金融不安拡大、クレディ・スイスを支え切れるか【播摩卓士の経済コラム】

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2023年3月18日 (土) 14:09
金融不安拡大、クレディ・スイスを支え切れるか【播摩卓士の経済コラム】

さすがに今回は、もう持ちこたえられないかもしれない。そんな思いが頭をよぎる事態が進行中です。アメリカの中堅銀行の破綻に端を発した金融不安が、欧州に飛び火しました。スイス金融大手のクレディ・スイスの株価が、15日には、一時30%も下落したのです。

米銀行破綻とは全く異なるクレディ・スイス問題

「信用不安が飛び火」と言っても、アメリカの銀行破綻とクレディ・スイスをめぐる不安は、全く性質が異なります。
まず何より、規模と影響のレベルが違います。シリコンバレーバンクなどアメリカで破綻した2行は、全米16位と29位の中堅銀行ですが、クレディ・スイスは、資産規模が100兆円規模の巨大銀行で、国際的な金融規制では、「システム上、重要な国際的金融機関」と位置付けられている銀行です。創業166年の老舗で、富裕層ビジネスに長じ、安全の代名詞である「スイスの銀行」と称されてきました。
見舞われている危機の性質も、異なります。アメリカの破綻銀行が、金利の急速な引き上げの直接的な影響によって、特定顧客層の預金流出や運用債券の損失を招き、いわば「突然死」に至ったのに対して、クレディ・スイスは、長年の経営失敗に対する市場や顧客の不信感がもはや臨界点に達するまでに達したという事態に直面しているのです。

金融不安の「常連」と化していたクレディ・スイス

クレディ・スイスは長年にわたって、金融不安のいわば「常連」として名前が上げられてきました。リスク管理や情報開示などで、ガバナンスやコンプライアンスの欠如を示す不祥事が相次ぎ、2021年はアメリカの投資会社アルケゴスとの取引で6300億円という断トツの大きな損失を出しました。昨年12月期には1兆円もの最終損失を計上する不振ぶりです。ウオールストリートジャーナル紙によれば、昨年1年間で預金が1600億スイスフラン、日本円にして22兆円も流出したと言います。驚くべき数字です。
こうした中、14日に、クレディ・スイスは過去2年の財務報告の内部管理に「重大な弱点があった」と発表しました。さらに翌15日には、昨年、増資に応じ、現在、筆頭株主である、サウジアラビア・ナショナル・バンクが、「これ以上の追加出資を行わない」と明らかにしたのです。これによって、今回の株価急落が引き起こされました。

市場・顧客が疑う「経営の闇」

直前のこの2つの出来事を見るだけでも、クレディ・スイスという金融グループの「闇」が垣間見えます。「財務報告における重大な弱点」とは一体、何なのか、それをどう正すつもりなのか、クレディ・スイスは全く明らかにしていません。
そもそも公式には頼まれてもいないのに、サウジアラビアの銀行が「追加出資には応じない」と表明するのも、実に変な話です。株主や預金者の知らないところで、更なる増資が必要な事態にまで、資本が毀損しているのでしょうか。
もはや市場も預金者も、クレディ・スイスが発表している公式の「健全な数字」を、信頼できなくなっていることが最大の問題です。長年の「経営の闇」への不信感が頂点に達しつつあると言っていいでしょう。

スイス中銀が7兆円の流動性供給

こうした深刻な事態を受けて、スイス中央銀行はクレディ・スイスに対し、最大で500億スイスフラン、日本円で7兆1000億円もの流動性供給を行うことを決めました。これを受けて、ひとまず、市場の不安心理は落ち着きを取り戻した格好です。
しかし、これで問題が解決したと考える人は誰もいません。市場や預金者の不信はクレディ・スイスという金融グループの健全性に向けられており、必要なのは資本の強化です。しかし、サウジアラビアの銀行に代表されるように今、増資の引受先を見つけるのは至難の業です。
クレディ・スイスの大口預金者は、中東のオイルマネーを筆頭に、北米やアジアの富裕層です。こうした大口顧客が本気で預金を引き出して他の金融機関に預け替えを始めたら、7兆円の資金供給だけで足りるのでしょうか。
金融機関の破綻劇では、よく「大きすぎて潰せない」と言われます。それは、1つの真実です。クレディ・スイスが倒れれば、甚大な被害と影響が出ます。スイス当局も、市場も誰もそんなことは望んでいません。しかし、「大きすぎて救えない」というのも、1つの真実かもしれません。

スイスという国の特別な立ち位置

要は、スイスという比較的小さな国が、世界中から富を集め、巨額の預かり資産を持つ「スイスの銀行」を金融危機時に支え切ることができるのか、という問題です。しかも、スイスは、ユーロを使用するヨーロッパ共通通貨システムに参加していないどころか、EUにすら加盟していません。何かあった際に、欧州中央銀行(ECB)が直接支援する枠組みすらないのです。
スイス当局は今回の7兆円の流動性供給のように、当面、市場の緊張を懐柔しながら、クレディ・スイスの事業規模縮小や同業他社との統合などを通じで、何とか軟着陸を図りたいと考えていることでしょう。それが望ましいシナリオであることは言うまでもありません。しかし、それは同時に、時間との闘いのようにも思えます。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)

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