医療×写真の可能性、がん患者を撮る“フォトセラピスト”【報道特集】

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2022年12月3日 (土) 07:06
医療×写真の可能性、がん患者を撮る“フォトセラピスト”【報道特集】

2人に1人が生涯のうち、一度はがんになる時代と言われています。治療の過程で外見に大きな影響が出ることもあるがんという病気ですが、そんながん患者のための写真スタジオが大阪にオープンしました。

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一人の写真家と、そこに集まる患者たちの思いを取材しました。

■がん患者を撮る“フォトセラピスト”

西尾菜美さん48歳。彼女がカメラを向けるのは、がんを経験した人やその家族。西尾さんは自らを「キャンサーフォトセラピスト」と呼ぶ。

脳腫瘍を経験した男性
「お母さん、いつもありがとう」

こちらの女性は2歳の時、網膜にがんが見つかり、右の眼球を摘出した。それ以来20年余り、義眼で過ごしている。

治療のため長い間、眼帯が外せなかった彼女。きれいな写真を撮るのが夢だった。

女性
「眼帯のない写真、こんなにきれいに撮ったの初めてです。いい思い出になりました。夢、叶いました」

西尾さんは大学生だった頃、人の自然な笑顔を撮ることの楽しさに気付いた。写真スタジオに就職したものの、雰囲気に馴染めず挫折。様々な仕事をしながら、写真は趣味として続けてきた。42歳の時、大阪のがん専門病院で広報の仕事に。イベントで撮った笑顔の写真を患者さんに喜ばれ、呉服店が経営する写真スタジオに転職を決めた。

病院を辞めた今も大切にしているつながりがある。患者と病院スタッフで作るマラソンチームだ。

記者
「皆さん元気ですよね」

西尾菜美さん
「元気すぎるよ。おかしいよ。治療中やで。ええの?あんなんして」

マラソンに参加したいと治療を頑張るメンバーもいて、患者を元気にするのは医療の力だけではないと知った。

写真スタジオに勤めていた去年、西尾さんは、がん患者のための撮影会を企画した。そこで出会った一人の青年が、彼女の人生を変えた。

■「最後に晴れ着姿を残したい」20歳を迎えることが目標の男性から届いたメール

西尾さん
「めっちゃはっきり覚えていますよ。僕はきのう余命宣告を受けました、白血病です。僕は今月で二十歳になります。でも来年の成人式には出られないかもしれません。最後に晴れ着姿を残したいので、っていうメールだったんですよ」

乾野大地さん。18歳の時に急性骨髄性白血病と診断された。病状が重く、20歳を迎えることが目標になった。そんな中、撮影会のことを知った母親が西尾さんに連絡を取った。撮影は、看護師立ち合いのもと行われた。20歳の誕生日の5日前のことだった。

大地さんの母親
「いい記念になります」
大地さん
「ありがとうございます」

西尾さん
「カメラ構えたときにはすごい笑顔、カメラを構えていなかったらしんどそうにしていて。すごく一生懸命にやってくれてるなっていうのが伝わってきたんですよ。一瞬一瞬を振り絞った笑顔で、みんなに残したいっていうのが伝わってきて。この1時間をすごい思いで来てくれたっていうのが最後にすごく伝わって、彼はそのあとまた病院に戻ったんですけど。あの経験はやっぱり、みんなスタッフは忘れられないって言って」

撮影の3週間後、大地さんは亡くなった。20歳になって18日後だった。遺影には、西尾さんが撮った晴れ着の写真を自ら選んだという。

大地さんの兄 海人さん
「いろんな写真があるなかで『これがリアルな自分やから』って、この写真を遺影にしたいということで選びました。穏やかな笑顔をしているじゃないですか。そんな笑顔が見られたのは久々だったので、それはこの撮影会があったからなのかなと思っています」

写真を撮った後、大地さんは西尾さんに一通のメールを送っていた。「治療で戦い抜いた坊主頭と20歳の晴れ着姿を気に入っています」と。

自分が撮った一枚の写真。そこに込められた思いの大きさに気が付いた。

西尾さん
「彼のおかげで私も新しい道が。何かしたいと思っていて、それがこれは見えたと思って。彼のおかげです、ありがたいと思っています。これからいろんな人の笑顔を撮っていくのに常に大地君がいるんです。本当に感謝しているんですよ」

大地さんの母親
「私たちの方が思い出をたくさん作ってもらって。いつも目にする大地があの姿なので。感謝しかないです」

西尾さん
「本当にずっといてるので」

写真を撮ってほしいと願うがん患者は他にもいるはず。今年6月、西尾さんは独立しスタジオを立ち上げた。

西尾さん
「どうなるかわからない。やってみなきゃわからない。だからなるべく最初はお金をかけずにちょっとずつ、ちょっとずつ」

がん患者向けに「キャンサーフォトプラン」という特別プランを作った。料金は通常の2割引き。必要に応じて看護師も立ち会えるようにした。抗がん剤治療のタイミングやウィッグをつけての撮影など、患者や家族と何度も話し合いをしながら撮影にのぞむ。そのプロセスすべてが「フォトセラピスト」の役割だという。

■医療×写真の可能性 患者と家族が願うこと

大阪市城東区に住む中村茉緒さん。29歳だった去年の夏、ステージⅣのすい臓がんが見つかった。今も、母親の典代さんが時々、家事を手伝いに来てくれている。

すい臓がん患者 中村茉緒さん
「救急の部屋で点滴打たれながら、すい臓のところにぷくっと影があって 、たぶんすい臓がんですって言われて。さらっと言われたのでハッてなったけど、自分が死ぬとかより、親になんて言おう?しか。隠せないし、そこしか思わなかったですね」

茉緒さんには、付き合って9年になる交際相手がいた。同い年の真悟さん。がんと言われた翌日、真悟さんは指輪を買いに行こうと誘い、プロポーズした。

中村真悟さん
「正直すごく動揺したっていうのもあるんですけど、なにかできることがあればやってあげたいなと思って、そういう行動に移っていました」

Q.指輪を買いに行こうといわれたとき、茉緒さんは?

茉緒さん
「8割ぐらいあかんって思いながら、2割は体が動いていたみたいな。本当は病気がわかるまでは結婚したくてしたくて、早く子供が欲しいっていう思いは強かったんですけど、29歳だったので。だけど病気がわかってから結婚ってなったら、死んでしまうかもしれないのにこの人に一緒にそのことを背負わせてはいけないっていう思考に一瞬にして変わってしまって、もうダメダメって言って。『いや買いに行く』って言って」

夫婦になった2人で、厳しい治療との闘いが始まった。医師からは、最新の治療でも5年生存率は30%と言われた。抗がん剤の影響で髪は抜け、副作用にも苦しんだ。

手術は13時間に及んだ。退院して茉緒さんが驚いたことはー

茉緒さん
「こんな本が山盛りでてきて、知らんうちに勉強してくれていて、いきなりがんについて詳しくなったと思ったら全部丸暗記していて。本当に何の知識もなかったんですけど、『病院の先生からこう言われたよ、ああ言われたよ』って言ったら『次はこうなっていくからこうやねん』とか、なんで知ってるの?みたいな。ジャンプしか読めなかった人がこんなん読むんやと思って」

手術の影響で食が細くなった。今も、再発を防ぐ抗がん剤治療が続く。1週間薬を飲み続け、1週間休む。薬を飲んでいる期間は吐き気にも悩まされる。1回に飲む薬は10錠。指先に力が入らないため、真悟さんが薬を出す。

手術を終え、がんとの新しい付き合い方が始まったこの夏、茉緒さんはある計画を立てた。
西尾さんのスタジオで、写真を撮ってもらおうというのだ。

Q.結婚を決めてから写真を撮る機会は?

茉緒さん
「ないですないです。それこそ髪の毛がなかったので写真を撮りたくなかった。抗がん剤で顔もパンパンになったりとか顔色が悪い、顔むくんでいる、髪の毛はない。ウィッグを被っているときもわからないように帽子を被ったりしていたけど、あんまり積極的に写真撮ろうとはならないと思うんですよね。残したくないっていうのもあるし。そういう機会があるんやったら大きな手術を乗り越えて、あれだけしんどい抗がん剤を乗り越えた自分も撮ってほしいなと思って」

衣装はたくさん試着した中から、結婚直後だからと、白地の振袖に決めた。

いよいよ茉緒さんの撮影の日。西尾さんとは振袖選びの時から何度も話し合ってきた。今では髪型から体調の変化まで、すぐにわかってもらえる関係だ。母の典代さんと、祖母の善江さんも晴れ着姿を見に駆けつけた。

西尾さん
「撮りますよ、笑顔でね」
「お母さんにも『いつもありがとう』って言ってあげて」

茉緒さん
「ありがとう」

撮影から1か月。

「手術して3か月の笑顔ってすごない?自信に満ち溢れていると思うわ。ちょうど去年の今ぐらいにがんがわかったので。笑って写真撮れるって当時は思ってなかったから、笑っていられてよかったなって思う、泣いてないし。どうなるかわからん不安な1年やったけど、手術も終えてこうやって笑えた撮影会やったから、西尾さんがきれいに撮ってくれたから、よかったな」

喜びを西尾さんにもー

茉緒さん
「私は傷がおなかにあるから見えないものやけど、表情にも出てくると思うんですよ。傷ついた心とか苦労した面とか、うまく笑えなかった時期もあるから。本当に自然すぎるぐらいの、いつもの私プラスきれいにしてもらった姿やから」

西尾さん
「写真がどこまで支えになるか、私もこれからどんどんやっていかないといけないなと思ってるんですけど、中村さんとか皆さんが言ってくれる声が力になる」

また来年も写真を撮ってもらいたい。だからそれまで、がんばって生きていこう。茉緒さんと真悟さんは、そう言って笑った。

西尾さん
「写真の力を医療と掛け合わせたい。これから治療に向かう患者さんのポジティブアイテムじゃないですけど、支えになるもの。私と出会って写真を撮るまでのプロセスと、写真を撮ったその日の一日すべてが時間をもらっているので、時間って命なので、その人の人生のなかの一部なので、その一部の経験を宝物にしてほしい。この写真を見たときにその経験を思い出してもらえる。すべてを持って帰ってほしいと思います」

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