「富はまだ白人たちが支配」南アフリカで高まる政治不信 “汚職”で1年に約300日停電 マンデラが目指した理想の国はいま【news23】

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2024-05-25 15:45
「富はまだ白人たちが支配」南アフリカで高まる政治不信 “汚職”で1年に約300日停電 マンデラが目指した理想の国はいま【news23】

人口の8割を黒人が占める南アフリカ。その「建国の父」と言えばネルソン・マンデラ氏です。白人以外に対する人種隔離政策を撤廃し、民主的な選挙を実現。それから約30年、アフリカ屈指の経済大国へと成長を遂げた南アフリカですが、縮まらない貧富の差や汚職も絡んだ深刻な電力不足で国が混乱しています。

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混乱の南アフリカ 「災害」といわれるほどの“電力不足”

アフリカ大陸最南端の国、南アフリカ共和国。アフリカ有数の経済大国ですが、いま異例の事態に陥っています。

城島未来 記者
「ヨハネスブルク市内の交差点なんですが、信号機のライトが付かなくなってしまっています。信号の変わりに交差点の真ん中で、手信号をしている人たちがいます。」

それは、「災害」といわれるほどの“電力不足”です。

2023年1年間で300日近くもの間、国全体が停電に。真っ暗な部屋の中で、ロウソクの明かりをたよりに生活する人もいます。

レストランでも冷蔵保存が必要な肉などは停電になると腐ってしまうため、すぐに調理する必要があるといいます。

レストランのオーナー
「停電すると食料がダメになります。特に肉。腐って捨てることになる。」

国民の生活に直結する電力危機。こうしたしわ寄せを最も大きく受けるのは貧しい人たちです。

黒人の失業率は37% 「どうやって生きていけば…」

最大都市ヨハネスブルクに住む、ンフレニさん(28)。仕事がなく生きるために盗みを繰り返し、20代のほとんどを刑務所で過ごしました。

今は集めたごみをわずかなお金に換えて暮らしていますが、停電が続き、食事にありつけない日も増えたといいます。

ンフレニさん 
「20ランド(=170円)手に入るとします。電気さえあれば、トウモロコシの粉、トマト、じゃがいもを買ってきて調理することができます。でも電気がないので、着火剤を買ってきて火を起こさなくてはいけません。それが22ランドするんです。着火剤を買うだけで、もう赤字なんです」

南アフリカで白人の失業率は9%にとどまる中、黒人は37%にのぼります。

ンフレニさん
「(この状況が続けば)悪いことと分かっていても盗むほかなくなります。どうやって生きていけばいいんですか」

政府に向けられる強い不信感。しかし30年前、状況は大きく異なりました。

「アパルトヘイト終焉」 マンデラの民主化から30年

南アフリカで長年続いた「アパルトヘイト=人種隔離政策」。白人とそれ以外の人種を区別し、黒人には参政権や職業選択の自由すら与えられませんでした。その「アパルトヘイト」を終焉させ、全ての人種が参加する選挙で誕生したのがネルソン・マンデラ大統領です。

マンデラ大統領
「決して、二度とこの美しい国土に差別をもたらしてはならない」

人種の壁を取り除き、国民から建国の父として慕われました。そのマンデラ氏が率いたのが「ANC=アフリカ民族会議」

国民の絶対的な支持のもと、30年間政権を維持してきました。ところが、埋まらない格差や世界最悪レベルの失業率。「ANC」はいま支持を失いはじめています。

さらに拍車をかけたのが、“電力危機”の背景にもあるとされる“国営電力会社との癒着”です。2019年から3年間、国営電力会社「エスコム」のCEOを務めた、アンドレ・デ・レイタ氏。

発電所の修復や電力需要を補うための新規開発に充てられるはずだった膨大な資金が「ANC」の関係者に流れていたと告発しました。

国営電力会社「エスコム」元CEO アンドレ・デ・レイタ氏
「少なく見積もっても、毎月5000万ドル(約78億円)が消えていました。“政府と繋がりのある”仲介業者が必ず契約を結び、エスコムから多額の金を中抜きしていたのです。仲介業者は、与党・ANCと繋がっていました

“電力危機”に“汚職”や“経済格差”。与党「ANC」への不信が高まる中、来週行われるのが南アフリカの総選挙です。

ンフレニさん
「『投票すれば雇用を作れる』と言われてANCに投票しました。それで今どうなっている?仕事はない。投票前となにも変わりません」

――マンデラは恩恵をもたらしてくれたと思う?
「そんなものはありません。どこに恩恵なんてあるんですか。富はまだ、白人たちが支配しています」

「“経済的アパルトヘイト”が続いている」

そんな人々の受け皿となっているのが白人排斥をも辞さない過激な思想で支持を集める野党の「EFF=経済的解放の闘士」です。

城嶋未来 記者
「急進左派EFFの集会が始まろうとしていますが、集会前に政党のオリジナルソングで支持者が踊っています。『白人は我々の土地を返せ』という曲にあわせて、支持者が踊っています」

彼らが着るTシャツには「停電をとめろ」「土地と仕事を返せ」というメッセージが。「EFF」は白人の土地を強制収用して、黒人にも分け与えるべきだと訴えます。

野党「EFF」ンドロジ議員
「80%の貧しい黒人が、国土の7%の土地に追いやられている。“経済的アパルトヘイト”が続いているんです。南アフリカの白人は富を共有する覚悟が必要です。土地を共有しないなら、国民の不満は時限爆弾のように、いつか爆発するでしょう」

――再び人種間の対立を煽ることにならないか
「白人の特権階級が富を占有しているんです。私たちは土地を再分配するとこで、逆に人種間の対立をなくそうとしているんですよ」

「光がほしい。暗闇に閉じ込められるのは、もうたくさん」

一方で、こんな受け皿も。

城島未来 記者
「選挙活動の一環で地元の市場を最大野党『DA』のクリス・パッパス氏です。流ちょうな黒人言語ズールー語で有権者に話しかけています」

白人が率いる最大野党「DA=民主同盟」の候補者クリス・パッパス氏。「汚職撲滅」を訴えたクリーンな政治姿勢が有権者の心を掴み、黒人の最大部族“ズールー族”がほとんどを占める選挙区でも人気を集めているのです。

クリス・パッパス氏
「南アフリカでは常に人種の問題がつきまといますが、いま人々が気にしているのは、きちんと職務を果たしてくれかどうかです。壊れた水道をなおすとき、黒人か白人かで選ぶのではなく、きちんと直してくれる人を選びますよね」

30年前、初めて投票権を手にしてから「ANC」に入れ続けてきたという女性も…

女性有権者
「光がほしいんです。暗闇に閉じ込められるのは、もうたくさん。与党ANCに入れてきたが、次は野党DAにします。すべては変わっていく…」

南アフリカはいま、再び歴史の転換期を迎えようとしています。

「マンデラ人気」にあぐらをかいていた政府の慢心

上村彩子キャスター:
取材したロンドン支局の城島記者です。城島さんも南アフリカにゆかりがあるということですが、現場を取材してどんなことが印象的でしたか?

ロンドン支局 城島未来 記者:
20年前、子どもの頃ですが南アフリカに住んでいたことがあり、久しぶりに取材で訪れました。

まず驚いたのが「紙幣」です。

私も2000年代初頭の頃に使っていた旧紙幣ですが、南アフリカにゆかりのある野生動物などが描かれています。

いま使われている紙幣は、すべてにマンデラ元大統領の顔が印字されているのです。

10年ほど前からこのマンデラ元大統領のデザインが使われているそうですが、アパルトヘイト撤廃してからも20年、30年と経っても「マンデラ人気」にあやかり続け、あぐらをかいていた政府の慢心が今の状況を招いているということは否定できないのではないか、と感じました。

喜入友浩キャスター:
アパルトヘイト時代を知らない若い世代は、いまの南アフリカの政治にどんな思いを持っているのでしょうか?

城嶋 記者:
アパルトヘイト撤廃後に生まれた世代は「ボーン・フリー世代=生まれたときから政治的に自由な世代」と言われ、いまや人口の半分にのぼります。

EFFの集会に参加していた今回初めて選挙に参加するという10代の方に話を聞いたとき、「2024年は僕たちにとっての1994年なんだ」と話していたことが印象的でした。

2024年の選挙は、黒人が初めて選挙権を得た30年前の選挙と同じくらい重要で、国の分水嶺となるような選挙なんだ、という意味なんです。

4月下旬の世論調査では与党・ANCの支持率はかろうじて4割を上回る水準で、初めて過半数割れする見込みとなっていて、他の党と連立を組む可能性が強まっています。

日本でも度重なる裏金問題などで政治不信が高まっていますが、南アフリカの市民も厳しい経済状況の中にいる自分たちの声には耳を傾けず、私腹を肥やし続けるような与党に対する“堪えがたい怒り”のような感情を抱いていて、状況は全く違えど日本の政治不信とも通ずる部分があると感じました。

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