清水区内の工場周辺の水路や井戸水から、国の暫定指針値を大きく超える高濃度PFAS(ピーファス)が検出された静岡市が8月21日、PFASを無害な分子レベルまで分解可能な「亜臨界水総合システム」の技術を有する株式会社Aホールディングスと「環境中のPFAS除去・無害化に関する取り組みの推進およびSDGs環境先進都市を実現する『亜臨界水総合システム』社会実装のための連携協定」を締結した。
PFASとは有機フッ素化合物のことで、これは2000年代の初め頃までは様々な工業で利用されていたものだ。だがPFASの中でも特にPFOS(ピーフォス:ペルフルオロオクタンスルホン酸)とPFOA(ピーフォア:ペルフルオロオクタン酸)の健康に対する有害性が高いことが問題となり、2009年以降は国際的に規制が進み、現在では多くの国で製造・輸入などが禁止された。同様に日本でも国内での使用・製造が禁止されたが、「永遠の化学物質」といわれるほど分解されにくい性質があるため、過去に放出されたPFASは今も環境中に残っているのが実情だ。
そんな中、2023年秋に静岡市清水区の三井・ケマーズフロロプロダクツ株式会社清水工場が過去にPFASを使用していたことが判明。工場周辺水路など工場近隣と市内5河川のPFAS濃度を市が調査した結果、工場周辺の水路から高濃度が検出された。さらなる調査の結果、工場正面に位置する三保雨水ポンプ場からは数千、多い日には1万ng/Lを超える極めて高い濃度が検出された。環境基本法の暫定指針値が50ng/Lであることを考えると、その値がいかに大きいかがよくわかる。
「新しい技術を持つ企業と共創して、新技術の社会実装、実用事業化を推進し、それを世界に発信することで環境問題に貢献できる。また静岡市内に拠点を置いて新技術で社会課題の解決を行おうとする企業に出資して事業化を支援する制度の創設を予定している」と語った静岡市長 難波喬司氏。
直ちに「PFAS対策チーム」を立ち上げた静岡市は、活性炭による浄化などを試みたが抜本的な解決策にはならず、この問題についての解決方法について模索し続けてきた。そのような状況下、今年4月に「PFAS除去を実現する技術の実証実験を行いたい」と提案したのが株式会社Aホールディングスだ。同社の特許技術である亜臨界水総合システムを利用すれば、国の暫定指針値以下まで高濃度PFASを除去できる可能性があるという。そして今年7月に実証実験が開始され、同月22日に最初の検体を採取し検査を実施したところ、大幅な汚染除去を実現したことが判明。これを受けて亜臨界水総合システムによるPFAS汚染除去技術の研究及び社会実装化に向けた連携、静岡市を拠点とした事業展開による静岡市のSDGs環境先進市の実現、亜臨界水総合システムによる世界中の環境問題の解決を推進することを目的とした協定締結に至った。
亜臨界水総合システムとは?
「亜臨界水処理装置」とPFAS除去を実現する「加圧浮上分離装置」、「各種発酵装置」の3つの装置から形成。従来からある亜臨界水処理技術を応用したAホールディングス独自の次世代装置で、同社の中核企業である「ウォーターアリンテック株式会社」が開発及び研究開発を行っている。
加圧浮上分離装置
排水の中にPFASと泡を付着しやすくする薬品を投入。
減圧と加圧を繰り返して泡を作り、PFASを吸着させて浮かばせる。
浮きあがったPFASを含む泡をかき寄せ機で回収し、きれいな水と分ける。
亜臨界水総合システムの開発および研究開発を行っている、ウォーターアリンテック株式会社の代表取締役 青山慧氏。同社では加圧浮上分離装置で分離した高濃度のPFASを亜臨界水総合システムで処理することで無害化できると考えており、さらなる研究と実証実験を進めていく予定だという。
今回の包括提携式・調印式を見ていて「日本は変わったな」と記者は感じた。というのも、現在は使用していないとはいえ過去にPFASを使用していたことを認めた三井・ケマーズフロロプロダクツ株式会社清水工場、そして水産が盛んな土地にも関わらず、風評被害を恐れずに海への放出を発表し、発覚から短期間で対策のための包括提携まで持っていった静岡市の潔さと責任の取り方に感服したのだ。これがひと昔前であれば、ひた隠すという選択をするのが当然だっただろう。それにしても今回のPFASといい、ちょっと前に問題になった石綿といい、以前は健康への影響を考えずに有害物質が当たり前のように身近にあったことに恐怖感を覚えずにはいられない。幸いにもウォーターアリンテック株式会社の青山代表が言うように、このシステムを使えば無害化できる可能性があるのであれば、これら人類の負の遺産を帳消しにしてほしいと心から願いたい。