潤う企業と苦しむ家計、景況感の“乖離”広がる【播摩卓士の経済コラム】

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2024-02-10 14:00
潤う企業と苦しむ家計、景況感の“乖離”広がる【播摩卓士の経済コラム】

2023年の10-12月期決算発表がピークを迎え、トヨタ自動車を筆頭に好調な決算が相次いでいます。

【写真を見る】潤う企業と苦しむ家計、景況感の“乖離”広がる【播摩卓士の経済コラム】

3月までの通期決算見通しも上方修正する企業が目白押しです。

その一方、賃金は物価に追いつかず、2023年の実質賃金は2.5%もの大幅な減少となりました。企業と家計で経済の風景は、かなり違っています。

トヨタの純利益は初の4兆円台へ

トヨタ自動車は6日、2024年3月期の純利益について、4兆5000億円になるとの見通しを明らかにしました。

これまでの予想を5500億円も上方修正したもので、年間純利益が4兆円を突破するのは初めてのことです。

グループ内のダイハツや豊田自動織機の認証不正による出荷見合わせでグループの世界販売台数は幾分引き下げたものの、売上高は43兆5000億円と過去最高を見込んでいます。

絶好調と言ってよい業績は、得意の原価低減に加え、ハイブリッド車など採算性の良い車の販売増など、まさに「トヨタの強さ」の賜物ですが、為替の円安効果や、インフレを受けた値上げの効果など、外部環境も貢献しています。

円安と価格転嫁で業績の上方修正相次ぐ

トヨタほどではないにしても、輸出企業を中心に好決算が相次いでおり、SMBC日興証券のまとめによれば、8日時点でTOPIX採用企業の957社の2023年4-12月期の決算は、売上高が前年比6.2%増加し、純利益は22.2%もの大幅な増加になっています。

24年3月期の純利益の見通しも、上方修正が194社なのに対し、下方修正は91社にとどまっていて、全体の増益率は15.2%に達しています。

輸出企業の好業績の大きな要因は円安です。海外での販売や利益の額が、円建てでは円安のおかげで大きくなることが効いています。

またインフレによって、国内外ともに販売価格そのものを値上げすることが可能になっており、価格転嫁ができているからです。

つい最近までデフレマインドを引きずっていた日本国内でさえ、値上げラッシュのおかげで、「価格転嫁はもう十分やれた」といった声が漏れ聞こえてくるほどです。

実質賃金2.5%減少の衝撃

しかし、円安と価格転嫁は、日本国内の家計には大きな重荷です。

賃金が物価に追いつかないどころか、引き離される状況になっています。

6日発表された毎月勤労統計によれば、物価上昇分を差し引いた23年12月の実質賃金は、前年比1.9%の減少で、なんと21か月連続でマイナスです。減少幅は半年ぶりに2%を下回ったものの、プラスには程遠い数字です。

2023年通年でみると、実質賃金は前年比2.5%もの減少で、減少幅は22年の1.0%マイナスから大きく拡大しました。

物価上昇率が高かったことが実質賃金のマイナス幅拡大の大きな要因ですが、実は名目賃金の伸びが鈍化したことも効いています。

2023年の名目賃金である現金給与総額は、1.2%の増加で、2022年の2.0%増から増加幅が小さくなりました。

賃上げ機運が高まっているように見えるものの、実際に支払われた賃金の伸び率は低下していたのですから、「好循環に近づいている」をいう説明は、虚しく響きます。

実質賃金の伸び率に加えてもう一つ注目すべきなのは、実質賃金の水準そのものです。

2020年を100とした指数は、2023年は97.1でした。この数字は比較できる1990年以降では実は最低の数字なのです。

1990年の実質賃金指数は111.8、最も高かった96年は116.5でした。90年代初頭に比べて、実質の実入りはなんと貧しくなったことでしょうか。

実質賃金が少なくともプラスに反転しない限り、「好循環が始まった」とは、とても言えないでしょう。

企業と家計で全く異なる景況感

第一生命経済研究所の永濱利廣氏は、企業と家計の景況感の乖離が過去最高水準になっていると指摘します。

永濱氏によれば、企業=「日銀短観の業況判断指数」と、家計=同じ日銀の「生活意識に関するアンケート調査の景況感指数」を比較すると、歴史的には正の相関関係、つまり概ね同じような動きをしてきました。

企業の景況感が良くなっている時は、家計の景況感も良くなっていくというわけで、確かに自然な流れです。

しかし、2022年後半以降、企業の景況感がどんどん改善しているのに対し、家計の景況感指数は悪化し、真逆の動きをしているのだそうです。

永濱氏は、「景気判断が困難になっている」と言います。

可処分所得を増やす政策こそ最優先

家計の景況感を好転させるには、春闘などを通じて名目賃金を可能な限り引き上げると共に、物価上昇を緩やかにすることが必要です。

インフレをモデレートにするための円安是正も有効な手段です。

これに加えて岸田政権は、6月の定額減税実施を通じて、実質所得をプラスに導くシナリオを描いています。

そうだとすれば、家計の負担増を求める政策は、少なくとも今は、封印すべき時でしょう。

「子育て支援金」と称して医療保険料を引き上げ、岸田総理の言う「粗い試算」で、「1人月500円弱の負担増」を求める案など、もってのほかです。

経済政策に整合性が必要な、とても大事な時です。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)