銀行を破壊するロシア、宇宙ステーションから撤退するロシア 戦争を続ける経済力はあるのか?【報道1930】

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2022年8月6日 (土) 09:03
銀行を破壊するロシア、宇宙ステーションから撤退するロシア 戦争を続ける経済力はあるのか?【報道1930】

5か月半にもおよぼうとしているウクライナでの戦争。東部制圧に力を入れていたロシア軍が、南部に移動しロシア本国からクリミアに兵力が送られ、さらにクリミアからヘルソンへ部隊を移動させているという。ロシアの狙いは何か。そして今回は戦時下の経済について専門家に聞いた。

■「生き延びるためにロシア人にならざるを得ない」

ロシア軍が南部に重点を置き始めた事情を東大先端研の小泉氏に聞いた。

東京大学先端科学技術研究センター 小泉悠 専任講師
「アメリカが供与したハイマース(高機動ロケット砲システム)がロシア軍の武器庫を叩きまくっていて、ロシアが火力を発揮できなくなっている。しかもその間に南のヘルソンなどでウクライナ軍がジワジワと反撃を強めている。(中略)東部でのロシア軍による攻撃が弱まったので余裕ができたウクライナ軍が南側から大幅に反撃してくるんじゃないかっていう恐れを当然抱くのと思うんですよ」

特にウクライナ軍は南部でロシア軍の兵站に重要なドニエプル川にかかる橋を落としている。そのためロシア軍は東部の攻撃を止めてでも南部への移動を急いでいる。さらにロシアには南部で進めたい計画があるのだという。

東京大学先端科学技術研究センター 小泉悠 専任講師
「ロシアが南の方のヘルソン州、ザポリージャ州を併合しちゃうことが懸念されてます。一度併合して正式に『ここはロシア連邦です』って言われちゃうと軍事的に取り返しに行きにくくなります。9月にも併合したいと伝えられてますから、ウクライナとしては8月中に少しでも取り返しておきたいんでしょうね」

クリミアでの成功体験をここ南部エリアでも展開しようとするロシアに対し、ウクライナは東部地域を捨ててでも南部を取り返そうと兵力をつぎ込んでいる。実際現地はどんな様子なのか。

ヘルソンの住民を直接取材した。インタビューに答えてくれたオレフさんは、今年3月ロシア軍に身柄を拘束され肋骨4本を折る暴行を受けた。現在はヘルソンを脱出している。

ヘルソン出身ジャーナリスト オレフ・バトゥリンさん
「裏道を使ってヘルソン州内のロシア占領地域を出るのに4日かかりました。ヘルソンを出る時に車に銃撃を受けましたが幸いなことに誰も負傷しませんでした。(中略)多くの住民が町を離れました。離れたいと思っている人も大勢います。残っているのは、高齢の両親がいるとか、商売のために簡単には離れられない人、それから何があってもロシアからの解放を待つと決めた人です。(中略)ヘルソン州で一番複雑な状況にあるのはノバカホフカです。そこでも虐殺はひどいのですが、その訳はクリミアに水を供給する運河がそばにありロシア軍はそれをどうしても手放したくないからです」

ヘルソン州では、すでにロシア化が始まっている。先月オープンしたスーパーでは、商品のほとんどがロシア産やロシア製。支払いは現金のみで、ウクライナ通貨も表記されているが、大きく表記されているのはロシア・ルーブルだ。さらにヘルソンではロシア軍によって銀行が次々と襲撃されている。これもロシア化の一環だという。



ヘルソン出身ジャーナリスト オレフ・バトゥリンさん
「今はもうヘルソン市内でウクライナのお金を扱える銀行はありません。ロシア軍は住民にルーブルを使わせるためにウクライナの銀行を襲ったのです。ロシア側は独自の銀行を設置し、その銀行に専用口座を作らせて光熱費や水道代など生活費を支払うよう呼び掛けています。(中略)年金受給者や身体障碍者など生きるためにロシア側からの支援が必要な人達もいます。ただロシアは“ウクライナ国籍”の人には支援をしないので、ロシアのパスポートを作らせて“ロシア人”にする仕組みを設けているのです。つまり一部の人は生き延びるためにロシア人にならざるを得ないのです」

まず軍事的に「占領」し、住民を「ロシア人」にし、その地域を「併合」。そして、ロシア連邦の一部とする。これがロシアの手口だ。

東京大学先端科学技術研究センター 小泉悠 専任講師
「公式に『ロシア連邦です』って言ったら、そこを攻めた場合今度はウクライナが侵略だって言われかねない。ウクライナは否定するでしょうが、ロシアにしてみれば領土を侵略された、核を使っても正当防衛だって言いかねない」

それにしても、東部から南部に前線を広げ、5か月以上の戦闘。もちろん西側による経済制裁はますます厳しくなる中で、ロシアの経済は持つのだろうか?

■「今年1月から6月までのロシア財政は黒字なんですよ」

経済状況からこの戦争を見てみると、ウクライナは戦争が始まって以来毎月6500億円の赤字を出す一方、税収が半減している。財政赤字は国債を発行するなど財政ファイナンスで賄っている。とはいえ本土が戦場となる戦時下において財政が危機的状況になるのは当然だ。

ウクライナには各国から5兆円近い支援も約束されている。問題は、ロシアだ。

ソ連時代からのつながりを含めロシアと50年付き合ってきたロシア経済の専門家、隈部兼作氏は言う。

ロシア・ユーラシア政治経済ビジネス研究所 隈部兼作 所長
「ウクライナは単独ではない。G7含め世界がついてますからあまり財政がどうということじゃないです。でもロシアの場合はですね、我々色々調べているんですが財政における数字っていうのをほとんど発表していない。日本からロシアの財務省にアクセスできないし、ロシアがどこの国と貿易しているのかも出てない。だから逆側から調べるほかない。(中略)面白いことにこういう侵攻をしているにもかかわらず、今年1月から6月までの財政は黒字なんですよ。この半年で歳出も歳入も国家予算の5割。こんなことあり得ないんですよ。



つまり、戦争継続中にもかかわらず、国家予算を半年で半分使って、同額の収入があったという理想的な財政が数字上残っているのだ。

どこまでが信じられるデータなのか、まったくわからない。例えば公表されている数字では、ロシアの国家予算は約45兆8000億円。うち軍事費は、7兆円とされている。国家予算の15%強と考えるとかなりの軍事費だが、戦争中と考えると少ないようでもある。

東京大学先端科学技術研究センター 小泉悠 専任講師
「ロシアの軍事費は、はっきり公表されないので各種資料から類推してこのくらいだろうと。ロシアは兵隊の給料も武器も全部自前なのでルーブル払いできる。燃料もそうです。なので実際の購買力でいうとかなりある。どのくらいかも諸説あるが、大きめの数字で1000億ドルから2000億ドルくらい。つまり20兆円くらいの使い出はあるんじゃないかと。」

戦時中の財政状況はいつの時代もトップシークレットだ。しかし、戦争が長引いて財政が悪化しないで済むはずはない。アメリカはこう見ているという・・・。

明海大学 小谷哲男 教授
「主流の見方は、今回の侵略によって長期的にはロシアの経済力の低下が加速すると見ています。もともとロシアは国力が衰退していた。その衰退が早まる。西側の制裁も効いている。(無傷だと言っている)軍需産業も部品が入らず困っている状況だと」

中長期的にはかなりの痛手は避けられないロシア経済。そのロシアが、国際宇宙ステーションから撤退するという。これが今西側にとって新たな問題となるかもしれない・・・。

■「もう宇宙ステーションに人が送れなくなる・・・」

今年、若田光一さんが船長を務めた国際宇宙ステーション(ISS)。アメリカ、ロシアなど15か国が参加、運営している。滞在する7人の宇宙飛行士のうち3人がロシア人だ。そのロシアが離脱した場合どんな影響があるのか、長年ISSに携わった専門家に聞いた。

日本宇宙少年団 上垣内茂樹 理事
「宇宙飛行士の作業ひとつとっても(ロシアが抜けたことで)そこで出てくる影響を回避するため余計な作業やメンテナンス作業が増える分、実験に使える時間が減ってくる。(中略)宇宙船ひとつとってもロシアのソユーズで人が運べる、西側のクルードラゴンで人が運べる。それがソユーズがなくなりクルードラゴンだけになる。もしトラブルがあって1年2年打ち上げられないってなると、もう宇宙ステーションに人が送れなくなるという事態になります」



協定により2024年までは現状が守られるが、それ以降ロシアは、独自の宇宙ステーション完成をもってISS離脱としている。懸念されるのは、今年10月完成を予定している中国の宇宙ステーション「天宮」にロシアが相乗りすることだ。

ロシア・ユーラシア政治経済ビジネス研究所 隈部兼作 所長
「ロシアが今後生き残っていくためには、中国との関係を強化していかなければならないと追い込まれている段階。2024年までに独自の、っていうのは予算的に難しいでしょうから、そうすると中国との協力っていうのは出てくるんじゃないかって・・・」

■G7はエネルギーや食糧への“投機”を禁止せよ

西側の制裁に対抗するロシアの様々な“生き残り策”。長い目で見るとロシアが苦しくなると見られているが、途上国など長い目で見ることができない国のほうが多い。現にいま制裁に参加している国は少数だ。ようやくウクライナから穀物輸出が再開されたが、それもまた不透明だ。どうすればこの戦争で、ロシア包囲網を広げ、有利に展開できるのか。長年ロシアの経済を見ていた隈部氏は、西側の、無作為を強く批判した。

「制裁をすればエネルギー価格が上がる。穀物が大変なことになる。こうなることは予見できたんです。これに対してG7諸国は世界の経済・社会を安定させることをやっておかねばならなかった。いま慌てていますが、こういう非常時ですら、エネルギーも穀物も“投機”の対象になっているわけです。エネルギーと食料は“国際的公共財”だとして『投機は許さない』ということくらいしないといけない。そうしないと、穀物の量は出て来ても価格は下がらず買えないところも出て来てしまう。途上国に配慮しないと制裁の輪は広がっていかない」

(BS-TBS 『報道1930』 8月2日放送)