってロシアを侮辱してきた」と言っています。その上で「私たちの歴史的領土はウクライナである」と言っていて「NATOがウクライナのネオナチを支援しているので自己防衛をする」ということでした。だいたいロシアが外に攻め込む場合、こうした物言いが変わっていないことが特徴的。プライドをロシアが痛く傷つけられたので、これを回復するのだということなのではないか。さらに問題なのは、プーチン大統領のこうした姿勢や思いが、欧米側から見ると国民に対するプロパガンダだ、という言い方になるのですが、実はロシア国民にとっては、プーチン大統領のこうした姿勢に共感してしまう国民性となっている。それがプーチンの支持基盤となっているところにあると思います。

--プーチンの言い方で、よく国内向けに「ナチス」という言葉が出てきます。それはなぜでしょう?違和感がありますが
 
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豊島:
第二次大戦をロシアは「祖国戦争」とか「祖国防衛戦争」と言っています。ナチスに攻められた結果、一説によれば死者は2000万人以上と言われています。大変な数の人たちが亡くなった。自分たちのいわば、おじいさん世代が血を流して守って成立したのがこの国なのだ、という思いが、国家的なアンセム=国民の大きな物語になっている。「ナチス」という言葉を使うことで、国民が想起する「敵」が非常にクリアになるというか、当時の記憶がよみがえるのでしょう。ロシアには100万以上の都市が少なくとも10都市ありますが、各都市に広大な戦勝記念公園というものがあります。そこに子供たちが休みになるとおじいさんたちがどう戦ったのか、パノラマみたいなものを見たりして、小さいころから自分たちロシア人がいかに外敵から攻められて、いかに被害を受けてきて、守ったのかという物語を聞いて育つ。こうしたことが、9日の軍事パレードでプーチン大統領が演説でも言っていますが、「自分たちは侵攻するしかなかった。攻められる国なのだから仕方ないのだ」というロジックにつながっていくと。このように「ナチス」という言葉が国家防衛という意味合いで国民に響くということで、彼は「ナチス」という言い方をしています。
 
--我々がわからないプーチン大統領の思考の中で、「核」についても言及しています。核使用についてはどういうふうに見ていますか?

豊島:
まず、ロシアの気質の中で、次の2点を指摘したい。ロシアは攻撃するイメージが強いが、実は真逆で“被害者意識”が強い国だというのが私の印象。さらにロシアの人たちは目標を達成するのだと決めると手段を選ばないというか、とにかくゴールにたどり着くのだという強さがあります。そういうロシアの国民性、気質が背景にあることを頭に置いたうえで、プーチン大統領には自分の思いを遂げるのだという思いがあることを考える必要があります。今回のプーチン大統領の発言でいえば、NATOの不拡大というロジックもあるけれども、アメリカとNATOに自分たちの国としてのプライドを見せたいというのが頭の中にあるのなら、手段は問わないということになるのではないかと。そういうことでいえば核の使用は最初から頭にあるのではないかと思います。2014年のクリミアの併合の1年後に、ロシアでクリミア併合に関する特別番組が放送されましたが、プーチン大統領は「核を使用する用意があった」と文字通り述べて世界を震撼させました。今回の侵攻において、西側では、ブラフではないかという見方、いわば抑止のためだとか、ロシアの軍の強さを見せるためだ、とか様々な見方が出ているが、私はプーチン大統領がリアルに考えていると思います。

--スウェーデン、フィンランドもNATO加盟を進めている。そうなるとさらにロシアは追い詰められる?

豊島:
西欧側は、ロシアを締め付けていけばプーチン大統領は降参する目算なのだろうと思います。しかしロシアの国民性を考えれば、攻められた時こそ逆に国民は戦おうじゃないかと思う人たちもいて、そうなるかもしれないし、プーチン大統領は“だからこそ戦うのだ”というロジックで来るかもしれない。そのあたり、西欧文化で生きている我々では中々理解できないロシアという文化のロジックは、見間違えてはいけないと思います。

(「国会トーク」5月13日放送より)