【悪質M&A問題 第4弾】「800足が消え…泥棒に入られたみたい」高級靴メーカーも標的に 介護施設を閉鎖に追い込んだあの人物が【調査報道】
介護施設を買収し現金を吸い取った悪質な手口を、前回の放送でお伝えしました。実は、ほぼ同じ時期に“老舗の靴メーカー”を倒産に追い込んでいたことが判明、800足の靴も持ち去られていました。
【写真を見る】中小企業を狙った「悪質M&A業者」、A氏を直撃すると…
消えた高級革靴800足…あの悪質M&A業者が再び
新宿屋前社長 丸吉肇さん
「(創業から)50年、お客さんに喜んでもらえたんですけれどもね。残念な気持ちですね」
丸吉肇さん(53)は2023年まで、大阪の老舗靴メーカー「新宿屋」の社長を務めていました。
職人がひとつひとつオーダーメイドで作り上げる高級な革靴。サメやトカゲなどの希少な皮が使われています。
震災復興の役に立ちたいと宮城県気仙沼市特産のヨシキリザメの皮を使った靴を開発し、テレビや新聞にも取り上げられました。
ところが、会社の経営から退いた後の2024年11月に突然、破産申し立てをするという通知が。
さらに、保管してあった800足ほどの靴が無くなったと訴えます。
新宿屋前社長 丸吉肇さん
「唖然とするしかないですよね。言葉が見つからないですね。もう泥棒に入られたようにぐちゃぐちゃになっとったんで」
丸吉さんは数年前から現場に専念したいと考え、M&Aで経営はプロに任せることを決めました。
新宿屋前社長 丸吉肇さん
「しっかりした経営ができる人を迎え入れたら自分ももっと外で働く。会社のためになるんじゃないかなと」
そこに現れたのが、全国で介護事業などを展開するというA氏でした。
しかし、このA氏は中小企業を狙った「悪質M&A業者」として番組が追及してきた人物でした。
買収した会社の預金を抜きとるなどして、複数の介護事業所を閉鎖や倒産寸前に追い込んでいました。
ーーキャバクラで法人カードを使われたりとか?
A氏:
「あれは接待であったり、金額自体は自分の給料と相殺している状況」
ーーお金を抜くだけ抜いて逃げるっていうような手法を取っているようにみえるが?
A氏:
「それはもう全然、間違いだと思います」
丸吉さんは、取引先の信用金庫と仲介会社の紹介だったこともあり、A氏のことを信用し、2023年10月、株式を全て譲渡しました。
新宿屋前社長 丸吉肇さん
「いろんな会社をM&Aしてきてるっていうお話も聞いておりまして、あとは新宿屋をとても欲しいという熱意にやられましたね」
ところが、社長となったA氏は半年経ったころから会社にあまり姿をみせなくなりました。
税金や保険の督促状が届くようになり、従業員への給料も未払いとなりました。
新宿屋前社長 丸吉肇さん
「ありとあらゆる支払い分が未納。4年続いたコロナとか、それでも何とか生き抜いた、厳しい中でも。それが1年足らずで急になくなるっていうことは、ちょっと考えにくい」
靴の一部がオークションサイトで格安販売
そして、2024年11月。A氏側の弁護士から破産申し立てを行うという書類が届きました。そこには…
弁護士の受任通知の内容より
「当職の許可なく物件内に立ち入ることは禁じられています」
立ち入りを禁じられている間に約800足の靴が持ち出されたとみられています。
同じビルの関係者が、A氏の姿を目撃していました。
A氏の姿を目撃した人
「シャッターの音がガラガラって開いたから。声をかけた。『おれへんなった社長ちゃうの?』って。『なんでや、何しにここに来た?』っていうたら。いつも俺らが見てる商品。上から荷物を運んでいた。ここに車止めてその荷物を何往復かして運んでいた」
さらに、取材を進めると、靴の一部がオークションサイトで格安で売られていたこともわかりました。
出品していた都内の中古品業者を訪ねると…A氏自らが120足ほどの靴を持ち込んだと証言しました。
中古品業者の証言
「『大量に靴があるんだけど買い取ってもらえるか』と言ってきた」
「わざわざ三重県から車で持ち込んできたため、印象に残っている」
サイトで売られていた靴を丸吉さんに見てもらうと…
新宿屋前社長 丸吉肇さん
「これは、倉庫に眠っていたやつです」
A氏は1足10万円から20万円する革靴を、1足1000円あまり、合計13万円ほどで売却していました。
新宿屋前社長 丸吉肇さん
「行方不明になってから僕らがいない間に、会社の商品を持ち出す。それは悪意そのものですから。最初から騙すつもりがなかったんですよって言うんやったら、ちゃんと出てきて」
結局弁護士は辞任し、破産の手続きは行われず、A氏が社長のまま新宿屋は事実上の倒産状態となりました。
専門家は、こうした行為について違法性を問われる場合もあると指摘します。
M&Aトラブルに詳しい大宅達郎弁護士
「会社の財産を、例えば不当に安く処分したり、これを会社のためじゃなくて私的に流用してるという場合には、会社法上の特別背任ということも適用の余地はあるだろう」
姿を消したA氏はどこにいるのか?
2024年9月に直撃取材したマンションは、すでに引き払われていて、A氏の携帯電話は電話をかけても繋がらず、メールも届きませんでした。
新宿屋は従業員も全員退職に追い込まれました。
新宿屋前社長 丸吉肇さん
「ある日いきなり解散ですから。僕が代表職やったら、こういうことになって申し訳ないと筋を通せるけど」
契約前に7社とトラブル“仲介”は気づかなかったのか
株式譲渡契約の約1か月前にA氏が提出した資料。そこには、7つの会社に対してM&Aを行った実績があると記されています。
私たちが、この7つとみられる会社を調べたところ、丸吉さんと契約する前に7社すべてでA氏が辞任、または、事業所が閉鎖する事態となっていました。
丸吉さん側と、A氏側にアドバイザーとして入っていた信用金庫と仲介会社。こうしたA氏の情報は把握できなかったのでしょうか。
取材に対し信用金庫は、「A氏が会社財産を流出させたといった具体的な情報の認識はありませんでした」とコメントし、仲介会社からの回答はありませんでした。
新宿屋前社長 丸吉肇さん
「新宿屋がM&Aをする前に被害者がいる。それをもうちょっとリサーチしてくれて、これは、犯罪的に危ないという感覚を教えてもらえたら、(A氏との)M&Aはするはずはなかったと思います」
悪質M&A 仲介会社の責任は?
小川彩佳キャスター:
悪質のM&A業者に加え、仲介会社の責任も重いように感じます。
小松玲葉記者:
仲介会社を巡っては、2025年1月に大きな動きがありました。今回、A氏のケースでは仲介会社として東京に本社があるM&A DX社が入っています。このDX社に対し、中小企業庁が初めて支援機関の登録を取り消しました。
なぜかというと、このDX社は、新宿屋のケースも含め、A氏に対して4社を紹介していますが、少なくともそのうちの3社目の段階で、A氏が資金力に疑いがある不適切な買い手だと明確にDX社は認識していたはずでした。しかし、さらに次の会社をA氏に紹介したことが問題であったと中小企業庁が判断しました。
小川彩佳キャスター:
これで、国のお墨付きが取り消されたということになりますが、この『取り消し』の対応は、初めてのことです。
小松玲葉記者:
国がようやく仲介会社の責任に厳しく踏み込んだ初めてのケースとなりました。行政や捜査機関などが、実態解明や被害者の救済にさらに取り組んでほしいと思います。
小川彩佳キャスター:
泣き寝入りとはならないようにと強く思います。
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