スポーツ振興や社会の活性化につながる大きな成果に対し、献身的かつ情熱的な活動によってその実現を支えた人物・団体、まさに「スポーツ界の縁の下の力持ち」を表彰するアワード―――ヤマハ発動機スポーツ振興財団 YMFS スポーツチャレンジ賞。
ヤマハ発動機スポーツ振興財団が主催し、日本スポーツ協会、日本オリンピック委員会、日本パラスポーツ協会、日本パラリンピック委員会が後援するこのスポーツチャレンジ賞、その第16回に選ばれたのは、義足エンジニア で ソニーコンピュータサイエンス研究所 リサーチャー、Xiborg(サイボーグ)遠藤謙 代表。
受賞理由は Blade for All「だれもが走れる社会」を実現するために
「義足のアスリートが健足のアスリートを超えたとき、世界の常識が変わる。僕はその瞬間に立ち会うアスリートの義足をつくりたい」
そう語るのは、第16回 ヤマハ発動機スポーツ振興財団スポーツチャレンジ賞に選ばれた、義足エンジニア Xiborg(サイボーグ)遠藤謙 代表。
遠藤代表は5月28日、都内で開かれた同賞 表彰式に登壇。ヤマハ発動機スポーツ振興財団 木村隆昭 理事長、立命館 副総長・立命館大学 副学長・立命館大学 スポーツ健康科学部 伊坂忠夫 教授らが表彰した。
ヤマハ発動機スポーツ振興財団は「『走りたい』という希望を持つ義足ユーザーは、その願いを叶えるまでにさまざまな障壁に直面している」という現状をふまえ、受賞理由について、こう伝えた。
「義足エンジニアの遠藤謙氏は、その課題解消に向けて、義肢装具士やパラアスリートと連携し、テクノロジーと環境づくりの両面から、「だれもが走れる社会」の実現にチャレンジしている」
「テクノロジーとスポーツを軸に」
義足と義手を装着し、パラ陸上競技にて100m・走幅跳に挑む池田樹生ら、パラアスリートといっしょに走ってきた、これからもさらにタッグを組んでいっしょに躍進する義足エンジニア 遠藤代表 は、今回の受賞について、こう語った。
「この度はこのようなすばらしい賞をいただき、大変光栄に思っております。
このプロジェクトには、スポンサー企業、地方自治体、大学、スポーツ競技団体など数多くに方々が関わっており、本賞は関わったすべての方々でいただいたものだと理解しています。
2021年のオリンピック・パラリンピックを通じて、トップパラアスリートたちの活躍はメディアでよく目にするようになりましたが、いまだに一般義足使用者たちが日常的にスポーツを楽しむための敷居は高いままです。
Blade for All プロジェクトを通じて、障害や周りの環境がスポーツを楽しむための足枷とならないよう、今後ともテクノロジーとスポーツを軸に活動を広げていきたいと思っています」(Xiborg 遠藤代表)
高額、専門性、走る場…多くの課題
義足ユーザーが抱える最も大きな課題は、「1足あたり数十万円以上」といわれるスポーツ用義足の高額さ。
日常用の義足は保険が適用され、運動を楽しむためのスポーツ用義足は適用外という制度上のハードルが、パラアスリートの前に立ちはだかる。
また、仮に高価なスポーツ用義足を購入したとしても、成長期の幼児・児童であれば身長や体重の変化が大きく、使用できる期間が限られ、変化するたびに買い替えるといった出費に悩まされる。
義足ユーザーが走るための障壁は、義足というハードだけではない。日常用の義足からスポーツ用義足への換装や、ブレード(板ばね)を備えたスポーツ用義足でのランニングには、それぞれ専門的なスキルの習得が必要となる。
さらに、安全に楽しく走ることができる場所を確保することも大きな課題のひとつとなっている。
「ギソクの図書館」も開設
遠藤代表らが推し進める“Blade for All”は、義足ユーザーが、足を切断してから走れるようになるまでに直面するこれらの課題を、一気に解消することをめざしたプロジェクト。
走りたいという希望を持つすべての義足ユーザーに「走る喜び」を届けるため、そのグランドデザインを描くとともに、エンジニアとパラアスリート、義肢装具士らが一体となって各種の活動を推進している。
2016年から毎月1回、新豊洲Brilliaランニングスタジアムで開かれている「ブレードランニングクリニック(マンスリーラン)」は、義足ユーザーに楽しく走れる機会を提供する取り組み。
義肢装具士がレクチャーを行いながら参加者の日常用義足をスポーツ用義足に換装し、パラアスリートたちがスポーツ用義足での走り方を指導し、2024年2月までの7年間で計83回開催され、のべ350人以上の義足ユーザーが走る楽しさを体験している。
“Blade for All”の実現へ
さらに、2017年には貸し出し用ブレードを揃えた「ギソクの図書館」を開設。
24本の貸し出し用ブレードは、すべてクラウドファウンディングの寄付金で購入したもので、ギソク図書館の開設によってクリニック参加のハードルは一気に下がり、東京2020パラリンピックで来日した各国のメディアから、「義足を使って走れる、世界で最も敷居の低い場所」として紹介された。
“Blade for All”の実現に向けたこうした活動は現在、静岡・新潟・大分・沖縄・仙台・大阪・岐阜・神戸・広島などにも展開している。
義足エンジニアである Xiborg 遠藤代表は、義足ユーザーの負担軽減を目的として低価格ブレードの開発にも取り組んでいる。
また、その開発過程で健常者が義足で走ることを疑似体験できるブレード付のブーツを考案し、これを用いて健常者向けの「ブレード体験会」なども展開している。
「挑戦する心」を社会に
大きな成果そのものと同様に、その実現を支えた活動やプロセスもまた称賛されるべき対象だと考えるヤマハ発動機スポーツ振興財団(YMFS : https://www.ymfs.jp/)。
YMFS スポーツチャレンジ賞は、それぞれの分野・立場において、夢や高い目標に向かって積極果敢に挑戦し、「縁の下から献身的な活動を続けた人物・団体」に敬意を表するとともに、今後さらなる活躍への期待を込めてエールを送る表彰制度。
同賞を通じて共感や称賛の輪が広がり、人々の新たな行動を起こすきっかけになること、そして「挑戦する心」が社会に浸透していくことを願い、今後も称えていくという。
最後に、Xiborg 遠藤代表 が心に刻む言葉。米国のロッククライマーでエンジニア、自身も義足ユーザーの恩師 ヒュー・ハー氏の言葉を。
There is no such a thing as disable person.
Theare is only physically disabled technology.
世の中に身体障害者はいない。技術のほうに障害があるだけだ。
Hugh Herr