大会前日に区間エントリーが発表され、3強と目されていた積水化学、資生堂、第一生命グループに、JP日本郵政グループも加えた4強という見方が出てきた。
女子駅伝日本一を決めるクイーンズ駅伝が11月24日、宮城県松島町をスタートし、仙台市にフィニッシュする6区間42.195kmのコースに24チームが参加して行われる。
前回優勝の積水化学は、4区に前回故障で欠場した楠莉奈(30)が入った以外は、5区区間が同じメンバー。たとえミスが生じたとしても、どの区間からでも攻勢に転じられる。
資生堂は4区(3.6km)のインターナショナル区間に、3区(10.6km)か5区(10.0km)が有力と思われたパリ五輪10000m代表の高島由香(36)を起用。3区のパリ五輪10000m代表の五島莉乃(27)でトップに立ち、その差を4区で広げるレースプランだ。
第一生命グループは1区(7.0km)にパリ五輪マラソン6位の鈴木優花(25)を起用。得意の上り坂で区間上位に食い込み、3区のパリ五輪10000m代表の小海遥(21)でリードを奪いたい。
そして23年世界陸上10000m7位入賞の廣中璃梨佳(24)が、前日に行われた記者会見でも復調をアピール。3区の廣中と4区のカリバ・カロライン(20)でトップに立つ可能性も十分にある。
万全の積水化学 短い2区でも山本が他チームの脅威に
積水化学が2連覇に向け、4区以外は同じメンバーを組んだが、多くの選手が“昨年以上”を期待できる。
その筆頭とも言えるのが1区の田浦英理歌(24)だ。昨年は楠が直前で故障をしたため、ピンチヒッター的に起用された。メンバー争いでは4区候補だったが、単独走に不安があったことと、上り坂の強さを買われて1区になった。その田浦がこの1年で大きく成長。
(詳細はこちらの記事https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/1561752)
野口英盛監督は「今後の成長も期待して(10km区間の)3区か5区に行ってみようか」と一時は考えたという。
最終的に同じ1区になったが、昨年以上の走りをすることは間違いない。1区に起用された鈴木優花や日本選手権10000m5位の菅田雅香(23、JP日本郵政グループ)、プリンセス駅伝1区区間賞の伊澤菜々花(33、スターツ)、同駅伝5区区間賞の棚池穂乃香(27、大塚製薬)らとの区間賞争いから、抜け出す可能性もある。
しかし積水化学は2区(4.2km)に山本有真(24)がいるので、田浦も気持ち的にゆとりが持てる。前日会見での山本は手応え十分の様子で語った。「1区が良い流れで来たらさらに良くしたいと思いますし、万が一悪い流れで来たとしても、自分のところで良い流れに変えたいと思っています。名城大時代に全日本大学駅伝で4連覇しましたが、どういう位置でもらっても対応できました。私は駅伝には自信があります。積水化学2連覇の立役者になって、駅伝(全国大会)6連覇したいです」。
3区の佐藤早也伽(30)はどんなに速く前半を入っても、レース後半で必ず粘りを見せる選手。昨年の状態よりいいことを強調している。5区の新谷も同様に、スピードが落ちていた昨年シーズン後半より「スピードのベースがある」と明言した。
そしてアンカーの6区森智香子(31)は、優勝が決まっていればタイムも気にしながら走るという。「後ろとの差を気にして走り方を変えることはありません。自分が目標とする区間のタイムを目指して走るだけです。総合タイムで2時間11分台を出さなければいけないので、そこから逆算して6区のタイムが決まります」。
野口監督は前回優勝したときから、相手を見て目標を立てるのではなく、2時間11分台を出すことを目標としてきた。チームに緊張感を持たせるには、その方が良いと判断した。そのために各選手に、昨年の自分より成長することを求めてきた。
2区の山本が会見で「去年の練習より良い練習ができています。明日は去年(13分13秒で区間1位)より良い走りをします」と話したことに、チームのスタンスが表れていた。
資生堂と第一生命グループは後半区間の選手の踏ん張りが必要
資生堂はパリ五輪代表の2人、五島を3区、高島を4区に配置した。パリ五輪マラソン代表の一山麻緒(27)が5区。1区を新人で秋に5000mの自己新を出した風間歩佳(23)に任せ、2区に毎年この区間を区間上位で走っている井手彩乃(25)を起用。風間の成長を考えれば1、2区をこの2人に任せ、3区の五島でトップに立つ。そのレースプランは予想できた。
だが前回5区区間賞の高島の4区には驚かされた。前回4区区間賞のジュディ・ジェプングティチ(21)がエントリーできなかったからだが、一山が秋の5000mでは不調だっただけに、4区で逆転されても5区の高島で再逆転する布陣を組むと思われた。
青野宰明監督(43)は区間配置の理由を次のように話した。「一山が5区を走れる目途が立ったからです。1区の風間は上りが得意なことが1区起用の決め手です。理想は区間トップですが20秒以内では持って来てもらいたい。絶好調の五島でトップに立てば、4区でさらに差を広げられます」。
4区で差を広げ、そのリードを5区の一山が積水化学の新谷から逃げ切れるか。後半区間選手たちの踏ん張りが重要になる。
第一生命グループは2区の樋口ほのか(19)が今季の成長株だが、実績では積水化学の山本、資生堂の井手、JP日本郵政グループの牛佳慧(24)らに比べると劣る。樋口がプレッシャーを感じないためにも、1区の鈴木優花に区間賞か区間上位の走りが必要だ。2区終了時に20程度の差なら、今の小海はトップに追いつくことも可能だろう。
鈴木が会見で、自身と小海の区間配置について次のように話していた。「私は当初から1、3、5区のどの区間でもいいと言っていました。遥ちゃんが1区に行くのがいいか、3区に行くのがいいかを考えたとき、遥ちゃんが10.6kmの3区に行った方が10000mで培った力を発揮できます。その方が組み合わせとしては理にかなっているというか。私のスピードが1区でどこまで通用するかわかりませんが、今までマラソンは走れても駅伝は走れていなかったので、1区でチームを勢いづける走りをしっかりしたいと思います」。
早瀬浩二監督も「小海のブレイクスルーを期待している」と言う。「小海がノビノビ走れる位置で1、2区をつないでくれたら、小海も殻を破るチャンスになると思います」。
鈴木と早瀬監督の言葉からも、今の小海は力がついていることがわかる。昨年距離が変更された区間で、前回区間賞の廣中の33分04秒が区間記録だが、小海には区間新記録でトップに立つことが期待できそうだ。
第一生命グループも課題は4区以降になる。21年大会でエース区間の3区を走った原田紋里(26)や、昨年2区区間4位の櫻川響晶(22)、前回5区区間9位の飛田凜香(23)が起用できなかった。4区は名城大時代に大学女子駅伝で活躍した増渕祐香(22)、5区に1区を多く任されてきた出水田眞紀(28)、6区に松本奈々(24)が起用された。「出水田はもともとハーフマラソンまで走れる選手です。増渕はスピードというより、走力自体がある。日本郵政や天満屋のマラソン選手が、2区や4区の短い区間でも区間賞を取ったり区間上位で走ったりしていますが、増渕にも同じように期待しています。出水田の5区で1、3、5区が決まったとき、チーム内の10番手くらいまで良い状態だったので、2、4、6区を育てられると感じました。最後はふるいにかけるなかで、今回の3人が勝ち抜いてくれた。大学駅伝みたいに若い選手が育ってくるチームになることも理想の形の1つです。自信を持って送り出せます」。
第一生命グループがチームとして活性化されていることは、
こちらの記事(https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/1567101)で紹介した。
後半区間の選手が踏ん張れば、目標としている3位以内を実現できる。
JP日本郵政グループは3~4区でトップに立つ可能性
当初は3強と言われていた今年のクイーンズ駅伝だが、こちらの記事(https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/1572879)で紹介したように、廣中璃梨佳の復調が十分に見込めることがわかり、JP日本郵政グループも含め4強と見る意見が指導者間でも出始めた。
1区の菅田は日本選手権10000m5位、区間上位でつなぐだろう。2区の牛は昨年も2区で区間2位。「牛も昨年と同じくらいの調子です。1、2区は良い位置でつなげると思います」と髙橋昌彦監督。
3区の廣中が前述のように、今年まったく試合に出ていない。クイーンズ駅伝3区がぶっつけ本番になるが、その点に不安はないかを髙橋昌彦監督に確認した。「一時期は廣中1区、菅田3区を考えましたが、廣中の状態が上がり始めて、1区で数秒抜け出すより、3区で大きくタイムを稼ぐ方がいいと考えました。そして4区に、これまではチームで6番目の選手を置いていましたが、今年は一番強いカロラインを起用できます。廣中は未知数のところもありますが、カロラインが控えていることでのびのび走ることができます。廣中くらいの選手は良いリズムで練習ができていれば、レースに出なくても自分で上がり方がわかります」。
髙橋監督は3、4区でトップに立つ展開を考えている。
その展開に持ち込めたとき、勝負を決するのは5区の鈴木亜由子(33)になる。JP日本郵政グループが創部した14年から在籍している唯一の選手で、今年で10年連続出場になる。名古屋ウィメンズマラソンで2時間21分33秒の自己新で3位(日本人2位)。パリ五輪代表入りは惜しくも逃したが、その後、現役続行を決意した。
だが名古屋後はレース出場も少ない。一時期は駅伝メンバーに入れない可能性も、髙橋監督は口にしていた。しかし今は「長い距離になれば菅田より強い」という状態まで上げてきた。「理想は廣中でトップに立って、カロラインで差を広げることです。できれば5区に渡るときに1分くらい欲しい。鈴木は『私が5区ですか』と言っていましたね(笑)」。
髙橋監督が鈴木のコメントをメディアに笑いながら話したのは、2人の間に信頼関係があることの裏返しだろう。世界陸上とオリンピックに5000mと10000mで出場し、東京五輪にはマラソンで出場した。鈴木が日本郵政チームの成長を支えてきた功労者であるのは、誰の目から見ても明らかだ。
駅伝も前述のように10年連続で出場し続けて来た。直前に監督に不安を漏らすのは普通のことで、それでも日本郵政は3回の優勝を果たしてきた。
ただ、今年は厳しい状況になる。積水化学の新谷は10000mのタイムで、資生堂の一山はマラソンで鈴木を上回る。前半で後れなければ、9月のベルリン・マラソンで2時間20分31秒(日本歴代7位)で走ったエディオンの細田あい(28)も追い上げてくる。
JP日本郵政グループが優勝候補の1つになって、勝負が終盤に決する可能性が大きくなった。21年優勝の積水化学は3区で、22年の資生堂は4区で、23年の積水化学は3区でトップに立って逃げ切った。5区でトップに立って優勝した最後のチームは、20年の日本郵政だ。
今年のクイーンズ駅伝は、久しぶりに終盤まで勝負がもつれるかもしれない。5区にも役者が揃い、決戦の舞台は整った。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
※写真は左から廣中選手、新谷選手、高島選手