
文部科学省は、来年度から幼児期の環境、体験、学びが、子どもの成長にどう影響するかについて実態調査に乗り出す。大規模追跡調査は国内で初の試みだ。ここで、環境と学びに加えて、体験が対象となっていることに注目したい。実は昨今、子どもの体験は、かつてないほどに重要視されてきているのだ。
【写真を見る】受験や就職にも影響?子どもの『成功のカギ』<体験>の格差を広げた3つの“衰退”
認知、非認知能力を育てる体験 子どもの成功のカギに?
春休みに入り、子どもとお出かけしようかなと考えている人も多いのではないだろうか。おそらく、遊びとして、気分転換として、家族サービスとしてなど、その目的は様々だろう。しかし、そんなお出かけなどの体験の積み重ねが、子どもの将来の『成功のカギ』になるかもしれないことをご存じだろうか。
実は海外では、体験が子どもの能力を高めることがデータで示されている。『学力の経済学』著者で教育経済学が専門の慶應大学中室牧子教授に、体験が子どもにもたらす影響について聞いた。
ーーまず前提として、体験とは具体的には何でしょうか?
「『21世紀出生児縦断調査』という国による調査がありまして、体験活動を三つに分類しています。
一つは「社会体験」です。例えば、社会科見学で工場の見学に行ったりとかしますけど、職業体験、農業体験など。
それから「文化的体験」で博物館に行ったりとかですね、音楽鑑賞やスポーツ観戦など文化的な活動というのがあります。
三つ目が「自然体験」です。キャンプや山登りのような自然のなかでやるようなタイプの活動です。
これに加えて、お父さんにキャッチボールしてもらいました。おばあちゃんに着物の着付けを教えてもらいました。お母さんにお料理教えてもらいました。などの経験も、重要な体験だといえます」
ーーいろんな体験をしたほうがいいよね、とは多くの人が思っていると思いますが、子どもの将来にとって、いいよね、以上の影響を与えるものなんでしょうか?
「体験に対する時間投資は、認知能力も非認知能力も高めるというエビデンスがあります。しかも、子どもがより小さいときに時間投資をすると、効果が大きいということもわかっています」
ーー認知、非認知能力とは?
「物事を考える力などを認知能力、もうちょっと性格的な特徴で、例えば勤勉性が高いとか集中力があるとか、意欲があるとか、コミュニケーション能力などを、非認知能力というふうによんでいて、いずれも子どもの成長に重要な能力です」
学力よりコミュ力の評価がアップ…近年は体験の重要度が増している
体験は重要だとしても、勉強のほうが大切と考える人も多いのではないだろうか。しかし、体験が子どもにもたらす影響は、今後、勉強以上に「成功のカギ」になるという見方が出てきている。
体験格差解消プロジェクトを立ち上げた一般社団法人リディラバの安部敏樹代表は、子どもの体験こそが教育的な価値の中心になってきていると指摘する。
ーー勉強が大切と感じる人は多いと思います。体験もそんなに大切なんでしょうか?
「例えば、受験です。年々AO入試(現在は総合型選抜)の割合が増加していますよね。(文科省によると2021年度は12.7%)AO入試は、自分が経験してきた体験をベースに小論文を書くなど、体験の量や質がそのまま受験の合否に跳ね返ってしまうわけです。
また、企業が求める人材の要件にも変化がみられます。近年重要視されているのが、コミュニケーション能力です。
海外のデータ(※1)ですが、雇用において学力とコミュ力で、いずれを重要視しているかを追跡調査したものがあります。かつては、コミュ力(調査では社交性)は低くても、学力(調査では数学的思考能力)が高い方が雇用において有利でした。それが、今は、学力よりもコミュ力が高いことの方が雇用に大きな影響を及ぼしています。
コミュ力は、学校でただ勉強していて培われる能力ではありません。いろんな人との出会いなど、体験に依るところが大きいです。つまり、体験の量や質が、そのまま受験の成功、仕事の成功、ひいては人生の成功に強く相関してきているといえるわけです」
有料化された体験 一部の人の特権になり“体験格差”に
昔から体験は心を豊かにしてくれるという感覚はあったかもしれない。しかし、どうやら今では体験は経済的な豊かさにもつながっているようだ。
それなら、子どもが勉強よりも遊びの体験をしたがっても大目にみよう…。そんな風に感じる人もいるかもしれない。しかし、ここにさらなる盲点がある。体験は、子供たちだけで自然にできる環境ではなくなっているというのだ。
近年、体験は一部の人に特権化されたサービスとなり、できる子と、できない子の体験格差が深刻になっていると安部さんは警鐘を鳴らす。
ーー安部さんは体験格差が大きな問題で、解消すべきというプロジェクトをなさっています。なぜでしょうか?
「説明したように、体験の重要度が増しています。にもかかわらず、体験はサービス化が進み、一部の人のものになってきているからです。
時間的、経済的に余裕がある人たちは、子どもの体験にも投資をしています。『アソビュー』という体験のプラットフォーム会社のデータでは、子どもとの年間のお出かけ回数が平均23.5回で、1回あたりのおでかけ平均単価が1万3409円ということです。体験をする余裕がある家庭においては、月に約2回、かなりの金額を体験に費やしています。
一方で、時間的にも、経済的にも、それができない家庭も多くあります。そのことから、体験の格差は広がり、危機感を持っています」
ーーおそらく、親世代は、自分たちも体験にそんなにお金をかけてもらえなかった、それでも、いろんな体験ができた、と感じる方もいるのではないかと思います。
「状況が昔と大きく変わってきているんです。子どもに体験を提供するプレイヤーは大きく3つあると思います。小学生以上で考えると、1つが家庭。2つ目が地域。3つ目が学校です。この全てのプレイヤーがこの数十年でより衰退してしまったんです。
まず家庭は、核家族化して共働きになりました。家庭の中で、時間がある方が少なくなりました。だから、子どもをどこかに連れて行くこともそうだし、例えば、おじいちゃんが竹とんぼを教えるなどの、家庭内での体験を提供することも、少なくなったんです。
地域はどうかというと、地域活動におけるボランティアの数が減少しました。例えばほんの一例ですが、地域に密着し、住民の安心と安全を守るという消防団をみてみると、かつては200万人ほどいたのですが、今は80万人を下回っています。昔だと当たり前だった、地域のお祭りや、スポーツチーム、といった地域の活動も減少しています。
学校はというと、教員の多忙化が問題になっています。部活動の地域移行が始まるなど、学校自体の子どもとの関わりも減らさざるをえない状況です。
子どもたちが自由に活動できる場所は減少傾向です。それに加えて、家庭、地域、それから学校という3のプレイヤーが、子どもへの関わりから引いていった結果、余白ができ、一部の人はサービス化された有料の体験をしていて、昔よりも格差がひろがってしまっているわけです」
日本の子どもたちの将来に体験がどのくらい影響を与えていくのか…。文科省の追跡調査のデータが出るのは、しばらく先だ。しかし、今の子どもたちの体験格差をそのままにしておいていいとはいえないだろう。子どもの多様な体験の提供について、家庭でも、地域でも、学校でも、意識を高めておいた方がよさそうだ。
※1 Deming (2017).『Cumulative Changes in Employment Share by Occupation Task Intensity 1980-2012』Occupational Task Intensities based on 1998 O*NET
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