転職経験ゼロの私が、退職代行の新野さんと話して思ったこと

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2022年11月25日 (金) 07:00
転職経験ゼロの私が、退職代行の新野さんと話して思ったこと

リアリティー番組「テラスハウス」での強烈なキャラクターでも話題となった、退職代行サービス「EXIT」の新野俊幸社長。
退職代行の生みの親である新野社長に、若者の新しい働き方や意識の変化、終身雇用が中心の日本の働き方の問題点などを聞きました。

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■「会社を辞める=悪」の日本社会 「ポジティブな気持ちで会社を辞めて欲しい」

ーー退職代行を始めた経緯やサービスを立ち上げた思いをお聞かせください。

退職代行を始めた経緯としては自分が元々はサラリーマン をやっていて、合計で3回辞めていて、どの会社もすごく辞めづらかった経験からサービスを作りました。  

日本では、「辞める=悪」のような価値観が根強いので、そこをサポートできるようなビジネスになればいいなと思って始めたんですよね。「辞めたっていいじゃん」「自分の人生なんだから、やりたくないことはもう辞めちゃおうよ」という、ポジティブな気持ちで会社を辞めて欲しいと思って始めたのが、退職代行サービスです。

ーーどの会社も辞めづらかったという、ご自身の経験が元になっているのですね。

自分の場合、新卒1年ですぐ辞めたんですけど、何の成果も出してないのに、逃げ出すような感覚があるんですよね。すごく恥ずかしかったですし、育ててくれた上司に対しての裏切りの気持ちがあって、言いづらかったですね。

それに、「退職したい」と言っても、上司が止めるし、親も止めるし、同僚も止めてくるし、先輩も止めてくるという、誰1人「辞めればいいじゃん」と言ってくれる人がいなかったんですよ。当時は2012年ですけど、頑張って「辞めたい」と言っても、めちゃくちゃ止められました。 

■「石の上にも3年」→「1か月で辞めても、その人次第でどこにでも行ける」に変化

ーー新野さんが退職を経験した2012年ごろと比べると、この10年で若い世代の退職・転職に対する考え方はどのように変わったと感じていますか。「辞める=キャリアに傷がつく」のイメージも拭えないのですが。

2012年当時は、「石の上にも3年」というか、「3年働くのが当たり前だ」という価値観があったんですよね。そのくらい働かないとキャリアに傷がつくというのが当たり前でした。それが今は転職する人が増えてきているというのもあって、日本人ですから「みんながやっていれば、恥ずかしくない」という感じで、「みんなが転職しているから俺もできそうだ」と、じわじわと転職する人が増えているのかなと思います。一方で、退職代行の依頼者もじわじわ増えていることを踏まえると、決して「会社を辞めたい」と言いやすい世の中にはなってないだろうなと思います。 

ーー私も就活をしていた際に、「石の上にも3年」という言葉を耳にしました。「同じ会社で3年働けないような人は根性がない」「転職なんて以ての外だ」という意味合いで使われていた言葉だった印象があります。

1年で会社を辞めても、極端な話「3か月で会社を辞めても、全然転職は問題ない」だなんて、 昔はあり得なかったわけですよね。「そんな汚い履歴書で転職なんか無理だよ」みたいな。

でも、今はそんなことなくて、極端な話1か月で辞めても、どこにでも行けるんですよ、その人次第で。

■“立つ鳥跡を濁さず”文化の日本 退職代行サービスの意義とは…?

ーー退職代行サービスの経済的・社会的意義を教えてください。

まずは、人材の流動化です。これはずっと日本の課題だと思うんですよ。斜陽産業から成長産業に人が動けばいいんだけれども、なかなか動かないのが現状としてあるので、そこは退職代行という事業が力になれる部分なのかなと思っています。なぜ人材が動かないかって、やっぱり辞めづらいからですよ。辞めさえすれば、人材は動くので、まず辞めやすい社会にするということで、人材の流動化を進めていくという点では一つ貢献できるのかなと。

もう一点が、労働者目線で見たときにメンタルケアとしては 非常に役立っているのではないかなと思っています。社会のセーフティーネットというか、今弊社に電話してくるお客様の中でも本当に呼吸ができないぐらい辛くて、もう出勤すること自体ができないという方もいます。極端な話、そういう方はそのような状況が続くと自殺してしまうんですよ。我々に頼むことで、その日から会社に行かなくてもよくなるので、自殺者を減らすという部分でも貢献できているのかなと思います。

一方で、企業側から見たときのことをお話しすると、退職するときは、みんな本音を言わないんですよね。「本当は上司の●●さんが嫌いだから辞めた」というのが一番の理由だとしても、絶対言わないんですよ。日本の”立つ鳥跡を濁さず”の文化ですかね。大体「家業を継ぐ」といった嘘をついて辞めるんですけど、うちには本当の理由を言ってくれるので、退職する本人の許可を取った上で、その本当の理由を企業に伝えることがあります。そうすると、「●●課長ってこんなにやばかったんですね」 のような、人事の人が今までわかってなかった、なぜ離職者が多いのかという本当の理由に会社側が気がつくこともあるんですよね。

■「時代について行けてない会社に、気がつく若者が増えた」

ーー日本の人材流動性は低いとのデータがある一方で、私の友人・知人には転職を経験している人が増えている印象があります。私個人の感覚では、若い世代の転職は増えているのではないかと思うのですが、新野さんはいかがですか。

そもそも転職サービスっていうものが例えば10年前と比べたら充実していますよね。SNSで気軽に転職できる時代にもなってきているので。それこそTwitterで就職活動するとか、若者だと当たり前になっていますよね。

転職のハードルも下がっているし、日本社会の先行きを考えたときに、このままこの会社にいたらまずいだろうと気づく若者が増えたのではないかと思います。いざ会社に入ってみないと、その会社がどう動いているのか、わからないじゃないですか。例えばこのコロナ禍で、そもそもリモートワークNGだと言っている会社もあって、「マジかよ」となるわけですね。時代について行けてない会社に、気がつく若者が増えたのかなと思います。

■「終身雇用ありがとう」と言う人がいっぱい 「日本は保守的な人がメイン」

ーー日本企業は未だに終身雇用が前提ですよね。新野さん自身が退職代行サービスに携わる中で、終身雇用に対する若者の意識の変化をどのように感じていますか?

若者という言葉を先ほどから使っていますが、若者の中でも「終身雇用がいい」という人はたくさんいます。

はっきり言って、日本は保守的な人がメインなんですよ。当然、僕の周りにも「終身雇用ありがとう」と言う人がいっぱいます。「サラリーマン最高」「終身雇用万歳!」と言ってる友達だっていっぱいいますから。

ーー私は新卒で入社して今8年目になりましたが、「終身雇用万歳」とまでは思っていないです。それに、私の周辺にも転職を経験した人はどんどん増えているので。

なるほどね。ちょうど過渡期の世代でもあるのかな。

逆に聞きたいんですけど、終身雇用について「万歳」ではないんですね。どういうイメージなんですか。

ーーやはり先行きは不透明ですし、今後日本経済がどうなるのかわからない中で、「終身雇用万歳」で、ずっと甘えていこうという考えには至らないです。でも、結局長いものに巻かれて生きていく、というのが私のような気がしています。辞めるということにも、ある種の勇気が必要ですよね。

なるほどね。すごいリアルですね。

保守的な人が8割ですよ。はっきり言って。そうじゃないと、会社は回らないですからね。肌感覚なんですけど、10年前は保守的9割で、1割がちょっと攻めているみたいな。自分みたいに辞めたり、起業したりしている人を攻めている人だとしたら、9対1だったのが、今ようやく8対2ぐらいなのかな。

■取材を終えて

取材後の雑談で新野さんは、起業当初のお話をしてくださいました。当時は、「今すぐ会社を辞めた方がいい」などと、周囲の人に転職や起業を勧めていたそうです。その一方で、「会社を辞めるって、めちゃくちゃ不安なんですよね」と当時の感情を吐露されてもいました。未知の世界に一歩踏み出す勇気は、並大抵の覚悟で湧き出るものではありません。その当時、新野さんが他者にかけた言葉は、不安を抱く自身への鼓舞でもあり、有言実行に繋ごうとする高い志だったのだろうと思います。

今年、社会人8年目で転職経験ゼロの私は、学生時代、体育会馬術部に所属していました。今回のインタビューをきっかけに当時を振り返ると、確かに「辛い」と感じたこともありましたが、「続けることが大切」との意識が強かった私は、4年間部活を続ける選択をしました。「継続は力なり」に美徳を感じる「典型的な日本人」の私との価値観の違いを感じる一方で、新野さんから「起業当初はめちゃめちゃ尖っていたんですよ。だから、保守的な人に対してバチバチに言ってたんですけど、あれから10年経って保守的な人の気持ちがわかるようになったんですよね」と伺い、少し親近感を抱きました。

若い世代の働き方への意識が変化している一方で、「石の上にも三年」や「立つ鳥跡を濁さず」などの考え方は、まだまだ日本社会に根強く残っている印象があります。人材の流動化を阻む文化や慣習が残る中で、若者の「辞める勇気」を後押しする新野さんのような存在が、日本社会の生産性を高めていくカギになるのかもしれないと感じました。