トランプ前大統領の暗殺未遂事件で、容疑者の男が事件前日に地元の射撃場を訪れたことが新たに分かりました。犯行に向けて準備を重ねていたとみられています。
【写真を見る】トランプ氏“銃撃男”前日に射撃練習 直前に弾薬・はしごを購入し準備か 副大統領候補バンス氏、過去に「トランプ氏は嫌い」と批判も…【news23】
容疑者の男は“前日に射撃練習” 直前に弾薬・はしごを購入し準備か
銃撃事件からわずか2日、公の場に初めて姿を見せたトランプ氏。負傷した右耳には白い当て布のようなものがつけられていました。
「まもなく第47代米国大統領となるドナルド・J・トランプ氏です!」
演説はしませんでしたが、拳を振り、USAコールに応えます。何度も湧き上がる声援に対し笑みを浮かべるなど、健在ぶりをアピールしました。
共和党はこの日、大統領選の候補者にトランプ氏を正式に指名。党の政策綱領も採択し、不法移民を強制送還することを盛り込むなど、トランプ氏の意向が色濃く反映されました。
トランプ氏の様子を見た出席者は…
共和党大会の出席者
「ホッとしています。トランプ氏が暗殺(未遂)から生還したことを神に感謝しています」
発砲したトーマス・クルックス容疑者(20)の事件前の足取りもわかってきました。
記者
「クルックス容疑者はこちらの射撃クラブに所属していたということです」
アメリカメディアによると、クルックス容疑者は事件の前日も射撃の練習をしていたことが明らかになりました。さらに、事件当日の朝、ホームセンターではしごを買い、ガンショップで50発の弾薬を買ったといいます。
その後、会場に向かったとみられるクルックス容疑者は、演説会場から約135m離れた建物の屋上に上りました。そして、トランプ氏の演説中に発砲しました。
このときのクルックス容疑者を捉えた映像からは、眼鏡をかけ、グレーの服を着た容疑者がうつ伏せになり銃を構えているのがわかります。
また発砲の前、地元警察が不審者の通報を受けていたということです。
地元の保安官は当時の状況について…
地元の保安官(アメリカメディアによると)
「警官は別の警官に担ぎ上げられ、犯人が陣取ったビルの屋上へ上がった。クルックスがライフルの照準を警官にあわせると、警官は手を離し、屋上から落ちた」
その後、トランプ氏に向かって発砲したといいます。
一方、トランプ氏は銃撃の翌日、アメリカメディアにこう話していました。
トランプ前大統領
「私はここにいるはずではない、死んでいるはずだった。病院の医師は『こんなことは見たことがない、“奇跡”だ』と言った」
トランプ氏の“奇跡の瞬間”を分析 専門家「顔の向きが違えば頭部に被弾」
私たちは専門家の解説や、様々な映像から“奇跡の瞬間”を分析しました。
トランプ氏が演説をしていた会場は、ステージを囲むように観衆で埋め尽くされていました。
事件後の映像を見ると、ステージの右側と左側の後ろに大きなモニターが設置されていたことがわかります。
演説が始まると約5分後、トランプ氏は右側を向き…
トランプ前大統領
「あの図を見てくれ。史上最悪の大統領(バイデン氏)が誕生し、我が国がどうなったか見てみよう」
指を差した先には、不法移民の数を示すグラフが表示されていました。
その後、手を下げ、グラフを見ながら話していた次の瞬間。クルックス容疑者は、トランプ氏を正面に見て左側、約135m離れた建物の屋根の上にいました。
2人の位置関係から、今回の銃撃を専門家に分析してもらいました。
銃器評論家 津田哲也さん
「耳だけがうまく貫通した、負傷したということであれば、(容疑者に対して)真正面を向くことになる。銃口に対して真正面。だから偶然、その方向を向いたのであれば、これは奇跡的な確率と言える」
発砲の直前のトランプ氏を改めて見てみると、何度か顔の角度を変えていることがわかります。
当時の状況を再現すると、トランプ氏が容疑者に対して真正面を向いたことで、耳だけに銃弾が当たった可能性があります。
しかし、もしトランプ氏が前を向いていたとしたら、左から打ち込まれた銃弾は頭を貫通していたと津田さんは指摘します。
銃器評論家 津田哲也さん
「顔の向きがちょっと違ってたりとか、トランプ氏が半歩下がっていれば、まともに被弾したということ。こちら(右側)の側頭部の可能性」
発砲の瞬間の“顔の向き”がトランプ氏の命を救ったといいます。
トランプ氏が副大統領候補に指名のバンス氏、過去には「トランプ氏を支持しない」と批判
生還したトランプ氏が大統領選を共に戦う副大統領候補に指名したのが、J・D・バンス上院議員(39)です。
バンス氏は中西部オハイオ州にある荒廃した工業地帯“ラストベルト”の出身。海兵隊の入隊などを経て、名門・イェール大学のロースクールを卒業して投資会社などに勤務しました。
2016年に出版した回顧録「ヒルビリー・エレジー」でラストベルトの苦境を描き、ベストセラー作家に。
ラストベルトの白人労働者からの支持が多いトランプ氏について、当時バンス氏は…
J・D・バンス氏
「私はトランプ氏を支持しない。彼のことは嫌いだ」
しかし、2022年に上院議員に立候補すると、SNSの批判的な投稿を全て削除してトランプ氏の支持に転じました。
現在はアメリカファーストを掲げるトランプ氏の政策を強く支持しています。
23ジャーナリスト 宮本晴代 記者
「選挙の勝敗はラストベルトの激戦州にかかっている。バンス氏の存在はこうした地域の有権者、特に白人労働者に強いアピールになる」
バンス氏について、バイデン大統領は…
バイデン大統領
「彼はトランプ氏のクローンだ、何の違いもない」
共和党大会が開催されたウィスコンシン州では、トランプ氏の政策に反対する人の姿も。
衝撃の事件は大統領選にどう影響するのでしょうか?
トランプ氏は“いつもと違う表情” 今後の発信どうなる?
小川彩佳キャスター:
共和党大会の会場にはワシントン支局の樫元照幸支局長がいます。
トランプ氏が党大会で見せた表情は神妙な面持ちや穏やかな印象がありました。これまでのエネルギッシュな姿をアピールする姿勢とは違った印象を受けましたが、アメリカ国内ではどのように受け止められているのでしょうか?
樫元照幸 支局長:
現地の報道では、トランプ氏の表情や態度に対する分析は目立ちませんが、「感動した様子だった」というような表現が目立ちます。
今回の銃撃事件を受けて、トランプ氏がどのように変化し、そして、どのように変化するのか注目ですが、アメリカメディアは、レーガン元大統領が暗殺未遂事件の後に議会で行った演説を取り上げています。
レーガン元大統領は演説の中で、反抗や社会を非難するのではなく、身を挺して自分を守った警護担当を称賛し、「このような献身的な人たちがいるということは、社会は決して病んではいないんだ」というポジティブなメッセージを発信しました。
そして、これを機にレーガン氏は政策を見直し、ソ連への対抗から関係の修復へと変化していったと歴史家が論評しています。
トランプ氏が最終日(18日)の演説で、どのようなメッセージを発信するのか、どのような変化がみられるのか注目されます。
民主党は選挙戦略の抜本的な見直しが必要か
小川キャスター:
一方で、今回の事件を受けて、バイデン大統領の民主党は対応や向き合い方を変えざるを得ないという事態となっていますね。
樫元支局長:
非常に難しい状況に陥っています。民主党陣営やバイデン大統領は、トランプ氏を「民主主義の脅威だ」と強調して支持を訴えていました。
しかし、共和党の一部は、「こうした言動が事件に繋がった」と批判していて、バイデン大統領はインタビューの中で、「そんな言い方を私はしていない」と反論するとともに、「危ない言動をしているのはトランプ氏の方だ」と強調しました。
ただ、トランプ氏が被害者となったため、民主党やバイデン大統領はなかなか攻撃がしにくい状況になっています。
民主党の一部では、バイデン大統領が撤退して新しい候補者を立てて勢いをつけようという動きがありましたが、この動きは完全にしぼんでしまいました。民主党は選挙戦の戦略の抜本的な見直し、立て直しが迫られています。
プチ鹿島さん「事件きっかけに対話へ方向転換するか…」
小川キャスター:
今回の大統領選は、どこに注目していますか。
プチ鹿島さん:
トランプ氏が神妙な面持ちになり、穏やかな表情になったとありましたが、自身が被害者なわけです。
今までの批判をやめて、団結を呼びかけるということが、いつまで続くか注目したいです。
民主主義と暴力という点でいえば、トランプ氏も2021年の連邦議会襲撃事件で支援者を煽ったとされてますし、2024年のはじめごろ、2期目には大統領権限を強化して独裁者を目指すのではないかという報道もあり、民主主義そのものが問われていたわけです。
この穏やかさで、みんなで議論を高めていくということが本当に続くのか、この事件をきっかけに方向転換して、対話になればいいと思いますが、まだちょっと半信半疑な状況です。
小川キャスター:
今後の発信がどうなるか、これまでとどう変化するのか注目していきたいです。
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<プロフィール>
プチ鹿島さん
国内外の選挙を取材
子どもの頃から「選挙特番」好き
新聞14紙を毎日読み比べニュースを読み解く