
7月10日に投開票を迎える参議院選挙。女性の議員がどれだけ誕生するかも注目される。現在、参議院では女性の議員の比率は全体のわずか23%で、先進国では最低のレベルに留まる。女性の政治参加を阻んでいるものの一つが、「票ハラスメント」だ。その実態と、構造的な要因に迫る。

TBS NEWS DIG Powered by JNN こう証言するのは、東京・北区議会の臼井愛子区議だ。
2019年、28歳で初めて選挙に出て以来、有権者からのハラスメントに悩まされてきた。
(東京・北区議会 臼井愛子区議)
「ある有権者男性は、女性議員が並んでいるポスターを指さして、『この人とこの人と君で悩んでいるから、ほっぺにチューしてくれたら(票を)入れてあげるよ』と。そう言われた瞬間に、本当にありえないなと思いました」
有権者だけではない。選挙活動を手伝うはずのボランティアが、異性としての交際を求めてきたこともあったという。
(東京・北区議会 臼井愛子区議)
「『家の前で待っています』とか、『家のそばまで来たから一緒に食事しましょう』、と言われるようになりました。そのうち、事務所前で、夜遅くに待ち伏せされて…。関係性がこじれてしまうと逆恨みされるんじゃないか、変な噂を流されたくないと思いましたし、票を減らすんじゃないか、怖いなっていうのもありました」
「公人」である政治家を目指す立場上、きっぱり拒絶することは難しかったと臼井区議は振り返る。
(東京・北区議会 臼井愛子区議)
「未だに、一人で街頭演説などに立つのはちょっと怖いなという気持ちがあります。次の世代の人たちには、同じような目に遭って欲しくありません。政治家ですから、ご批判はもちろん受けますが、ハラスメントも受けて当たり前、といった体質を変えないといけないと思います」

TBS NEWS DIG Powered by JNN ――ようやく知られるようになってきた「票ハラスメント」ですが、なぜなくならないのか、構造的な要因はあるのでしょうか。
(ジェンダーと政治を研究 上智大学・三浦まり教授)
「『政治というのは男性のものである』という意識が、まだ根強く残っています。そこに少しでも女性が侵入してくると、『男の世界に進出してくる生意気な奴』となり、排除したいという心理が働きます。『黙っていろ』というメッセージが込められてハラスメントが起きています」
――政治家としての資質ではなく、女性として見られている、ということでしょうか。
(ジェンダーと政治を研究 上智大学・三浦まり教授)
「一部の男性は、女性はコントロールしていい相手である、あるいは、一段下に見がちです。たとえ女性政治家の容姿を『かわいい』、『美人だ』と褒めたとしても、その裏には、性的に魅力的であることが重要で、能力は関係ない、というメッセージが込められています。アイドル扱いをするのも同じことですね。近付いて不適切な身体接触をする、ひどい場合は、つきまとい行為に発展してしまいます」
――取材していて、「政治家は公人である」、だから「なんでも我慢して受け容れなければならない」という暗黙の了解が、ハラスメントを助長しているようにも感じました。
(ジェンダーと政治を研究 上智大学・三浦まり教授)
「そうですね、一種のカスタマーハラスメントとも言えます。カスタマー、つまり顧客の方にある『お客様は神様だ』という意識です。候補者は一票でも多く欲しい。そうなると、立場が弱く、拒絶しにくい。その足元を見て、つけこむ人が残念ながらいるのです。特に地方選挙では、僅かな票差で当落が決まるので、国政以上に一票一票が大切です。地域密着型で、有権者との距離感がより近いこともあり、『票ハラスメント』は、国会議員より地方議会の議員の方がさらにひどい被害を受けています」
――こうした「票ハラスメント」は、日本の政治にどんな影響を及ぼしていますか。
(ジェンダーと政治を研究 上智大学・三浦まり教授)
「『こういうのを我慢しないと、政治家になれないんだ』と思われてしまうと、次世代の人が政治に参画しようという気持ちを、若い段階から阻害してしまいます。ただでさえ女性議員が少ないわけですから、ハラスメントを根絶していかないと、政治家のなり手が増えていかないと思います」
――『票ハラスメント』を防ぐには、どういった対策が有効なのでしょうか。
(ジェンダーと政治を研究 上智大学・三浦まり教授)
「候補者男女均等法(正式名称:政治分野における男女共同参画の推進に関する法律)が2021年に改正され、セクハラやマタハラを防止する責務が、国会と地方議会、国にも課せられています。なので、内閣府は今年4月に、ハラスメント防止の啓発動画を作成しました。こうした動画も利用しながら、繰り返し、研修をしていくことが重要です。ハラスメント条例も、地方議会では広がっていますが、議会や政党に、安心できる相談窓口を設けることも必要です」
――そもそも女性の政治家が少ないと、当事者の声が届きづらく、対策にも本腰が入らないのではないのでしょうか。
(ジェンダーと政治を研究 上智大学・三浦まり教授)
「どの議会も政党も、まだまだ女性が少ないのが現状です。ハラスメントは、男女で見えている景色がかなり違うんですよね。女性が増えてくると、『こういう経験をしているから、防止策を講じて欲しい』と言いやすくなります。また、女性が増えれば、互いに相談して支えあい、被害者の孤立を防ぐことにもつながると思います」
6月9日、衆議院は、全ての衆議院議員を対象に行ったジェンダーに関する初めてのアンケート調査の結果を公開した。アンケートでは、国会議員に占める女性の数について「不十分」、「どちらかといえば不十分」という回答は、82.7%を占めた。現職の衆議院議員が匿名で記述した回答からは、いまの日本の政治に様々なハードルが潜んでいる実態が浮き彫りになっている。
問:
『国会への女性の参画拡大が妨げられていると思う理由は?』
答:
「家事・育児・介護など女性への負担がいまだ多い。夜間に政治が動く長年の慣習」
「そもそも、『ドブ板』と呼ばれる選挙活動が時間と肉体を消耗し女性に不利である」
「候補者が、私的生活を犠牲にしてフルタイムでの関与をしないと当選できないような制度になっている」
「育児や家事の負担を、自助で軽減できたり、経済力があったり、社会的地位があったりする女性(男性)だけが選挙に挑戦できる状況だから。現状の選挙制度そのものが、世の中の平均的な女性が議員になれない仕組みになっていることを変革する必要がある」
育児や介護などの負担が女性にのしかかっている現状に加え、夜や週末も犠牲にしないと成り立たない政治家の働き方、“ドブ板”と呼ばれる選挙制度などの多くの課題を、国会議員自身も認識していることが窺える。
参院選の公示直前の6月21日、党派を超えて女性の候補者を応援する「女性に投票チャレンジ」というプロジェクトが立ち上がり、記者会見が行われた。

TBS NEWS DIG Powered by JNN 大学生も含め20人ほどの有志のメンバーが、インスタグラムやTikTokなどを通じ、特に若い世代に、女性候補者への投票を呼び掛けている。
(「女性に投票チャレンジ」メンバー 大島碧生さん(大学生))
「特に女性に関する政策は、私たちこれからの世代にすごく関わってくる問題だと思うので、私たちの声を代弁する女性政治家が増えてほしいと思っています。いまは政治について話すのはハードルが高いんですが、『明日なに食べる?』という会話と同じように、『誰に投票する?』と話せるようになってほしいです」
「女性に投票チャレンジ」の代表で、働き方改革コンサルタントでもある天野妙さんは、女性の政治家が増えることは、女性のためのみならず、社会全体のためになると語る。
(「女性に投票チャレンジ」代表 天野妙さん)
「男性でも、長時間労働で負担を感じている人や、様々な生きづらさを抱えている人はたくさんいます。いま政策を決めている人たちには、そういう生活の苦しみを感じてきた人は少ないんじゃないでしょうか。女性の国会議員が増えると、政策の優先順位も変わります。生活の実感を持っている女性が意思決定の場に増えていけば、若者も男性も、誰もが生きやすい社会の実現につながるんじゃないかと思います」
7月10日に投開票を迎える参院選では、立候補者に占める女性の割合は33%と、過去最多となった。この参院選で、政治に風穴はあくのだろうか。
■有権者から、スタッフから…相次ぐ「票ハラスメント」
「街頭での選挙活動中、握手を求められて、普通に握手すると思ったら、腕の方まで手をずっとサワサワされて、握った手を離さない、みたいなのはすごく多かったです」
2019年、28歳で初めて選挙に出て以来、有権者からのハラスメントに悩まされてきた。
(東京・北区議会 臼井愛子区議)
「ある有権者男性は、女性議員が並んでいるポスターを指さして、『この人とこの人と君で悩んでいるから、ほっぺにチューしてくれたら(票を)入れてあげるよ』と。そう言われた瞬間に、本当にありえないなと思いました」
有権者だけではない。選挙活動を手伝うはずのボランティアが、異性としての交際を求めてきたこともあったという。
(東京・北区議会 臼井愛子区議)
「『家の前で待っています』とか、『家のそばまで来たから一緒に食事しましょう』、と言われるようになりました。そのうち、事務所前で、夜遅くに待ち伏せされて…。関係性がこじれてしまうと逆恨みされるんじゃないか、変な噂を流されたくないと思いましたし、票を減らすんじゃないか、怖いなっていうのもありました」
「公人」である政治家を目指す立場上、きっぱり拒絶することは難しかったと臼井区議は振り返る。
(東京・北区議会 臼井愛子区議)
「未だに、一人で街頭演説などに立つのはちょっと怖いなという気持ちがあります。次の世代の人たちには、同じような目に遭って欲しくありません。政治家ですから、ご批判はもちろん受けますが、ハラスメントも受けて当たり前、といった体質を変えないといけないと思います」
■「票ハラスメント」 政治を志す女性の大きな障壁に
「票ハラスメント」はなぜ起きるのか、どう防げば良いのか。ジェンダーと政治を研究する、上智大学法学部の三浦まり教授に聞いた。
(ジェンダーと政治を研究 上智大学・三浦まり教授)
「『政治というのは男性のものである』という意識が、まだ根強く残っています。そこに少しでも女性が侵入してくると、『男の世界に進出してくる生意気な奴』となり、排除したいという心理が働きます。『黙っていろ』というメッセージが込められてハラスメントが起きています」
――政治家としての資質ではなく、女性として見られている、ということでしょうか。
(ジェンダーと政治を研究 上智大学・三浦まり教授)
「一部の男性は、女性はコントロールしていい相手である、あるいは、一段下に見がちです。たとえ女性政治家の容姿を『かわいい』、『美人だ』と褒めたとしても、その裏には、性的に魅力的であることが重要で、能力は関係ない、というメッセージが込められています。アイドル扱いをするのも同じことですね。近付いて不適切な身体接触をする、ひどい場合は、つきまとい行為に発展してしまいます」
――取材していて、「政治家は公人である」、だから「なんでも我慢して受け容れなければならない」という暗黙の了解が、ハラスメントを助長しているようにも感じました。
(ジェンダーと政治を研究 上智大学・三浦まり教授)
「そうですね、一種のカスタマーハラスメントとも言えます。カスタマー、つまり顧客の方にある『お客様は神様だ』という意識です。候補者は一票でも多く欲しい。そうなると、立場が弱く、拒絶しにくい。その足元を見て、つけこむ人が残念ながらいるのです。特に地方選挙では、僅かな票差で当落が決まるので、国政以上に一票一票が大切です。地域密着型で、有権者との距離感がより近いこともあり、『票ハラスメント』は、国会議員より地方議会の議員の方がさらにひどい被害を受けています」
――こうした「票ハラスメント」は、日本の政治にどんな影響を及ぼしていますか。
(ジェンダーと政治を研究 上智大学・三浦まり教授)
「『こういうのを我慢しないと、政治家になれないんだ』と思われてしまうと、次世代の人が政治に参画しようという気持ちを、若い段階から阻害してしまいます。ただでさえ女性議員が少ないわけですから、ハラスメントを根絶していかないと、政治家のなり手が増えていかないと思います」
――『票ハラスメント』を防ぐには、どういった対策が有効なのでしょうか。
(ジェンダーと政治を研究 上智大学・三浦まり教授)
「候補者男女均等法(正式名称:政治分野における男女共同参画の推進に関する法律)が2021年に改正され、セクハラやマタハラを防止する責務が、国会と地方議会、国にも課せられています。なので、内閣府は今年4月に、ハラスメント防止の啓発動画を作成しました。こうした動画も利用しながら、繰り返し、研修をしていくことが重要です。ハラスメント条例も、地方議会では広がっていますが、議会や政党に、安心できる相談窓口を設けることも必要です」
――そもそも女性の政治家が少ないと、当事者の声が届きづらく、対策にも本腰が入らないのではないのでしょうか。
(ジェンダーと政治を研究 上智大学・三浦まり教授)
「どの議会も政党も、まだまだ女性が少ないのが現状です。ハラスメントは、男女で見えている景色がかなり違うんですよね。女性が増えてくると、『こういう経験をしているから、防止策を講じて欲しい』と言いやすくなります。また、女性が増えれば、互いに相談して支えあい、被害者の孤立を防ぐことにもつながると思います」
■「票ハラスメント」だけではないハードル
女性の政治参加を阻む壁は、「票ハラスメント」だけに留まらない。6月9日、衆議院は、全ての衆議院議員を対象に行ったジェンダーに関する初めてのアンケート調査の結果を公開した。アンケートでは、国会議員に占める女性の数について「不十分」、「どちらかといえば不十分」という回答は、82.7%を占めた。現職の衆議院議員が匿名で記述した回答からは、いまの日本の政治に様々なハードルが潜んでいる実態が浮き彫りになっている。
問:
『国会への女性の参画拡大が妨げられていると思う理由は?』
答:
「家事・育児・介護など女性への負担がいまだ多い。夜間に政治が動く長年の慣習」
「そもそも、『ドブ板』と呼ばれる選挙活動が時間と肉体を消耗し女性に不利である」
「候補者が、私的生活を犠牲にしてフルタイムでの関与をしないと当選できないような制度になっている」
「育児や家事の負担を、自助で軽減できたり、経済力があったり、社会的地位があったりする女性(男性)だけが選挙に挑戦できる状況だから。現状の選挙制度そのものが、世の中の平均的な女性が議員になれない仕組みになっていることを変革する必要がある」
育児や介護などの負担が女性にのしかかっている現状に加え、夜や週末も犠牲にしないと成り立たない政治家の働き方、“ドブ板”と呼ばれる選挙制度などの多くの課題を、国会議員自身も認識していることが窺える。
■「意思決定の場に女性が増えれば、誰もが生きやすい社会に」
硬直化した政治文化を変えたいと、新たな取り組みも生まれている。参院選の公示直前の6月21日、党派を超えて女性の候補者を応援する「女性に投票チャレンジ」というプロジェクトが立ち上がり、記者会見が行われた。

(「女性に投票チャレンジ」メンバー 大島碧生さん(大学生))
「特に女性に関する政策は、私たちこれからの世代にすごく関わってくる問題だと思うので、私たちの声を代弁する女性政治家が増えてほしいと思っています。いまは政治について話すのはハードルが高いんですが、『明日なに食べる?』という会話と同じように、『誰に投票する?』と話せるようになってほしいです」
「女性に投票チャレンジ」の代表で、働き方改革コンサルタントでもある天野妙さんは、女性の政治家が増えることは、女性のためのみならず、社会全体のためになると語る。
(「女性に投票チャレンジ」代表 天野妙さん)
「男性でも、長時間労働で負担を感じている人や、様々な生きづらさを抱えている人はたくさんいます。いま政策を決めている人たちには、そういう生活の苦しみを感じてきた人は少ないんじゃないでしょうか。女性の国会議員が増えると、政策の優先順位も変わります。生活の実感を持っている女性が意思決定の場に増えていけば、若者も男性も、誰もが生きやすい社会の実現につながるんじゃないかと思います」
7月10日に投開票を迎える参院選では、立候補者に占める女性の割合は33%と、過去最多となった。この参院選で、政治に風穴はあくのだろうか。
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