
「2人を産んで2人と過ごした時間は幸せだった。 最高に幸せな時間をありがとうと言いたいです。 今もかわらず宝物だし、大好きだよって伝えたいです」
【写真を見る】「エアコンつけていれば大丈夫」2人の幼い子どもを車内に置き去りし、死亡させた母親の裁判で見えた“未熟さ”と地域からの“孤立”
顔を真っ赤にして、涙ながらに子ども2人へ愛を語った母親。しかし、この言葉は法廷で語られ、母親は被告人だった。
長沢麗奈被告(22)は去年7月、当時2歳の長女、姫梛(ひな)ちゃんと1歳の長男、煌翔(こうが)ちゃんを車内に置き去りにして熱中症で死亡させた罪に問われ、3月に行われた裁判で懲役3年半の実刑判決を受けた。
裁判で明らかになったのは家族以外に頼ることができない地域からの孤立と、被告人の未熟さだった。
ウソで塗り固められた119番通報
事件発覚のきっかけは、長沢被告本人からの119番通報だった。神奈川県厚木市の公園から通報した際の音声が、法廷で流された。
消防「どうしたんですか」
長沢被告「目開いてて、1人が目開いてる。車の中にいて、 車の中暑くなって…車の中にいた一緒に」
消防「誰が、どうしたかちゃんと教えて」
長沢被告「私のこども2人 息してないの。一緒にいて…」
消防「2人とも呼吸してないのかな?」
長沢被告「ない!」
消防「車の中に放置したの?」
長沢被告「放置してない、一緒にいたのに静かだなと思って」
長沢被告「ひなー、こうがー頑張れー。頑張れひなー、頑張れこうがーおいでー」
何度も何度も、名前を呼びながら心臓マッサージをする音声を聞き、長沢被告は涙を流しながら聞いていた。「車の中に一緒にいた」 しかし、この説明は真っ赤な嘘だった。
「いつも大丈夫だったからその日も大丈夫と思っちゃった」子ども2人の死亡に繋がった真相
実際には何が起きていたのか。裁判を通して詳細が明らかになった。
「ちょっとだけ待っててね」。事件が起きた去年7月29日午後2時頃。長沢被告はそう言って、幼い2人を交際相手の自宅駐車場に停めた車の中に置き去りにした。エアコンは「最低温度・最大風量」に設定したが、日光を遮るものはなく、気温は30度を超える真夏日だった。交際相手宅で過ごした約2時間44分。子どものことが気になった時もあったと話したが1度も子どもたちの様子を確認しなかった。
さらに、この事件の前にも7月だけで、7~8回置き去りにしていたことも判明した。
「いつも大丈夫だったから その日も大丈夫と思っちゃったからです」
「ちょっとなら大丈夫だと思っていた」
長沢被告は置き去りにした理由について繰り返しこう述べた。しかし、当初は15分ほど経ったときに「帰るね」と告げたそうだ。その時のやりとりを本人が明かした。
長沢被告「帰るね」
交際相手「もう帰るの?」
長沢被告「うん帰る」
すると、交際相手から手首を引っ張られ引き寄せられた。
前日にけんかしていたこともあり、「もう少し一緒にいたい」と思い「帰らない」と言ってしまい、その後眠ってしまうのだ。
嘘の説明の理由は「ママに捨てられると思った」「放置していないと思いたかった」
「姫梛と煌翔がやばい!」被告は目を覚ましたときこう思い、急いで交際相手宅を出た。車に向かうと、変わり果てた2人の姿を目にした。姫梛ちゃんは口から泡を吹いていて、煌翔ちゃんは仰向けで意識がない状態。長沢被告はパニックになり母親に電話をしたという。
弁護人「どうして母親に電話をしたのですか」
長沢被告「なにかあれば、母に電話する癖があったからです」
弁護人「なんと伝えましたか」
長沢被告「ぼうさいの丘公園(交際相手の家の近くの公園)にいて、2人がぐでんとなっていると伝えました」
弁護人「どうして嘘をついたのですか」
長沢被告「ママに捨てられると思ったからです」
涙をこぼしながら語った長沢被告。子ども2人を置き去りにしたと正直に話せば、いくら自分の母親でも捨てられると思い、咄嗟に嘘をついたという。消防や警察に事情を聴かれた時にも同じ説明をしたが、その理由は「放置していないと思いたかった」と語った。
年子を愛情を持って育てる一方で、地域からは孤立している現実
裁判では長沢被告の両親が証言台に立った。証言からは長沢被告が愛情を持って子育てをする一方で、母親以外に頼る人がいない地域からの孤立が明らかになった。
母親「市販のものはおいしそうに見えないからといい、一生懸命手作りをしていました」「つらいと言わず、楽しんで子育てをしていました」
長沢被告のスマートフォンには子どもたちの写真が5000枚、動画が百何十本も保存されていたという。しかし、母親はある後悔を口にした。
母親「麗奈を責めるよりも、自分を責めたことのほうが多かった。麗奈には私しかいなかったです」
こう述べて、自分以外にも長沢被告が頼れる人を探しておくべきだったと自らを責めた。
長沢被告は19歳で1人目の姫梛ちゃんを出産、翌年には煌翔ちゃんが産まれ、若い母親ながらも懸命に子育てをしていたという。しかし、夫は育児にほとんど参加せず、その後離婚。シングルマザーとして年子の2人を育てることになった。長沢被告にママ友はいたものの、仕事もあり、気軽に相談できる仲ではなかった。「地域の目」がないという、昔とは異なる子育て環境によって孤立し、例えば子どもを短い時間預けたくても、簡単に助けを求めることができなかったのだ。
「エアコンをつけないことが虐待」誤った理解が生まれた、事件3週間前の出来事
悲劇の背景にはもう1つ、長沢被告の虐待に関する「誤った理解」があった。それは事件の3週間前のことだった。
去年7月8日。長沢被告は子ども2人と100円ショップに行った際に、窓を1~2センチ開けた車内に煌翔ちゃんを置き去りにして買い物をした。通行人が気づき通報、警察・消防まで駆けつける事態にまで発展した。警察からは「何してるの!あなた母親としての自覚ある?」と怒鳴られたそうだ。さらに、児童相談所の職員もかけつけ注意された。
弁護側「児童相談所の職員に何を言われましたか」
長沢被告「注意しました私に。『車に子どもを置くのは危ない』と言われました」
弁護側「どうなるから危ないと」
長沢被告「熱中症になるから」
弁護側「注意をどういうことと、理解しましたか」
長沢被告「エンジンを切って、エアコンをつけずに置いていくのは虐待になると思った」
弁護側「エアコンをつけずに、子どもを置いていくのが悪いこと、という理解ですか」
長沢被告「はい、そうです」
「車内に置き去りにすることは悪いことではない」あくまでも、「エアコンをつけていなかったことが悪いこと」だと理解してしまった。実はその日に「たった5分でも放置はしない」と母親と約束するのだが、その後も放置は常態化していた。そこにあったのもやはり、「エアコンをつけていなかったことが悪いこと」という考えだった。
そして、事件が起きた日もエアコンはかけたというが、実際は長沢被告が思うほどエアコンは効いていなかった。
事件の原因は被告の「未熟さ」「危機意識の薄さ」
迎えた判決の日、長沢被告は髪を後ろで一つに縛りクリーム色のスウェット、
黒のズボンで出廷した。
刑そのものの言い渡しは後回しにされ、判決理由が先に長沢被告に伝えられた。
その中で、長沢被告が「かけた」と主張した車のエアコンが思ったほど効いていなかった原因については、「不明」とされた。放置されていた2人のもとに戻った後の「嘘の通報」については、救護活動をしていることから、「最善を尽くしたというべきである」として「結果として、救護活動に遅れが生じたと見るべき点はない」とした。
また、「典型的な虐待事案とは明らかに類型を異にし、量刑判断に当たってもそれらとは一線を画すべきである」として暴力を日常的に加える一般的な虐待事件と今回の事件は異なると結論づけた。
そして事件の原因についてはこのように表している。
「無知さや若さ、未熟さ、不勉強などによる危機意識の薄さにある」
判決を聞きながらときおり「はい」と返事をする長沢被告。途中からは涙を流しスウェットの袖で何度も顔をぬぐった。懲役が言い渡された時には袖だけではぬぐいきれないほど涙があふれ出たのか、白いハンカチで涙をぬぐいながら、「はい」と言葉を返した。
判決を言い渡したあと、裁判長はまるで子をしかる親のように被告自身の未熟さを説いた。
裁判長「あなた、ものを知らない、考えが足りない。大人としても未熟です。それが悲しい出来事を生んだ、猛省を求めないといけない」
そして最後に、こう言葉をかけた。
「罪を償って勉強してきて欲しい。いい大人になってもらいたいと強く念じております」
裁判を通して見えてきたのは愛情を持って子どもを育てながら、親以外に頼る人がおらず、2人の幼い子を育てるという、大人としての責任を負うにはあまりに「未熟」な若い母親の姿だった。
「今もかわらず宝物だし大好きだよと伝えたい」と話した長沢被告の言葉を、2人が聞くことはもうない。
(TBSテレビ社会部 井上淳司 山崎康平)
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