
政府は、新型コロナウイルスの感染症法の位置付けを大型連休明けの5月8日から季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げることを27日、決定した。
コロナ政策の大きな転換点。新型コロナが世界的に流行し、“マスク生活”が日常となって実に3年が経過している。
なぜ大型連休明けの移行となったのか?そして、“マスクなしの生活”にはいつ戻るのか?総理の決断に迫った。
【写真を見る】「G7までにノーマスクを」揺れた官邸 岸田総理決断の裏側
「引き下げられる時が来たんじゃないか」
「総理は、コロナ政策に対しては特に“慎重”だ」
総理周辺は、はっきりと語った。
2021年秋、新型コロナの感染拡大に歯止めがかからず、結果的に総理の座を譲ることとなった菅前総理。岸田総理は、前政権の後手対応を“反面教師”に、総理に就任するやいなや、当時猛威を振るい始めたオミクロン株への対応として、水際措置の強化を打ち出した。
この慎重姿勢は功を奏し、政権としての“成功体験”となった。
あれから約1年後。総理官邸では、新型コロナの分類見直しに向けた議論が本格化していった。
「分類移行について、総理と本格的に考え始めたのは、去年12月です」。官邸幹部はこのように明かす。昨秋からの感染第八波の波は大きく、過去最多の死者数にのぼっている。さらに、12月には、中国での感染が急拡大。水際措置も一層強化することとなった。
ここでも、総理は“慎重さ”を重んじた。
「年末年始の動きの結果を注視する必要がある」
総理は周辺に、感染動向の詳細な分析を指示。厚労省の官僚らは、ほぼ毎日、報告のために官邸を行き来した。減少傾向が顕著となった1月半ば、ようやく周辺にこう言ったという。
「引き下げられる時が来たんじゃないか」
そして、1月20日、「今年春」に5類へ移行することを表明した。
「G7サミットではマスクを外したい」
移行方針は固まったものの、その具体的時期は、すぐには決まらなかった。4月1日や5月1日とする案が上がっていたのだ。特に、年度替わりの4月1日案を推す声が強かったという。
しかし、今回、5月8日と決めたワケ。
「現場にどういった声があるのか、何度も聞き取り、最終的には総理が決めた」
官邸幹部はこのように語ったうえで、3つの理由を挙げた。
1. 自治体や医療機関の準備期間確保
5類への移行にあたり、大きく影響を受けるのは、自治体や医療機関だ。「準備には3か月程度は必要だ」との声が、自治体や医療関係者から相次いでいた。また、「地域によって準備状況に差が出ることも懸念した」という。一律で、長い幅での移行期間をとることとなった。
2. 統一地方選挙と大型連休中の切り替え回避
3月下旬から4月にかけて全国で行われる統一地方選挙。自治体は、選挙準備に人手が取られる。医療体制の整備などを要する新型コロナ対応と選挙との両立は困難だと判断した。加えて、大型連休中の5月1日は、医療機関が休日体制をとっているところも多い。現場への負担軽減のため、残る選択肢は大型連休明けとなった。
3. G7サミットへの強い意識
議論の当初から念頭にあったのは、5月19日からのG7広島サミットの開催だ。岸田総理は周辺に対し、このように度々語っていたという。
「サミットまでにはマスクのない状況を作りたい」
昨年から立て続けに行っている外遊先でのノーマスクの状況も政府の判断を後押しした。
別の官邸幹部も。
「日本が世界基準にしたことをG7サミットで表すのが1番良い」
G7サミットという政治イベントが、官邸幹部や総理周辺らの頭には強くあったのだ。そして、4月中や5月1日に移行した場合、大型連休によって感染が拡大する恐れがあることから、最大限、サミット開催に近い連休明けとすることを決定した。
最終的な総理の決断に、官邸内では、ほとんど異論は出なかったという。
「早くノーマスクにしたい」官邸の思い
こうした中で、注目されるのが、マスクの着用ルールだ。
岸田総理は27日、「屋内外問わず、個人の判断に委ねることを基本とする」との方向を示したうえで、時期やルールについては、検討を続けるとした。「できるだけ早くお示しする」という。
いつ示すのか。ある政府関係者は言う。
「2月にも示したいが、あとは総理の決断次第だ」
マスクの着用は、法的な強制はなく、政府が国民に呼びかけ、推奨してきたことだ。年明けのある日、総理周辺はこのように語っていた。
「早くノーマスクの状況にしたい。今外さなければ、日本だけマスクを外せない国になってしまう。外せる“雰囲気”を作ることは、どうしたらできるだろうか」
緩和に向けた“雰囲気”を醸成したい…。方法を模索する率直な思いが言葉に表れていた。
というのも、政府は、昨年5月、マスク着用ルールを緩和し、屋外では原則マスク不要と呼び掛けた。一方、屋内については、距離を確保し会話がない場合を除いて、原則、着用を推奨している。
しかし、こういった“屋外マスク不要ルール”の中でもなお、常にマスクを着用し続けている人が多いのが、日本の実情なのだ。
岸田総理自身も、周辺に対し、こんな本音を語っている。
「なかなか屋外でも日本人はマスク外さないよな」
世界の状況は… “脱マスク”と“個人判断”の両輪
実際、「日本だけマスクを外していない」のだろうか。
アメリカでは、全ての州でマスクの着用義務が撤廃され、マスクを着用するか「選べる」としている。ただ、感染状況が悪い地域などでは現在もマスクの着用が求められているほか、各人が判断して、交通機関の乗車時のみ着用する人もいるという。
また、欧米で最も厳しいと言われていたドイツも、マスクの着用義務を2月から撤廃することを決めた。
さらに、韓国でも、1月30日から屋内での着用義務を解除する方針がすでに示されている。他方で、医療機関や公共交通機関など、一部施設では引き続き、着用を義務付けるという。
日本で”屋内原則不要”と言えない、その理由は?
このような海外事情の中、日本に目を向けてみると…。
「何をやっても賛否両論。マスクに関しては、正直、専門家の慎重意見がネックだ」
官邸幹部がこのような声を漏らし、頭を悩ませている。
まさに、岸田総理が“屋内マスク原則不要”と示さない理由がここにある。つまり、「専門家の間や世論での慎重論が官邸の想像以上に強かった」のだ。
具体的なマスクの運用について、官邸は、2月にかけて議論を加速し、できるだけ早期に結論を出したい考えだ。
求められる“総理の言葉” 官邸幹部も「しっかり説明した方が良い」
結局のところ、マスクを着用するか否かは、他の感染症などと同様、個人が判断する形になる方針だ。しかし、マスクを外せることを歓迎する声がある一方で、着用を各個人の判断に委ねることで、不安の声も大きいのが実際のところだ。
街で話を聞くと…
「どちらかはっきり示してほしい」
「日本人の特性として周りに合わせてしまうから…様子を見ながらだと思う」
「結局、マスクを持ち歩き、状況や場所に応じて、しばらく使い分けることになってくる」
という声もあがっている。
教育現場、朝の満員電車など公共交通機関、飲食店、商業施設、観光地、病院、スーパーマーケットなど。マスクの着用を求められている今、国が具体的なルールを示さなければ、トラブルも多発しかねない。
岸田総理は27日、「着用が効果的な場面を周知する方向で検討を進める」と述べた。
こういった時こそ、政府がリーダーシップを発揮し、この3年間で蓄積したマスクの効果やデータを示すことで、個人個人が判断できる材料になるのではないだろうか。
総理側近に話を聞くと、笑みを浮かべながら、このように語った。
「総理は本当にいろいろ考えている。ただ、もう少ししっかり自身の言葉で説明をした方が良いよね。政権の命運は、やっぱり“実生活”に直結する政策にかかっているから」
分類を5類に引き下げたからとはいえ、新型コロナの感染拡大に“特効薬”ができたわけではない。高齢化が進む日本において、対策を緩めないことは重要だ。
ノーマスクの“ムード”を待つことなく、総理が“具体的な言葉”で展望を示すことが求められている。マスク対応で今後の舵取りを間違えれば、命取りになりかねない。
TBSテレビ 報道局政治部 官邸サブキャップ
中村由希
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