
ようやくドイツがウクライナへの供与を認めた最強戦車とも言われるレオパルト2。ロシアに占領された地域を奪還するためにゲームチェンジャーとなり得るのか…供与の時期、そして実戦配備がいつになるのか、3月までにロシア側の大規模攻撃が囁かれる中、2月にも新兵器“ドローン戦闘車”を導入するという動きも見えてきている。戦車供与で一段階上がったように見える西側とロシアの関係とウクライナの戦況は今後どうなるか読み解いた。
【写真を見る】ゲームチェンジャー“レオパルト2”供与の時期とロシアの新兵器ロシアの大攻撃に間に合うのか【報道1930】
“戦車コンテスト”で3年連続優勝 レオパルト2の実力
2018年、ドイツである競技会が催された。その名も『ストロング・ヨーロッパ・タンク・チャレンジ』 NATO加盟国など8か国の戦車部隊が、走行性能、操縦技術など様々な分野で競い合うもので、各国主力戦車を持ち込んでいた。イギリスはチャレンジャー2。アメリカはM1エイブラムス。フランス、ルクレール。ドイツをはじめ複数の国がレオパルト2。ちなみにウクライナもT-84で参加している。2016年から始まり、これが3回目だった。元陸上自衛隊で、戦車部隊を率いた経験も持つ松村氏に聞いた。
元陸上自衛隊東北方面総監 松村五郎氏
「もともとロシアがやっていた大会『戦車バイアスロン』からきてるんです。バイアスロンはスキーと射撃ですが、戦車バイアスロンは戦車の機動と射撃。それに対抗する形で西側諸国も始めた。これは戦車の性能だけを競うのではなく、射撃や操縦や乗員の能力を含めて戦車を使いこなす訓練の高さを競技するものです」
この大会で驚くのは、乗員の訓練の高さを見るとはいえ、全3大会中、優勝した戦車はすべてレオパルト2だったこと。優勝国は違っても使用した戦車は同じ。これだけでもレオパルト2の優秀性はわかる。燃料だけ見てもレオパルト2はディーゼルエンジンなのでガソリンよりも燃費がいい。アメリカのM1エイブラムスは性能ではレオパルト2を上回るがガスタービンエンジンなのでジェット燃料を使う。松村氏によれば戦車とともにジェット燃料を積んだタンクローリーのようなものも戦車の後ろに控えて戦わなければならないのだという。アメリカのように補給の心配がない国ならまだいいが、ウクライナに供与するには使い勝手が悪い。すべての面で優れているのはやはりレオパルト2だが、問題はウクライナの兵士が乗り慣れてきた旧ソ連製を改良したT-84 からすぐに乗り換えられるのかだ。
「1日12時間訓練し詰めで休みもなくやって1両動かせるのに1か月」
レオパルト2は、車長、操縦手、砲手、装填手の4人が連携して運用する。それぞれが役割をマスターし、4人が連携するための訓練期間は最短で1か月を要する。
更に、戦車は3,4両が1小隊として機動するため、小隊としての連動訓練に最短1か月。つまり、戦車の供給が決まっても最低2か月は、ウクライナ兵が西側諸国へ行って訓練を受けなければならない。
元陸上自衛隊東北方面総監 松村五郎氏
「端的に言えば自衛隊ならば(乗員訓練に)3か月、(小隊訓練に)3か月の6か月です。それできちんとした訓練が出来るんですが、1日12時間訓練し詰めで休みもなくやれば1両動かせるのに1か月。また小隊で戦術行動が出来るまでに1か月。最短で2か月はどうしてもかかると思います。」
つまり2月にレオパルト2の供給が決まったとしても運用できるのは4月以降だ。プーチン大統領は3月までにドンパスを完全制圧するよう命令を下したとされるが、これを見越しての計算があったのだろうか?
防衛研究所 兵頭慎治 政策研究部長
「あったと思います。来年の3月の大統領選挙を予定通り行うにあたっての準備をプーチン大統領が始めてるっていう報道がロシア国内の主力紙でもある。それから逆算すると、ドンバスの完全制圧っていう戦果を早く上げないと選挙戦えないので、こういう命令出してるんですね。そうなるとレオパルトがいつ何両戦場に投入されてくるのか・・・。ロシア側からすると早く仕掛けないと、レオパルトが300両到着してしまうと、戦況が悪化してしまう可能性があるので、攻勢をかけるタイミングに影響するんじゃないか…」
もしもレオパルト2が300両導入されればウクライナにとって思い通りの大規模な攻勢が可能かもしれない。しかし、ロシアも手をこまねいているわけではない。
プーチン氏への“忠誠心”争いが激化?
ロシアのメッセージアプリ『テレグラム』に、こんな言葉が載った。
「マーカーは自らの火力によって目標範囲内にある敵を優先的に選択することができる。今こそドンバス地方の戦場にマーカーを投入する」
“マーカー”とは…。マーカーは、ロシアが開発したロボット兵器。キャタピラーで走行し、機銃が装備されている。AIのよって自立走行し、敵を認識し攻撃する。いわば飛ばないドローン、“ドローン戦闘車”と呼ばれている。だが、アメリカのシンクタンクCNASのアナリストは言う。
ロシア軍AIロボット工学アナリスト サミュエル・ベテット氏
「結果を出すのはまだ早い。まだ初期のテスト段階。(中略)プーチン氏は何年も前から自国のためのAIの開発について話し、軍のためのAIの開発も語っている。ですからマーカーはプーチン氏が何年も前から言っていたものを実際に作ることができるってロシアの防衛部門が示すためのもの。」
まだまだ実戦での戦闘力を語る段階ではないようだ。松村氏も言う。
元陸上自衛隊東北方面総監 松村五郎氏
「(マーカーは)映像だとスケールが分からないので戦車のようにも見えますけど、実際には3トンくらいの小型のもので、基地内を無人で警備するような役割のものです。」
ここで興味深いのは、ドローン戦闘車ではなく、これを投入するとテレグラムで発信した人物だ。ロゴジン氏といい、現在占領したウクライナ東部2州の特別軍事顧問団のトップにいる人物。かつてはロシアの副首相も務めた。
ロシア軍AIロボット工学アナリスト サミュエル・ベテット氏
「今回の発表を(政府でも軍でもなく)ロゴジン氏が行ったことは、自分が軍事状況を理解し、戦闘環境も理解し、国内のハイテク軍事開発を支援する人物であるというメッセージを送りたいからだ。また、ロシア軍を成功させるために何が必要かを知っている人間として、プーチンの信頼を得ようとしているのだ」
プーチン氏の信頼を得ようと戦争に積極的な“取り巻き”といえば、民間軍事会社『ワグネル』のプリゴジン氏、チェチェン共和国の軍事組織『カディロフツィ』を率いるカディロフ首長だ。
どちらも非正規軍の親玉だが、ここに割って入ろうとするロゴジン氏は正規軍に身を置く。
しかし、ロゴジン氏も、プリコジン氏、カダロフ首長と同じような人物だというのは兵頭氏だ。
防衛研究所 兵頭慎治 政策研究部長
「ロゴジン氏は東部2州の親ロ派勢力を束ねてる。で、マーカーなどを使ってプーチンの至上命題である東部2州の完全制圧に自分がいかに貢献するのかアピールしてる。
東部での戦いで貢献し、プーチン大統領に忠誠心を示しながら政治的に引き立ててもらいたい、という思惑で動いてる方・・。愛国心が強い、強硬派の一人といっていい」
アメリカ戦争研究所のリポートによれば、プーチン氏の心がいつまでたってもバフムトを落とせないプリゴジン氏から急速に離れているという。その空いたプーチン氏の心にロゴジン氏が入るのだろうか?
(BS-TBS 『報道1930』 1月24日放送より)
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