94歳のゲイ、願うのは「自由に生きられる社会」 偏見や差別恐れ…交際経験なし

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2024-04-16 17:09
94歳のゲイ、願うのは「自由に生きられる社会」 偏見や差別恐れ…交際経験なし

今年3月、札幌高裁は同性婚を認めない法律の規定は憲法に違反すると判断。「同性愛者に対して婚姻を許していないことは合理的な根拠を欠く差別的な扱いである」とした。
同様の集団訴訟は全国で起こされていて、2審で憲法違反と判断されたのは初めてのことだ。
札幌高裁の踏み込んだ判決を特別な思いで受け止めた男性がいる。

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偏見や差別に耐えた半生 「結婚しないん?」が嫌だった

「こんな時代に生まれたかった。僕はそれが残念やなって思うわ」

大阪市西成区に住む長谷忠さん、94歳。同性愛者の長谷さんは結婚をしたことも、交際した経験もない。長年、偏見や差別を恐れて生きることを余儀なくされてきた。
かつて同性愛は“異常性欲”や“変態性欲”だと公然と語られ、日本では1990年代まで治療が可能な精神疾患とされてきた。

1929年生まれの長谷忠さんは、ゲイであることを誰にも打ち明けることもなく、好きな男性ができても告白することもできない時を過ごしてきた。

長谷忠さん
「職場の同僚から『長谷くん、結婚しないん?』ってよく聞かれたよ。それが嫌やった。自分では同性愛者であることはわかっているけど、絶対に言えなかった。30代を過ぎたら『早く結婚せえよ』って言われるようになった。そのたびに『まだちょっとなー』『ええ人を待ってるねん』とか言ってごまかしていた。自分を偽るんや」

長く同性愛者だと公言できない時代を過ごしてきた長谷さん。誰にも相談できず、異性に興味が持てない自らを異常だと責めたこともあった。

長谷忠さん
「男を好きなことを隠そうとすると嘘をつかないとあかんし、友達も作らなかった。本当にしんどかった。好きな人はおったけど、言葉には絶対出されへん。気持ちはずっと抑えたままやった」

伝説のゲイ雑誌『薔薇族』元編集長が語る「異常とか変態でもないと言い続けた」

「同性愛は病気」だとされた時代。同性愛者を「明るいところへ」と宣言した雑誌がある。1971年に誕生した日本初となるゲイの商業雑誌「薔薇族」だ。30年あまり編集長をしていた伊藤文学さん(91)が取材に応じた。

伊藤文学さん
「弱い人に目を向けるという気持ちが、僕の中にあったんじゃないかなと思うけどね。じゃなきゃ、女好きの僕がゲイのことを知ったからって薔薇族の出版を続けようという気持ちにはならなかったと思うよ」

当時、伊藤さんの元には読者から沢山の相談が寄せられた。悩みの多くは結婚に関することだったという。

伊藤文学さん
「当時は周りの目があるから結婚しないわけにはいかなかった。無理やり結婚して、家の中で薔薇族を隠していた読者が多かったね。家族にも言えない、本当の自分を隠してひっそりと生きていたわけだからつらかったと思うよ」

薔薇族の発行部数は1990年代には3万部を超えた。しかし、インターネットの普及により、次第に部数は減少。2004年に廃刊した。

伊藤文学さん
「僕は、同性愛は『異常』とか『変態』でもないと言い続けてきた。世の中は変わってよくなかったけど、ここまで来るのは大変だったよ。いまは出会いの場がたくさんある。行動を起こせば仲間は見つけられる」

同性婚に後ろ向きな政府 多様性を尊重は本当か?

時は流れ、性的指向や性自認の多様性が語られるようになった。
社会の認識は大きく変わり、LGBTQを尊重する機運は国民の間で高まっているが、多様性の重視とは逆行する政治の姿勢が際立っている。
岸田文雄首相は3月15日、札幌高裁判決について「当事者双方の性別が同一である婚姻の成立を認めることは憲法上想定されていないことが従来からの政府見解であり、政府としては少なくとも同性婚に関する規定を設けないことが憲法に違反するものではないと考えている」と淡々と述べた。
社会の変化を受け止めない政府。長谷さんは語気を強める。

長谷忠さん
「同性愛者もいるんやなという世の中にならないとだめ。絶対に同性愛者がいるんやから。同性愛者を異性愛者がどのように認めていくかで世の中は変わっていく。『僕はゲイです』ってなにげなく言える世の中になったらええのにな。そしたら暮らしやすいやん。自由に生きられる社会になってほしい」

長谷さんに密着したドキュメンタリー映画「94歳のゲイ」が4月20日からポレポレ東中野で上映が始まる。長谷さんは上映にあわせて上京し、「プライドパレード」にも参加する予定だ。すべての人が差別や偏見にさらされることなく、より自分らしく生きることができる社会を目指して…。

(毎日放送報道情報局 吉川元基)