「夜の女性のお店まで」ベトナムで横行する日本人への「過剰接待」証言 廃止でも深刻な課題残る技能実習制度の“闇”

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2023年5月27日 (土) 07:00
「夜の女性のお店まで」ベトナムで横行する日本人への「過剰接待」証言 廃止でも深刻な課題残る技能実習制度の“闇”

 賃金未払い、暴力、パワハラ。外国人労働者への人権侵害を過去何度も引き起こしてきた技能実習制度は5月、政府の有識者の会議によって廃止の方向性が示された。今後は新たな制度について検討が進むが、外国人の受け入れをめぐっては、簡単には解決できそうにない“闇”がある。それは、海外にあって日本の法律が及びにくい、実習生の「送り出し機関」をめぐる根深い問題だ。過剰な接待や、違法行為の提案まで。人権侵害の温床と指摘される“闇”について、複数の関係者から証言を得て、実態に迫った。

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「女性が接客する飲食店を用意し日本人を接待」

 ベトナムのハノイ市内に日本人が多く宿泊する2つのホテルがある。ここをベトナムの「送り出し機関」のベトナム人関係者が度々訪れるという。売春の場所にも使われるというこれらのホテルに日本側の受け入れ関係者を招待し、こんな依頼をするというのだ。

「私たちから実習生を雇ってください」
「キックバックもします」

 送り出し機関は実際に日本人にどうやって接触してくるのか?その実情を知る関係者の1人が貴重な証言をした。埼玉県川口市の監理団体でかつて実習生の受け入れ事業を行っていた、古屋恭平さん。自身は接待や利益供与を受けたことは一切ないとした上で、2017年に送り出し機関の視察のためベトナムを訪れた時のことをこう振り返る。

元監理団体担当者・古屋恭平さん
「送り出し機関側の競争がとにかく激しい。自分たちが集めたベトナム人を日本に送り込むことで、管理費収入が欲しいんです。営業の電話もかかってくるし、過剰な接待もあると聞きます」

当時、古屋さんの監理団体には送り出し機関から営業の電話が頻繁にかかってきていた。古屋さんは、あらかじめ「接待は不要です」と何度も伝えて会社の経費で視察に訪れたが、ある送り出し機関のスタッフからこんな話を耳にしたという。

元監理団体担当者・古屋恭平さん
「日本から来る監理団体の中には、観光気分で来て食事や旅費、夜の女性のお店までも要求してくるとんでもない団体もあると聞きました。同じ日本人として恥ずかしいし、日本に対するイメージを悪くしているのではないか」

 法務省の調査によると、送り出し機関には日本の監理団体から実習生1人につき月額7000円程度の「送り出し管理費」が支払われる。こうした手数料収入が彼らの目当ての1つだとみられる。

「残業は時給400円でいい」違法な賃金を提案

取材を進めると、送り出し機関の“闇”は接待だけではなかった。技能実習生を「違法な賃金で安く働かせていい」と持ちかけたケースもあることがわかった。会社の元代表が匿名を条件に、重い口を開いた。

技能実習生を働かせていた会社の元代表
「受け入れを始めた頃、送り出し機関から『残業代は400円でいいですよ』と言われました。実習生を多く送り込みたいがために、企業にとっての好条件をいくらかつけてきたんだと思います」

時給400円は、法律で決められた最低時給の半分以下。もちろん日本では違法行為だ(現在会社は閉鎖)。いくら送り出し機関から申し出があったとしても、元代表に罪の意識はなかったのだろうか。

技能実習生を働かせていた会社の元代表
「外国人技能実習生にとって時給400円は決して安いお金じゃない。違反は違反かもしれないけど、あの子たちが納得できる金額ではあった。そういうケースがこれまで続いてきてるんですよ」

―契約書はあったのか?
「ないない。口約束。でも私のところばかりじゃない」

国が定めたチェック機能をすり抜け

多くの技能実習生を日本に送り込みたい送り出し機関と、できるだけ安く外国人を働かせたい日本の受け入れ企業側が、裏で結んでいた取引。防ぐ手立てはなかったのか。技能実習生の受け入れを行う会社は、外国人技能実習機構という国の組織の調査を定期的に受ける。調査は3年に1回、抜き打ちだ。ところが、違法行為をしていたこの会社は、調査で問題を指摘されることはなかったという。

技能実習生を働かせていた会社の元代表
「チェックされても分からないようにしていた。会社としては問題にならないように色々考える。機構の調査を逃れてきたからここまで来れたんですよ」

本来、途上国への技術移転という「国際貢献」を目的に始まった技能実習制度。しかし、元代表は、こううそぶいた。

技能実習生を働かせていた会社の元代表
「私たちはただ労働者としての受け入れしか考えてないですね。『人手が足りない、人手が足りない』。実習生が入ってきたら「やったー!納期に間に合うぞ」って。これじゃ単純な労働者。我々の素人が考えても、はき違えているところがあると思いますよ」

悪質な現地の送り出し機関と日本側の「利権」なくせ

今月、法務大臣に提出された政府の有識者会議の中間報告書では、外国人に対する人権侵害の温床とも指摘される転職の制限が緩和される見通しなどが示された。技能実習という、実態と離れた名称も廃止される。しかし、長年技能実習生の支援に当たってきたNPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」の鳥井一平さんは、「今後も仲介を民間任せにしては同じ問題が起きる」と指摘する。

NPO法人移住者と連帯する全国ネットワーク 鳥井一平氏
「なぜこうした悪質な送り出し機関が存在してきたのか。それは受け入れる日本の監理団体や企業に“うま味”があるからです。制度の下で生まれた利権の構造的な部分に手を入れないと、本質的な問題は解決しない」

鳥井氏は「看板のかけ替えでは意味がない」とした上で、国や自治体が責任をもつ必要があると考えている。

技能実習生の多くは、母国の送り出し機関に数十万円の手数料を支払うために多額の借金を抱えて来日する。日本人への接待費用やキックバックはこうした手数料から支払われる。重い負担を強いられるのは、外国人実習生だ。

搾取や人権侵害が後を絶たなかった構造的な問題に目を向け、弱い立場にある外国人労働者の人権を守るための議論が不可欠だ。

(TBSテレビ 司法記者クラブ 長谷川美波)

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