全米チャート初登場ナンバーワン!ビヨンセが新作『Cowboy Carter』で歌った2曲のカバーソングを掘り下げる!(高橋芳朗の音楽コラム)

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2024-05-03 08:15
全米チャート初登場ナンバーワン!ビヨンセが新作『Cowboy Carter』で歌った2曲のカバーソングを掘り下げる!(高橋芳朗の音楽コラム)

音楽ジャーナリスト高橋芳朗が、TBSラジオ「生活は踊る」パーソナリティのジェーン・スーと、「今、聴きたい『生活が踊る歌』」を紹介。今回のテーマは「祝・全米チャート初登場ナンバーワン! ビヨンセが新作『Cowboy Carter』で歌った2曲のカバーソングを掘り下げる」です。(2024年4月11日の放送より)

カントリーチャート開設以来、黒人女性アーティストとして初の1位を獲得

高橋芳朗:
3月末、突如の来日とサプライズのサイン会開催が大きな話題を集めたR&Bシンガーのビヨンセのニューアルバム『Cowboy Carter』が3月29日にリリースされました。

2月22日の放送でカントリーミュージックを取り入れた先行シングル「Texas Hold 'Em」を紹介しましたが、これがいざ蓋を開けてみるとカントリーを軸にしながらもさまざまな音楽の要素をミックスした非常にチャレンジングな内容になっていて。 

ジェーン・スー:
アルバム、長かったよね。最近は下手したら40分程度のアルバムも多い中でビヨンセの新作は約120分。27曲も入っていたでしょ? 

高橋芳朗:
まあ、圧巻ですよね。組曲のような構成がとられていたり。 

ジェーン・スー:
後半になってくると「あれ? これってカントリーのアルバムじゃないよね?」みたいな。 

高橋芳朗:
そうそう、以前にこのコーナーでも紹介したトレンドのジャージークラブのビートが出てきたりね。ビヨンセ自身も「カントリーアルバムではなくビヨンセのアルバムだ」みたいなことを強調していましたけど、確かにそんな内容でした。

そんなビヨンセの新作『Cowboy Carter』は、全米チャートで余裕の初登場1位。そしてカントリーチャートでも初登場1位を達成。1964年のカントリーチャート開設以来、黒人女性アーティストが1位を獲得したのはこれが初めてとのことです。

カントリーは一般的にトラディショナルな白人の音楽と認識されているところがありますが、実はその成り立ちには黒人が大きく関与していて。

ビヨンセはそんなホワイトウォッシュされてしまった事実を今回のアルバムをもって白日のもとにさらすと共に、人種や文化で分断されているアメリカ社会に一石を投じてみせたわけです。

このカントリーチャート1位獲得を受けて、ビヨンセは自身のInstagramでこんなメッセージを投稿しています。「何年か後には音楽のジャンルとアーティストの人種の紐付けが無意味になっていることを望みます」と。 

ジェーン・スー:
本当にそうだよね。 

高橋芳朗:
ビヨンセはもう何年も前から「人気がいちばんあるとか、そういうことはもう関係ない。いまの私には自分の人生やキャリアをかけてでも世界に向けてベストなことをやる責任がある」と語っていましたが、まさに有言実行を果たしていますよね。

ビートルズの名曲をカバー 新進気鋭の黒人女性カントリーシンガー4人をコーラスに

高橋芳朗:
そんな2024年最大の話題作と言えるビヨンセの新作『Cowboy Carter』に収録されている2曲のカバーソングにフォーカスしてみたいと思います。まず一曲目は、ビートルズの「Blackbird」。1968年発表の通称「ホワイトアルバム」の収録曲。ポール・マッカートニー主導で作られた曲ですね。

ビヨンセが「Blackbird」をカバーした背景としては、この曲が1960年代のアメリカ公民権運動に着想を得て作られたことに基づいている、と考えていいでしょう。作者のポール・マッカートニーは「Blackbird」について「人種差別を受けていた黒人女性に捧げた歌」とコメントしていて。

要はタイトルの「Blackbird」は黒人女性のメタファーなんですね。サビのフレーズ「Blakbird fly, Into the light of the dark black night」(黒い鳥よ、飛ぶんだ。闇夜に灯る光を目指して)は、差別と闘う黒人女性を鼓舞する目的で書かれています。

このようなテーマを持つ曲に対して今回ビヨンセがどのようにアプローチしたかというと、彼女は新進気鋭の黒人女性カントリーシンガー4人をコーラスに迎えてカバーに挑んでいます。タナー・アデル、ブリトニー・スペンサー、ティエラ・ケネディ、レイナ・ロバーツの4人。

そしてなんと、ビヨンセはオリジナルのビートルズのトラックをそのまま使っているんですよ。新たにストリングスやベースが加えられていますが、オリジナルのトラックを使用していることは聴き比べればすぐにわかると思います。

作者のポール・マッカートニーはビヨンセのカバーに対してすぐに自身のInstagramを通じてリアクションしていました。曰く「ビヨンセのバージョンにはとても満足している。彼女は私がこの曲を書くきっかけになった公民権運動のメッセージをさらに強固なものにしてくれた。私の歌とビヨンセのカバーが人種間の緊張を和らげることに貢献できたらうれしく思う」と。

「Blackbird」はビートルズの数ある名曲の中でも特にカバーされることが多い曲ですが、このビヨンセ版はベストのひとつと言っていいのではないでしょうか。本当に感動的なカバーです。

ドリー・パートンの「Jolene」 かつて日本ではピンクレディーらもカバー

高橋芳朗:
ビヨンセの新作に収録されているもうひとつのカバーソングは、カントリーミュージックの大御所中の大御所、ドリー・パートンの「Jolene」。1973年のヒット曲です。

この「Jolene」がどんなことを歌っているか端的に説明しますと、主人公の女性が彼女の恋人もしくは夫を誘惑しようとするジョリーンに対して「どうか私の彼を奪わないで!」と懇願する、という内容です。

ジョリーンは驚くほどの美貌の持ち主で、主人公は自分では到底太刀打ちできないと思っていて。歌詞の中には「あなただったら他にいくらでも男を選べるでしょ? でも彼は私にとって一生に一度の運命の相手なの。だからお願い、あの人を奪わないで!」なんて一節もあったりします。かなり切迫した状況が描かれているわけですね。

そんな思わず引き込まれるストーリーテリングの妙もあって「Jolene」はリリース当時から非常に人気が高く、これまで数多くのシンガーに歌い継がれてきました。ここ日本で特に有名なのは1976年のオリヴィア・ニュートン=ジョンのバージョンでしょうか。

彼女のカバーに触発されるようにして、当時、日本でも岩崎宏美さん、ピンクレディー、キャンディーズがカバーしていたりします。ピンクレディーのバージョンは、1977年3月に東京芝郵便貯金ホールで行われたライブの模様を収めたアルバム『チャレンジ・コンサート』の収録曲です。歌詞は日本語詞ですが、英語詞を忠実に訳してあるのでどんなことを歌っているのかがよくわかるのではないかと。 

続いてビヨンセ版の「Jolene」ですが、彼女は今回のカバーにあたって歌詞を改変しています。ビヨンセがどんなアレンジを施したかというと、ドリー・パートンのオリジナルがジョリーンに「彼を奪わないで!」と懇願しているのに対し、ビヨンセは「彼に近づいたらただじゃ済まないよ!」とかなり強めに警告しているんですよ。むしろ恫喝ぐらいの勢いで。 

ジェーン・スー:
最高です! 

高橋芳朗:
「私がクイーンだって知ってるの? ルイジアナから来た強い女なんだよ」「あんたが平穏無事でいられるかはあんたの出方次第だね」なんてフレーズもあって。 

ジェーン・スー:
体育館の裏に呼び出されたような気持ちになるよ(笑)。 

高橋芳朗:
アハハハハ! かなり強い言葉でジョリーンを威嚇していますよね。家庭を守る強い決意と自信にみなぎっています。熱心なファンの方はよくご存知かと思いますが、ビヨンセは2016年のアルバム『Lemonade』収録の「Sorry」で夫のJAY-Zの浮気を題材にしていたことがあって。

 ジェーン・スー:
ありましたねー。

高橋芳朗:
おそらくビヨンセは、この機会にカントリーの大名曲である「Jolene」の設定を使って「Sorry」の続編的なことを歌いたかったのではないかと。アルバムでは「Jolene」の前にドリー・パートン本人が登場する短いイントロダクション「DOLLY P」が入っていて。ここでのドリー・パートンのコメントからも、これが「Sorry」を踏まえたカバーであることはまちがいないと思います。 

このビヨンセ版「JOLENE」は大名曲の歌詞を改変しているということで賛否両論を巻き起こしていますが、そんな話題性も手伝って4月には全米チャートで7位にランクイン。オリジナルのドリー・パートン版を上回るヒットになっています。

そんなわけでビヨンセの新作『Cowboy Carter』の2曲のカバー曲を紹介してきましたが、もちろんこれはアルバムの底知れない魅力の一断片を抽出したにすぎません。まちがいなく2024年を代表することになる濃密な内容になっていますので、ぜひアルバムトータルで楽しんでいただきたいと思います!

【プロフィール】

<高橋芳朗>
東京都出身。音楽ジャーナリスト/ラジオパーソナリティー/選曲家。著書は『マーベル・シネマティック・ユニバース音楽考~映画から聴こえるポップミュージックの意味』『新しい出会いなんて期待できないんだから、誰かの恋観てリハビリするしかない~愛と教養のラブコメ映画講座』『ディス・イズ・アメリカ~「トランプ時代」のポップミュージック』『KING OF STAGE~ライムスターのライブ哲学』『ライムスター宇多丸の「ラップ史」入門』『生活が踊る歌~TBSラジオ「ジェーン・スー生活は踊る」音楽コラム傑作選』など。TBSラジオでの出演/選曲は『ジェーン・スー 生活は踊る』『金曜ボイスログ』『アフター6ジャンクション』など。

<ジェーン・スー>
プロデューサー・作詞家・コラムニスト。YUKI・中島美嘉・flumpool・元気ロケッツ等のアーティストを手がけるクリエーター集団「agehasprings」所属。ガールズユニット「Tomato n' Pine」の共同プロデュースや作詞など。

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