
FRBの急速な利上げによる影響でアメリカの銀行が相次いで破綻し、金融不安が世界に広がっている。
【写真を見る】米銀行破たん相次ぐ 金融政策や世界への影響は?【Bizスクエア】
銀行破たんの背景に利上げの副作用。米政府はすべての預金保護を発表
資産規模が全米で16位のシリコンバレーバンクが破綻を発表した。さらに3月12日にはシグネチャーバンクが経営破綻を発表。相次ぐ銀行破綻により世界の株式市場は大きく揺れた。
ダウ平均株価は乱高下が続き、17日の終値は3万1,861ドルまで下落した。
この流れを受け、日経平均株価は株安が止まらず、16日には一時27,000円を割り込んだ。鈴木俊一金融担当大臣は「内外の経済金融市場の動向や、それが金融システムの安定性に与える影響等について、強い警戒心を持って注視していきたい」と話した。
アメリカ政府は12日、共同声明で全ての預金を保護すると発表した。さらにJPモルガン・チェースなどアメリカの11の金融機関は、経営不安が指摘されていたファースト・リパブリック・バンクに対し、合わせて約4兆円の資金を預け入れる支援策を発表した。
世界の株価を牽引してきたテック企業と融資元である金融機関が置かれた状況はどうなっていたのだろうか。シリコンバレーで2011年から世界中のスタートアップ企業に投資をしているペガサス・テック・ベンチャーズのアニス・ウッザマンCEOは投資環境の変化について次のように話す。
ペガサス・テック・ベンチャーズ アニス・ウッザマンCEO:
2021年にはベンチャーたちがお金を持っていて、今までの歴史で最高の上場が起きました。お金が溢れていてシリコンバレーバンクから借りる人は誰もいませんでした。人にお金を貸して利子で生きてきた銀行でもあるので、その時から仕方なく国債に投資したのです。
預金が増えても貸し出すところがないので、アメリカの国債や住宅ローン担保証券で運用していた。
2021年には巨額の資金がベンチャー企業に集まっていたが、22年になって金利高でベンチャーを巡る環境が悪くなると、預金を取り崩すようになった。そうすると銀行は運用していたお金を取り崩さなければいけいということで、結局損を承知で売らなければいけなくなり、損失が確定して破綻してしまった。ベンチャー企業にとってシリコンバレーバンクの破綻の影響は大きいという。
ペガサス・テック・ベンチャーズ アニス・ウッザマンCEO:
シリコンバレーバンクはアメリカのベンチャー企業の半分ぐらいと何らかのやり取りを持っていた銀行です。ベンチャーとエコシステムの中に必要な全てのものを揃えていた銀行なので、今回の件は業界にとって大きな打撃になりました。
銀行破綻のきっかけとなった利上げについては。
――金利の引き上げの影響はどれくらいのウエイトを占めていると思うか。
ペガサス・テック・ベンチャーズ アニス・ウッザマンCEO:
ひどいですね。FRBが挙げている理由はインフレをうまく避けたいからです。100ドルに5ドル6ドルの利子がつくと、ベンチャーキャピタルに誰も投資したくないのです。アメリカの経済を大きくさせてきたのはイノベーションです。イノベーションの鍵はスタートアップなのです。スタートアップで成功するために必要な資金がないから、成長も大きく揺れると思います。全体的にアメリカの経済、グローバル経済にも影響が大きいのではないかと考えます。
金融当局者や市場が警戒を強める中、不安の波が広がっている。金融不安の火種はどこにあるのか。ニューヨークに本拠を置くヘッジファンド、ホリコ・キャピタル・マネジメントの堀古英司氏に聞いた。
――激動の1週間だったが、いまはどのような状況か。
ホリコ・キャピタル・マネジメント 堀古英司氏:
当局が乗り出して一旦乗り越えた感じですが、人々の中には2008年の金融危機のトラウマというか、非常に心に傷が残っています。人々は2008年を思い起こして金融システム全体に信用不安が広がっているので、預金を引き出したり取引をやめたりという行動に出て、その行動自体が不安を増幅させているという段階だと思います。
――これまではインフレがどうなるのか、それによって金利がどこまで上がるのかということだけを見ていたが、金融不安が出てきたことで局面が変わってきた。
ホリコ・キャピタル・マネジメント 堀古英司氏:
そうだと思います。先々週ぐらいから一気にムードが変わって、今回銀行の破綻がきっかけになりましたが、信用不安が広がったことによって金融環境は金利を上げなくても引き締まってしまった状態になっていますので、利上げはもうそれほど必要なくなってきている状態だと思います。
――景気悪化懸念は感じているか。
ホリコ・キャピタル・マネジメント 堀古英司氏:
以前と比べて金利上昇に対する人々の免疫は非常にできてきています。これは2008年の金融危機の経験からでもあるのですが、例えば当時、住宅ローンは変動金利で借りている人がたくさんいましたが、今はほとんど固定で借りていますし、全体的に借金も非常に少なく、逆にコロナ後の財政政策や失業手当などの一時金で個人の懐は非常に豊かです。アメリカは個人消費が7割を占めているので、個人の懐が豊かな分、これまでの金融引き締め局面よりも景気が落ち込みにくい状態だと思います。
――これから注目のFRBの決定会合があるが、今度の利上げ幅は様々な見方が錯綜している。
ホリコ・キャピタル・マネジメント 堀古英司氏:
0.25%は引き上げると思いますが、これまでと全然違って、今回で終わりというのを匂わせるのではないかと思っています。もし、この辺で本当に利上げが打ち止めになるのなら、銀行セクター、金融セクターは別にして他の株式にとっては大きなサポート材料になるのではないかなと思っています。
破たん銀行の取引先はスタートアップ企業と暗号資産関連。次のターゲットを11銀行が支援
アメリカの金融不安というのはどういうものだったのか。破綻した2つの銀行を見ていこう。シリコンバレーバンクは資産規模2090億ドルで全米16位、主要取引先はスタートアップ企業となっている。シグネチャーバンクは資産規模1104億ドル、主要取引先は暗号資産関連企業となっている。
――アメリカが金利を引き上げる局面では必ずどこかで危機が起きると言われていた。その危機が本家本元のアメリカの銀行で起こった。
第一生命経済研究所 首席エコノミスト 熊野英生氏:
アメリカのお膝元で火が吹いたということですが、シリコンバレーバンクはカリフォルニア、シグネチャーはニューヨークと破綻した2つの銀行は結構離れています。今まで金融危機は地域的に起こっていた部分もあるのですが、離れたところがなぜ一斉に破綻するのか。まさにSNS時代で個人がここが危なそうだという話を情報交換すると、全米各地で不安が増長していくと。アメリカ経済の一番弱いところで火が吹いているという形なのだと思います。
シリコンバレーバンクは預金が急速に増えていた。2020年から2022年の初頭までで3倍以上に膨れ上がっている。
第一生命経済研究所 熊野英生氏:
まさにこれこそが危機の構造なのです。コロナが始まってテックバブル、暗号資産やベンチャーにお金が集まったのですが、その時の長期金利はすごく低くて1.25%ぐらいだった。集まったお金を1.25で固定化していくと、2022年3月から急激な引き締めが行われて、長期は1.25で回しているのだけれども、短期の調達は4~5%になって逆ザヤになると。資金が集まりすぎたから、今になって引き締め効果がものすごく出てきているのです。
――破綻が起きて米当局は今あらゆる手段を使って不安を抑えようとしている。まず預金の全額保護を打ち出した。
第一生命経済研究所 熊野英生氏:
この政策は非常に早かったと思います。SNSで瞬時に危機が起こるので、政策対応もスピーディーにやらないといけないのですが、こんなに早く全額保護を打ち出すというのは少しびっくりしました。
次に危ないところはどこかと市場は目を皿のようにして見ているわけだが、ファースト・リパブリックバンクが大口の預金が多い、あるいは債券運用が大きいということで、いわば市場のターゲットにされて株価の下落が激しい。この銀行に対して11銀行が預金をすることになった。4大商業銀行は50億ドル、投資銀行は25億ドル、その他の中堅銀行は10億ドルと、日本で言うと奉加帳方式(「付き合い」で出資させられる)まで繰り出しているというすごい危機感だ。
第一生命経済研究所 熊野英生氏:
アメリカは長期と短期が逆転するという不採算構造が出来上がっているのですが、日本の金融不安のように不良債権があるわけではない。特に大手は健全なのです。だから、中小の金融機関の動揺を大手が資金供給して破綻させないようにすると。こういう仕組みがあと1か月、2か月危機を封印すれば、だいぶ動揺は落ち着いてくるのではないかという見方もできます。
米の金融不安がクレディ・スイスに飛び火
アメリカは必死で抑えているが、ヨーロッパの銀行に飛び火した。クレディ・スイスだ。世界有数の金融機関クレディ・スイスは15日、中央銀行であるスイス国立銀行から最大で500億スイスフラン、日本円で7兆1000億円を調達すると発表した。
――アメリカの破綻した中堅銀行とは比較にならない巨大銀行だ。
第一生命経済研究所 熊野英生氏:
巨大すぎると言ってもいいかもしれません。アメリカの金融機関は全額保護でなんとか封印できます。これは預金の世界です。投資銀行は社債を発行していますから、預金保護では救えない。しかもCDSという社債の保険のような保険料が急激に上がっているので、これは救いようもない。だから、大きすぎて救えないという問題が発生するのだと思います。
――問題の本質が違う。アメリカの銀行は資金繰りが苦しくなって倒れた。ここは経営不安そのものだ。
第一生命経済研究所 熊野英生氏:
2021年にアルケゴスという投資ファンドが破綻した時の損失が特に大きかった金融機関なのですが、22年に騒がれて一旦沈静化しているので、通り過ぎた問題ではないかと思っていたのですが、世界全体の投資の免疫力が下がったために弱いところに注目が集まったというシステム問題になってきているのです。
――スイスの金融最大手のUBSとの統合を模索する動きが始まったという報道があった。
第一生命経済研究所 熊野英生氏:
スイスという国の特殊性もあって、金融に特化している。合併、吸収、国有化という荒技を使うしかないところに追い詰められているのだと思います。
(BS-TBS『Bizスクエア』 3月18日放送より)
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