【GGP展望】田中希実が3000mペースメーカーの1時間半後に1500m出場 世界への可能性を広げるためのチャレンジ

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2025-05-13 12:00
【GGP展望】田中希実が3000mペースメーカーの1時間半後に1500m出場 世界への可能性を広げるためのチャレンジ

5月18日に東京・国立競技場で開催されるゴールデングランプリ(以下GGP)には、女子走高跳世界記録保持者のヤロスラワ・マフチフ(23、ウクライナ)、女子やり投の北口榛花(27、JAL)ら多数のメダリストが出場する。北口以外にも村竹ラシッド(23、JAL)、三浦龍司(23、SUBARU)ら世界に挑む日本人選手も多くエントリーした。その中でも異彩を放つのが、女子3000mでペースメーカーを務め、その1時間半後の1500mに出場する田中希実(25、New Balance)だ。田中の今の取り組みの特徴を、父親でもある田中健智コーチに取材した。

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昨年GGPでも豪州コンビがペースメーカー

田中コーチは前回GGPの豪州コンビを参考にしたという。サラ・ビリングス(27)とジョージア・グリフィス(28)が、午後2時50分スタートの女子1500mでワンツーフィニッシュ。優勝したビリングスが4分04秒66の自己新をマークしたのに対し、田中希実は4分07秒39で4位だった。

豪州コンビは午後4時46分スタートの5000mにも出走。3000mまでペースメイクをした。豪州コンビもまだ、世界のメダリストではないし、自己記録は3分58~59秒台で田中と同じレベルである。「豪州も以前はハルとホールだけだったんです」と田中コーチは別の2人の名前を挙げた。ジェシカ・ハル(28)はパリ五輪銀メダリスト、リンデン・ホール(33)は東京五輪6位入賞者だ。

ビリングスとグリフィスは数年前まで五輪で活躍した2人とは差があったし、タイム的には東京五輪で3分59秒19の日本新を出した田中がリードしていた。しかし昨年4月、2人揃って3分59秒台をマークすると、グリフィスは9月のダイヤモンドリーグ・ファイナルで6位、3分58秒40まで記録を伸ばした。アフリカ勢や先行する豪州の2人を追って、グリフィスとビリングスも成長した。その取り組みの1つが昨年のGGPだった。

しかし今年のGGPの田中には、去年の豪州勢との違いもある。ペースメーカーをする3000mが先に行われることだ。普通は勝負をする種目を先に走る。ペースメーカーをすれば間違いなく、多少の疲れが残る。他人との勝負をすることを考えたら、疲れのないフレッシュな状態で臨むのは当然だ。それだけ今の田中は、世界へ挑戦する課題を最優先に考えている。

ケニア合宿とグランドスラムトラックで初の試み

田中はこれまでも、実業団チームには所属せず独自のスタイルで強くなってきた。練習だけを行う“ためる”期間は設けず、レースを多く走って強化する。大学駅伝や実業団駅伝は走らず(1年だけ実業団に所属しクイーンズ駅伝に1回出場)、冬期も室内競技会出場や合宿のため海外を転々とする。繰り返していることも多いが、そのときどきで必ずテーマを設定して取り組んできた。この冬の練習でも今シーズンのトラックレース出場でも、新しいことにチャレンジしている。

1月後半にはケニア・イテンで合宿を行った。これまで現地の選手と一緒にトレーニングもしてきたが、田中コーチのメニューと「ハイブリッド(異なるもの組み合わせ)」(田中コーチ)で行ってきた。全部をケニア選手と同じメニューを行うと負荷が大きく、故障などマイナス要素が生じるリスクがあるからだ。

しかし今年1月の合宿は初めて「ケニアだけの練習」に挑戦した。

「ナイロビでケニアに馴れる練習をしてからイテンに入るのですが、気持ちが入りすぎてナイロビで追い込み過ぎました。イテンでは回復が追いつかず、疲れた状態で次、疲れた状態で次、という感じでした」

そのメニューを敢行できたのは、次の滞在地である米国ボストンに行けば、「整う」方向に持って行けるからだ。

「ボストンでは私のメニューでやりながら、ボストンのNew Balanceチームのメニューに加わるハイブリッド練習です」

1月末から2月前半でボストンで4レースに出場した。2月8日には室内3000mで8分33秒52をマーク。自身が昨年5月のダイヤモンドリーグ・オスロ大会で出した8分34秒09の日本記録を更新したが、「もっと行けたはず」と田中コーチ。「ケニア合宿が思ったところに行けなかったことが原因です。ごまかしてなんとか、最低限の記録に持っていきました」。

4月上旬にはジャマイカで、5月上旬には米国フロリダ州で、新設されたグランドスラムトラック大会に出場した。細部の説明は省くが、1大会で3000mと5000mの2レースに中1日で出場する。連戦には馴れているが、世界のトップレベル選手とペースメーカー不在のレースでしのぎを削るのは、これまでとはまた違う負荷がかかる。

「そうなることを望んでいるわけではありませんが、結果としてグランドスラムトラックで燃え尽きてしまっても、そこから這い上がれば26年、27年につながります。競技生活の中で意味のある失敗になる」

昨年は8月のパリ五輪後にダイヤモンドリーグ4試合に出場。4試合目はダイヤモンドリーグ・ファイナルで、五輪&世界陸上と一緒ではないが、大きな緊張感の中で戦った。昨年9月にその経験をしたことが、今年は9月開催の東京2025世界陸上に生かすことができる。

外国勢に“寄せない”レース展開も

田中の強化スタイルは、ひと言でいえば世界標準の取り組みと言えるかもしれない。だが世界といっても、取り組み方は選手やチームによって異なる。世界を股にかけて活動している田中は人脈にも恵まれている。その中から、自分にプラスになると判断できた部分を取り入れているし、真似はしないで自身や、日本の良さを生かした取り組みもしている。だから“ハイブリッド”という言葉が出てくるのだろう。

レース展開もこれまで、世界ではラストで競り勝つことが必要と考え、多くの大会で「ラスト1周にこだわる」「最後の1000mにこだわる」などのテーマを設定してきた。だが、「それが良さを曇らせている可能性もある」と田中コーチは感じ始めた。

「世界の選手に寄せなくても、自分らしさを研く方法もあると思います。例えば“仕掛けたいところで仕掛ける”ことは田中らしさです。先に仕掛けて追いつかれても、順位(入賞)を取ることもできる」。仕掛けのレベルが上がれば、メダルに近い順位を取ることができるかもしれない。

GGPの1500mには昨年同様、グリフィスとビリングスの豪州コンビが出場する。さらにもう1人、ヒルト・メシェンシャ(24、エチオピア)もエントリーされた。メシェンシャは4月のダイヤモンドリーグ厦門大会5000mで、14分29秒29の自己新で4位と健闘。グランドスラムトラック・フロリダ大会では3000mに優勝、5000mでは3位と、さらに成長している。フロリダ大会には田中も出場し、3000mでは21秒79差の8位、5000mでは26秒32差の7位だった。

メシェンシャを世界のトップと見立てて勝負を挑み、結果的に勝てなくても、豪州コンビに勝つ。それができれば、今の田中がやろうとしていることに近い内容になる。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)

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