新谷、廣中、一山がデッドヒート 前回3区で“史上最高”と言われた競り合いが実現した背景は?【クイーンズ駅伝プレビュー】

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2023-11-20 12:09
新谷、廣中、一山がデッドヒート 前回3区で“史上最高”と言われた競り合いが実現した背景は?【クイーンズ駅伝プレビュー】

クイーンズ駅伝3区は10.6kmの最長区間で各チームはエース、またはスピードのある準エースを投入する。どのチームも上位の流れに乗りたいため、ここで熾烈な争いが展開される。

女子駅伝日本一を決めるクイーンズ駅伝が11月26日に、宮城県松島町をスタートし、仙台市にフィニッシュする6区間42.195kmのコースに25チームが参加して行われる。

昨年の3区は“史上最高の競り合い”と言われた展開になった。10000mの日本記録保持者で13年世界陸上5位入賞の新谷仁美(35、積水化学)、5000m日本記録保持者(当時)で21年東京五輪10000m7位入賞者の廣中璃梨佳(23、JP日本郵政グループ)、そして東京五輪マラソン8位入賞の一山麻緒(26、資生堂)が火の出るようなデッドヒートを展開した。駅伝に懸ける思いが走りに現れやすい状況だったことで、見る側にもそこがストレートに伝わった。今年も3区は目が離せない戦いになる。

3区終盤のトップ交替 資生堂2度目の優勝につながった一山の踏ん張り

昨年の3区は終盤で、3人の選手が入れ替わりトップに立った。最初の首位交代は8.3kmだった。日本郵政・廣中がトップを走り続けていた資生堂・一山の前に出た。東京五輪の10000mとマラソンの入賞者同士。駅伝の実績では、中学生の時から全ての区間賞を取り続けている廣中が上だが、一山も意地を見せた。7.9kmで追いつかれたが、0.4kmほど前を譲らなかった。

そのシーンを一山は「一番で渡したい気持ちがありましたから」と振り返る。「(抜かれる覚悟もあったが)簡単に行かせたくなかったんです」。1分ほどしか粘ることができなかったが、一山が意地を見せ、そこで気持ちにスイッチを入れたことがよかった。8.9kmから廣中に引き離され、9.1kmでは新谷にも抜かれたが、差は大きく広げられなかった。

「抜かれてからは2人の背中を遠くに行かせないように、背中を見ながら粘りました」

一山はトップで中継した日本郵政・廣中から12秒差、2位で中継した積水化学・新谷から10秒差で4区にタスキを渡した。ジュディ・チェプンゲティッチ(20)が区間賞の走りでトップに進出し、続く5区の五島莉乃(26)も連続区間賞の走りを見せ、資生堂は2度目の優勝を確実にした。

今年も資生堂は区間配置が複数パターン考えられ、1区・一山、3区・高島由香(35)の可能性もある。新加入の井手彩乃(24)は2年連続2区で好走しているが、1区起用の可能性もゼロではない。しかし五島の5区は有力といわれている。五島が5区なら3区終了時点で、一番のライバルである積水化学から30秒くらいの差にとどめておけば、昨年のように逆転が可能になる。

新谷に追いつかれながらも突き放した廣中

第2中継所を3区の選手たちは、以下のような順位とトップからのタイム差で走り出た。

1位・資生堂(一山麻緒)
30秒差の2位・ヤマダホールディングス(筒井咲帆)
30秒差の3位・豊田自動織機(川口桃佳)
47秒差の4位・日本郵政(廣中璃梨佳)
50秒差の5位・積水化学(新谷仁美)
51秒差の6位・ダイハツ(加世田梨花)

すぐに新谷と加世田が廣中に追いつき、3チームが集団で前を追い上げ始めた。2km通過は廣中が6分09秒(非公式。以下同)で、トップの一山との差を10秒ほど詰めていた。だが意外にも、2.1km付近で新谷が後れ始めた。「懺悔しながら走っていました」と新谷。「体がまだ鈍っていた時だったので、スタートの時も不安だな、っていう感じはありました」。

廣中は3.6kmで2位争いをしていたヤマダホールディングスと豊田自動織機に追いつと、4kmからリードを奪って単独2位に。5kmは15分33秒で通過し、一山との差を20秒にまで縮めていた。そして7.9kmで一山に追いつき、8.9kmからリードを奪って単独トップに躍り出た。

だが一度後れた新谷が、一定の差を保ちながら立て直していた。そして驚くべきことに、10.3kmで廣中の前に出たのである。3区で2度目の首位交代だった。新谷は3年前の20年に3区の区間記録をマークし、その翌月には10000mの日本記録(30分20秒44)を樹立した。10km前後のスピードが最も高かった時期である。

しかし昨年は、世界陸上オレゴンで30分39秒71の日本歴代2位をマークした廣中の方が、スピードでは上だったかもしれない。一度は数m後れかけた廣中が、10.5kmで新谷に並んだ。10.6kmでタスキを取ると、10.7kmで腕を大きく振ってスパート。新谷を2秒引き離して4区に中継した。

「新谷さんが追い上げてきているのは、ラスト2~1kmくらいのところから感じていました。(並ばれてから新谷の様子を見る余裕は)ありませんでしたが、どこでタスキ取って、どこで仕掛けるか、見極めようとはしていましたね。1番でタスキをつなぎたい思いが強かったので、スパートでは絶対に負けない、という気持ちで走りました。1番でつなぐ気持ち以上に、1秒でも早く4区にタスキを渡すんだ、という気持ちの方が強かったですね」

結果的に新谷に1秒差で区間2位。廣中の中学から続いていた連続区間賞は途切れたが、そのことに悔いはない。廣中はチームのことだけを考えて駅伝を走っているからだ。駆け引きはいっさいしないで、チームのために1秒でもタイムを稼ぐ。自分の力を100%出し切る。それがチームの成績を上げることになる。日本郵政は4区で2位に、5区で3位に後退した。前年の4位から1つ順位を上げることには成功したが、V奪回はできなかった。

今年もクイーンズ駅伝には、前年より成長することをテーマに臨む。廣中自身は世界陸上10000mで7位と、東京五輪に続く入賞を成し遂げた。地元五輪は勢いに乗っていた側面もあったが、2度目の入賞で地力アップを証明した。2区終了時のトップとの差が昨年は47秒だったが、それを20秒程度の差にできれば、日本郵政が3区の廣中で大きなリードを奪う展開が可能になる。

新谷がスピードを武器とするマラソン選手だからできたレース展開

驚かされたのは序盤で後れた新谷が、後半でトップに立つまで持ち直したことだ。スピードで突っ走る3区では、珍しいと言っていい現象だった。新谷はどうして立て直すことができたのか。「対策という意味での練習はあまりしません」と新谷。一度後れてから追い上げるメニューをやっているわけではない。

「しかし調子が悪くて、ポイント練習のタイムがどんどん落ちていくことはあって、そこで持ちこたえなければ、と頑張るクセをつけておけば、試合につながると思います」

距離が短い2区や4区では、長距離選手では立て直せないという。一斉スタートの1区が一番、リズムが崩れても戻しやすいという。同じ10km区間の3区と5区では、3区の方が立て直しやすい。

「3区は差が付いても、後半区間ほどは大きくなりません。コースも直線なので前が見えるんです。5区だと曲がり角も多いし、コース自体が(起伏が多く)タフなので難しくなります。3区だからできたと思います」

メンタル面も前向きだった。スタート時に体の“鈍さ”を感じていたし、昨シーズンの成績から「スピードだったら廣中さんの方が全然上」と感じていた。それでも「ここで速い動きをできればマラソンに上手くつながる」とポジティブに考えられた。「私は実業団に入ってずっとマラソンをやっている選手ではなく、5000mや10000mをベースに練習を行っています。多少鈍くても、極端な不安はありませんでした」。

トラックのスピードを武器にマラソンに挑戦している新谷だからこそ、驚異的な追い上げと廣中とのデッドヒートができた。

クイーンズ駅伝が世界へのステップに

新谷はクイーンズ駅伝から2か月も経たない今年1月15日に、ヒューストン・マラソンで日本歴代2位の2時間19分24秒をマークした。駅伝のレース直後には「タイムも遅いし、序盤は懺悔しながら走ったくらいなので、マラソンにはつながりません」とコメントした。しかしスタミナではなく、スピードを基に42.195kmを組み立てている新谷の特徴が、昨年の3区で確認できた。それをヒューストン・マラソンにつなげたと言って、間違いではないだろう。

廣中は今年の世界陸上ブダペストで、これまでとはレーススタイルを変更し、ラスト勝負で世界に挑んだ。昨年の世界陸上オレゴンまでは、自身が先頭に立って先頭集団の人数を絞るレース戦術だった。21年の東京五輪と同じ7位だが、それを違うレースパターンで勝ち取った。世界と戦えた手応えは大きかった。

「2年前より、どの選手が強いのかわかっています。みんな1500mや5000mもやっているから強い。それをつねに頭に置いてやってきて、その結果として新しいパターンで入賞を勝ち取れたのは本当にうれしいです」

今年に入ってから短距離的なドリル(動きを作るためのメニュー)を取り入れたり、初めてサンモリッツ(スイスの高地トレーニング場所)で合宿し、スピードの高いメニューに取り組んだ。それらが2度目の入賞の要因になったが、昨年のクイーンズ駅伝もラスト勝負にトライするきっかけにはなった。

一山は10月のMGCで、23kmからスパートして独走に持ち込んだ。しかし終盤で脚が止まり、優勝した鈴木優花(24、第一生命グループ)に40km手前で抜かれて2位に終わった。勝負には敗れたがパリ五輪代表を獲得できたのは、鈴木に抜かれてからも粘ることができたからだ。一山自身はMGCを「粘れなかった」と納得していない。だが、MGC終盤の走りの片鱗を、昨年のクイーンズ駅伝で見せていたのは事実である。

昨年の3区でトップを走った3人は、完璧なパフォーマンスにはならなかったかもしれないが、23年シーズンで結果を出すことに成功した。駅伝で力尽きてしまわないトレーニングをすることが前提だが、駅伝のハイレベルの戦いは、世界と戦うことにつながっていく。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
※写真は左から新谷選手(積水化学)、廣中選手(JP日本郵政G)、一山選手(資生堂)

  1. ママさんに嫉妬?パパさんの体の上でくつろぐ猫。そこにママさんがやってくると・・!!【海外・動画】
  2. 【速報】岸田総理「国民から疑念もたれていることは大変遺憾」安倍派パーティー収入未記載の“裏金”疑惑めぐり
  3. 毛繕いが大変すぎて…まさかの絶望!?心が折れてポテンとなる猫ちゃんが可愛すぎる♡
  4. ふわふわ4ヵ月のトイプードルさんがトリミングで大変身!可愛すぎるそのお姿に「うっかり見惚れた」「見てて気持ち良い」大絶賛
  5. 春Vの桐蔭学園、連覇を目指す東福岡は2回戦から登場 27日開幕【全国高校ラグビー組み合わせ】
  6. 秋元康 総合プロデュース『WHITE SCORPION』 デビュー曲「眼差しSniper」リリースイベント開催!! HANNAは「皆さん!私たちに撃ち抜かれましたか?」
  7. 中国 王毅政治局員兼外相がベトナム グエン・フー・チョン共産党書記長と会談し、両国関係強化で一致
  8. 【脳トレ】「摩」の中に紛れて1つ違う文字がある!?あなたは何秒で探し出せるかな??【違う文字を探せ!】
  9. 頭もお尻も隠しきれていない弟猫くんに大興奮の兄猫くん!?
  10. 「生活費がほしくて…」 70代女性を切りつけ、暴行、現金奪ったか 女(42)を逮捕 女性は重傷 千葉・木更津市
  1. 東京ヴェルディ 16年振りのJ1昇格決定!プレーオフ決勝で清水エスパルスと引き分け 後半アディショナルタイムでPK決める【サッカー】
  2. 横浜市・保土ヶ谷区の雑木林で火災 けが人情報なし
  3. 【訃報】脚本家・山田太一さんへ追悼の言葉 【柳沢慎吾】「あの時代が本当に今でも恋しくて、もう一度、山田先生とご一緒したい」
  4. 大型トラックのタイヤが外れ直撃…男性作業員死亡 運送会社「被害者の方に大変申し訳なく思っている」 青森
  5. 清水は勝利目前で悪夢...クラブ初の2年連続J2、土壇場のPK弾で追いつかれ1年でJ1復帰叶わず【J1昇格プレーオフ決勝】
  6. 【バレー】全日本インカレ女子準決勝 前回女王の東海大・宮部愛芽世が激戦制す 決勝で筑波大・佐藤淑乃と日本代表対決へ
  7. 遠野なぎこさん 結婚に向けて前進「結婚のお話。ちゃんと、具体的にしたよ」続く投稿で「4度目の結婚を正式に決めた事」「人の目を気にして生きるつもりはないのです」
  8. 「私や家族はずっと苦しんできました」侮辱罪で男性略式起訴 旧統一教会・元2世信者小川さゆりさんコメント
  9. 「まるで天国」「可愛すぎて心臓いたい」生後一ヵ月を迎えた子猫の一日 圧倒的な破壊力を見せつけ『しんどい』悶絶する人続出
  10. 【速報】岸田総理「国民から疑念もたれていることは大変遺憾」安倍派パーティー収入未記載の“裏金”疑惑めぐり
  11. 【西武】佐藤隼輔が1400万アップの3000万でサイン「勝利に欠かせないピースに」
  12. “最後の課題”新型コロナ後遺症治療の最前線 電磁波で脳を活性化 「ブレインフォグはなぜ起こるのか?」原因に迫る臨床研究の現場に密着【news23】
  1. 一緒にいたいワン!どうしても運転席側に行きたい愛犬が可愛らしいと話題に!「うちの子もこれは絶対やる」
  2. 「コーンスターチ」と「片栗粉」は何が違う?お互いに代用は可能?
  3. 【読めたらスゴイ!】「大口魚」ってどんな魚?「小口魚」もあるの?この漢字、あなたは読めますか?
  4. 雪原で大きな木の枝を見つけた犬。気に入ったので持ち帰ろうとしますが・・、大きすぎるし足元は不安定だしで運ぶのが大変そう!!
  5. タラバガニは、カニではなくヤドカリの仲間!?カニとの明確な相違点は?
  6. 「iPhone再来」を狙うのか!?Appleがゴーグル型新端末『Vision Pro』を発表!未来すぎると世界で驚きの声
  7. 数ある神様の中で最強の神様は一体誰?逸話から考えた最強の神ランキング
  8. お散歩から帰宅するも、足ふきをされないことでお風呂行きを悟った柴犬が話題に!「察してヘコむ姿が可愛すぎる」
  9. 大きな殻付きの落花生が2つ。近寄ってきたリスは、どちらもほっぺたの中に入れると走り去っていくのでした!!
  10. 子供を見守るパパ?オーストラリアン・キャトル・ドッグはウロチョロする子ブタに寄り添います【アメリカ・動画】
  11. クレートに戻るように言われる愛犬。しかし、パパさんたちと一緒にいたいのか頑なに動こうとしません!!【アメリカ・動画】
  12. 【違う文字を探せ!】「末」の中に紛れて1つ違う文字がある!?あなたは何秒で探し出せるかな??【脳トレ】

キューブ・ソフトからのお知らせ