いかつい顔をした長身の男が約束どおりの時間に現れた。握手から力強さが伝わってくる。
【写真を見る】プーチン政権が存在を否定…民間軍事会社「ワグネル」元傭兵が日本メディアに初めて語った“実態”
マラット・ガビドゥリン氏。ロシアの民間軍事会社「ワグネル・グループ」の元傭兵だという。顔出しで取材に応じるワグネルの元傭兵はほぼいない。
ガビドゥリン氏が日本メディアのインタビューに応じるのは初めてだ。
記者
「ワグネル・グループとはどのようなグループですか?」
ガビドゥリン氏
「ワグネルは、非常に強力な準軍事組織です。戦闘員の募集、組織の編成、そして軍事ミッションを遂行する国や地域に戦闘部隊を派遣するシステムが、かなり発展しています。現時点では西洋諸国の軍隊を相手にしても戦うことができる軍事力を持っています。もちろん、空軍と長距離砲による十分な支援が必要になりますが」
プーチン政権が軍事会社としての存在自体を否定している「ワグネル」。
一方、その活動はロシアの外交政策に連動し、中東、アフリカ、ウクライナへの侵攻にも及んでいるとされる。
記者
「ロシア政府は軍事会社としての存在を否定しています。ロシア軍との連携は?」
ガビドゥリン氏
「ワグネル・グループの使い方は、状況や地域で少し変わることがありますが、根幹は同じです。例えばシリアでは、ワグネルは戦闘任務を遂行する特殊部隊の役割を果たしました。ロシアの軍隊に取って代わる存在だったのです。過激派組織『イスラム国』を相手に戦い、指揮官の計画を実行して、この地域を制圧できたのはロシアの傭兵しかいません。シリア軍はぜい弱で役に立たなかったし、ほかの親政府勢力も『イスラム国』と戦うほどの力を持っていませんでした。ロシア軍は前線での戦闘には全く参加しませんでした。なのでシリアでのワグネルの任務は、『イスラム国』を倒し、ロシア軍の本当の損失を隠すことでした。ロシアが血をほとんど流すことなく『イスラム国』との戦いに勝利したという錯覚を起こすことが狙いですが、現実は全く違います」
記者
「政府の軍ではなく、傭兵を送る理由は?」
ガビドゥリン氏
「第一のメリットはやはりロシア軍の弱さを隠すことです。今のロシア軍は戦闘任務を実行する能力がありません。戦闘では傭兵の方がロシア軍の兵隊より優れていますし、ロシア軍の司令官が傭兵の損失を気にすることはありません。なぜならその損失は、公式にカウントされないからです」
ロシアにはワグネルのような軍事会社が複数あるとも話す。
ガビドゥリン氏
「いろんな政府関係者の下で作られている組織もあります。軍事会社を作ることで、兵員の数を増やすことが主な目的であり、国民の総動員令を避けることに貢献しています」
「ロシアは最近エネルギー資源の販売で巨額の収入を得ています。その資金が政府関係者など“愛国者”と呼ばれる人たちに分配されています。彼らはその一部を自分たちの懐に入れるのです。残りの金でこのような部隊が作られています」
ガビドゥリン氏は、ワグネルに2015年から4年間所属した。
一部で指摘されている残虐行為は、少なくとも周囲ではなかったという。
報酬は、訓練期間は日本円にしてひと月あたり約14万円(8万ルーブル)
戦闘に参加した月は約42万円(24万ルーブル)。*2018年平均レート 1ルーブル=1.7674円
金が必要だったために所属を続けたが、最初の任務としてウクライナ東部の紛争地に派遣されたときから、辞めることを考えたという。
「ウクライナのナチ化と戦う」というふれこみが嘘だと知ったからだ。
ガビドゥリン氏
「2015年7月『ルガンスク人民共和国』に派遣されました。2か月間滞在しましたが 戦闘には加わりませんでした。当時、戦いはすでに終わっていました」
記者
「現地で感じたことは?」
ガビドゥリン氏
「私は自ら、ルハンシクの住民らに話しかけ、街を歩き、現地の状況を見た結果、ただただロシアメディアに嘘を言われていたという印象を受けました。正直に言いますと、『ルガンスク人民共和国』と『ドネツク人民共和国』と言いますが、『人民』なんというのは名ばかりのものです。実際に支配しているのは、武器で権力を握った悪人ばかり。その時点で市民はすでに適応していて、いわゆるストックホルム症候群のような状態でした」
(注)ストックホルム症候群=誘拐事件や監禁事件などの被害者が、犯人と長い時間を共にすることにより、犯人に過度の連帯感や好意的な感情を抱く現象。
記者
「ことし2月からのウクライナ侵攻についてどう思っている?」
ガビドゥリン氏
「最後の最後まで、戦争が起きないことを願っていました。これはロシア政府の間違いだけではなく、犯罪行為です。政府の人が頭の中で描いた想像の中で計画が進んでいきました。ロシア政府にとって戦争の主な目的が『非ナチ化』ではなく、『非民主化』『脱民主化』であるのは極めて明白です」
ウクライナメディアによると、ロシアでは侵攻の長期化で兵員不足が深刻化し、軍や民間軍事会社は受刑者や失業者にも接触を増やしているとされる。
ガビドゥリン氏
「最近は2度、話を持ち掛けられました。1回目は戦争の前でした。この間結成されたばかりの部隊に参加する話でした。その後は戦争が始まった後に電話が来て、私の名前が志願兵のリストに入っていると言われました。『冗談じゃない お前が行けよ』と言いました。もちろん 断りました」
ガビドゥリン氏は本を出版し、ワグネルの実態を明らかにしたいという。
身の危険を感じないのか、という我々の質問に、「意識することもあるが目的は達成する。サムライは最後まで頑張らなければならないのです」と笑い、1時間におよぶインタビューが終わった。
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