「親を部屋に閉じ込めた」「ベッドに縛り付けた」急増する介護家族の悲劇 背景にある予想外の理由と専門家の警鐘

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2022年8月13日 (土) 08:09
「親を部屋に閉じ込めた」「ベッドに縛り付けた」急増する介護家族の悲劇 背景にある予想外の理由と専門家の警鐘

コロナ禍により普及したテレワーク。介護をする人にとって仕事と介護を両立できるいい制度であるという認識もあります。しかし、「介護とテレワークの両立がうまく行っているケースは一件もない」と警鐘を鳴らす専門家がいます。その理由はなんなのでしょうか。

■2021年の介護離職者は過去最多になる可能性 テレワークは介護の味方じゃなかった?!

「テレワークを活用して介護と仕事の両立を!」これは東京都産業労働局のホームページに書かれている言葉です。また、テレワークを推進する総務省のサイトにも“テレワークがもたらし得る効果”の一つとして“介護との両立”が挙げられています。

実際、厚労省が発表している「介護・看護が理由で離職した人の数」は年間9〜10万人ほどで推移していましたが、テレワークが広がってきた2020年には7万500人まで減少しています。

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これは、従来であれば離職しか選べなかった人が、テレワークという新たな選択肢を得て、なんとか会社に踏みとどまることができた結果と考えられます。

ところが、この流れは続きませんでした。2021年の離職者の数は上期(1月~6月)だけで5万7600人。これは、単純に2倍すると通年で過去最多となる数字です。コロナ禍でテレワークが増え、「仕事と介護の両立」がしやすくなったのではなかったのでしょうか?

■「介護離職増加の原因はテレワーク」と専門家

NPO法人「となりのかいご」の代表理事を務める川内潤さん(42)。“介護する家族による虐待を防ぐこと”を目的とした介護支援コンサルティングを行っています。

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年間約600件の介護相談を受けている川内さんは、まもなく発表される2021年通年の介護・看護離職者の数が間違いなく過去最多になるだろうと考えています。そしてその原因はテレワークにある、と言い切ります。これまでに見てきた「テレワークが巻き起こした介護家族の悲劇」について聞きました。

■ウェブ会議に乱入されるから親の部屋に鍵をつけて閉じ込めた

テレワークと介護の両立を始めたAさん、親は軽い認知症でした。しかし、仕事の邪魔になるからと鍵をかけて親を閉じ込めるという、虐待にあたる行為に発展しました。

「Aさんは親に『これから(オンライン)会議だから話しかけないで』と伝えていたんですが、Aさんの親は記憶力が低下していました。ですので『話しかけないで』と言われても記憶に定着しないんです。親からすると、“部屋の中で娘がわけわからん箱に向かってわんわん独り言を言っている”という風に見えるんですね。それで『あんたどうしたんだ』って娘に話しかけてしまいます。そうするとAさんは、話しかけないよう伝えたのにって、ついつい怒鳴っちゃうんですって。怒鳴ると親はより不安になって、話しかけの頻度は高くなります」

親孝行のために頑張ろうと一人で背負うことで、意図せず虐待につながるケースが散見されるといいます。自分がうとうとしている間に母親がトイレに行って転んだから、転ばないように親を守りたいと思った息子が、親をベッドに縛り付けるといった例もあったといいます。

■「自分がいるから」ヘルパーやデイサービスを断ってしまう

出社していた時は母親をデイサービスに送り出していたBさん。しかしテレワークを始めると母親は「どうしてあんたが家にいるのにデイサービスに行かなきゃいけないの?」と行くことを拒むようになりました。1日中家に母親がいる状況では仕事にならず、Bさんは退職することも考え始めています。

「デイサービスに行くといろいろ面倒な人もいるとは思います。でもそれが社会なんです。子どもがテレワークすることで親がデイサービスに行かなくなっちゃうと、ケアの幅みたいなものが失われる。デイサービスは“預かり所”ではなくて、人と交流することで社会機能・身体機能の維持、ストレス発散できる場所と考えてもらえたら」

■仕事では優秀だけど・・・“やりすぎて”しまうがための弊害

仕事ができるビジネスパーソンのCさん。テレワークで家にいるようになると、親の必要なことを察知し、すぐ解決してあげるようにしていました。しかしそれに慣れてくると、親は「なんでこれはないんだ?」「あれはどうした?」とCさんを叱責するようになりました。

「ペットボトルの水を冷蔵庫に取りに行って自分で飲めていた人が、娘さんが家にいると、フタを開けて渡すってなっちゃう。それが続くと、筋肉は衰え、そのうち自分でキャップを開けられなくなるなど介護状態の促進につながりかねません。子どもが近くにいることで、親は子どもに甘え、自分の思い通りにならないことに怒ることも」

■介護とテレワークの両立「一件もうまくいっていない」

川内さんの話を聞いていると、確かにテレワークは介護の味方ではない、ということがわかってきました。しかし、何かいい両立の道があるのでは?という儚い思いを川内さんの言葉が打ちのめします。

「『テレワークをすることで、仕事を上手に調整して親を介護する時間を増やす』と考えた時点で、もう“終わってる”。そうではなくて、親がいかなる状況にあっても自分の生活が崩れない体制作りをするのが両立

介護とテレワークの両立は、一件もうまくいっていないです

ーー一件も?

「年に600件くらい相談を受けていて、テレワークしながら介護されてるケースはあるんですけど、一件もうまくいっていない」

■本当の両立のために「自分の親の介護はしてはならない」

「介護のためのテレワークを止めることで、通常通り出社し仕事のパフォーマンスも上がり、介護状態もよくなる、これが本当の両立じゃないですかね?」

親が介護状態になったとき、やるべきことは自分で介護をすることではなく、親が困っていることの解決策をプロに相談することだと川内さんは強調します。

「我々介護職であっても、自分の親の介護はしてはならないと習います。元気だった時のその人を知っていると、できなくなっていく姿を見て、かわいそう・情けない・申し訳ないという気持ちになる。そうなると、ついつい感情が前に出ていくし、何でもやってあげたいという気持ちになりますよね。

親も相手が子どもだと何でも言ってくる。どんどん依存して本人ができなくなることが増えて介護のタスクが増えてしまう。やっぱり介護は身内にはできないと私は理解しています」

特に日本では「自分の親は自分が看なくては」という人が多い傾向だといいますが、実は自分よりずっと慣れているスタッフに看てもらった方が効率もいいし、家族のためにも、介護される本人のためにもなるのだということです。