殺傷能力ある武器の輸出解禁 平和国家・日本の安保政策が大転換 政府は「歯止め策」設けるも“輸出後”に課題も【news23】
世界の秩序が激変する中、日本の安全保障政策が大きな転換点を迎えます。政府は、これまで制限してきた「殺傷能力がある武器の輸出」を原則、解禁することを決めました。その背景と課題に迫ります。
殺傷能力ある武器の輸出解禁 安保政策が大転換
アメリカが「力による平和」を推し進め、中国などが軍事力を増強する中…
21日、政府は従来の安全保障政策を転換させることを決めました。
木原稔 官房長官
「自国と地域の平和を守るには、防衛装備移転をさらに推進し、同盟国・同志国の抑止力・対処力を強化することが重要」
日本はこれまで、他国へ輸出できる「防衛装備品」について「救難」や「輸送」など、非戦闘目的の5つの類型に限定してきましたが、これを撤廃。
日本と協定を結んだ国に対し、戦闘機や潜水艦など、殺傷能力がある「武器」の輸出を原則解禁するほか、戦闘中の国への輸出についても「特段の事情」がある場合は例外的に認めます。
高市総理「もう時代が変わった」 武器輸出の“歯止め策”は?
戦後、「平和国家」として歩んできた日本。3月の国会ではこんな質問が...
公明党・西田実仁 幹事長
「かつて宮澤喜一外務大臣(当時)は、『我が国は兵器の輸出をして金を稼ぐほど落ちぶれてはいない。もう少し高い理想を持った国として今後も続けていくべきであろう』と答弁している。総理はどのように受け止めるか?」
高市総理
「今は日本を取り巻く情勢が非常に厳しいものになってきていると思う。我が国一国だけではなく同志国を増やしていって、一緒に地域の安定を実現していかなくてはいけない時代になっていると思う。もう時代が変わったと感じる」
「際限のない武器の輸出」にならないよう政府は“歯止め策”を設けています。
まず、輸出する際はNSC(国家安全保障会議)が審査・決定を行います。
さらに、第三国やテロ組織などへの流出を防ぐため、輸出後のモニタリング体制を強化するとしています。
しかし、武器輸出の決定が、国会に“事後に”通知されるなど、チェック機能がどこまで働くかは見通せない状況です。
武器輸出なぜ解禁? 露のウクライナ侵略が転機か
小川彩佳キャスター:
政府は今回殺傷能力のある武器の輸出解禁に踏み切りましたが、なぜなのでしょうか?
TBS報道局政治部 防衛省担当 渡部将伍記者:
転機となったのはロシアによるウクライナ侵略だと思います。これまで戦闘や攻撃に使われてこなかったドローンなどの無人機が戦闘に使われ始めた結果、どれが殺傷能力のある武器で、どれが殺傷能力のない武器なのかという区切りがなくなってきている現実がまずあります。
その上で、日本の防衛産業がどんどん衰退してきていて、“お客さん”は自衛隊のみ、という状況があります。日本の防衛産業が衰退すると日本を守る力が衰退しかねないという懸念によって、今回このような判断に踏み切ったのだと思います。
藤森祥平キャスター:
その懸念が大きく影響しているのでしょう。
今回の武器輸出による政府の狙いは大きく2つです。
(1)日本の防衛産業を守る
(2)同盟・同志国との関係を強化(イギリス、オーストラリアなど17か国と協定)
小説家 真山仁さん:
日本には「自分の国は自分の国で作ったもので守りたい」という考えがずっとあった。
そもそも防衛産業には、飛行機などの重工業のほぼ全社が関わっている。ここは国際競争力が非常に重要なところで、防衛産業が成長していくとそこで先端技術が開発されるので、防衛産業を頑張らないと世界の競争に乗り遅れるという危機感が現状ある。ただ、殺傷能力を伴うものなので、どうやるのかはきっちり考えていかなければいけない。
逆に言うと、日本は平和憲法を持っている国なので「精密で精度の高いものを作れますよ」というアピールをちゃんとできるかどうかが大事。
藤森キャスター:
真山さんは小説で軍事関係や防衛省を取材されていますが、そういうところが課題だと思われてきたのですか?
真山さん:
タブーになっているのが一番の課題だと思います。
このことには誰も触れない。だから「防衛産業」という別の言葉を使ってしまう。これが問題だと思う。
「スピード感重視」?国会には事後通知...「歯止め策」に課題も
藤森キャスター:
そして、今回政府は歯止め策として、大きく2つを掲げました。
【武器輸出の歯止め策】
▼NSC(国家安全保障会議)が審査・決定
→国会には事後通知
▼輸出後のモニタリング強化
真山さん:
そういう法律があったとしても、平和に関わる非常にデリケートな問題なので、最低でも1日ぐらいは「こういうことをやろうと思うのですが、皆さんどうでしょうか」とはかるのが民主主義だと思う。
みんながルールをわかってきたらいいですが、最初に全く経験のないことを事後報告するのは、平和を大切にする日本として行うべきではない。
小川キャスター:
事後にする理由は何なのでしょうか?
渡部記者:
政府与党の中からは、「今回はスピード感を重視した」という声も聞かれます。国会審議をするということはそれだけ議論に時間がかかるし、国会でもこの議論だけをするわけではない。
政局や他の諸課題の影響で、武器輸出の議論が停滞してしまうことを恐れた点もあると思う。
真山さん:
スピードと拙速は非常に近い。だからどこで線引きするかというと、多くの人が「本当にこれでいい」と思っているのかどうかを肌感覚でわからないのなら、国会議員はやめた方がいい。
デリケートなことをしっかり審議することが、多くの国民の信頼を高めていくことになると思う。
藤森キャスター:
NSCで事前に決めるということですが、そもそもNSC自体はオープンの場なのでしょうか?
渡部記者:
NSCは非常に秘匿性の高い会議。いつ開かれるのか、どのように開催されるのかは現場で取材している我々も事前に察知することが難しい会議です。
実際、大臣などが官邸に入って急遽会談が開かれた後には、開催のお知らせが我々記者にもオープンになりますが、NSCの議題が書かれているだけで、何がどういう風に議論されたのかはわからない。
仮に国会審議という形ではないにせよ、幅広く国民の理解を得る形は必要なのではないかと思う。
真山さん:
隠すということ自体、多くの人は「何かあるよね」と思ってしまう。何もないならオープンにすればいい。
輸出後のモニタリング体制強化示すも… 実効性の担保に課題
藤森キャスター:
輸出した後に日本の武器がどう使われているのか、「モニタリングを強化する」と言っていますが、実際にできるのでしょうか?
渡部記者:
具体的に何をどう輸出するのか、どういう理由で輸出するのかという点がまだ決まっていないので、輸出された武器の利用をどのように担保するのかは正直不透明なところがあります。
例えば、輸出を決めたA国があるとして「A国から第三国やテロ組織に武器移転することはないのか」と聞くと、政府は「目的外で使うことは想定されていない」ということを強く主張しています。無断譲渡というのはまずあり得ないという考え方です。
仮にモニタリングをして無断譲渡などの予定以外の使い方が発覚した場合には、「輸出や部品の差し止め」「現地に政府の職員を派遣して確認」をすると言っています。
しかし、どのような武器を送るかもまだ決まっていないので、どう実効性を担保するのかという点にはまだまだ課題がある。
適切な例えかはわかりませんが、本来自分の国を守るという用途で輸出したミサイルが、他の国に発射されるといった、想定とは異なる使い方をされてしまった場合は、紛争に繋がることになります。
どのように「歯止め策」を強い意味で担保するのか、課題が残ると思います。
真山さん:
本来、責任を明確にするならば、A国に売った後は「知らない」と言うべき。
逆にモニタリングを強化するということは、「責任を取る」と日本が言ってしまっている。これは今後すごく大きな問題になるかもしれない。
小川キャスター:
一度踏み込んでしまうと後戻りができなくなる非常に重い方針転換だと思いますが、これが閣議決定で決まってしまっていいのか。
高市総理も「平和国家としての理念は変わらない」と言っていますが、信頼感を損なわない運用とはどういうものなのかも含めて、国民にもっと丁寧に説明する必要があると感じます。
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<プロフィール>
渡部将伍
TBS報道局 政治部 防衛省キャップ
映画「ブルーインパルスの空へ」監督
真山仁さん
防衛費倍増で揺れる政権を描いた「アラート」
最新作は「ウイルス」