ノーベル化学賞に北川進さん「勧誘の電話かと思って不機嫌にとった」吉報の瞬間を明かす…生出演で語った次世代へのメッセージ【news23】

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2025-10-09 14:34

今年のノーベル化学賞に京都大学の北川進副学長らが選ばれました。8日に北川進さんが「news23」に生出演し、次世代へのメッセージを語りました。

【写真を見る】北川氏が語る子どもたちへのメッセージ

6年ぶり9人目の快挙 日本人がノーベル化学賞を受賞

8日、日本時間午後6時45分。北欧から吉報がもたらされました。

「2025年のノーベル化学賞について、日本の京都大学、北川進氏らへの授与を決定しました」

受賞の発表を受けて、京都大学の会見場にかけつけた北川進さん(74)。

京都大学 北川進 副学長
「非常に辛いこともいっぱいあるが、実際に新しいものを作っていくこと、それを過去の30年以上、楽しんできた。今般、かくも大きな名誉をいただくことになって、非常に感激している。

何よりも化学を一緒に進めてきた、私達の同僚、学生の皆さん、そして海外含めた博士研究員の皆さんに感謝申し上げたい。そして当然、理解して支えてくれた家族にも感謝している。退職年齢を過ぎても、まだ研究してもいいということで、研究させていただいた京都大学には、本当に感謝しております」

北川さんは、金属と有機物の複合体「多孔性金属錯体」を開発しました。これは、ナノサイズの微少の穴が無数にある、ジャングルジムのような構造です。多孔性金属錯体は、たった1グラムで、サッカーコートに匹敵する表面積を持つものもあり、狙った気体を大量に閉じ込めることができます。

――受賞決定の知らせは、どこでどのように?

京都大学 北川 副学長

「高等研究院の私の居室で、ちょうど溜まっていた仕事を片付けていた。そのときに、私の横の固定電話に電話がかかってきた。5時半ごろですかね。最近、勧誘の変な電話がよくかかってくるんですよ。私はまたかと思ってですね、ちょっと不機嫌にとったら、スウェディッシュアカデミーの選考委員会の委員長だと名乗られたので、ちょっとびっくりしました。

やっぱり非常に大きな賞だし、名誉あるものだから、本当かな?と思ってしまいます。フェイクじゃないんだろうかと」

日本のノーベル賞受賞者は、個人では30人目。2024年、平和賞を受賞した日本原水爆被害者団体協議会と合わせると、31例目となりました。日本の研究者が化学賞に選ばれるのは、2019年の吉野彰さんに続いて9人目です。

70代男性
「すごいね、こりゃすごいよ。T細胞じゃないもんね、『多孔性材料開発に成功』――。わかんないね、これだけじゃ」

50代女性
「はじめてこんなに、続々と日本人の人生の大先輩が活躍されているのをみると、元気が出るというか、すごくいいことだと思います」

30代女性
「すごいなと思いますし、これからに発展する賞なので、どんどん新しい技術が磨かれて、日本も世界もよくなっていけばいいな」

「若い人の研究時間を確保するような施策を」次世代を担う研究者への支援を要望

会見中に北川さんへ、文部科学大臣から電話がかかってきたのですが...

京都大学 北川 副学長
「切れたの?」

うっかり電話を切ってしまった北川さんでしたが、次世代を担う研究者への支援については、しっかりと要望を伝えました。

京都大学 北川 副学長
「基礎研究を非常にちゃんと重視する、基礎研究というのは息の長い研究です。それをぜひ大きくやるような施策をお願いしたいが、まず第一に、若い人の研究時間を確保するような施策は必要だと思います」

将来を担う子どもたちへのメッセージは…

京都大学 北川 副学長
「子どもたちに言うのもちょっと難しいかもしれないけど、細菌学の父であるルイ・パスツールは『幸運は準備された心に宿る』、そういう名言を残している。

やはり良い先生に恵まれて、そして友達に、そして学会でのいろんな付き合い、それが実は準備された心。ある日、突然宝くじを引いたから当たるものではないということを言いたい」

北川さんの研究は、さまざまな分野への応用が期待されています。

地球温暖化の原因になっているメタンガスや二酸化炭素などの気体をうまく取り除いたり貯蔵したりできれば、気候変動やエネルギー問題の解決につながるのです。

北川さんの座右の銘は「無用之用」という、中国の荘子の言葉。「役に立たないように見えるものも実際は役に立つ」という意味です。

京都大学 北川 副学長
「全く穴が開いていない、密なものというのは非常に安定。安定なんですけど、穴が開いてくると壊れますよね。その穴を一体何に使うのかという風に考えると、『穴』と考えると無用なんです。ところが、その穴に原子や分子を入れ込んで溜めたり、いろいろ変えたりしていく、そう考えると役に立ちます。すなわち、考え方をひとつ変えるだけで役立つんですね」

「誇りに思います」学生が語る北川氏の人柄は

喜入友浩キャスター:
京都大学には、北川さんに直接、お祝いの言葉を届けようと、100人弱の学生が集まっている状況です。多くの学生がカメラを構え、北川さんの姿を一目収めようとしています。中には、北川さんの研究室で、ともに研究に励んでいる学生さんの姿もありました。

北川さんの研究室には、海外からの留学生もいるそうです。北川さんに憧れて、京都大学に入学したという学生もいらっしゃいました。その方々が、北川さんにまず届けたいのは「誇りに思います。おめでとうございます」という言葉だそうです。

学生さんが話す北川さんの人柄としましては、とても我慢強く、粘り強く、学生さんを導いてくれる方だそうです。本当に苦しい研究が続く中で、「自分の研究に集中して、その道をまっすぐ進みなさい」と、いつも優しく導いてくださるそうです。

そんな北川さんは、「99から100を作るのも大事だが、研究者としては0から1を作るのが大事」という話をいつも学生さんにしているそうです。これまでの研究を踏襲することは勿論、そこからまた新しいものを作り出そうという発想で、学生さんたちを導いています。

北川さんの研究室の学生に、「北川さんに何をプレゼントしたいですか?」と聞いたところ、北川さんはワインがお好きだそうで、毎年北川さんの誕生日にはワインを届けているそうです。今からワインを買わなきゃ、どれにしようか、と5~6人の学生が話をしていました。

そして今、集まっている学生の中には、北川さんの研究室に所属していない京都大学の学生もいます。そういった学生さんの中には、ノーベル賞の会見の様子を学校の図書館で勉強しながら聞いていたという方がいらっしゃいました。その方は、自分が勉強している最中の発表に、ますます勉学に励もうと思わされたということで、非常に刺激を受けて北川さんの姿を待っています。

世界が評価「多孔性金属錯体」どう活用? 秘められた無限の可能性

藤森祥平キャスター:
今回、北川さんが開発・研究されている「多孔性金属錯体」。応用例としては、▼大気中の汚染物質を効率的に除去したり、▼危険なガスを蓄えて貯蔵、それを安全に輸送したりすることなどに利用できます。

科学ジャーナリスト 寺門和夫さん:
今、地球規模で課題になっている問題、汚染物質の状況への対処など、応用範囲は広いのではないでしょうか。

小川彩佳キャスター:
北川さんと中継を結びます。ノーベル化学賞の受賞決定、おめでとうございます。

藤森キャスター:
多孔性金属錯体が発見され、構造の無数の穴に空気を閉じ込めていく。これを北川先生は将来、どのように活用して、どんな未来を思い描いていらっしゃるのでしょうか。

京都大学 北川進 副学長:
私は空気から、非常に有用なものを取り出したいと思っています。

空気は二酸化炭素、それから酸素、窒素、そして水蒸気でいえば水が入っています。普通は混ざりもので、また濃度の薄いものもあるので、なかなかそれらを分離して取り出せません。それを選択的に取り出すことによって、いろんなものに変換していく。そして、それが燃料の場合は燃えて、また空気へと戻るという循環も可能になります。

私は、空気のことを“目に見えないゴールド”であると考えています。というのは、世界的にどんなに国土の狭い国であろうと、空気は平等に存在します。要するに、空気が枯渇することはありません。ということは、国同士が空気を巡って資源競争をする必要がない。各国が競争、競合をしなくていいということになります。

それから今、地球温暖化の問題で二酸化炭素やメタン、ノックスのような温暖化物質が大気中に存在しています。それを効率よく除去すること。また地球温暖化において、CO2(二酸化炭素)というのは悪者になっていますが、私達はCO2というのは炭素資源だと考えています。有効に使うことによって、地下資源を取り出さなくても、空気から取り出して循環させることができる。そういう夢が実現できればと思っています。

「必要なのは研究環境」次世代の研究者の“チャレンジ”のために

小川キャスター:
文部科学大臣との電話の中で、若い方たちの研究時間の確保についてお話しされていましたが、今、その研究費なども含めてどんなことが必要で、どのような未来が試されていると思われますか。

京都大学 北川 副学長:
若い人たちはやはりいろんな意味で、チャレンジ精神もあるし、いろんな研究を進める上での意欲や気力を持っています。

だから必要なのは、研究環境です。基礎的な研究費を潤沢に用意するということで、若い人たちが安心して研究に集中できる環境は勿論、それだけでは駄目で、やはり彼らをサポートする人材が必要なんです。

それがどんな人材かというと、技術支援をする人材、それからURNのように解析を通してサポートする人材、そういう支援人材を整備することが、やはり若い人が独立していく上で非常に重要になっていると考えます。

トラウデン直美さん:
環境課題の解決のひとつになるかもしれないということで、ものすごく期待をしているのですが、今回のノーベル化学賞の受賞決定によって、ここからさらに研究が進むこと、広がりを見せていくことについて、後進の研究者の皆さんを含め、どんな風に広がっていってほしいですか。

京都大学 北川 副学長:
これまでも学術的には、非常に大きな学会が存在している分野です。一方で、一般の方々については、認知されていなかったということです。

このノーベル賞で非常に広く知られることによって、これまで応用できなかったところまでの展開というのも考えられるので、若い人たちにとっては、その展開による様々な研究へのシーズ、アイデアの源になるものがいっぱい出てくると思います。ぜひそこにタックルして、チャレンジして、また新しい材料を作るなり、世界を変えてしまうような技術の開発に挑戦して欲しいと思っています。

科学ジャーナリスト 寺門さん:
多孔性金属錯体は、汚染物質を除去するということ以外に、例えば化学反応の、いわゆる触媒として、いろんな新しい物質を作っていくことにもかなり使えるんじゃないかというふうに考えております。

京都大学 北川 副学長:
おっしゃる通りです。まさに今、皆さんはそっちへ向かっています。例えば気体の反応というのは、圧力をかけないとなかなかうまくいきません。濃度が薄いからです。ところが、この多孔性金属錯体というのは、使っても穴の中に濃縮できます。

それによって、反応をもっと加速することができる等々、いろんなメリットがあるので、これからますますこの分野で、こういう穴が空いた材料が使われると思います。

「チャレンジ精神を」「AIをもっと活用すべき」

藤森キャスター:
会場の外は、学生の皆さんが北川さんをお祝いをしたくて、もう今か今かと待ってらっしゃる状況ですが、北川さんのように、「できないだろう」と言われたことに対して絶対諦めず、むしろ燃える心を、学生の皆さんにいつも教えていらっしゃるのですか。

京都大学 北川 副学長:
「チャレンジ精神」というのはいつも伝えています。チャレンジ精神なく、誰かがやったことに対して、少しだけ数値を上げるような話というのは面白くないと。誰も考えつかなかったことをやるのは、非常に面白いというのはよく言っています。

小川キャスター:
今、AIなどでどんどん物事が効率化して、情報もどんどん流れてきています。北川さんは、その構造の中の『穴』に注目されて研究が花開いたわけですが、社会からそうした穴や隙間がどんどんなくなっている中で、どんな姿勢や感性が必要だと思われますか。

京都大学 北川 副学長:
人がやってないこと、面白いことに挑戦するのは、いつまで経ってもあると思います。私はAIに対して否定的ではなくて、非常に上手く使えば、どんどん物事を前へ進めることができると思います。AIにすべての判断をさせようとするから問題があるわけで、私はAIをもっと活用すべきだと思ってます。

========
<プロフィール>
北川進
ノーベル化学賞受賞が決定
京都大学 副学長

寺門和夫
科学ジャーナリスト
医学・生物学から宇宙まで幅広く取材
科学雑誌「ニュートン」副編集長など歴任

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