ビザ取得でも“印刷→手書きの書類地獄” ウクライナ避難民の支援で直面した「アナログ日本の壁」

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2022年5月28日 (土) 09:03
ビザ取得でも“印刷→手書きの書類地獄” ウクライナ避難民の支援で直面した「アナログ日本の壁」
出入国在留管理庁によると、ウクライナから日本に逃れてきた避難民は1000人を超えました。しかし、受け入れと支援の壁となっているのは“アナログ手続き”や“書類地獄”ー。日本での生活を支援する女性に話を聞くと、日本特有の課題が見えてきました。
(取材・執筆:TBSアナウンサー岡村仁美)

■「自分たちに未来を」縁もゆかりもない日本を偶然見つけて

35歳の母親と13歳の息子、12歳の娘の家族3人がウクライナの首都キーウから戦禍を逃れて4月下旬に来日しました。インナさん一家です。日本への避難民の多くがもともと日本に親戚や知り合いがいる中、彼女たちは日本に縁もゆかりもありません。

インナさん一家は偶然にもSNS上で静岡県でウクライナ人の就労を支援する企業があることを知り、息子のニキータさんが「自分たちに未来をくれ」と懇願。親戚も知人もいない日本に避難することにしたのです。

友人が身元保証人になったことをきっかけにこの家族の日本での生活を支援しているのが一般社団法人代表の池上紗織さんです。
インナさん一家と池上さん(写真右上)

■印刷、手書き、スキャン、また印刷…まさに書類地獄 

ーーインナさん一家の来日までに大変だったことはなんでしょうか

池上さん:
最初のハードルとなったのが、ビザ取得のための書類の作成です。ウクライナから来日するにはまず短期ビザを取得する必要があります。そのための書類をすべて紙で提出する必要があるのです。池上さん:
彼女たちはポーランドに脱出する際には、パスポートを見せてシステム上で情報を確認するだけで、手書きの書類は一切なしで入国できたそうです。しかし、来日に向けては、ビザを取るために必要な書類一人につき4枚をPDFからプリントアウトして、それを私が日本で書いて、スキャンしてデータにしてポーランドへ送り、さらにそれをポーランドでプリントアウトして、ワルシャワの日本大使館に紙で提出する。Webサイトで直接記入して申請することはできないのです。デジタル化が中途半端でアナログですよね。

私の場合はたまたまポーランドで活動をしている知人がいて、プリントアウトして大使館に提出するのを案内してもらいましたが、あらゆる手続きをしっかりとサポートしてくれる人がいないと難しいですね。英語版もあるのですが、書類の多さが日本のガラパゴスというか、日本人あるいは日本語ができる人のサポートがないとまさに書類地獄です。

また、コロナ禍で日本に入国するにはPCR検査が必要でした。ワルシャワで検査をする場合も陰性証明書を日本の様式に書き換えなければいけない。それを彼女たちだけでやるのはすごく難しいことです。
入国時に羽田空港にて。

■煩雑な手続きさえ乗り越えれば…手厚い支援も

ーー来日してからの生活支援はどんなことをしているのでしょうか

池上さん:
まずは彼らの住環境を整えることです。今は日本での生活にかかるお金はすべて私たちが負担しています。今後、日本財団から支援金をもらえる予定ですが、まだその手続きが済んでいないので。

また、仕事を探すなど日本で生活をしていく上では通信手段が重要だと思います。携帯電話のSIMカードの契約をしに行ったのですが、彼らが持っている一年間の在留資格だと審査がおりない場合があると言われ、私が3人分の契約をしました。

ウクライナからの避難民は90日間の短期滞在のビザで来日し、本人が希望すれば、就労が可能で1年間滞在できる「特定活動」の在留資格に変更できます。この手続きも自分でやるとかなり大変なのですが、行政書士の方がボランティアで代行してくれるということを知りました。来日前から行政書士さんとやりとりをして、来日翌日にはビザ関係の書類を託して手続きをしてもらいました。そのため、インナたちはその日のうちに在留カードを受け取ることができました。

こういった支援は身元保証人がどれだけサポートするかに任されています。私は友人である保証人家族と一緒にチームでサポートしていますが、例えば日本にいる留学生が一人で家族を受け入れるという場合はすごく大変だと想像します。池上さん:
一方で、煩雑な手続きさえ乗り越えてしまえば、支援金が出たり、国民健康保険を使えたり、児童手当をもらえたりという点では日本はすごく手厚い国だと思います。もちろん受け入れている人数が違うので一概には言えませんが、例えばポーランドにいたらこのような生活支援は受けられません。

インナさん一家は現在は池上さんが提供している住宅で暮らしていますが、6月にも静岡県の公営住宅に移り住み、インナさんはそこで仕事を始めることを希望しています。ニキータさんら子供たちも秋からは日本の学校に通うと言います。池上さんたちの懸命なサポートもあり今は日本で安心して生活ができていると話します。


■外国人慣れしていない日本人

ーー今回支援をして良かったと思うのはどういう時ですか

池上さん:
インナたちが笑顔になっている瞬間ですね。ミサイルが飛び交うキーウから命がけで脱出してきた彼女たちに安心できる生活を提供することが最大のミッションだと思って寄り添っているので。

忘れてはいけないのは、ウクライナに限らず世界には本当に大変な人たちがいて、そういう人たちにこそ手が届きにくかったりします。メディアも入れなかったり、そもそも通信手段を持っていなかったり。そういう人たちのことを忘れてはいけないと思います。でも、自分たちができる範囲で一家族でも救える命が救えるんだったらいいなと思っています。

ーー日本で人道的な受け入れの門戸を広げていくには何が必要だと思いますか

日本人はそもそも外国人慣れしていない人が多いですよね。戦争ではなくても、観光客であっても、もう少し慣れていくということが大切なんじゃないかなと思っています。今回のことで避難民に限らず日本語ができない外国人が住むのがいかに大変かということを痛感しました。もっと外国人にもわかりやすいシンプルな仕組みがあったら良いなと。日本の手続きの書類の多さなどのアナログさも、もう少し外国人に慣れていくということで変わっていくのではないでしょうか。


■取材を終えて

「避難民に限らず外国人にもわかりやすいシンプルな仕組み」私が外国人として生活をしていたイギリスは、ウクライナからの避難民も多数受け入れています。池上さんの話を聞いて思い出したのは、ワクチン接種の予約一つとってもスマートフォンのアプリから簡単にできて、英語が苦手な外国人である私には助かるなと感じていたことです。一見関係ないように思える「日本の紙文化」と「避難民支援」。シンプルな仕組みがすべての人にとって優しい社会には必要なのかもしれません。
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