中国がリードするEV時代 どうなる日本…どうする日本…【報道1930】

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2023年5月5日 (金) 05:15
中国がリードするEV時代 どうなる日本…どうする日本…【報道1930】

中国25.6%、ノルウェー79.3%、ドイツ15.7%・・・日本1.7%。これは去年の自動車新車販売台数の内EV(電気自動車)の割合だ。百年に一度と言われる自動車産業の変革期。去年ついに世界のEV販売台数が1000万台を超えた。しかしそのうち6割近い590万台が中国だ。なぜ中国はこれほどまでにEVが普及したのか…。一方、日本はなぜEVの波に乗り遅れているのか議論した。

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「あっと口を開けて見ている間にシェア25%になってしまった…。業界全体戸惑っている」

中国の都市部を見るといたるところでEVが目に付く。タクシーは殆どがEVだ。EVと言えば普及を声高に叫んだのはヨーロッパで、実際にEVを普及させたのは世界最大のEVメーカー『テスラ』を有するアメリカだ。ところがこの数年で中国が突然EV界のリーダーになってしまった。一体どんな経緯だったのか、専門家に聞いた。

自動車アナリスト 中西孝樹氏
「2019年には新エネルギー車ってEVもプラグインも売れなかったんです。補助金いっぱいつけてもダメで…。なので我々も正直言って油断してたんですが、2020年にホンガン・ミニ(45万円で売り出した『宏光MINI EV』)というとても安い車がバカ売れした。そして、『テスラ』の上海工場ができて大きな刺激になって、高級車のセグメントで色んなブランドがEVを出した。つまり安い車と高い車でまずEVが売れるようになった。でも日本車が位置する真ん中の15万元から25万元、200万円から400万円の所でEVは売れてなかった。それを変えたのが『BYD』でして、コストの安い、しかし質も悪くないEVを出してきて、真ん中のクラスで売れ始めた。これが2021~2年のことで…。あっと口を開けて見ている間にシェア25%になってしまった…。業界全体戸惑っている状態です」

『BYD』は中国のバッテリーメーカーだったが、現在中国国内では『テスラ』を抜いて販売シェアトップのEVメーカーとなった。 今年日本にも上陸。400万円台で、航続距離400キロを謳い、日本のメーカーの脅威となっている。
日本でもEVは近い将来大きなシェアを持つだろうが、まだ何年か猶予があるだろう、それまでに色々と対策を…、考えていた。確かにEVシェア1%台の日本では急激な成長は考えにくいが、経済評論家の加谷珪一氏は“工業製品のS字理論”を語る。

経済評論家 加谷珪一氏
「歴史をさかのぼると、白物家電しかり新しい工業製品が出て、普及率が2割近くなると爆発的に普及する。あらゆる工業製品に言えるんです。(中略)中国はかなり先行しているが、世界で販売台数の2割近くになると、(それまでゆっくり伸びていたものが)突然一気に普及するんです。・・・どっかのポイントでS字型に急成長する。工業製品はみな同じなんです」

つまり日本は1割すらほど遠いが、世界シェアが2割に近づくと急激にEVシェアが伸びる。その時日本だけが取り残される可能性があるということか…。

「日本メーカーはかつてのビッグ3になる可能性がある」

日本は自動車産業の国際競争に敗れると予測するアメリカ人がいる。カーネギー国際評議会で日本経済を研究する、その人物は世界の予想以上に速いEVシフトに日本の自動車メーカーは頑なに抵抗してきたと指摘する。

日本経済研究者 リチャード・カッツ氏
「1970年代2度のオイルショックがあった。まず1973年と74年に原油価格が4倍になり世界中が不況に陥った。そして1979年と80年にはまたも4倍になった。その時日本が小型自動車をアメリカ市場に投入した。アメリカの消費者は当然それを買いたがった。日本車は良い車が多く、ガソリンをガブ飲みしなかった。あの時、燃費の良い日本車を見てGM・フォード・クライスラーのビッグ3は“これは一時的な出来事で、長くは続かない”と思っていた。成功し過ぎた企業は変化に気づかない。思わず目隠ししてしまう。ビッグ3は日本車の強さに気づかなかった」

その後も日本車は衰えるどころか、アメリカに工場を持ち急成長。ビッグ3が日本車の凄さに気づき、追随しようとしたときには時すでに遅し…。かつて国内シェア80%以上あったビッグ3は日本メーカーに大きくシェアを譲ることになった。EV市場における日本は、あの時のビッグ3だと、カッツ氏は言う。そして、あの時の日本車が今の中国車だ。

日本経済研究者 リチャード・カッツ氏
「ひとつのビジネスモデルで成功すればするほど、時代の変化を認識するのが難しくなる。以前は優れていたものが十分ではなくなる。どう変えればいいのかどころか、変える必要があることすら認識できなくなる。日本メーカーはかつてのビッグ3になる可能性がある

アメリカの経営学者、クレイトン・クリステンセンは巨大企業が新興企業に敗れる時の経営理論を“イノベーションのジレンマ”と名付けた。業界を支配する成功企業が優れていた企業戦略ゆえに滅んで行くというジレンマ…。

経済評論家 加谷珪一氏
「イノベーションのジレンマの代表例として古い話ですが、帆船から蒸気船へのシフトがある。帆船メーカーは非常に優れた技術を持っていて大型の船も造れた。蒸気船のメーカーは小さな船しか造れず、当初は比較にならなかった。ところが時代が過ぎ蒸気船主流になった時、優れていた帆船メーカーは(蒸気機関にシフトできず)1社も無くなっていた。同じことがあらゆる業界で繰り返されてきた。当然自動車業界も例外ではない。内燃機関からEVに、ハード・オリエンテッドからソフト・オリエンテッド…。これは大きなパラダイムシフト(革命的変化)なので、イノベーションのジレンマが起こる可能性が高くなると思います」

「ハードは同じものでソフトを更新することでハードの性能域を変えていく」

EVへのシフトという点で中国に水をあけられた日本だが、今までの自動車がEVに変わるということは、エンジンがモーターに変わるとか、ガソリンタンクが電池に変わるとか、そういったハードの変化ではなく、車の作り方、使われ方が変わる産業革命で、日本の産業構造そのものがEVに対応していないことが問題だと語るのは、かつて日産自動車でCOOを務めた志賀俊之氏だ。

元日産自動車COO 志賀俊之氏
「EVが出遅れてる現象に目が行きがちだが、今起きているのは車の作り方使われ方が変わる産業革命。今、世界の新しいEVというのは“SDV(ソフトウエア・ディファインド・ビークル)”と言ってソフトウエアが車の性能を定義する。私たちの時代は機械工学部出身のエンジニアがメカニカルな物を作るのがクルマ作りだった。SDVは、ハードは同じものでソフトを更新することでハードの性能域を変えていく…いま工学部出身のエンジニアがソフトも開発するように勉強する。産業構造の変革なんです」

日本の自動車は、定期的にモデルチェンジし、性能や機能を変えると同時に装備やデザインを変えることで新車を売り、下請けの部品メーカーも新しい仕事を受注していた。
しかし、例えば『テスラ』はモデルチェンジをしない。何年たってもハードはほとんど変わらない。だが、ソフトウエアは随時、最新のものに更新され性能は向上していく。こうしたクルマ作りに日本の自動車業界の構造が適応していけるのだろうか。

自動車アナリスト 中西孝樹氏
「(EVかその他か)迷う必要はないんです。マルチソルーションと言われる全方位に世界は最終的になっていく。だから日本が全方位を掲げるのは何ら間違いでない。ただ目的化してはいけないんです。目的はあくまでカーボンニュートラルで、全方位は手段なんです。結果として全方位になるんですが、物事には順番というのがあって、まずEVが来てそのあと燃料電池、そしてカーボンニュートラル燃料のようなモノが来て水素なんです。順番を違えず、2-3年の迷いがいまの差になっているだけなので、まずはEVを日本のものにするそれが大事なんです」

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