「習・プーチン会談」の裏で岸田総理はウクライナへ 米中の対立深まる中“異例の3期目”突入の中国、そして台湾問題は?前防衛大学校長・慶應大学名誉教授の國分良成氏に聞く 【国会トークフロントライン】

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2023年3月25日 (土) 00:02
「習・プーチン会談」の裏で岸田総理はウクライナへ 米中の対立深まる中“異例の3期目”突入の中国、そして台湾問題は?前防衛大学校長・慶應大学名誉教授の國分良成氏に聞く 【国会トークフロントライン】

中国・習近平国家主席のロシア訪問と岸田総理のウクライナ電撃訪問が重なった3月22日、中国現代政治の専門家、國分良成慶應大学名誉教授・前防衛大学校長にG7をめぐる国際情勢について聞きました。( 聞き手: 川戸恵子キャスター)

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習氏はロシア、岸田総理はウクライナへ「米中対立はほぼ冷戦状況」

--岸田総理がウクライナを電撃訪問しました。

國分良成 慶應大学名誉教授・前防衛大学校長:
まもなく広島でG7が開かれますから。他の国はみんな首脳が(ウクライナを)訪問しています。戦争を終わらせたいというのもありますが、日本の立場を明確に示す意味でも評価できるのではないかと。

--習近平主席のロシア訪問と同じタイミングでした。

世界が二つの陣営に分かれ始めてしまった感じがします。西側はアメリカ、日本などG7を中心とする陣営。同時にロシアと中国はますます接近しつつあり、東西の割れ目が大きくなってきた。その中心の米中対立がほぼ冷戦の状況になってきたということです。

習体制は異例の3期目へ 独裁強化は「強さ表すのか、弱さ表すのか」

--その西側のシンボルでもあるG7が5月に開かれます。影の主役は中国とも。

國分名誉教授:
「主役」というか「主たるテーマ」ですよね。習近平体制の3期目が先日スタートしました。長期政権で、ある意味個人独裁的なところがかなり強くなってきました。古今東西、独裁政権というのは後継者を決めにくい。ヒトラーやスターリンもそうです。そう考えると、いったいこれはどこを目指しているのか。鄧小平のやっていた改革開放路線の中で我々が考えていた中国と全然違う方向に来ているわけですよね。ある意味で、期待していた中で一番悪いコースをたどりつつある。結局、独裁をすることによって何を目指してるのかがよくわからなくなってきている。自分で全てやらなくちゃいけない、そして上から 抑えなきゃいけない。非常事態のように上からのコントロールをどんどん強めているわけですよね。これは強さをあらわすのか弱さをあらわすのかっていう議論がありますが、やはり中に問題が相当あって上から抑えざるを得ない状況があるんだろうと。

“公式ではない”とされている鄧小平の遺言で、偽物かもしれないんですが、その第1条では「アメリカと絶対喧嘩するな」というんです。やっぱりアメリカとここまで事を構えたっていうのは、非常事態をどんどん自分で作っちゃっている感じがしないでもないですよね。

中国には「次の指導者を決めるルールがない」必ず権力闘争が起きるシステム

--今回の新体制はいかがですか。

國分名誉教授:
結局みんな部下ですからイエスマンしか揃ってない。敵は入れないまでも、ある程度考え方の違う人たちを入れてバランスを取っていくのがこれまでの中国のやり方でした。

中国の最大の弱みは何かっていうと次の指導者を決めるルールがないんですよ。結局、前任者が決める。となると必ず権力闘争が起きる。その繰り返しなんですよね。鄧小平や毛沢東の時もそうだし。おそらく習近平が次の人を決めるときに他の人は黙っていない。だから長くやらざるを得ない状況が続くと思います。

経済政策も誰か個人が大きく転換できるような状況じゃなくて、システムが出来上がっちゃってる。前の李克強首相も能力はあるかもしれないがやらせてもらえなかった。雇用問題も地方経済も相当に苦しくなっている。統計が出てきませんからわからないですが、実態としていろんな動きが出てることはみんな知ってるわけです。選挙があれば政権を支持するか考えられるが、中国の場合は権力闘争で決まる。この辺が最大の問題ですよね。

ロシア訪問は「和平仲介」か?揺れ動く中国外交

--中国によるサウジアラビアとイランの仲介外交は成功と言われていますが?

國分名誉教授:
国際政治全般ではいいことかもしれないけど、仲間を増やすためというか陣営を分けちゃっている感じが見え隠れするというのが少し嫌ですよね。習主席のロシア訪問もウクライナ和平を仲介しようというような捉えられ方をしている。ただ、仲介は一番両方が納得できる立場を作ること。その点で中国は完全にプーチン寄りで、その意味では日本だって難しい。この仲介役はG7とかその辺の国がやっていかないと本当は無理なんです。中国は向こう側陣営を固めてアメリカに対抗しようっていうのが見えちゃいますから。

ただ、中ロの関係も非常に複雑です。去年のウクライナ侵攻直後は、なんでロシアはこんなに弱いんだって(中国が)少し切り始めた時期もあるんです。けれどもその後、ペロシ下院議長が台湾に行ったあたりからちょっと難しくなってきて。そのころ中国が一生懸命アメリカに近づこうとしてた気配はあるんですけど、やっぱり心からじゃないですから。アメリカからしてみると「中国はどうせ裏切る」というような気持ちになっているわけです。やはり米中の対立というのが相当に冷戦状況になってきたっていう感じがしますよね。

一転「米中関係の象徴」となった台湾 中国は「焦り始めた」

--「台湾統一」は中国にとってプラスなんでしょうか?

國分名誉教授:
台湾問題っていうのは元々は中国と台湾の間の問題で、台湾が独立傾向を示すかどうかなんですよね。ところが今、もうほとんど死んだと思われてた国民党が復活してきて蔡英文さんの支持率がものすごく落ちているわけですよね。そういう意味では中国にとって台湾の独立傾向そのものはそれほど激しくない。現状維持というのが強くなって国民党が強くなっているから、中台関係は今それほど深刻な問題がない。問題は米中関係がおかしくなってきて、台湾問題も一つの大きな象徴になってきていることなんですよね。

ただ、台湾統一は中国にとってプラスだけじゃなくてマイナスもありますよ。本来政権は国民の生活を豊かにするためのものですけど、歴史問題とか台湾問題とかそこばかりに国民の目を集中させているわけです。その目標が終わると、次何するんですかということになる
例えば、毛沢東は5キロ先ぐらいの台湾が持ってる金門島を取らなかった。敵を目の前に置いとけ、っていう話ですよね。なぜ歴史を終わらせちゃうのかと。

しかも、台湾を統治するのも大変ですよ。大陸から150キロ離れてるところに軍を置く。鄧小平は置かなくてもいいって言ったことがあるんです。置くと補給とかいろんなことが大変になる。ただ置かないと、今度は状況が変わらないんですよ。名前は変わるかもしれないけど現実は変わらず、住民はみんな反北京です。チベットや労働者、若者の問題もあるし、そんなに簡単じゃないと思いますよ。

 --台湾への侵攻は近い?

國分名誉教授:
台湾問題って、ウクライナ侵攻以降に深刻になってきたと思うんですよ。習近平は今、時間をかければかけるほど中国にとって不利だと思ってるんじゃないですか。それは多分、ウクライナでプーチンがどうしてこんなに弱いのかというと、アメリカとかNATOが2014年から準備してたからなんですよね。それを見て、ここから先準備されちゃうと台湾問題って大変になっちゃうんじゃないかと。私もいろんな国に行くとやっぱり「台湾は大丈夫か」「中国は焦り始めてるんじゃないか」という議論が強くなっている。次はやっぱり台湾だよねと。

ウクライナ問題がG7の中心議題に 「日本の責任は大きい」

--広島でのG7では、リモートでゼレンスキー氏を呼ぶという話も。ウクライナ問題も中心議題になりますよね。

國分名誉教授:
それは本当に大事なテーマになると思います。ただロシアはもうここまで来たら絶対引かない。プーチンがいる限り続くだろうということですよね。犠牲がどんどん増えていくわけですから、どう止めたらいいのか。仲介役をできるような国もなくなってきた。しかも中国は、直接は言ってないですが間接的に色々と援助していくと思うんです。そうなってくるとますますお互い持久戦で、非常に悲惨な形になる可能性があります。

--2つにわかれる中でグローバルサウスをどっちが取るかみたいなところがありますよね。それも今回のG7で大きな話題になると。

國分名誉教授:
そうですね。ただグローバルサウスって定義がないんですよね、つまり全部ですから。たとえば東南アジアとかね。ASEAN諸国には豊かな国もあればそうでもない国もあります。これを一括してグローバルサウスと呼ぶのかという話ですよね。だから私はグローバルサウスが全部、大国の思惑で動くような状況ではもうないと思うんですよ。やっぱりそれぞれの国の主体性があるわけですよね。「中国がこんなに経済力があって、あなたの国は大丈夫ですか」って質問すると、複雑な答えになるわけです。これはやっぱり心理的にはそうですよね。だから確かにグレーターチャイナ的な、アジアなんかも経済的にはそうなってきているけど、やっぱり国家主権ってのはまた別の話ですから。やっぱり日本としても正しいことをきちんと追求する。侵略はいけないわけですから。国際法違反ですからね。やっぱりグローバルサウス、中国にとってはそこを取りたくてしょうがないんでしょうけどね。ただお金だけでは(無理)。そのお金もすぐ続かなくなってくると思いますよ。

--じゃあ今度のG7、日本の責任は大きいですね。

國分名誉教授:
大きいと思いますよ、本当にタイミング的にね。

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