「普通ではない交際だった」ホストに貢ぎ風俗の“出稼ぎ”も ホストを刺した22歳の女が法廷で語った“カネで繋がる恋愛”

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2023年3月18日 (土) 08:09
「普通ではない交際だった」ホストに貢ぎ風俗の“出稼ぎ”も ホストを刺した22歳の女が法廷で語った“カネで繋がる恋愛”

全裸の交際相手の背中めがけて、右手に持ったナイフを振り下ろしたー。法廷に現れた被告は、22歳の女。一命を取り留めた交際相手は歌舞伎町のホストだった。

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「お金を使った分だけ仲良くなれた」。“ケンカの仲直り”で90万円のブランデー、“誕生日イベント”で150万円のシャンパンタワー。貢いだ金は、実に500〜600万円にのぼった。バイト代では到底足りず、足を踏み入れたのは風俗の仕事。「地方に出稼ぎに行くこともあった」という。ホストにはまり、ナイフを手に取るまで、追い詰められていった女の心境が法廷で明らかになった。

出会いは歌舞伎町「別れたくない」と背中刺す

事件が起きたのは2022年6月。22歳の被告は、交際相手のホスト(当時29)から別れ話を切り出され、「別れたくない」と懇願した。しかし、願いは聞き入れられなかった。その後、同棲していたマンションで、シャワー中の交際相手の後ろからペティナイフで背中を何度も突き刺した、殺人未遂の罪に問われている。被害者は肺に達するほどの深い傷を負った。医師によると「搬送が1時間遅れたら亡くなっていたかもしれない」状態だった。
2023年3月、東京地裁で開かれた裁判員裁判の初公判。52ある傍聴席はすべて埋まり、20代くらいの若者の姿が目立った。

「まちがいありません」。上下リクルートスーツ姿の被告は起訴内容を認め、午後には交際相手の被害者が証言台に立った。

【被害者への証人尋問】
ーー(被告と)出会ったきっかけは?
営業後、彼女が店の外にいて、酔っていたので介抱した。

2020年12月、ホストを始めたばかりの被害者と、専門学校に通っていた被告が東京・新宿歌舞伎町で出会う。初めて会った日にホテルに行き、そのまま肉体関係を持った。当時20歳の被告にとって、これまで「体の関係がない交際はあったが、体の関係がある交際は初めてだった(本人の供述)」という。

150万円のシャンパンタワー「ナンバー2」ホストに

被害者から「指名客もいないので応援してほしい」と言われ、被告は週に2、3回のペースでホストクラブに通うようになった。その後、正式な交際を開始し、同棲を始めたものの「ホストと客」としての関係は続いた。

【被害者への証人尋問】
ーー(被告が注文したもので)高額なものは?
ブランデーですね。1つが30万(円)ちょいと1つが約90(万円)。
ーーなぜブランデーを注文した?
ケンカした流れで店に来て話し合いをして、仲直りの形で入れて頂いた。

新米ホストで、店での売り上げが「ランキング外」だった被害者。被告と付き合って以降「ナンバー2」までのぼりつめた。事件の2週間前には、ホストとして初めての誕生日イベントが開かれた。この日、被告はシャンパンタワーを入れた。

【被害者への証人尋問】
ーー(誕生日の)シャンパンタワーはいくら?
全部で150(万円)ですね。
ーー金を使わせるために、付き合った?
本人にも告げていたけど、当初は営業目的で付き合った
ーー誕生日イベントの直後に別れ話をしたのは「もういいや」となった?
そこまでは…「シャンパンタワーやらなくてもいい」と伝えたが、(被告)本人が「目標にしていたからやりたい」と。

総額500~600万円  メンズエステや“出稼ぎ”も

被告人質問で、被告は、1年半ほどで「総額500〜600万円を店で使った」と証言した。

【被告人質問】
ーー金はどうしていた?
奨学金や仕送りを切り崩したけど足りなくて、メンズエステの仕事をするようになった。
ーーメンズエステとは?
男性にマッサージをして、性的なサービスも伴う仕事です。

風俗の仕事を始めることに抵抗はあったが「キャバクラより稼げるし(被害者が)喜んでくれると思った」という。 

ーー同棲中の生活費は?
基本的に私が全部出していました。
ーー長期間家をあけることは?
地方に出稼ぎに行く時があった。
ーー出稼ぎとは?
1週間、10日ほどデリヘルをしてまとまったお金を稼ぐことです。
ーー出稼ぎは被害者から提案された?
「掛け金を返さないと出禁」「返せないと俺の責任になるから出稼ぎにいけば?」と言われた。一度は断ったが、掛け金を返さないといけなかった。

「掛け金」とは、いわゆる「ツケ」のこと。被告には数十万円の「ツケ」があった。

「ツケ」回収するため、ホストが「風俗店」紹介も

ホストクラブでは「売り掛け(ツケ払い)」が一般的に行われていて、トラブルになることがある。こう警鐘を鳴らすのは、性風俗業界で働く女性を支援するNPO法人「風テラス」の坂爪真吾理事長だ。

風テラス 坂爪真吾 理事長
「ツケでもいいので、客に今すぐお金を払わせて、自分のランキングを上げたい”ホスト”と、手元にお金がない状態でもホストに貢献したい“女性客”、双方の利害が一致している

客から「ツケ」を回収するのは担当ホストの責任で、締め日に回収できない場合はホスト自身が補填や借金をしなければならない。そのため、ホストは客に対し脅しや恋愛感情をちらつかせるなど様々なアプローチをする。風俗店や出稼ぎ先を紹介されることも多いという。

風テラス 坂爪理事長
「同意の上で借りた金は返す必要があるが、金を作る方法までホストの命令に従う必要はない。困ったら一人で抱え込まず、NPOや弁護士などに相談してほしい」

「本気の交際」ではなく「ただの客」にじむ後悔

裁判で証言した父親は「子どもの頃からおとなしいタイプで、まさか風俗店で働くなんて思いもしなかった」と驚きを隠せなかった。被告本人は、こう悔やんだ。

【被告人質問】
ーーいま、被害者に恋愛感情は?
ないです。今までの交際は普通ではなかった。
ーーどこが?
お金をたくさん使って、使った分だけ仲良くなれたところ。
ーー被害者とはどんな関係だった?
私の中では本気の交際だったが、ただのお客さんだったのかなと。
ーー嫌だった風俗の仕事も、被害者から勧められたんですよね?
嫌な部分も多くあったが、仕事を理解してくれるのは~さん(被害者)だけだったので感謝している。

裁判員からは、こんな質問も投げかけられた。

ーー被害者からのプレゼントは?
誕生日やクリスマスに、ぬいぐるみやカバンをもらった。
ーー高額なもの?
1000円ぐらい。
ーー釣り合わないと思わなかった?
全部うれしかったです。

執行猶予付き判決「被害者に利用された面も」

迎えた判決の日。傍聴席で家族が見守る中、懲役3年、執行猶予5年、保護観察付きの有罪判決が言い渡された(求刑6年)。裁判長は「生命に対する重大な危険を生じさせた犯行」と非難した。そのうえで「被告がホストクラブの客となることで被害者に利用されていた側面もある」と言及した。

裁判長
「社会の中で責任を果たしてもらうという判断になりました。ただ、どうしてこういうことになったのか、あなた自身深く考えるにいたってないのではないか」

こう諭した女性裁判長は、51歳。22歳の被告とは親子ほど年が離れている。「あなたを支えてくれる家族のことを考えたら、こういうことにならなかったんじゃないかと思います」と語りかけると、被告は深くうなずいた。

(TBSテレビ社会部 司法記者クラブ 高橋史子)

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