“世界のFUNAI”と呼ばれた家電メーカー・船井電機の経営破綻。「今月分の給料は出ません」。500人以上の従業員は突然、解雇されました。その裏側で一体何が起きていたのでしょうか。
【写真を見る】“世界のFUNAI”船井電機 異例づくめの破産劇「300億円」資金流出か… 消えた金の内訳判明「名門終わらせない」事業再生への動きも【news23】
元社員「“FUNAIブランド”がなくなってしまうのがショック」
東京地裁が受理した破産事件記録、事件番号(フ)第7200号。その債務者の欄には「船井電機」と書かれています。
10月、破産手続きの開始決定を受けた大阪・大東市の船井電機。ここで働いていた500人以上の社員が突如、職を失いました。
破産手続きの開始決定が出た10月24日は、実は給料日の前日。社員は急遽、本社食堂に集められ、その場でこう言い渡されたといいます。
説明会に同席した弁護士
「みなさんはきょう付で解雇ということになります。申し訳ありませんが、今月分の給料は出ません」
突然の解雇通知に、社員らも戸惑いを隠せませんでした。
船井電機の元社員
「もう笑うしかない。起きたことは仕方がない」
「何も考えていない状態で破産と聞いた。生活の不安もあるし、“FUNAIブランド”に誇りはあるし、それがなくなってしまうのが自分の中ではショック」
一世を風靡した船井電機…なぜ業績が悪化し、迷走したのか
FUNAIブランドで一時代を築いた船井電機は、1961年、ミシンの卸売業を営んでいた船井哲良氏が創業しました。
1990年代に入り、テレビとビデオが合体した「テレビデオ」で一世を風靡すると、2000年代には「液晶テレビ」の生産を開始。
高機能ではないが、低価格で品質は悪くない──そんな特性が支持され、北米でトップシェアを獲得するなど、一時は大手メーカーをしのぐ利益率を誇る企業に成長しました。
1代で世界の船井を築き、カリスマと呼ばれた哲良社長は1999年、取材に次のように答えています。
船井電機 船井哲良 社長(当時)
「こういう機会を通じてできるだけ皆さんに説明して、株主からのいろんな意見を参考にしながら経営を進めていきたい」
しかし、その後は中国企業などとの価格競争に敗れ、業績は悪化の一途。哲良氏が亡くなると、創業家は外部の経営者に立て直しを託します。
白羽の矢が立ったのが、コンサルタント会社出身で出版会社社長の男性。新たな経営陣がまずとったのは、船井電機の上場廃止でした。
この動きに、企業の信用調査をする会社の担当者は疑問を呈します。
東京商工リサーチ情報部 山本浩司 部長
「上場していると報告義務があるので経営の透明性が保たれるが、非上場になった場合、まったくクローズなのでわからない。自分の好きなようにやりやすくなる」
そして船井電機は2023年、大手脱毛サロンを買収するなど事業の多角化を進めますが、経営は迷走します。本業の赤字に加え、巨額の資金流出があったというのです。
東京商工リサーチ情報部 山本浩司 部長
「破産を申し立てた時点では、現預金がほぼすっからかんになっていた。約300億円の資金が流出したと」
流出したとされる資産300億円について、破綻直前まで社長を務めていた男性は、JNNの取材に対し「私的な出費など不正を働いた理解は一切ない」としています。
そして10月24日、突如発覚した経営破綻。創業者の親族で取締役の男性が、取締役会の決議を経ずに単独でできる「準自己破産」を申し立てたのです。その日のうちに東京地裁が破産開始を決定する、異例の展開でした。
会長「名門の船井電機を終わらせるわけには絶対にいかない」
破産の申立書などによると、船井電機の債務超過は約117億円に上るとされています。でもなぜ、会社の存続を図る道ではなく、FUNAIブランドとともに会社が消えることになる破産手続きを選択するに至ったのでしょうか?
申し立てを行った取締役のもとを訪ねるも、話を聞くことはできませんでしたが、企業の信用調査をする会社の担当者は次のように語ります。
東京商工リサーチ情報部 山本浩司 部長
「違う経営者が“乗っ取り”のような形で入ってきて、創業家一族の方が『船井電機を守りたい』という思いから、どうやら破産の申請をされたようです」
前の社長から引き継ぎ、2024年9月に刷新された新体制で船井電機の会長に就任した元環境大臣の原田義昭氏は、準自己破産の申請について「当日まで知らなかった」と話します。
船井電機 原田義昭 会長
「(準自己破産に)びっくりしたのは事実。何としてもこの事態から事業再生にもっていかないといけない」
原田会長は、手続開始決定の取り消しを求めて即時抗告しました。
船井電機 原田義昭 会長
Q.船井電機に資産はまだある?
「それはまだ(あると)みている。破産という形でこの名門の船井電機を終わらせるわけには絶対にいかない」
原田会長は会社存続に向け、週明け、民事再生の申立書を提出する予定です。
消えた300億円はどこに? 前社長が内訳を明かす
喜入友浩キャスター:
船井電機でいったい、何が起きているのでしょうか?まずはこれまでの動きを振り返ります。
10月24日、創業家の親族の取締役の男性が、準自己破産を申請しました。そして原田会長は10月30日、まだ会社は存続できると、その手続きの取り消しを求め即時抗告しています。
準自己破産とは、なかなか聞かない言葉ですが…。
MBS報道センター 中村真千子 記者:
まず今回のように、船井電機のような規模の会社が存続する形ではなく、破産を選ぶこと自体が非常に珍しいといわれています。
しかも準自己破産ということで、確かに聞き慣れない言葉ですが、これは取締役会などを経なくても、たった一人でも単独で申し立てができる手続きです。
これ自体が珍しいのに、申し立てたその日に受理され、開始決定が出るという流れになっています。かなり準備をかけていないと認められることにはなりませんので、その意味では本当に異例ずくめの動きだという印象です。
上村彩子キャスター:
経営陣の中でも、考え方は対立していたとみていいのでしょうか?
MBS報道センター 中村真千子 記者:
少なくとも原田会長は会社の存続を考えており、12月2日には民事再生の申し立てを行う予定になっています。
喜入キャスター:
民事再生を求めても、勝算はどうなのでしょうか?
MBS報道センター 中村真千子 記者:
もう開始決定が出ているものなので、これを覆すのはかなりハードルが高いといわれています。
喜入キャスター:
そしてもう一つ、不可解ともとれるのが消えた約300億円です。
2021年5月に船井電機を出版社が買収したのですが、買収前は船井電機の預金が347億円ありました。しかし破産を申し立てたときには、預金がほぼなかったということです。
破産を申し立てた取締役の男性いわく「会社を守るため」とのことですが、その発言や思いとは矛盾があるように思います。
MBS報道センター 中村真千子 記者:
買収した出版社の社長(船井電機の前社長)に取材したところ、この300億円について内訳を説明してくれました。
【消えた300億円は?】(買収した出版社の社長によると)
●船井電機買収で銀行への返済:180億円
●創業者の息子への自己株買い:44億円
●創業者の息子への返済:27億円
●M&A資金と関連会社への貸付:約50億円
きっちりとした手続きも取られていますし、複数の人に聞きましたが、これ自体に不可解な点はないという話です。
関連会社への貸付に関しては、大手脱門サロン会社が1年以内という短期スパンで売買されているため、今後注目してみていきたい点になります。
上村キャスター:
困惑している従業員の方も多いと思うのですが、今どうされているのでしょうか?
MBS報道センター 中村真千子 記者:
次の再就職先を探すために、皆さん活動を急がれているような状況です。
上村キャスター:
元社長の経営判断や、資金の管理が今後最大の焦点となりそうです。
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<プロフィール>
中村真千子
MBS報道センター経済班キャップ
関西経済界のトップを数多く取材