豊昇龍が横綱デビューへ「プレッシャーを全部、体で感じたい」荒れる春場所開幕、“新横綱3連覇”の記録もかかる【大相撲】

大阪市のエディオンアリーナ大阪で9日に初日を迎える大相撲・春場所では、先場所後に昇進した新横綱・豊昇龍が横綱デビューを果たす。歴代74人目。モンゴル出身者で6人目、外国出身者としては8人目となる最高位に、「(綱を締めて)初めての場所は勉強の場所。プレッシャーを全部、体で感じたい」と語る25歳を、相撲処の浪速のファンが熱い眼差しで迎える。
綱とりがかかっていた1月の初場所は9日目までで平幕勢に3敗を喫し、昇進は絶望的と思われていた。しかし、そこからあきらめずに底力を見せ、6連勝。千秋楽の本割で追いつき、その後の金峰山、王鵬との優勝決定巴戦を制し、夢をかなえた。最後は1日で3番とって3連勝。満員の国技館を興奮させた。
先月25日の新番付発表会見で春場所への思いを聞かれた豊昇龍は、「責任を感じる。楽しみでもあり、怖いこともある」と率直な感想を述べた。大関昇進時と同じだった口上は「気魄一閃(きはくいっせん)」。強い気持ちを持って立ち向かう意志を示した通り、「僕がやらないといけないという気持ちがある。何が起こっても休場はしない。負けても休場しない。最後まで取る。相撲を取ることは僕の仕事。仕事を休んだら意味がない」と意欲を見せた。
また、「どんな横綱を目指すのか」との質問には、「『これが豊昇龍だ』という横綱になりたい。誰の真似もしない。どんなにすごい横綱だった人の真似もしない。新しい横綱(像)を出したい」と答えた。その言葉には、叔父である25度優勝の朝青龍への対抗心のようなものが感じられた。「叔父さんの名前は僕から離れない。しょうがない」と言いながらも、「同じ横綱になった。自分は自分」との自立心を強く主張している風に映った。
朝青龍がよく問われた「品格」については、「人間として、これから自分がやっていくことをしっかり考えて、やっていかなくちゃあいけない」と言葉にした。まだ、その意味は、はっきりとは理解できていない感じだったが、全力士の模範になる覚悟は伝わってきた。角界では「地位は人を作る」というが、気持ちの面の成長は確認できる気がした。
「新横綱の3連覇」の記録もかかる
だが、「型がない」と言われる技術面では、自分でもまだ確信、実感が掴めていない様子だった。「それで(横綱に)上がっちゃったので。型がないのが、『僕の型』だと思います」と言うに留めた。
確かに6日間で3差を追いつき、逆転した先場所の優勝は劇的だった。しかし、昇進前4場所から成績を見ると、昨年名古屋場所9勝、秋場所8勝。千秋楽相星決戦で敗れた九州場所で13勝したのが過去最高成績。先場所を含めて2度の優勝はいずれも12勝。まだ、地力は確立されていないとみるべきだ。
ここ2場所、好成績につながった要因は前に出る圧力が出てきたことだろう。師匠の立浪親方(元小結旭豊)が口をすっぱくしていった「シコ、テッポウ、すり足をしっかりやれ」の教えが身についてきた。先場所も取組前の支度部屋では花道に入る最後にもう一度、テッポウ柱を両手で強く叩き、感触を確かめてから出ていく姿が目に付いた。
以前は「投げ」にこだわるあまり、逆に相手を呼び込んでしまい、自らバランスを崩すことがあった。相撲の投げは土俵に相手の手を着かせればよいので、「横ではなく下に向けて(投げを)打つ」のが基本だが、レスリング出身の豊昇龍は相手を転がすように振り回すような動きが目立った。
しかし、このところはそんな不安要素を封印して出足で相手を圧倒する攻めが増えてきた。特に目に止まったのは前まわしを引きつけ、相手の腰を浮かせて一気に寄り切る力強さだ。八角理事長(元横綱北勝海)は、それを同じ九重部屋で兄弟子だった「千代の富士さんに似てきた」という。豊昇龍は協会発表の149㎏から1㎏増えて150㎏になったと話したが、それでも幕内平均の157㎏よりは軽い。31度の優勝を誇る「小さな大横綱」を彷彿させる『型』を身に着けることは、今後、大きく飛躍するためには必要になってくる要素だと思う。
新横綱でいきなり「一人横綱」の重責を担うのは、1933(昭和8)年春場所の玉錦、93(平成5)年春場所の曙に続き、3人目となる。過去7人いる先輩の外国出身横綱でデビュー場所優勝を果たしたのは、2021(令和3)年秋場所の照ノ富士(13勝)のみ。他は武蔵丸が12勝。白鵬は11勝。曙と朝青龍は10勝。日馬富士、鶴竜がともに9勝。休場した者はいない。
引退したばかりの照ノ富士親方からは場所前に、「一人横綱として、自信を持って土俵を盛り上げて行ってね」とのエールをもらったという。実は照ノ富士の一つ前の稀勢の里(現二所ノ関親方)も新横綱場所は優勝しており、今場所の豊昇龍には「新横綱の3連覇」の記録もかかっている。
「優勝回数を二けたにしたいし、僕も新横綱で優勝したい」と話す豊昇龍。昨年は尊富士が110年ぶりとなる新入幕優勝を果たすなど、ここ4年間はいずれも関脇以下が賜杯を抱いている「荒れる」と言われる春場所。新横綱はどんな土俵を見せるのか、目が離せない。
(竹園隆浩/スポーツライター)