女子は樺沢が残り1kmで競り勝ちパリ五輪5000m代表入りに意欲 西山、土井、菊地がパリ五輪男子マラソン3枠目に手応え【全日本実業団ハーフマラソン】

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2024-02-13 11:57
女子は樺沢が残り1kmで競り勝ちパリ五輪5000m代表入りに意欲 西山、土井、菊地がパリ五輪男子マラソン3枠目に手応え【全日本実業団ハーフマラソン】

第52回全日本実業団ハーフマラソンが2月11日、山口市の維新みらいふスタジアムを発着点とする21.0975kmのコースで行われた。女子は6年ぶりハーフマラソン出場だった樺沢和佳奈(24、三井住友海上)が、1時間10分13秒で優勝。終盤まで健闘していた西村美月(19、天満屋)を残り1kmからのスパートで引き離した。男子ではパリ五輪マラソン3枠目を狙う西山和弥(25、トヨタ自動車)、菊地駿弥(25、中国電力)、土井大輔(27、黒崎播磨)の3人が、予定通りのタイムで走りきった。

樺沢が原点の場所・山口からパリへ

5kmは17分09秒、10kmは33分49秒の通過。樺沢は「スローの展開だった」と感じながらも、自ら速いペースに持ち込もうとはしなかった。

「(11.81kmの)折り返し直後に少し、トップに出たシーンがありました。良い感じ、行っちゃおうかな、とも思ったのですが、優勝したい思いがよぎって行けませんでしたね。呼吸は楽で、はーはー言うことはなかったのですが、脚は意外と張っていましたし。マラソンは30km以降に急にキツくなると聞いてますから、ハーフマラソンもラスト3kmとかで止まってしまったら、終わってしまうこともあるのかな、と」

大学1年時以来6年ぶりの21.0975km出場で、自身の余力を正確に判断できなかった可能性もあるが、今の樺沢にとって一番重要なのは、「パリ五輪の5000m出場」につなげることだった。そのためには“ハーフマラソンの終盤で失速しないこと”が必要だった。

長い距離の練習をすることでもスピードが上がる。そのタイプのランナーであることは、昨年9月の全日本実業団陸上で実証済み。夏に30km走を4、5本行っても、1500mで4分11秒53の自己新、シーズン日本4位記録を出した。

ハーフマラソンを走り切れば、トラックシーズンに入ってからも、長い練習メニューの設定タイムを上げられる。だが今大会で失速したら、自信を持ってそれができなくなる。樺沢にとってレース終盤での失速は、絶対に起きてはいけない大会だったのだ。それをするために優勝にこだわった。

そんな樺沢が終盤を強気で走ることができたのは、一番は練習してきた内容への自信だった。夏に続き年末年始も、持久系の練習を多く行ってきた。直前の実業団連合合宿では集団の中でも動きを乱さない走りをシミュレーションできたし、10km変化走+5000mではトップで走り切った。

そしてメンタル的にも「全国中学駅伝のときに泊まっていたホテルが、この大会のラスト3kmのところにあった」ことが、樺沢の終盤の走りを勇気づけた。

樺沢は中学時代に個人でも全国優勝(ジュニアオリンピック3000m)した選手だが、全国中学駅伝にも3年間出場し、2、3年時には2連勝を果たした。高校1年時も国体1500m優勝し、2年時にはU18世界陸上、3年時にはU20世界陸上の日本代表に選ばれた。

大学、実業団でも全国大会入賞レベルは維持してきたが、五輪&世界陸上で入賞している1学年下の田中希実(24、New Balance)や、2学年下の廣中璃梨佳(23、JP日本郵政グループ)らに差を開けられている。しかし昨シーズンは5000mで15分18秒76の自己新、田中、廣中に続くシーズン日本3位のタイムを出した。パリ五輪参加標準記録の、14分52秒00を目指す段階まで成長した。

「全国中学駅伝は、陸上競技を極めていこうと思った最初の大会、きっかけなんです」そのときに泊まったホテルを10年ぶりに目にしたことが、ハーフマラソンの走りを後押しした。自身の原点と今がつながったと感じた樺沢の、パリ五輪に向かう意欲が増す大会になった。

前田穂南ら先輩たちの背中を追う西村

樺沢には敗れたものの、19歳の西村美月の2位は大健闘だった。高卒ルーキーのハーフマラソン出場を後押ししたのは、1月に2時間18分59秒の日本新で走り、パリ五輪女子マラソン3枠目代表の可能性がある前田穂南(27)ら、天満屋の先輩たちの存在が大きかった。

西村の今大会の目標は「1時間11分を切ること」だった。「(五輪女子マラソン代表5人を出してきた)天満屋の先輩方を含めオリンピックに行かれた選手たちは、高卒1年目から1時間11分台前半を出されている選手も多かったりします。去年の大学生の記録とかも見させていただいたときに、1時間10分台を出せたら1年目として良いスタートが切れると思いました」その記録を目標にできたのはやはり、天満屋の練習と先輩たちの存在があったからだ。

「前田先輩をはじめマラソンをやられている先輩たちの練習と比べたら、足元にも及ばないくらいしかまだやっていません。でも他の高卒1年目選手と比べたら、自分が絶対に一番距離を踏んでいる自信があります。それと天満屋の朝練習を1年間継続してできたら、それだけで体力がつく。武冨豊監督からはそう言われている練習を毎日こなすことができて、最近は(本練習で)20km以上の距離走がしっかりこなせています」

プリンセス駅伝6区区間賞の実績はあるが、5000mの自己記録は16分17秒14に過ぎない。全国都道府県対抗女子駅伝1区でも区間27位だった。それでも格上の選手たちを相手に積極的な走りができた。上述の理由に加え、19年世界陸上ドーハ大会マラソン7位入賞の谷本観月(29、全国都道府県対抗女子駅伝6区区間賞を最後に引退)から、具体的なアドバイスを受けたことで勇気を持った。

「西村なら絶対に行けるから、と何度も言ってくださいました。先輩方が今回走っていたらここで行くはずだから、という思いもあったんです。それが走っているときの自信になりました」

今後の目標を「少しでも先輩方に追いつけるような走りをして、前田先輩みたいに人に感動を与えられるような走りをしたいです。マラソンにも挑戦していきたい」と力強く話す。

前田は入社2年目で初マラソンに出場し、3年目(18年)の北海道マラソンに優勝。翌19年のMGCに優勝して東京五輪代表入りを決めた。西村の気持ちがそこに向いているのなら、先輩の背中は絶好の目標となる。

男子マラソン前哨戦トリオは全員が手応え

男子ではMGCファイナルチャレンジ2大会(2月25日の大阪マラソンと3月3日の東京マラソン)に出場する西山和弥、菊地駿弥、土井大輔の3人の走りが注目された。10月のMGCで優勝した小山直城(27、Honda)と2位の赤﨑暁(26、九電工)がパリ五輪代表に内定済み。ファイナルチャレンジで2時間05分50秒をクリアした記録最上位選手が、パリ五輪代表3人目に内定する。

3人とも全日本実業団ハーフマラソンは、マラソンにつなげることが出場目的。タイムはあくまでも目安だったが、土井が1時間00分51秒(6位)、菊地が1時間00分57秒(9位)、西山が1時間01分42秒(25位)で走った。

東京マラソンに出場する西山は、レース前は1時間1分台を目安としていた。「予定通りです。良いスピード練習になりました。まだ(脚の裏側の付け根に)詰まりがあるので、表情が険しくはなるんですけど、呼吸とかキツくなかったですし、ゴール後もあまりダメージはありません。痛み自体はありますが、(走りは)良い感じだと思います」

昨年2月の大阪マラソンで2時間06分45秒、初マラソン日本最高で日本人トップの6位と健闘した。8月の世界陸上ブダペストに出場したが、前述の脚の痛みがあって42位に終わった。12月までは追い込んだ練習ができていない。

「甘くないと思いますが、最後まであきらめずにファイナルチャレンジ設定記録に挑戦します。世界陸上の苦い思い出や悔しい思いをもってここまでやってきたので、それを最後に見せられれば」

やはり東京マラソンに出場する菊地は、「1時間0分30秒」を目安に走った。30秒以上上振れしたが、予定通りの範囲だったことを強調した。

「2分52~54秒を刻むのがちょうど良い。走っていてそう感じたので、61分をちょっと切るくらいと予想していました。予定通りに7割、8割で走って、最後の1、2kmだけガッと上げました。(マラソンにつなげる)イメージ通りの走りができましたね。東京では良いタイムが出せるんじゃないか。自分で自分が楽しみな感じです」長距離関係者の間でも、菊地に記録を期待できるという声が多くなっている。

東京マラソンを走る2人が抑えた走りをしたのに対し、土井だけは「全力」で走り切った。マラソンまでのインターバルも、1人だけ2週間と短い。

「1時間0分台は、練習がかなりできていたので、タイムを狙っていたわけではありませんが、普通に走れば届くだろうな、と思っていました。黒崎播磨のマラソンへの流れとして、このハーフマラソンを全力で走らないと、2週間後のマラソンで体が動きません。それが前提にあるので、ここに向けて調整してきたわけではありませんが、今日はほぼ全力という形で走りました。その上で1時間0分台が結果としてついて来たのは、ちょっと自信を持てる部分にはなります」

大阪マラソンでの目標タイムは「2時間7分切り」と、ファイナルチャレンジ設定記録は目標としない。これは「自分の走りに集中する」ためで、「練習の手応えは、その先も」感じている。全日本実業団ハーフマラソンは、全国タイトルであり、そこで好成績を収めることにも価値がある。だが、次の大会につなげていく要素も強い。

パリ五輪につなげたい樺沢と男子の3選手、天満屋の先輩を追って成長したい西村。彼らの“今後”も見続けていくことで、今回の全日本実業団ハーフマラソンの意味が大きくなる。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)

※写真は左から樺沢和佳奈選手、菊地駿弥選手