10月の消費者物価指数 40年8か月ぶりの大幅上昇~危ぶまれる日本経済失速~【Bizスクエア】

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2022年11月24日 (木) 06:33
10月の消費者物価指数 40年8か月ぶりの大幅上昇~危ぶまれる日本経済失速~【Bizスクエア】

2022年10月の消費者物価指数は2021年の同月比で3.6%上昇し、40年8か月ぶりの歴史的な上昇幅となった。物価の上昇は想定以上に高く、幅広く及んでいる。物価上昇を上回る賃金の上昇が実現しなければ、見えてくるのは日本経済の失速だ。物価と賃金の好循環を生むためにいま求められているのは何か。専門家に聞いた。

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■GDP年率換算4四半期ぶりのマイナス…“リベンジ消費”振るわず

10月の全国の消費者物価指数は、変動の大きい生鮮食品を除いて3.6%上昇した。オイルショックの影響が残る1982年2月以来、40年8か月ぶりの大きな上昇だ。原油価格高騰の影響で都市ガス代が26.8%、電気代が20.9%上昇した。また、原材料高や円安の影響で食パンなど食料が5.9%上昇したほか、ルームエアコンなど家庭用耐久財が11.8%上昇、携帯電話機も16.5%上昇するなど、物価の上昇は想定以上に高く、幅広く及んでいる。

こうした状況に、物価の番人を代表する日銀の黒田東彦総裁は「かなりの消費者物価の上昇になっているということは事実」と述べたが、年明け以降は輸入物価による物価押上げ効果は薄れるという見解を改めて示した。

物価上昇の勢いについて、第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏は、部分的なものから全体的なものへと広がっていると指摘する。

第一生命経済研究所 首席エコノミスト 熊野英生氏:
生鮮食料品は前年比で8%ぐらい上がっていますから、生鮮食料品を含めた総合指数で見ると、おそらく12月には4%を超えてくる可能性もあるのではないでしょうか。これは川上の生鮮食料品や小麦粉などの材料から食料品の川下へと物価上昇が広がって、コスト転嫁が広がってきているので、物価上昇の勢いが部分から全体に波及してきています。

――一方、期待されるのが物価の上昇を上回る賃上げだが?

第一生命経済研究所 熊野氏:
企業としてはコロナの時に雇用を守ったのだから、賃金の上昇というのは少し欲張りだろうという気持ちはあるのではないかと思いますが、政治的な環境としては、賃上げをしないと物価上昇の痛みは止まらない。

2022年7月から9月までのGDP(国内総生産)が年率に換算するとマイナス1.2%と4四半期ぶりにマイナスに転じた。コロナからのリベンジ消費が期待したほど振るわなかったことが理由の一つだ。中でもスマートフォンや家電など耐久消費財の販売が大きく落ち込んでいる。

第一生命経済研究所 熊野氏:
震災の時の円高を契機にして、家電製品は実は輸入した方が安いのだという考え方、つまり家電製品を輸入する時代がここ10年ずっと続いていました。2022年3月以降の急激な円安によって輸入する家電製品が割高になって、冷蔵庫も炊飯器も洗濯機も軒並み値上がりし、実質GDPの前期比がマイナスに突っ込んできたのです。家電製品は値上げによって販売数量が落ちているということを反映しているので、これは値上げによって実質ベースの成長が脅かされているということだと思います。

■求められる賃上げ努力 新しいチャレンジを促す流動化も必要

消費者物価指数のグラフを見ると、生鮮食品を除く総合指数が2%に乗ったのが2022年4月で、9月は3.0%だった。それが一気に10月は3.6%になった。エネルギーを除いたいわゆるコアコアという指数でも2.5%で、初めて日銀が目標とする2%を超えた。

内訳をみると、食料やエネルギーは相変わらずだが、ここに来て耐久財や携帯電話など物の世界に値上がりが広がってきている。10月は全国旅行支援があって宿泊費が10%のマイナスになっている。これが0.17ポイントぐらい指数を押し下げているので、実態は4%近い上昇ということで家計にとってはかなりのショックだ。

入山章栄氏:
苦しいですね。本来の健全なインフレというのは、目の前の消費を喚起します。なぜかというと、今後も物価が緩く上がり続けるだろうと思っていたら今買った方が得なので。ところが、今日本で起きていることは物価が上がっているはずなのに、今買おうとしないのです。30年ぐらい我々は長い間デフレに浸かりすぎているので、いつか下がるだろうと思っているわけですよね。そうすると消費も抑えてしまう。ここがいいサイクルで回ってくることが大事。ただ、そのためには背景として当然賃金が上がるということがやはり重要だと思います。

――肝心の賃金を見ると、実質賃金がずっとマイナスになっている。これだけマイナスが続くと、リベンジ消費が一巡したら誰でも買えなくなる。日本経済にとって賃金の上昇が何より大事だということか。

入山章栄氏:

そう思います。例えば最近話題になっている東京大学の渡辺努教授の「世界インフレの謎」という本にも書いてあるのですが、物価と賃金はサイクルになっているのです。物価が上がると思うから、本来なら賃金を上げなければやっていけません。賃金が上がると、それが反映されて物価が上がるというサイクルが望ましくて、日本はもう40年間その逆をやってきたわけです。物価は上がらないだろうから賃金を抑える、賃金は抑えられているから物価は上げなくていいというサイクルが染み付いてしまっているわけです。ですから、これを逆回転させていくということが何より重要で、今物価が外圧的な要因ではありますが、少し上がってきているので、ここで賃金を一段上げていくという企業努力、これが日本経済に非常に求められているということだと思います。

――何より賃金を上げることが成長に不可欠だということはみんな言っているが、実際に上げるかとなると、売り上げが伸び悩んでいるとか、利益が減っているから上げられないというふうになりはしないかという懸念がある。

入山章栄氏:

大手企業などはぜひ上げてほしいのですが、日本のほとんどは中小企業で、中堅の会社から見ると賃上げは死活問題なのです。なぜかというと、日本は長い間、終身雇用制度の中で雇用を確保するということを大前提にやってきているので、雇用を確保したままで賃金を上げると当然会社の経営はひっ迫しますから、それができません。雇用を守る代わりに賃金は抑えるというやり方なわけです。ただ、これだけの賃上げ圧力が出てくると、どこかで雇用の流動化を見直していかざるを得ないわけです。だから、欧米型の働き方、つまりいろいろな会社にいろいろな人が転職して、より給料が上がる会社に前向きに転職していくという社会を作っていくことが大事なのだろうということになるわけです。

――そこに労働規制の緩和といったことも出てくる。流動化というと結局解雇しやすくするだけで、人々がより収入の少ない職種に転落していくということを招いてしまう。そうではなく、より給料の高い会社がどんどん出現するような世界を作り、そこに流動化していくということが担保されないとなかなか踏み切れない。

入山章栄氏:

日本では「流動化=解雇」というイメージがあるのですが、大事なのはそれで人がより新しいチャレンジをしてもっと高い報酬を得られるということなのです。Twitterが大量解雇したけれども、解雇された側は意外と裁判もそんなにまだ起こしていない。つまり、あれはアメリカのああいう産業だと仮に解雇されても絶対に次があるのです。もしかしたら、次の転職先は給料がもっと上がるかもしれないということがあるから、あれだけの流動化が進むのであって、日本はまだそこが十分ではないということです。

■問われる日本企業の経営 イノベーションで新しい価値を

日本はこの10年間、アベノミクスの異次元緩和ということで、物価を上げれば成長もし、賃金も上がっていくというような議論で話を進めてきた。ところがここに来て、物価は上がったが給料も上がらないし、成長もしない。一体何なのだという話になっている。

――マクロ的なアプローチは当然マクロ政策には必要だが、給料を上げる会社がたくさん出てくればいいということなので、個別の取り組みが実は本当は大事だったということなのか。

入山章栄氏:

結局、経済というのは我々人間と企業でできているので、我々人間や企業組織の振る舞い方がものすごく影響を与えるわけです。私はここ3、40年の日本企業の経営のあり方というのはイノベーション、変革を起こさないような仕組みがかなりあったので、やはりここが一番本丸の課題だと思います。

――イノベーションが起きれば企業の利益が上がり、給料も上がる。給料が上がった会社があれば真似する会社も出てくるだろうし、人々もそこへ行こうとするということか。

入山章栄氏:

実際、今日本でも少しだけですが、ITデジタル業界はそうなってきています。あの業界もかなり雇用が流動化している上に、イノベーションが起きているので、人が動くのです。結果的にITデジタル業界の給料は上がっています。これがもっといろいろな形で日本にいい形で波及してくることが望まれると思います。

――イノベーションと言われても「革命的な技術革新は簡単には起きない」と思ってしまいがちだが…

入山章栄氏:

イノベーションの定義は、新しい価値を生むということです。新しい価値というのは例えば、ちょっと変わった製品、差別化された製品を提供するということも十分にイノベーションなのです。我々はイノベーションというと、どうしてもアップルやGoogleみたいなことをやらなければいけないと思うのですが、必ずしもそうではない。今、みんな同質のものばかり作るから価格競争に陥ってデフレになってしまうので、違ったものを作れば、そこに価値を感じるから価格が上げられるのです。そうすると給料も上げられる。そういう好循環を作ることが大事です。

イノベーションというのは、研究開発やマーケティングの話ではないのです。会社全体を少しずつ変革していくということなので、人事からガバナンスからすべてを変えていくことが大事だということです。

――成長戦略がないと言われてきたが、結局、個々の企業や組織がどう成長していくかということに向き合えば、ミクロから動かしていくこともできるかもしれない。

入山章栄氏:

そういう意味では私が今若干期待しているのが、今の円安傾向です。日本は海外から進出してくる企業は結構少ないのですが、例えば今台湾のTSMCという世界屈指の半導体企業が円安になって日本に来て、熊本でものすごく給料を上げています。外資系の会社がもっと入ってきて競争を活性化させて、結果的に我々の給料も上がってイノベーションが起きるということになるのも期待したいと思っています。

(BS-TBS『Bizスクエア』 11月19日放送より)