今月13日からマスクの着用が個人の判断に委ねられた。そして、コロナは5月にインフルエンザと同じ5類になる。今後、私たちはこのウイルスとどう向き合うべきなのか。日米の医師を取材した。
【写真を見る】「同時に使えない薬が多数」コロナ対策の“カギ”「パキロビッド」が日本であまり使われない理由【報道特集】
「日本人の基準は厳しい」多臓器移植手術の世界的医師が見た“日本の新型コロナ対策”
ニューヨークのコロンビア大学附属病院の加藤友朗医師。
多臓器移植手術の世界的エキスパートだ。
15年前、7歳の少女から取り出した6つの臓器から、全ての腫瘍を取り除き、体内に戻す手術に、世界で初めて成功した。
2020年3月、新型コロナに感染。重篤な状態に陥ったが、ECMOを装着して奇跡的に生還した経験がある。
コロンビア大学附属病院 加藤友朗 医師
「目覚めてすぐは寝返りもできなかった。寝返りができないぐらい体力がなくなり、筋力がなくなることは本当に大変なことだと、自ら経験してわかった。
8月から(退院から約3か月後)テーピングをしながら手術に復帰して、最初は軽い手術だけをやっていた。12月には完全に復帰していた」
加藤医師がコロナを発症した、ちょうどそのころ。セントラルパークなどに仮設病棟が次々と設置された。アメリカのコロナ政策を評価する声もあったが…
コロンビア大学附属病院 加藤友朗 医師
「これは皆さん誤解しているのですが、アメリカは日本の基準で考えたら 完全に医療崩壊していた。普通の外来手術は全部止まったし、救急で搬入できる患者もほとんどコロナでとられた。
トータル700床ぐらいの病院で、400床を(仮設の)ICUにしていて、全ての人工呼吸器を病院中から集めて、州の北の方は感染がなかったので、 そこから持ってきて。動物実験で使っている人工呼吸器すら使われていた。それでギリギリなんとか間に合わせた。
日本でこれが起こったらみんな(医療)崩壊だと思う。そういう意味でいうと、基準が日本の人たちは厳しい」
日本のコロナ対策 どう評価?
アメリカと比較すると、日本の感染者数の増え方は緩やかだった。
2月のJNNの世論調査では、日本のコロナ政策を評価すると答えた人は6割に達した。(評価する61% 評価しない27%)
こうした評価の背景には“ある仕組み”がワクチン接種率を引き上げたことにあると指摘する。
コロンビア大学附属病院 加藤友朗 医師
「日本らしからぬフレキシビリティだった」
ーー何を?
コロンビア大学附属病院 加藤友朗 医師
「職場接種をやったでしょ。そういう形で対応させたっていうのはあんまり前例がないんじゃないか。あれでかなり加速した感があった」
今後、コロナ対策のカギを握るのは治療薬だと話す。
アメリカではある治療薬が2021年12月から使われ始め、すでに約914万人に使用されている。
ファイザー社製の「パキロビッド」だ。
コロナ対策の“カギ”「パキロビッド」が日本であまり使われない理由
コロンビア大学附属病院 加藤友朗 医師
「移植の患者は免疫抑制状態ですから、重症化の可能性が高い。コロナだとわかった時点で、すぐにパキロビッドを飲むということはやっています。65歳以上であれば、陽性だった段階でパキロビッドを飲むということを当たり前のようにやっている。それから考えると日本ではかなり少ない」
日本では2022年2月に特例承認されたが、2月28日時点で使用した患者は約10万人に留まっている。
コロンビア大学附属病院 加藤友朗 医師
「特にこれからマスクをやめるとか、5類移行するときにかなり安全な材料となる。すごく不安になってるのは、コロナで有効な薬もないのに、ガードを下げて広がったときに、たくさんの人が亡くなるのではと。その辺がかなり懸念点としてまだ残ってると思う。有効な薬があるということがわかると、安心していろんなことができると思う。パキロビッドはそれを確保できる薬だと思う」
なぜ日本では、あまり使われていないのか…。
2020年、千葉大学病院。ヘリコプターから運び出されるのは、50代の新型コロナの重症患者。
この病院ではコロナ専用のフロアを2つつくり、これまで1000人以上の患者を受け入れてきた。コロナの流行が始まって3年たった今。
ーー病室の使用状況は?
阪田史子 師長「ゼロです」
2つあった専用のフロアを1つにし、最大56床あった病床を5床に縮小した。
この5床についてもコロナがインフルエンザと同じ5類に移行する5月には撤廃を視野に検討している。
千葉大学病院でも外来患者にパキロビッドが処方されている。しかし、わずか9例に留まっているという。
千葉大学病院 坂尾誠一郎 医師
「このお薬は特例承認という形で、全例登録が必要なうえ、文書による同意も患者さんから取る必要がある」
パキロビッドは2022年2月、特例承認という簡略化された手続きで承認されたため、同意書のほか、投与期間中は医師による健康確認が必要となる。
厚労省が200万人分を確保し、医療機関や薬局に無償で譲渡されている。千葉大学病院では5人分までという在庫制限がある。
今後はその値段も課題となる。
3月に決まったパキロビッドの価格は、5日分で約9万9000円。
政府は5類移行後も当面は公費負担を続け、患者の窓口負担を無料とするとしている。だがこの特例措置がなくなった場合、患者が一部負担することになる。
そして、最も大きな問題が同時に使えない薬が細かく定められているため、それを確認し、処方するまで時間がかかることだ。
千葉大学病院 坂尾誠一郎 医師
「千葉大学病院では患者に薬が外来で届くのに、2時間から3時間ぐらいかかってしまう」
大学病院ですら、大変だという飲み合わせの確認作業をどうしていくかがカギだという。
千葉大学病院 坂尾誠一郎 医師
「忙しい発熱外来のクリニックの先生が、例えば初めて来た患者に、薬を全部チェックして、それで飲み合わせが大丈夫か、安全性を確認するだけの、時間がなかなか取れない。
間に入ってくれる薬剤師とかが、一般のクリニックの診療においても、手助けができるような体制になる。あるいは薬の名前を全部入れたら、大丈夫だというようなオンラインシステムができれば、もっと普及するのではないか」
日本とアメリカで薬の普及に大きな差ができる理由の1つが薬剤師の存在だ。アメリカでは薬剤師も薬を処方でき、2022年7月からパキロビッドが選択肢の1つに加わった。
「同時に使えない薬が多数」新型コロナ治療薬「パキロビッド」の課題とは?
ーーパキロビッドについて日本では飲み合わせが大変で忌避されていますが?
コロンビア大学附属病院 加藤友朗 医師
「アメリカでも一緒で、他の薬との飲み合わせが大変。結局どちらが重要かで、その他の薬の方をやめても良い。やめることができない薬の場合はダメだが、やめることによって問題のない薬をやめる。副作用の大きな問題がないのであれば逆に使ってしまうということですね」
アメリカから日本のコロナ政策を見てきた加藤医師。時に、同調圧力となりがちな意識の持ち方を変えるべきだという。
コロンビア大学附属病院 加藤友朗 医師
「医療従事者がストイックな生活を続けなきゃいけないことを強要していく社会というのは、もうこれを契機に完全にやめないといけない。
やめると同時にもう1回、今まで3年間を振り返って、医療従事者の本当に大変さと労をねぎらうということをもう1回できると良い」
日本では、感染対策を担ってきた専門家を批判する声も上がった。
コロンビア大学附属病院 加藤友朗 医師
「責任者を糾弾するというのがあって。これを止めないとコロナのクラスターに関しては。責任者が出てきて謝るというのはもうやめた方が良い。インフルエンザで集団感染があったときにいちいち誰かが責任を取って、記者会見して謝るってことはなかった」
そして、今後のコロナとの向き合い方についてこう話した。
コロンビア大学附属病院 加藤友朗 医師
「自粛風潮があるがどこかでみんなが変えていかないと。こういうこと言うと、コロナを甘く見すぎって言われる人もいるんですけど。どこかで変えないと。
重症感染を経験しているし、コロナの怖いことはよくわかっている。コロナがもう違う病気になってるというのは間違いない。そこをどこまで変えていくか」
新型コロナは5月からインフルエンザと同じ5類になり、感染しても強制隔離されることはなくなる。
大阪大学医学部・忽那賢志教授に聞いた。
大阪大学医学部 忽那賢志 教授
「一番懸念されるのは多くの自治体では、入院調整というのを、自治体が保健所とか県とかが中心になってやっていたのだが、それがなくなるあるいは縮小することで、患者がどこに入院するかとか、そういう調整がうまくいかなくなるということが懸念される。しっかりと準備をしておく必要がある」
医療体制も大きく変わることが予想されるという。
大阪大学医学部 忽那賢志 教授
「今までは確保病床、あなたの病院は、これだけ病床数診てくださいとか、
その代わり空床補償があったりとか、診療報酬がついたりとかしたのですが、そういうものが縮小するので、コロナの病床を診ないという病院が出てくる可能性がある。
そういった混乱をなるべく避けるためには、自治体と病院が事前に調整をしておく必要があると思います」
今後、コロナの感染状況を占ううえで、良い材料もあるという。
大阪大学医学部 忽那賢志 教授
「最近の調査だと、2人に1人ぐらいはもうコロナに感染しているということも、抗体の検査からわかってた。今後、長期的には流行の規模としては小さくなっていけば良いと思っているが、変異株の状況によっては、オミクロンに感染したことがある人でも、次の変異株には感染することが考えられるので、なかなか予想が難しい。
また今後感染者が増えてくると、基本的な感染対策をやってもらう。流行状況によって気をつけてもらいたい」
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