「コウノトリ見たい」から始まった“有機給食化”で成功も 今“有機農家”集まる街とは

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2022年9月24日 (土) 06:03
「コウノトリ見たい」から始まった“有機給食化”で成功も 今“有機農家”集まる街とは

地球環境に優しいとして今、化学農薬も化学肥料も使わない有機農業が注目されています。国は1%にも満たない有機農地を25%に拡大する目標を掲げましたが、その道のりは…。現場を取材しました。

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■有機農業が活況「こんな時代が来るとは信じられない」

毎週土曜日、名古屋市で開かれる朝市。売られている野菜は全てオーガニックで化学農薬や化学肥料を使わず、遺伝子組み換えもしていない。        


「美味しいし、体にもいいのかなって」
「なるべく薬物(農薬)を使っていないものを食べたい。調理もそんなにしなくてもそのままでも美味しい」

割高で見栄えも悪いと敬遠されてきた有機食材だが、消費者の意識は変わりつつある。20年近く朝市を開催してきた吉野さんは…

オーガニック ファーマーズ名古屋 吉野隆子代表
「もう信じられないですよ。こんな“有機農業”という言葉を聞ける時代が来るとは思いもしなかった」

■出遅れた日本の有機農業 2050年までに農地25%増なるか

だが、日本の有機農業は農地全体のわずか0.6%。世界から出遅れている。

そこで日本政府は7月に「みどりの食料システム法」を施行。2050年までに有機農業を全農地の25%に増やすことにした。そのために農家やモデル地区への補助金を増額する。

政府が有機農業を推進する理由の1つは、環境保護。さらに世界的に食糧事情が悪化する中、高齢化で先細りする日本の農業に新たな担い手を呼び込むためだ。

■「地に足をつけた暮らしがしたい」東日本大震災きっかけで移住 

名古屋市から車で1時間半。標高150mを越える山間の町、岐阜県白川町。有機農家になりたい若い人たちが次々移住しているという。

有機農家の高谷裕一郎さん(44)。横浜でのサラリーマン生活を経て、妻と娘と7年前に移住した。きっかけは東日本大震災だったという。

有機農家 高谷裕一郎さん
「“絶対安全”とかってない。地に足をつけた暮らしをしたいなと思うようになった」

高谷さんは白川町のNPO法人「ゆうきハートネット」を通して有機農業を学び、移住から2年後、自分の田畑を持った。約20種類の野菜や米を栽培し、名古屋のスーパー「旬楽膳」に出荷。インターネットを通して全国にも販売している。

■雑草に病気… 次々と直面する有機農業の難しさ

高谷さんは子どもの頃から土を触るのが好きで、大学院で土壌微生物を研究。その後、種苗会社に勤務していたこともあり、それなりに知識はあった。だが、いざ脱サラして有機農業を始めると、その難しさに直面した。

例えば、雑草対策。除草剤を撒けばほとんど生えないが、そうはいかない。昔ながらの、田車で雑草をかきとる。

有機農業では病気対策にも工夫が必要だ。トマトの場合は…

高谷さん
「普通のトマトの栽培に比べると全然株数が少ない。やっぱり農薬とか使えないので、なるべく蒸れないよう株数を減らして風通しを良くするとか、植物自体に頑張ってもらうしかない」

高谷さんが、ぜひ見てほしいと運んできたものがある。有機堆肥だ。

高谷さん
「化成堆肥だとこういう時、もっと少ない量でいいし、液体の肥料だとパーっとかけるだけ」

有機農業のかなめとなる堆肥をどう作っているのだろうか。

■「有機堆肥が広まれば農薬や化学肥料の使用が減る」

高谷さんが年に数回、一般家庭向けに開催している生ごみを堆肥化するワークショップ。

生ごみ堆肥のポイントの1つは水分の調節だ。量販店で購入したケースのフタに穴をあけ、太陽光を取り入れる透明の板を設置。ケースの中には、土壌微生物が豊富な発酵材も投じておく。家庭では、できるだけ水分をきって生ごみを入れていく。

セミナー受講者
「これやらないとすごくごみが増えるから助かる」
「野菜を育て庭木も元気になってきている感じが明らかに毎年わかってくる」

土壌微生物を活かしてうまく堆肥化できれば、臭いも気にならない程だ。貯めた生ごみは数か月ごとに高谷さんの堆肥舎で回収し、発酵作業を行う。

オカラやモミ殻、生ごみなどを絶妙な配合でブレンドし、良質な堆肥や培養土をつくる。評判が評判を呼んでスーパーでも販売している。

高谷さん
「農業には“苗半作”という言葉がある。苗がよければ半分成功という意味。うちでは培養土をつくってすごく良い苗ができるので、有機農業の畑に植えるとすごくうまくいく。根っこの具合が全然違う」

異なる種類や量の堆肥で育てた野菜を食べ比べてみると…
やはり高谷さんの堆肥で育てた野菜が、最も味が濃く甘味も感じられた。

こうした有機堆肥づくりが全国に広まれば、自然と農薬や化学肥料の使用も減っていくと見ている。

高谷さん
「化学肥料や農薬を使わないのは、それが目的ではなく、そうしないと有機農業という生物の多様性を保つループが全部回らないということ。堆肥にして、それでまた野菜つくって食べて、ぐるぐる回れば農家も嬉しいし、みんなも結構快適に過ごせる」 

■“従来の農家”と情報交換 互いに抱える問題も

高谷さんたちはこれまでほとんど交流のなかった農薬や化学肥料を使う従来の農家との情報交換を始めた。

従来の農家
「高齢化でだんだん田んぼを維持していけない。耕作できない放棄地ができつつある。とにかく農地を荒らさない。みんなで守っていこう」

高齢化が深刻で、このままでは耕作放棄地が増え続ける心配があるという従来の農家。対照的に、高谷さんたちには次々とやってくる就農希望者に紹介できる農地が足りないという課題がある。その農地を、従来の農家から貸りるなどの動きが始まりつつある。

高谷さん
「僕らも困っているけど、むこうも高齢化とか色々な問題を抱える中、お互いの問題を一緒に解決できるのではないかという感触はあったので、これからどうやっていくか話していきたい」

有機農家たちには収入面で課題がある。このため、副業としてキャンプの運営やサウナの経営をして、収入を補う有機農家もいる。山間で収穫量が限られるため、農業だけでは十分ではないからだ。

■「コウノトリを観光のシンボルに」市長の思いから有機米生産に挑戦

こうした収入の問題を農家任せにせず行政で支える仕組みを作ったのが、千葉県いすみ市だ。稲作が盛んな地域だが、最近は米を作っても高く売れず、担い手不足の課題も表面化してきた。そこで取り組んだのが“有機米”の生産だ。

きっかけは市長の大胆な発想からだった。 

千葉・いすみ市 太田洋市長
「コウノトリが飛ぶ姿を見たいなと、観光のシンボルにしようという思いがありました」

環境と経済を両立させた街づくりを目指し、9年前、コウノトリを復活させた兵庫県豊岡市に職員を派遣。鍵は“農薬をできるだけ減らした農業”だと分かり、さらにハードルの高い有機農業に挑むことにした。

太田市長
「全国で誰もできないならやってみようじゃないかと」

上村彩子キャスター
「市長として不安を感じなかったですか?」 

太田市長
「これをやっていると選挙は当選しないと思った。1万人の農家(関係者)を敵に回すから」

プロジェクトの仕掛け人となったのが、いすみ市農林課の鮫田晋主査。サーフィン好きが高じて埼玉県から移住した農業未経験者だった。

最初に有機米づくりに取り組んだ矢澤さんの田んぼでは…

有機稲作農家 矢澤喜久雄さん
「農薬とか化学肥料を使わなければいいんだろうと。田んぼは想像ができないくらい草がいっぱい出た」

雑草対策で大失敗。

するとすかさず市が専門家を招いて勉強会を開いた。水の深さを厳密に管理するなど、雑草を生やさない技術を習得。翌年には改善された。鮫田主査も農家を回り、アドバイスできるほどになった。

矢澤さん
「鮫田さんがいなかったらどうなったか。『大学入試の何倍も勉強した』と言っていましたが、本音だと思います」

害虫対策への不安もあった。だが、農薬を使わないことで自然が豊かになり、クモやカエルなど害虫を食べる生き物も増えたという。子どもたちはこうした生物多様性と有機農業の関係を学び、秋には収穫体験も行っている。

なんとコウノトリも、これまでに2度飛んできた。

■課題だった販路の確保 支えたのは学校給食

いすみ市で有機米の生産を支えたのは販路の確保だった。価格は普通の米の1.5倍だが、市が買い取って学校給食として提供。差額は税金で補填している。5年前には全ての小中学校の給食を“有機米”にすることに成功。それが全国に知れ渡り視察も相次いでいる。

有機米の生産は順調に伸び、2017年には教職員と生徒の給食が2500人分で42トンを越えた。上回った分は、高級ブランド米として一般にも販売している。

太田市長
「今のところ一人勝ち。収穫すればするほど(農家は1俵)2万5000円くらいで売れる」

いすみ市は、学校給食に使う野菜の有機化にも取り組み始めた。有機野菜の生産も順調に伸び、今や8品目を提供。移住者も年々増えている。東京から移住した有機農家、宮川さんのキュウリを食べると…

上村彩子キャスター
「塩とか味噌とか味つけがいらないくらい、本当に素材の味で美味しいです」

有機農家 宮川聰さん
「今後は保育園とか保育所、そういったところの給食にもどんどん広がっていったらいい」 

「有機給食化」がなければ、ここまで有機農業は広まらなかったと鮫田主査はいう。

鮫田主査
「農薬を使わないで作られた農作物をしっかり買い支えてあげる社会でないと、やっぱり農業を続けていけない。支援する側の人たちがまずどうやったら(有機農家が)安心して取り組めるか頑張らなきゃいけない」

今、有機農業を注目すべき理由の一つは、ロシアのウクライナ侵攻も一因となった化学肥料の高騰だ。農水省のOBで東京大学大学院の鈴木宣弘教授は、「日本の化学肥料は海外に大きく依存していて、今後ますます入手が困難になる。化学肥料に頼らずに国内資源を最大限に活用する有機農業の技術が、従来の農家にも重要になる。日本の食料安全保障を考える上でも有機農業の発展に期待したい」と話す。

(報道特集 9月17日放送)
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