「ひきこもっていること自体が地域社会から避難している」能登半島地震で被災したひきこもり当事者と学ぶイベント

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2024-05-28 17:17
「ひきこもっていること自体が地域社会から避難している」能登半島地震で被災したひきこもり当事者と学ぶイベント

ひきこもりの当事者が講師となり、その経験や気付きを伝えて参加者とともに学び合う「ひきこもり大学」というイベントが5月4日に東京都内で行われました。講師として、能登半島地震で被災した石川県在住の男性2人が登壇し、当事者やその家族、支援者ら50人以上が集まりました。

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自分をいじめた同級生がいるかもしれない学校には避難できない

石尾大輔さん(43)は、小学校・中学校でいじめに遭い、高校で不登校に。大学に進学するも長年ひきこもりの状態が続き、なんとか外に出られるようになりました。現在は地元の珠洲を離れ、加賀のシェアハウスで生活しています。

石尾大輔さん
「後になって、僕に発達障害があることがわかったんです。僕の年代だと発達障害という概念そのものがなかったんですよね。だから『クラスで変な子、浮いた子』になっちゃって、結構いじめられましたね。僕にとっては、そういう変わっている自分っていうのが当たり前で、なんで否定されるんだろうと思いました。悪いことしてないのに、なんでそんなにいじめられるんだろうとかってすごく思いました。家族も周りの大人たちも対応に困っただろうなと思います」

そして石尾さんは地震があった当日、珠洲の自宅で家族とともに被災しました。自宅が半壊状態になり、体の悪い祖母と母を連れて避難したそうです。

石尾大輔さん
「避難はできたんですけど、避難所というと結構学校が多いんですよね。最低限の衣食住というのは学校行けばなんとかなるんですけど、僕自身が学校であまりいい思い出がないので、やっぱり行けませんでした。(――当時の同級生がいるかもしれないとか?)地震前から、知ってるヤツに会いたくないって気持ちはすごくありましたね。避難所に行くことと僕が家に残ることを天秤にかけた時、明らかに地元の学校に避難することの方が嫌だったんで。ある意味、学校のせいで人生めちゃくちゃになったんで、そのことに関してはすごく過敏になってますね」

その後、石尾さんは1週間、車上生活をしたそうです。同時に家族も避難所には入らず車の中で一緒に生活したということで、「自分のせいで迷惑をかけた」と話していました。

避難所にいると視線を浴びて苦しい

石尾さんの友人である中田明さん(35)は、保育園から高校までいじめられ続けてひきこもりになりました。当時、家族にどんな影響があったか話しました。

中田明さん
「ひきこもってると昼夜逆転しますわ。夜中に電気ついとると近所の人たちが『そこん家の電気、夜もずっとついとるね』って、井戸端会議でやるんですよ。そうすると、今度おばあちゃんが井戸端会議で居心地悪くなっちゃって、家に帰ってきて『言われとるんやけど、なんとかならんか』って、ひきこもりの僕と親を責めるんです。それで、親は『この子頑張っとるから言わんといて』って、そこでぶつかって、さらに居心地が悪くなり…」

石尾さんも「やっぱり石川県の田舎って、考え方がすごく封建的なところなんですよ。だから結構そういう空気で苦しめられた部分っていうのは、もしかしたら他のところよりも強いかなって思います」と話していました。

そして中田さんは白山市の自宅で地震に遭いました。避難所でこんな体験をします。

中田明さん
「『避難所は体育館の2階です』って言われるんですよ。津波が来るかもしれないから。体育館の2階は、席が4方向から内側を向いているじゃないですか。視線を浴びるんですよ。椅子に座ったはいいけど、視線を浴びて苦しくてしょうがなくて。30分くらいでもう視線に耐えられず、勝手に車運転して家まで帰って、揺れながら自宅で正月を過ごしていましたよ」

3.11でも同じ問題が

東日本大震災の時も「逃げて」という呼びかけがあったにもかかわらず、家から避難しようとせずに津波に飲み込まれたひきこもりの人がいました。司会を務めたジャーナリストの池上正樹さんは「ひきこもりの人にとっては、そもそも自分の部屋にひきこもっていること自体が地域社会から避難しているということなので、避難先に安心・安全がなければ避難することは出来ない」と話します。

当事者同士のつながりが救う

石尾さんは、震災という苦しい時に助けられたのは「仲間」だと話します。

石尾大輔さん
「震災なので誰かのせいにできないんですよね。本当苦しかったんですけど、やっぱりその時に励みになったというか、希望になったのは中田君とか、メールくれたりとか、大学の時の友達に『大丈夫か』って、そういう繋がりっていうか、それは良かったなと思います」

講義を聞いた人たちの感想です。

当事者男性
「当事者として今ちょっと苦しいので共有したいなと思って、何か得られるものはないかと参加しました。対人恐怖だったり、そういう生の声が聞けて良かったなと思いました」

44歳の息子がひきこもりの男性
「仲間の大切さがよく分かりました。今ちょっとひきこもってる息子に、ああいった仲間ができるとうれしいなと思います」

ひきこもりの当事者がどんなことを感じているのかを直接聞くことができた今回のイベント。池上さんも「ひきこもることは悪いことではない」と話します。ただ、石尾さんも中田さんも、普段はひきこもっていて避難所には行けなくても、こうした当事者が集まるところには顔を出せたわけですから、理解できる人同士で仲間が出来れば、外に出るきっかけにもなるのではないかと感じました。

(TBSラジオ「人権TODAY」担当:進藤誠人)

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