122頭→3頭に ラッコが水族館で見られなくなる? 飼育歴40年のベテランが今思うこと

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2023年5月27日 (土) 06:09
122頭→3頭に ラッコが水族館で見られなくなる? 飼育歴40年のベテランが今思うこと

もふもふの体につぶらな瞳のラッコ。なんとも可愛らしい姿に目を奪われます。そんな水族館のアイドル“ラッコ”が、実は近い将来、日本国内で見られなくなるかもしれないというのです。いったい、何が起きているのでしょうか。

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国内にいるラッコはわずか3頭 なぜ減ってしまったのか? 

日本動物園水族館協会によると、日本に初めて「ラッコ」がやってきたのは1982年。

初めは一頭でしたが、飼育数は次第に増え、1994年には国内飼育数が122頭にまでなりました。しかし、その後は徐々に減少。2023年現在は国内に“3頭”となってしまっているのです。ピークから約30年で、なぜここまで減少してしまっているのでしょうか。国内に3頭いるラッコのうち2頭の飼育をする鳥羽水族館の、ラッコ飼育歴40年のベテラン、石原良浩さんに聞きました。

ーー子どものころ、水族館で当たり前にラッコを見ていた記憶があるのですが、今は日本全国でたった3頭になってしまっているんですか?

ラッコ飼育歴40年 鳥羽水族館 飼育研究部 石原良浩さん
そうなんです。いまは、鳥羽水族館に19歳メスのメイと、2021年に和歌山のアドベンチャーワールドからやってきたメスのキラ(15)がいます。福岡のマリンワールドにはキラのお兄ちゃんにあたるリロ(16)がいます。

ーー本当に3頭だけなんですね。繁殖の可能性もないのでしょうか?

難しいというよりも、この3頭では無理ですね。メイはもう高齢ですし、キラとリロは兄妹なので繁殖させることはできません。

ーーなるほど…やはり絶望的なんですね。

本来、ラッコという動物は非常に繁殖力が旺盛な動物なんです。ピークに達したときの122頭という数の半分以上は日本で生まれた個体です。これまで非常にたくさんの繁殖を繰り返してきました。ただ、その繁殖を繰り返すごとに繁殖能力というところでいろんな問題が出てきました。それで日本で生まれるラッコが少なくなってきたんですね。

ラッコの寿命というのはだいたい20年ぐらいですから、寿命を迎えて減っていくのに対し、新しい個体が生まれてこないので年々少なくなって今に至ったという事です。

ーー頭数も多いのに繁殖が上手くいかなかったのには、どんな問題があったのですか?

単純に一つだけの原因ではないと思うんです。水族館で生まれたラッコたちはエサを与えられる生活しか知らない、いわば“温室育ち”状態だったともいえます。世代が変わるにつれて、野生の感覚が失われたり、妊娠しても流産してしまったり、母乳が出なかったり…。様々な要因が重なった結果として受け止めています。

ーーでは、最初に海外からラッコが来たように、今後また輸入されることはないのですか?

1998年以後にアメリカの国内法で野生のラッコの捕獲や輸出は原則禁止されていて、2000年には国際自然保護連合(IUCN)が絶滅危惧種に指定されています。

これにはいくつかの理由があるのですが、まず1989年に大きな出来事がありました。ラッコが多く住む地域、アメリカのプリンス・ウィリアム湾でタンカー原油流出事故が起き、3000頭あまりのラッコが死んでしまいました。1回の人為的な事故で…と思うかもしれませんが、このインパクトは非常に大きかったんです。

その他にも、シャチに食べられてしまったり、サメがオットセイの仲間と間違えてラッコを噛んでしまったり、海洋汚染による病気など、これまでと違う原因がたくさん出てきたものですから、世界的に野生のラッコを守った方が良いですよねということになっているわけです。

もう、水族館で見られなくなる? 今後の展望は? 

ーー繁殖も、輸入もできないとなると、今後は日本ではラッコが見られなくなってしまうんですか?

そうならないように対応を検討しているところです。
ラッコの中でも「アラスカラッコ」については野生の捕獲は禁止されていますが、場合によっては輸出が可能なケースもあります。

実際に、アメリカの動物園・水族館では保護されたラッコの飼育展示を行っており、4か国に輸出された実績もあります。ただ、それを実現するには、アラスカからやってくるラッコの移動方法や費用、飼育環境を整えることなど様々な問題があり、いつ実現するかは、なかなか難しい状況ではあります。

そんな中、実は日本の北海道で、今、野生のチシマラッコが非常に増えています。
かつての乱獲でいなくなっていたラッコたちが100年の時代を経て戻って来てくれた、と表現すべきかもしれません。これは非常に嬉しいことなんです。行けば、ほぼ確実にみられる場所もあります。1か所だけでなく割と広い範囲にいて、年々増え、赤ちゃんも割とよく見られますよ。

ーー野生ラッコの観察ができることは嬉しいですね!でも、水族館で間近で見たい!とも思ってしまいます…。

水族館などで動物を直接見るということはとても大切なことです。やっぱり間近で見て、実際にかわいいと思っていただくことがすごく大切で、興味を持っていただくことが、ひいては野生の環境とか、野生の動物を守るということに繋がってくると思います。なので、どういう形になっても、これからもずっとラッコを見ていただけるような方向で努力をしていきます。

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