「私が声をあげなければ」 同性愛を公表した台湾立法委員が語る台湾社会の変化

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2025-07-06 07:00
「私が声をあげなければ」 同性愛を公表した台湾立法委員が語る台湾社会の変化

東アジアで初めて同性婚を法制化した台湾。ジェンダー平等や性的少数者の権利擁護の動きも拡大している。台湾立法院に最年少の30歳で当選し、初めて性的少数者であることを公表した与党民進党の黄捷(こう・しょう)委員(32)に話を聞いた。

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頼清徳総統も支持・・・台湾で広がるLGBTフレンドリーな社会

Q.台湾は東アジアで初めて同性婚が実現しました。なぜだと思いますか?

黄捷委員 
複合的な要因があると思います。第一に、台湾の民主化プロセスが比較的平和的に進んだこと、市民運動が盛んだったことが重要だと思います。第二に台湾のジェンダー平等の進展には常に重要な節目となる出来事がありました。2013年に男性カップルが戸籍登記を申請して拒否されたことから、裁判に訴えたことが決定的な転機となりました。2017年、裁判所が「婚姻から同性愛者を排除することはできない」という画期的な憲法解釈を示しました。さらに台湾には同性愛を扱った文学作品が多数存在し、社会に浸透していました。

これらが同性愛を受け入れる社会的な土壌を育んだのです。既に同性婚を支持していた蔡英文総統(当時)のリーダーシップも大きな役割を果たしました。こうした要因があいまって、2019年にアジア初の同性婚の法制化が実現したのです。

Q.日本では保守派が法制化に反対しています。台湾にももちろん反対する人がいたと思いますがどうやって説得したのですか?

黄捷委員
もちろん台湾の保守派も激しく反対しました。というのも2017年に裁判所が憲法解釈を示した後、保守派は3つの住民投票を提案しました。

(1)「同性婚は民法に含められるべきではなく、民法を一夫一婦制に限定しなければならない」
(2)「ジェンダー平等教育の中で同性愛について触れてはならない」。つまり、性別の多様性に関する教育の禁止
(3)「同性婚を法制化するなら、特別法を制定すべき」

これら3つの住民投票はいずれも可決され、社会の過半数が依然として保守的な意見を持っていたことがわかります。これが当時の社会の雰囲気でした。

しかし、裁判所の憲法解釈が最上位の法的効力を持つため、私たちは最終的に裁判所の憲法解釈に基づき特別法を制定することになりました。保守派を完全に説得できたかと言えば、そうではありませんでした。彼らの意見は変わらなかったのです。

このプロセスを通じて私たちが尽力したのは、「LGBTフレンドリーな空間」を社会の中で少しずつ広げていくことでした。これもまた重要な取り組みの一つだったと考えています。

例えばLGBTフレンドリーに配慮した教材がたくさんできています。学校では、さまざまな性的指向を理解し、尊重することを教えています。頼清徳総統に至るまで歴代総統は全員、LGBTフレンドリーを支持しています。ドラァグクイーンが総統府でパフォーマンスすることを許可しています。毎年、行政院長と副総統がプライド・パレードに参加しています。

性的指向を攻撃されリコール運動まで…「私が声をあげなければ」

Q.あなた自身も性的少数者だということを公表しています。差別を受けたことはありますか?

黄捷 委員
4年前、高雄市議会議員だった時にリコール運動を起こされた理由の一つは、私の性的指向と同性婚への支持でした。保守派は私のアイデンティティーと同性婚を支持する立場を理由に私を罷免しようとしたのです。

その時は本当に心が重かったです。というのもリコール運動に対抗する中で、私は自分の行動の正当性を守らなければなりませんでした。保守派は私を公然と侮辱するような手段で激しく攻撃しました。彼らは宣伝車を借り上げ、私の性的指向を大々的に掲載したビラを作り、街中で「あいつは同性愛者だ」と宣伝しまくりました。さらに「病気のゲイ」「気持ち悪い」といった、明らかに性的差別にあたる中傷を撒き散らしたのです。

Q.あなたはどう戦ったのですか?

黄捷委員
私のジェンダーを理由にした人身攻撃には、正面から応える必要がありました。だからこそ、私は繰り返し自身の立場を表明し続けたのです。むしろ保守派の攻撃を社会と共有することで、「同性愛者がいかに差別に直面しているか」を可視化しようとしました。

もし私のような立場の人間が声をあげることをためらったら、私の背後にいる無数のLGBTQ+コミュニティーの仲間たちはどうなるのか?この思いが原動力でした。実際、毅然とした態度が多くの性的マイノリティーの方々に勇気を与えることになったと実感しています。これはまさに、私が政治の道を選んだことの核心的な価値だと考えています。

はっきり言わせていただきます。もし私のような立場の者でさえも自分の権利を主張せず、沈黙を選んでしまったら、どれだけ多くのLGBTQ+の仲間たちの声を押し殺すことになるでしょうか。私はあえて正面から戦う道を選びました。なぜなら性的マイノリティーの代弁者として、声なき声を社会に届ける必要があるからです。

台湾社会を変えた「ジェンダー平等教育」

Q.台湾では小学校から高校まで、ジェンダー平等教育が義務付けられています。 20年以上行われているジェンダー平等教育は、社会を変えるひとつの要素になっているのでしょうか?

黄捷委員
私は、状況はどんどん良くなっていると思います。というのも私たち世代の若者の間ではLGBTフレンドリーな意識がかなり高まってきているからです。

もちろん過去には学校でジェンダー平等教育がなかったこともあり、私たちの親世代は比較的ジェンダーに関する冗談を言いやすい傾向がありました。女性の服装や見た目について安易に指摘したり、評価したりするようなことです。

私は公人ですが、いまだに多くの人々が女性政治家の外見に注目したり、性的な侮辱を含むような発言をしたりします。しかし私と同世代、あるいはもっと若い世代は、そういう差別的な発言をしてはいけないという意識をしっかり持っており、私の仕事の成果や実力により注目してくれるようになっています。

このような点からも、私は良い方向に進んでいると感じています。ネット上でジェンダー差別的な発言があると、多くのネットユーザーが立ち上がり、強い正義感を持ってそれを止めようとします。「あなたの発言は非常に不適切だ」としっかり指摘する人が増えています。

欧米でも数年前に「Me Too」運動がありましたが、おととしには台湾にもその影響が広がりました。性的嫌がらせや性的暴力事件が起きれば人々は声を上げ、非難するようになってきています。

学校で設置が進む「オールジェンダートイレ」が生まれた背景

Q.学校で性別にかかわらず利用できる「オールジェンダートイレ」の設置が進んでいます。反対意見はなかったのでしょうか?

黄捷委員
最初はやはり反対の声がありました。「資源の無駄遣いだ」「女性の安全が守られないのでは」といった意見もありました。「安全な空間ではない」と不安を感じる人もいました。ですから私たちがこのトイレの導入を提案した際には「これはより平等な空間であり、すべての性別の人が安心して使えるプライベートな空間です」と強調する必要がありました。

Q.どうやって不安に思う人を説得したんですか?

黄捷委員
台湾では2000年に「葉永鋕(ようえいし)事件」という出来事がありました。彼はとても「フェミニンな」男の子で、その繊細な性格のために学校でいじめを受け、最終的に亡くなってしまいました。この事件をきっかけに台湾では「性別平等教育法」が施行され、学校におけるジェンダー平等の取り組みが強化されました。

その結果、「もしすべての空間が男女という2つだけの区分だったら、さまざまな性的指向や多様なジェンダーを持つ学生に対応できないのではないか」という議論が始まり、そこで初めて「オールジェンダートイレ」という概念が議論されるようになりました。

では、どうやってより多くの人を説得するのか?私はこう考えればいいと思います。私たちはカフェなど公共の場所でトイレを使うとき、男女共用のトイレを普通に使っていますよね。なのになぜ学校では男女別のトイレしか存在できないと考えるのでしょうか?

Q.今、取り組んでいることはありますか?

黄捷委員
2年ほど前に新たに「ストーカー・嫌がらせ防止法」も制定しました。これは、性的暴行やセクハラとまでは言えないけれど、性別に関連して継続的に嫌がらせや圧力をかけるような行為に対応するための法律です。私たちは法整備を常に進化させています。

最近私たちが取り組んでいるのは「盗撮」の問題です。これは非常に厄介で、多くの場合盗撮されたこと自体に気づかないんです。盗撮された映像や画像がネットの掲示板やSNSで拡散されていても、どうやって拡がっていったのか本人にはわかりません。しかし被害にあう人はとても多いのが現状です。

こうした犯罪をどうやって防ぐかが、私たちが努力している課題であり、さまざまな法律を通じて防止に努めています。この問題の厄介なところは「被害者をどうやって見つけるか」です。なぜなら被害者自身が被害にあっていることに気づいていないからです。

これまでの性被害というのは、基本的に本人が自覚して申告することで対処されてきました。たとえば、セクハラを受けたと自覚して申告したり、性的暴力の被害を訴えるケースです。

しかし盗撮の場合は本人が被害を受けていることに気づいていません。にもかかわらず、犯罪行為は発生しているのです。ですから、加害者をどうやって特定するか、そして被害者が第一線で守られる仕組みをどう整えるかが、とても重要なのです。

聞き手 JNN北京支局 立山芽以子
撮影  JNN北京支局 室谷陽太

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