「今も一気に絶望の淵に…」きっかけはいじめ対応による保護者からの激しいクレーム 心療内科に通院する現役教員の思い 精神疾患による病気休職教員が過去最多7000人超 改善策は?【いじめ予防100のアイデア・第18回】

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2025-02-08 07:03
「今も一気に絶望の淵に…」きっかけはいじめ対応による保護者からの激しいクレーム 心療内科に通院する現役教員の思い 精神疾患による病気休職教員が過去最多7000人超 改善策は?【いじめ予防100のアイデア・第18回】

公立学校の教員のうち、精神疾患で休職している人の数が7000人を超え、過去最多を更新しました。心療内科に通院する現役の教員が取材に応じ、「今も一気に絶望の淵に立ってしまう」と苦しい胸の内を明かしました。心が折れたきっかけは2年前の「いじめ対応」でした。教員たちに何が求められているのでしょうか?

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いじめとして対応した“ゲームでの仲間はずれ”

都内の公立小学校に勤める30代の女性教員です。心が折れたきっかけは2年前の「いじめ対応」でした。

東京都内の公立小教員
「うちのクラスの子がゲームで仲間はずれをしたことが発覚しました。そこで仲間はずれをしていた(いじめ)加害者の子を指導して、保護者に連絡したのですが、その方は『ゲーム中の仲間はずれはいじめではない』という主張をされました。良かれと思って指導したことが、保護者からクレームになって返ってきたことで、その親子との関係が悪くなり、私は“学校に行きたくない”ということが増えました」

学校による組織的対応も不十分な中、保護者からの激しいクレームを受けてから出勤したくなくなった女性教員は、心療内科を訪れます。すると医師から「抑うつ状態」と診断され、2か月間休むよう勧められました。この頃、悪夢を見ることが増えたと言います。

東京都内の公立小教員
「子どもたちが教室で騒いでいるのを注意しても全然静まらない夢とか、怒っても何度も同じことを繰り返してしまう子がいる夢とか、もうとにかく自分が怒鳴りつけているような夢ばかり見るようになっていました」

増え続ける精神疾患の教員

文科省の調査によると、精神疾患で病気休職している教員は3年連続で増え続け、2023年度は7119人と過去最多になりました。そのおよそ半数(47.8%)は20代と30代の教員です。

今回、文科省が初めて要因についても調査したところ、最も多かったのは、いじめ指導など「児童・生徒への指導に関する業務」で4人に1人(26.5%)の割合でした。特に20代~30代の教員がこの問題でメンタルに不調をきたしていることも分かりました。

普通のクラスにも対応が難しい子どもたち

精神疾患を患った30代の女性教員は、いじめ対応以外にも、「近年、普通の教室にも対応が難しい子どもたちが増えた」と言います。

文科省の調査(2022年)でも、読み書きや計算が難しいLD(学習障害)や、気が散りやすいADHD(注意欠如・多動症)、対人関係を築くのが苦手なASD(自閉スペクトラム症)といった発達障害の可能性のある児童生徒は、全国の公立小中学校の通常学級に8.8%いることがわかっています。10年前の前回調査より2.3ポイント増え、35人学級に3人の割合です。(「通常学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果(文科省2022.12)」より)

東京都内の公立小教員
「衝動的に周りの子どもたちを殴る蹴る、暴言暴力が止まらない子がいたりします。特別に支援が必要な子たちもたくさん通常級の中にもいて、見なければならなくなっています。担任がその子どもたちを抱えて仕事をしている状態なので、本当に人が足りていないなと感じます」

いじめや不登校の問題に追われる中、教員が多様な生徒たち一人ひとりに十分な対応をするためにも学校内外によるサポートが必要だと訴えます。

専門家「気軽に話せるフラットな人間関係を」

教員たちの悩みを共有し支援するNPO法人「教育改革2020共育の杜」の藤川伸治・理事長は、次のように指摘します。

NPO法人「教育改革2020共育の杜」藤川伸治 理事長
「対応に困る子どもがいても、校長や教頭など管理職や同僚の的確なサポートがあれば、精神疾患による病気休職はぐっと減ります。ですが、この“的確なサポート”がきちんと理解されていません。大切なのは“同僚とのフラットな会話”です。その会話ができる時間を勤務時間内に確保している学校では、倒れそうな教員がいても、少しずつ元気になる可能性も高まります。“教えてやろう”、“アドバイスをしてやろう”ではなく、愚痴を聞きあう人間関係が鍵です」

年齢も経験年数もバラバラな教員集団で簡単ではないのでしょうが、教員間で気軽に話し合えるフラットな人間関係が構築できていれば、不登校やいじめを含め、大変な事態に直面しても気軽に同僚や上司に相談ができ、精神疾患になる割合も減るのではないかというのです。

フィンランドの学校で重視される“コーヒータイム”

教員間で気軽に話し合えるフラットな人間関係の構築のために、校長ら管理職は、様々な工夫をしています。教員同士が仕事で一緒にミッションをこなして連帯感を持てるようにする。何かの機会に親睦会を開く。校長自らが音頭をとって「職員室でバカ話をしよう」と呼びかける、などなど。

心療内科に通う女性教員もこう振り返ります。

東京都内の公立小教員
「もっと職場でたくさん話しあえるコミュニティといいますか、そんな集団を職場で作れるといいのかなと思います。実は、働き方改革やコロナ禍もあって、運動会など何か行事が終わったあとの教員同士の夕食会などはだいぶ減ったんです。時間外に“みんなでどっかご飯に行こう”とか言うのも、誘いづらくなりました。だから業務時間内にそういう時間が取れればいいんですけど、とても難しいと思います。一応、学校では夕方に“休憩時間”が設定されてはいますが、その時間に休んでいる先生はほとんどいません」

忙しい学校でも何とか休憩時間の確保を。そしてその時間をどう過ごすのか。もしかしたら参考になるかもしれないと思い、話を聞いたのは、フィンランドの学校で教員として勤めていた経験のある地下智隆(じげ・ともたか)さんです。

フィンランドの学校には休憩時間「コーヒータイム」がしっかりと確保されていて、精神疾患の教員を減らす効果があると語ります。地下さんによると、フィンランドの教員たちの精神疾患に関するデータはなく、問題視される状況にはなっていません。

地下智隆さん
「フィンランドではどの業種でも職場での休憩時間が重視され、コーヒータイム(kahvitauko)が法的にも義務づけられています。私が勤めていたフィンランドの学校現場でもコーヒータイムは大事にされています。これまでに40校以上の職員室を見てきましたがコーヒーマシーンとソファは必ずといっていいほど置かれており、休み時間になると職員室に先生たちが集まり、ゆっくりとした対話の時間が流れていました。

1日に2-3回ある、15分から30分のコーヒータイムは、お互いの生活のことを共有する時間にもなっており、職員同士のバックグラウンドを知ることにもつながっていました。また、日常のことだけでなく、クラスのことや授業のことで少し困ったことや一緒に考えたいことを気軽に同僚に話す機会にもなっています。私が勤めていた学校の職員室は、コーヒールームと黙々と仕事をする部屋が分かれており、コーヒールームは気さくにお互いに声をかけあえる雰囲気になっていました。

先生方にとって職員室は居場所の一つでもあり、授業中に感じたストレスや困りごとを発散できる時間が日常にあることが教員の精神的な健康に繋がっていると思いました」

地下さんには、印象に残っているフィンランド人校長の言葉があります。「学校長の最も大切な役割の一つは、私を含めた職員同士が気軽に相談しあえる環境をつくることです。職員室の環境づくりも私の大事な役割の1つです」。

教員の精神疾患 長時間勤務による影響は?

一方、フィンランドと日本の教育現場はあまりにも違いすぎる、という声も聞こえてきそうです。子どもや保護者の目を気にせず安心してお菓子やコーヒーが楽しめる職員室の“つくり”もそうですし、そもそも勤務時間が異なります。国際調査によれば、例えば中学校では日本の教員(週56時間)は、フィンランドの教員(週33.3時間)の1.7倍、長く働いています。(TALIS2018)。特に課外活動や事務業務にかける時間が少ないようです。

業務内容が過多であれば、休憩時間を確保することが難しいのも当然です。精神疾患を患った都内の女性教員もこう言います。

東京都内の公立小教員
「フィンランドの“コーヒー休憩”はいいですよね。でも日本でその時間を確保するなら、何らかの工夫が必要でしょうね。それが難しいのは、基本的に教員たちに余裕がないからだと思います。特に担任の先生は、もう仕事量がとても多いですから」

精神疾患休職の要因 「長時間勤務」0.8%の背景

コーヒータイムをつくるには、まずは長時間勤務の解消から。「精神疾患による病気休職の要因」としても「長時間勤務」が気になりますが、文科省の調査では、わずか0.8%です。しかし実はこの調査、回答したのは教育委員会で、しかも教育委員会が把握・認識している内容を「選択肢の中から上位2つを選ぶ」形式でした。長時間勤務の背景にあるのが「校内の事務的な業務」ですが、こちらは多く選ばれていて、全体では3番目に多い理由(13.2%)でした。一方「長時間勤務」は、“上位2つ”としては、選ばれていなかった可能性もあります。

文科省「精神疾患教員と長時間労働のリンクはとっていない」

この調査結果を発表した記者会見(2024年12月16日)で、私は文科省の常盤木祐一・初等中等教育企画課長に「精神疾患休職教員の勤務時間の長さ」について聞きました。すると「そのリンク(関連性)はとっていない」との回答でした。

そこで「なぜとっていないのか?」と聞くと「これまでもとっていなかったというのが率直なところだが…」と答えた上で、しばらく間を置いてから「一人一人の勤務時間を集計することのコストなどを考えつつ調査全体のたてつけとしては考えていきたい」と回答しました。

もちろん何もかも調査するのは大変です。調査項目を増やす、人的・時間的・費用的コストの考慮も必要ですが、常磐木課長の回答は、今後の調査の改善に希望がもてる内容に聞こえました。

今でも急にメンタルが落ちることも…

今、女性教員は心療内科に通いながら何とか出勤しています。担任は外してもらい、専科の教員として授業に絞った働き方になり、残業時間も減ったと言います。

担任の時に行っていた、トラブル対応や聞き取り、朝の会や帰りの会での指導、宿題の添削、給食指導や水泳指導、保護者会や個人面談、保護者からのクレーム対応、家庭訪問に提出物の催促、校外学習の際のバスの手配などはなくなりました。

それでも、急にメンタルが落ちることが今でもあり、診療内科への通院は続けています。

東京都内の公立小教員
「ちょっと子どもと嫌な雰囲気だったり、保護者から何か言われたりがあるだけで、一気に絶望の淵に立っちゃうというか…」

文科省は、今回の調査をふまえて学校での働き⽅改⾰の⼀層の推進や、メンタルヘルス対策の充実などを進めるとしていますが、課題は山積しています。

業務縮減でコーヒータイムを いじめ予防にもつながる

当連載で繰り返し述べてきた通り、「いじめ予防」には教員一人一人の日常における心身の健全さが欠かせません。発生したいじめが重大事態に深刻化するのを防ぎ、教員たちの心が折れないようにするためにも、教員同士の心の通ったサポート(支え合い)が実現するような環境整備が求められます。

去年(2024年)の年末、小中高校の教育内容の基準となる学習指導要領の改訂が、中教審(中央教育審議会)に諮問されました。10年に一度の改訂で注目されているのは、授業時間を柔軟に決めるなど「学校の裁量拡大」です。既に一部の学校で行われている、授業一コマを5分ずつ短くして、学校現場に時間的な余裕を持たせることも広がりそうです。そうした業務縮減への見直しにより、「コーヒータイム」のような、気軽に教員たちが何でも話せる時間確保の実現を願います。

国をはじめ、各教育委員会に学校現場、それぞれ、取り組むべきことがありそうです。

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