春闘 大手の満額回答続く一方で雇用の7割を占める中小企業は?【Bizスクエア】

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2023年3月21日 (火) 18:53
春闘 大手の満額回答続く一方で雇用の7割を占める中小企業は?【Bizスクエア】

3月15日に集中回答日を迎えた今年の春闘。大企業では歴史的な賃上げが相次いだ。今後は雇用の7割を占める中小企業にも賃上げが波及するのかが焦点だ。

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大手は歴史的賃上げも中小企業を悩ませる価格転嫁問題

東京・目黒区にある機械部品の製造を手掛ける富士精器は、4月から17人いる従業員の賃上げを決めた。

富士精器 藤野雅之社長:
この4月昇給は3%から4%を考えています。自分がやったらやった分、技量が上がったら上がった分の給料で、もっと難しい5軸の機械ができるようになったらもっと上がっていくと。それによって自分たちの人生設計、いずれ結婚して子供を産んで家を買ってとか、そういうものが見えないとなかなか魅力的な会社になっていかない。

ベースアップ1%を含む3~4%の賃上げだ。人手不足の中、待遇を改善することで優秀な人材を確保する狙いだ。従業員は「毎年上げてくれるので安心して仕事に取り組むことができます」、「自分が頑張った分だけ会社の方で評価してくれて給料を上げてもらえるので、非常に頑張りがいがある」と話す。ただ不安材料もある。2022年は電気代が21年の2倍まで上がり、経営を圧迫する要因になっていた。

富士精器 藤野雅之社長:
人件費と同じ分ぐらいが電気代で消えているという状況ではあります。そこで賃上げをしようというところですから、非常に苦しい。だいぶ物価が上がっているので、多少の賃上げではなかなか追いつかないと思うのですが、内部留保を減らしてでも皆さんに還元していかなければいけないなと思っています。

中小企業が厳しい決断を迫られる中で迎えた3月15日の春闘の集中回答日。日立製作所は25年間で最高となる月7000円のベースアップを満額回答。また三菱重工業は49年ぶりの満額回答で月14,000円のベースアップを決定するなど、幅広い業界の多くの大企業が満額回答で歴史的な賃上げを決めた。中でも大幅な賃上げを発表したのが餃子の王将を運営する王将フードサービスだ。6月から正社員の給与を平均で月額22,000円、平均7%の賃上げを実施するとしている。番組の取材に対し王将側は「物価高騰の中、従業員の生活向上を図ることは当社にとって最も重要であるとともに必要な投資」とコメントしている。

大手の満額回答ラッシュの中、政府は経済界、労働界の代表らとの政労使会議を8年ぶりに開催した。

経団連 十倉雅和会長:
この賃上げが是非消費に結びつくように。将来若い世代が安心できるような環境醸成をぜひ政府民間一緒になってやっていこうということを呼びかけました。

連合 芳野友子会長:
今の段階ではかなり状況はいい方向に向かっているのですが、賃上げというのは今年で終わるものではありませんので、来年以降も継続した賃上げが必要だと。

会議では中小企業の価格転嫁がしやすい環境づくりを進めることで合意した。中小企業にとって価格転嫁が進まず賃上げの原資を捻出できないことが大きなハードルになっているのだ。

茨城県水戸市にある食品などの配送を手掛ける茨城乳配の吉川国之社長を悩ませているのは価格転嫁の問題だ。

茨城乳配 吉川国之社長:
燃料代、オイル代、タイヤ代、化石燃料に起因するものは全部上がっているので、実際油が上がったこともお客さんに100%転嫁できていません。

顧客である荷主も運賃の値上げに理解を示すようになってきたというが。

茨城乳配 吉川国之社長:
中小の物流業界ですと、利益率は2~5%確保できたら御の字という業界です。それを確保するためにどこの会社も切り詰めてやっています。さらにそこから今回人件費を上げるための原資をひねり出そうとすると、どこから出したらいいのかというのが正直なところで。

従業員280人分の賃上げの原資は年間3000万円に上ると見ているが、それでも実施しなければならない理由もある。

茨城乳配 吉川国之社長:
物流業界は2024年問題を控えていて、労働時間を短くしなければいけないという喫緊の課題があります。

物流業界では2024年4月からトラックドライバーの時間外労働などの規制が強化される。ドライバーの拘束時間は年間200時間ほど短くなるという。

茨城乳配 吉川国之社長:
時間が短くなると給料は減るわけです。残業時間が減るので。休みが増えても今の水準の給料を維持することは必要なので、賃上げはどうしても避けては通れないと考えています。トラックを動かそうとすると人1人必ず必要で労働集約型の業界です。人ありきとなるので、社員の生活水準を守るというのが優先で、どちらかと言うと会社の利益はあとという考え方をしていかざるを得ないだろうと。

中小企業の約6割が賃上げ予定。好循環へのカギは来年以降の継続

歴史的な春闘となった集中回答の内容から見てみよう。15日に集中回答日を迎えた今年の春闘は軒並み満額回答が並んでいる。製造業の主要企業では全体の86%が満額回答ということだ。

――86%が満額回答という結果をどう見るか。

第一生命経済研究所 首席エコノミスト 熊野英生氏:
自動車、電気、全ての企業が満額。機械は全部ではないのですが、個別に見ると要求を上回る妥結額、経営者側が上積みしたというケースも3、4社あります。これは驚きです。

連合による第1回集計によると、回答を引き出した805組合の賃上げ率は平均で3.80%。中小企業の平均は3.45%といずれも前年同期比を大きく上回った。

――賃上げ率は3.89%の93年以来、30年ぶりという高い数字だ。

第一生命経済研究所 熊野英生氏:
岸田首相が1月5日に「物価を上回る賃上げをお願いします」と言ったので、それに呼応して大手企業が上げたと。大手企業も一社上げると、他社に続かないと見劣りするということでみんな一斉に上げた結果が3.8%になったのです。

――3.80%の内訳を分解すると、ベアが2.33もある。足元の物価上昇3~4%というにはベアだけでは足りないが、それでもかなり頑張ってベアを上げた。中小も今のところ健闘しているということか。

第一生命経済研究所 熊野英生氏:
本当にたくさんの中小があるのですが、大企業が賃上げすると人件費の中の1/4、25%は賃上げすることになるので、その人たちがお金を使ってくれると中小の売上、収益が増えるので中小に波及する。今年だけではなく来年、再来年そういう循環が強まるかどうかが勝負だと思います。

注目される中小企業の賃上げだが、アンケートを見てみよう。全国3308社のうち58.2%の企業が「賃上げする予定」と回答した。その58.2%の内訳を見ていくと、賃上げ率3%以上が全体の3分の1を占め、2%台が25.1%。合わせると58.6%が2%以上の賃上げを予定していると答えた。

――中小企業へも賃上げを波及させていくためには、大手企業が価格転嫁を受け入れる、取引価格を上げていくことが欠かせない。

第一生命経済研究所 熊野英生氏:
そうですね。ただ現場は難しくて、なかなか自動車メーカーとか価格転嫁を許してくれないのです。だから地道な努力が今年だけなくて来年、再来年も続かなければいけないでしょう。

――物価が上がることによって賃上げの気運がこれだけ高まり、実際に名目賃金が上がった。これをなんとか動かしていきたいところだ。

第一生命経済研究所 熊野英生氏:
今回は政府と大企業の経営者が動いたということですが、これをメカニズムとして大企業の賃上げを受けた人たちがお金をどんどん使うかどうかにかかっているのだと思います。

――なぜ今年こんなに賃上げが実現したのだろうか。去年までは全然実現しなかった。これはムードということか。

第一生命経済研究所 熊野英生氏:
やればできるじゃないかということだと思います。

――日本企業は結局のところ周りを見てみんながやっていればやるが、みんながやっていなければやらない。賃金決定のメカニズムですらそういう行動を何十年も続けているということなのではないか。

第一生命経済研究所 熊野英生氏:
デフレ構造がそうで、みんなが使わないから使わない、誰かが使うから自分も使う。そういう意味ではオセロゲームのように黒が白に戻りつつある可能性があります。

――今年急に利益が倍になったわけではない。やればできたのではないかという気持ちになってしまう。

第一生命経済研究所 熊野英生氏:
これをどんどん続けていくことは大切です。

春闘はまだ続いている。賃上げがどこまで広がりを見せるか注目していきたい。

(BS-TBS『Bizスクエア』 3月18日放送より)

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