「コメより稼げる」小麦増産も…価格高騰で再びコメにシフトした農家 食卓にも変化「和食」→「洋食」へ 一方、農協トップの発言「決して高くない」に波紋【news23】
連日お伝えしているコメの高騰について。長引くコメ不足を受け、コメの生産を再び増やす農家が出始めています。一方で、私たちの食卓にも変化が現れています。
【写真を見る】朝食メニュー増減ランキング 大幅に増加したのは?
コメ高騰で小麦の需要増加「パンの需要が盛り返した可能性」
巨大な倉庫にびっしり並ぶのは政府の備蓄米。14日、自民党の小野寺政調会長が埼玉県内の倉庫を視察しました。
自民党 小野寺五典 政調会長
「1日あたりの出庫量が2倍になっているということで、かなり加速しているなという印象。米の不足感というのはかなり緩和されるんじゃないか」
備蓄米が流通し始めたこともあり、スーパーでの平均販売価格は18週ぶりに下落。ただ、2024年の2倍という高値が続いています。
これに対し、JA全中のトップは13日、現在の価格は「高くない」と話しました。
JA全中 山野徹 会長
「決して高いとは思っていない。これまで長年にわたって生産コストを賄えていないような極めて低い水準なので、JAグループとしては消費者・生産者にとって納得できる価格のもと、コメを安定的に供給していくことが何よりも重要」
ただ、消費者は価格に敏感です。
東京商工リサーチによりますと、2025年のパン屋の倒産件数は1~4月までで7件と2024年の同じ時期と比べて半減していて、「コメが高騰し、パンの需要が盛り返した可能性がある」と分析しています。
「こんなに貴重になるとは…」「暗黒時代」小麦農家が再びコメ生産
滋賀県の「イカリファーム」では90ヘクタールの小麦を生産しており、今、小麦の注文が増えているといいます。
イカリファーム 井狩篤士 代表(47)
「米価も高いですから、パンが求めやすいということで動いている。ふるさと納税でも出るし、パン屋も買ってくれるし、ナンとかピザとか。たくさんオーダーはいただいてますね」
井狩さんはコメ農家でしたが、10年前から小麦や大豆の作付けを本格的に増やしてきました。
イカリファーム 井狩篤士 代表
「お米部門は完全にトントンか、販売管理費まで入れると赤字でした。なので我々は小麦・大豆とか、コメより収益が稼げる方にシフトしていった」
コメの価格が低迷する中、小麦の収益は安定。井狩さんの場合、小麦は国の交付金などを含めると、コメの10倍近くの利益が出たといいます。
そのため、小麦を主力とし、自社の小麦を使ったパスタやビールの販売などにも力を入れてきました。
しかし、「令和の米騒動」と呼ばれた2024年はコメの価格が上昇。小麦だけでなく、コメでも稼げるようになりました。
イカリファーム 井狩篤士 代表
「こんなに貴重になるとは思わなかったですね。コメを作っているのに自分で食べるコメはない。本当に暗黒時代というか、いま頑張って農業されている方はよく耐え忍んだというのが正直な感覚」
2025年はコメの作付けを2024年より東京ドーム5個分ほど増やし、小麦より広い120ヘクタールにしています。
イカリファーム 井狩篤士 代表
「今は米価がここまで上がっちゃったので、麦・大豆よりもコメの方が収益が高いけど、市場に飽和しちゃうと値段が一気に暴落しちゃう。それで今までコメ農家は本当に大変な目にあってきた。中長期にわたって大変な目にあってきた。生産者も嬉しい、消費者も嬉しい金額や需給の調整を、ちゃんとキープし続けられるというのを求めているし、そうあるべき」
コメ高騰で食文化にも変化?「和食」→「洋食」へ
藤森祥平キャスター:
コメ農家の井狩さんの「農家暗黒時代」というお話を聞けば聞くほど、生産者の皆さんのご苦労があってこそ私たちの食卓のお米なのだと改めて感じました。
コメ高騰の影響もあり、東京商工リサーチによるとパン屋の倒産件数が2025年1~4月が「7件」、2024年の同時期の「13件」から半減していて、「家計防衛のためパン需要が盛り返した可能性もある」としています。
小川彩佳キャスター:
業界構造にも変化が生まれ始めています。
トラウデンさんはコメ派ですか?パン派ですか?
トラウデン直美さん:
どっちも好きですが、毎日必ず食べるのはやっぱりお米です。お米はないと困りますし、小麦を生産する農家さんが増えているとはいえ、小麦の総量はやっぱり輸入が多い。
この間のトランプショックなどもあり、貿易に対するリスクというか不安感もある中で、これ以上「食料」という私たちの生活の根幹となる部分を輸入に頼る割合を、これ以上増やしてもいいのかなという不安はちょっとありますね。
藤森キャスター:
食文化が変わり始めているかもしれません。
「朝食メニュー増減ランキング」(ライフスケープマーケティング 食MAP)といったデータがありまして、2025年1~3月に調査した家庭内での朝ご飯のメニュー増減のランキングです。やはりご飯が圧倒的に減っています。
【減少】
ごはん -51回
おにぎり -40回
かけごはん -39回
味噌汁 -33回
納豆/しらす・じゃこ -13回
野菜の煮物/大根おろし -12回
【増加】
ヨーグルト +49回
ポタージュ +17回
もち +10回
サンドイッチ/シリアル +8回
チーズ/テーブルパン +7回
ハム・ソーセージ +6回
代わりに増えたのはチーズやシリアル、サンドイッチなど。もちがお米の代わりなのでしょうか。調査会社によると、コメの置き換えにとどまらず和食から洋食で献立自体が変わっていき、結果的にヨーグルトが増えたのではないかという見方です。
トラウデン直美さん:
今は和食が世界中で人気で、ヘルシーで健康的だと注目されている中、日本に住んでいる私たちが和食を食べる機会が少しずつ減ってしまうというのは、なんだか切ないです。
日本のコメ農家は本当に頑張ってくださっていると思うので、報酬は確保しつつ、でも私たち消費者にも届くような調整ができたらいいなと本当は思います。
小川キャスター:
もちろん適正価格がどこなのかというところについて、さまざまな意見がありますが、日本の主食のコメが2024年の2倍という高値がずっと続いています。
こうした構造変化まで生まれてしまって、これをどれだけ政府が深刻に受けとめているのか、それがいまいち伝わってこない、共有されないというのが一番の問題かなと感じます。
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<プロフィール>
トラウデン直美さん
Forbes JAPAN「世界を変える30歳未満」受賞
趣味は乗馬・園芸・旅行