
女子駅伝日本一を決めるクイーンズ駅伝が11月26日に、宮城県松島町をスタートし、仙台市にフィニッシュする6区間42.195kmのコースに25チームが参加して行われる。
各区間の中継所と距離は以下の通り。
第1区(7.0km)松島町文化観光交流館前・・・・・塩竈市地域活動支援センター前
第2区(4.2km)塩竈市地域活動支援センター前・・・・・NTT東日本塩釜ビル前
第3区(10.6km)NTT東日本塩釜ビル前・・・・・富士化学工業前
第4区(3.6km)富士化学工業前・・・・・聖和学園高等学校前
第5区(10.0km)聖和学園高等学校前・・・・・仙台第二高等学校前
第6区(6.795km)仙台第二高等学校前・・・・・弘進ゴムアスリートパーク仙台
前回大会新記録で優勝した資生堂、前々回優勝の積水化学が主要3区間に強力選手を揃え、激しい優勝争いを展開する。8月の世界陸上ブダペスト10000m7位入賞の廣中璃梨佳(22)を擁するJP日本郵政グループと、パリ五輪代表の鈴木優花(24)がいる第一生命グループも2強に迫る戦力だ。
廣中、鈴木以外にも今年の世界陸上10000m代表だった五島莉乃(26、資生堂)、21年の東京五輪10000mと22年世界陸上マラソン代表だった新谷仁美(35、積水化学)、東京&パリ五輪2大会連続代表の一山麻緒(26、資生堂)ら、代表選手が多数出場する。
晩秋の宮城を舞台に華やかな女性たちの戦いが繰り広げられる。
高島が復調した資生堂 積水化学との前半の差が重要に
資生堂は前回の優勝メンバーから移籍と引退で2人が抜けたが、それでも1区、3区、5区の主要区間は代表経験選手になるだろう。五島、一山に加えリオ五輪10000m代表だった高島由香(35)が3本柱だ。
五島は2年連続区間賞の5区で強さを見せてきた。一山は前回3区で廣中と新谷に抜かれたが、新谷との差を10秒にとどめ、インターナショナル区間の4区での逆転を可能にした。高島は14~16年まで3大会連続3区区間賞と、当時最強の駅伝ランナーだった。
だがクイーンズ駅伝は、肩書きだけでは通用しない。一山は2位で代表入りを決めたMGC(10月15日。マラソン・グランドチャンピオンシップ。パリ五輪代表3枠のうち2人が決定)から1カ月強のインターバルで駅伝に出場する。高島は19年東京マラソンの途中棄権以降、故障が続きパフォーマンスが低下していた。駅伝でも19年以降は3区区間7位、メンバー漏れ、6区区間4位、6区区間2位と主要区間の快走がない。
2人が復調していなければ資生堂の2連覇はないが、高島は10月21日に5000mで15分26秒33と自己新をマークした。5区の五島で勝負を決めるのなら、1区・一山、3区・高島が有力だ。
資生堂はインターナショナル区間の4区に前回区間賞で、3位からトップに進出したジュディ・ジェプングティチ(20)が控える。2区も資生堂は経験者がいないため、予想が難しい。高島と一山で積水化学との差をどれだけ小さくできるか、が重要になるだろう。3区終了時点のタイム差が2連覇を左右する。
佐藤が復調した積水化学 新谷は3区か、それとも5区か?
積水化学のエントリー選手には日本代表経験選手が6人もいる。新谷に加えマラソンで今年の世界陸上代表だった佐藤早也伽(29)、5000mで17年世界陸上と18年アジア大会代表だった楠莉奈(29)、1500mで21年東京五輪と22年世界陸上代表だった卜部蘭(28)、3000m障害で今年のアジア選手権代表だった森智香子(31)、そして今年入社した山本有真(23)が5000mで7月のアジア選手権(優勝)、8月の世界陸上、9月のアジア大会と出場した。
前回6区区間賞の佐々木梨七(21)と、10月に15分36秒40の自己新をマークした田浦英理歌(23)も好調で、代表経験選手がメンバー入りできない可能性もある。ではあるが、主要3区間は新谷、佐藤、楠の代表経験選手が走りそうだ。
新谷は20年大会3区で区間賞をとったとき、区間2位に1分05秒差をつける圧倒的な走りを見せた。翌月に10000mで30分20秒44の日本記録を出した時期で、その走りが再現できるかどうか。2年前は5区で五島と1秒差の区間2位。昨年は3区で廣中を1秒抑えて区間賞。新谷をどちらの区間に起用するかに積水化学の戦略が現れる。
新谷の起用区間は他の選手の状態次第でもある。8月の世界陸上を走った佐藤が10月に、5000mで15分34秒00まで回復した。2年前の優勝時には3区の佐藤が、廣中と5秒差の区間2位の走りでトップに立った。佐藤が好調なら新谷を5区に残すことができる。
3区が新谷なら大きくリードを奪う戦略になる。佐藤が3区なら少しでも資生堂の前に出て、4区で逆転されても5区の新谷で再び資生堂に勝負を挑む。仮に5区で資生堂に先行されても、前回区間賞の佐々木か、今季絶好調の森でアンカー勝負を制する。それが積水化学の青写真だろう。
トラックのスピードランナーとマラソン五輪選手を擁する2チーム
JP日本郵政グループと第一生命グループの選手構成が似ている。両チームともトラックの代表が3区を任されそうだ。日本郵政は今年8月の世界陸上10000m7位の廣中で、一昨年は3区で区間賞、昨年も区間2位と全幅の信頼が置ける。第一生命は今年7月のアジア選手権10000m小海遥(20)が前回区間4位。2人とも競り合いやスピード勝負に打って付けの選手だ。
5区はマラソンランナーの出番。日本郵政は名古屋ウィメンズマラソン2位(日本勢トップ)の鈴木亜由子(32)が有力。第一生命はMGC優勝の鈴木優花が走るだろう。鈴木亜はMGCは苦手とする寒さも影響したのか12位に終わったが、練習はスピードの出る良い動きができていたという。鈴木優はMGCでは勝負どころまで“落ち着いた走り”をしたことが勝因になったが、駅伝では学生時代に見せた“ケンカ走法”で前半から攻めた走りをするだろう。
日本郵政は1区候補に前回区間6位の和田有菜(24)、2区候補に前回区間賞の太田琴菜(28)と19・20年の連覇時に2区を走った菅田雅香(22)がいる。1、2区の頑張り次第で廣中が3区で奪うリードが大きくなり、2強を慌てさせることができる。3年ぶりの優勝もあるだろう。
第一生命は大学女子駅伝のエース区間で何度も区間賞を取った関谷夏希(26)が、10000mで32分台を出し復調の兆しを見せている。新人の飛田凜香、19年1区区間5位の出水田眞紀(27)が本来の力を出せるようになれば、優勝争いに加わることができる。
注目の区間賞争い 大物ルーキーの山本は1区か2区か?
代表選手が次々に登場するクイーンズ駅伝は区間賞争いも面白くなる。
1区では資生堂と積水化学の2強が代表経験選手になるが、ダイハツも前回はマラソンで2年連続世界陸上代表の松田瑞生(28)を起用した。2年前に区間賞を取った岡本春美(25、ヤマダホールディングス)と、プリンセス駅伝1区区間賞の樺沢和佳奈(24、三井住友海上)も代表レベルの力がある。
2区は積水化学の卜部が、前回まで3年連続区間賞を取っている。今年は世界陸上ブダペスト1500m代表の後藤夢(23、ユニクロ)も参戦してくるだろう。だが2区の距離が3.3kmから4.2kmに変更されたことがどう影響するか。1500mが専門で今季は故障にも苦しめられた卜部が、積水化学のメンバー争いを勝ち抜くことができるかどうか。積水化学の大物新人の山本は1区が有力という声も聞くが、2区を任されたとすれば間違いなく区間賞候補だ。積水化学の4年連続区間賞と、この区間でリードする可能性が大きくなる。
3区は日本郵政の廣中、積水化学の新谷(または佐藤)、資生堂の高島(または一山)、第一生命の小海、ワコールの東京五輪10000m代表だった安藤友香(29)、ダイハツの世界陸上ブダペスト・マラソン代表だった加世田梨花(24)、天満屋の東京五輪マラソン代表だった前田穂南(27)ら、超豪華メンバーがエース区間区間賞のタイトルを争う。
そして5区は資生堂の五島、積水化学の楠(または新谷)、日本郵政の鈴木亜、第一生命の鈴木優と、この区間でも代表選手たちが激突する。エディオンのMGC3位だった細田あい(27)、ダイハツの15年世界陸上代表だった前田彩里(31)も5区の区間上位に入ってくるだろう。
今年のクイーンズ駅伝は代表経験選手同士の争いが白熱し、その走りが間違いなく優勝争いに影響する。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
※写真は左から新谷選手(積水化学)、廣中選手(JP日本郵政G)