漁獲量、農業収穫量、収入も減ってしまう。地球温暖化の影響を実際に大きく受けている事業者からのリアルなメッセージ

2024-12-06 21:28

日本気候リーダーズ・パートナーシップ(以下、JCLP)は、日本政府による『温室効果ガス排出削減目標(以下、NDC)』の検討が最終局面を迎えるこの時期に、気候変動のリアルな影響と、日本の適切なNDCに関する「緊急記者会見」を開催。

実際に気候変動の影響を受けている事業者が登壇し生の声を聞きながらパネルディスカッションなどが行われた。

JCLPは、「脱炭素社会」への移行をビジネス視点でとらえる日本独自の企業グループ。脱炭素社会の実現に向け、個別企業の枠を超えた活動に取り組んでいる。JCLPは現在、企業や生活者から気候変動の影響に関する声を集め、深刻な影響を避けるための国際合意「1.5度目標」に沿ったNDCの実現に向けた機運を高めるため、「#だから1・5度」キャンペーンを実施している。冒頭では松尾雄介JCLP事務局長が次のように語った。

「気候変動にとっても極めて重要な政策が今、決定しようとしており、日本が出す2035年の目標(NDC)次第で、方向性が決まってきます。さらに、トランプ政権が始まる今、G7の中で「日本がどのような方向性を出しているのか」に世界中が注目している状況です。残り僅かの期間で決まると承知していますが、各企業や一次産業の方々が語るリアルな声をきちんと聞いて、将来を含めて意思決定をしていただきたいと思います。今回は、その辺りも踏まえて、メッセージを届けていきたいです。」

また、当日は超党派の国会議員連盟「カーボンニュートラルを実現する会」のメンバーによる挨拶もあった。この気候変動にどう向き合うのか、しっかりと声を聞いて吸い上げて実行していくのが行政。現在はそれができていないので当事者や若い人、NPOやNGOなどの現場の話にしっかりと耳を傾け、速やかに行動にうつせるよう、そして気候変動のリーダーシップを日本が取れるように頑張っていきたいと語った。

パネルディスカッションではさまざまな分野で気候変動の影響を受けている6名が登壇。それぞれ次のように現状を語った。

今井雅則さん(企業/JCLP 共同代表/戸田建設会長)

「建設現場で働く従業員はファンのついた作業着を着用していますが、今年は暑すぎてこれでも追いつかないほど。そのため夏場は作業できずにストップしてしまうこともあります。これは経済が止まることでもあり、災害の復興作業にも影響するんです。暑さによる熱中症や死亡者が出ている状況で、そういった環境から身を守るために、ヘルメットの後ろには熱中症を感知するセンサーを開発し、現場で適用をしています。こうして自分や社員の命を守らないといけないような現状です。」

長久保晶さん(漁師/湘南漁業協同組合葉山支所)

「水温の上昇により海の生き物がどんどん北上していっています。また、10年前は沿岸に海藻が大量にあるのが当たり前だったのが、温暖化の影響で冬場でも水温が下がらないため、ムラサキウニに葉も茎も食べられてしまい、今ではほとんど残っていません。漁獲量では、10年前は網で5キロほど収穫できていたサザエが、先日は3つしか取れておらず漁師として仕事を続けていけない状況になっています。このまま行くと5年後には、相模湾からワカメやヒジキなどがいなくなってしまうのではないかと言われているほど、海水温が高く、他の魚も含めて収穫量が減っています。」

井上能孝さん(農家/株式会社ファーマン代表取締役)

「20数年前から、山梨県の北杜市で農業をしていますが、今年初めて、温暖化の影響でこれまで見かけなかった白菜の軟腐病※1 が見られました。また、局所的な豪雨やそれに続く乾燥の影響で、同じく収穫に大きな影響を及ぼす、大根のホウ素欠乏※2 なども発生しています。大根の場合は外見からは野菜の中がそんな状況になっていることは全くわからないですし、そのようなものを出荷するわけにいかないので、畑の2割の野菜にこの症状が発生した場合には、全ての収穫を取りやめ、その畑の収入をあきらめなくてはなりません。これは収入が減ることにも直結しています。」

※1.軟腐病:作物の地面に近い部分が腐り、異臭を放つ病気。潅水や降雨により、土壌中の原因菌が作物に付着することによって感染する。
※2.ホウ素欠乏:植物が生長するために必要な微量要素の一つ、ホウ素が土壌中から十分吸収されないことによっておこる生育不良。ホウ素は主に植物の細胞壁を構成する成分で、これが欠乏すると、大根の場合芯が黒く変色して空洞ができるなどの影響がでる。

入江知子さん(保護者/Jリーグ サステナビリティ部 部長)

「保育園帰りの娘が9月の終わりにやっと公園に行けて遊べたと喜んで話してくれました。猛暑の影響で夏の間は子供が室内遊びで我慢しなければいけない状況になっています。また、九州でサッカーコーチをしている方のお話しで、チームのお子さんから試合前日に『サッカーに行けない』と連絡があり、理由を尋ねると人工芝が熱すぎて、スパイクとソックスを履いていたのに足の裏が火傷してしまったそうです。」

藤原武男さん(医師/東京科学大学教授)

「気候変動は子供の健康に危険を及ぼすものであると、改めて皆さんに認識いただきたいと思います。今までは、早産になることや川崎病などの病気にかかるリスクが懸念されていましたが、現在1番関心が高まっているのが『喘息病』です。このままいくと2100 年には気温が4度上昇すると言われており、先日発表した研究によると喘息で入院する子供の数が現在の4倍になると推定されています。これは医療崩壊にもつながる可能性があるんです。」

河野健児さん(アスリート/プロスキーヤー)

「スキーの名所、長野県の野沢温泉で生まれ、長年活動していますが、ここ10年で顕著に雪が減っています。また、ハイシーズンに土砂降りの雨が降るなど、これまでない状況も起きています。数年前にはメインのゲレンデに雪が積もらなくてスキーができないこともありました。野沢温泉のスキー場が潰れたら村が潰れると言われているほど、住人の収入についてもスキーに依存している部分があります。また、雪解け水による温泉やお米にも影響が出るなど、気候変動による人々の生活への影響は大きいです。」

リアルな現状を聞けば聞くほど、気候変動に対するこれからの日本の課題はまだまだたくさんある。これを変えるのは現場や目の前のことだけではなく、その原因となる根本にアプローチするのが大切であると医師の藤原氏は説明した。また、海外では再生エネルギーを使っていない部品は購入しないなど、脱炭素化が鈍化すると日本経済の競争力にも影響してくる。

このように、わたしたちの生活と未来に大きく関わる政策が今、決まろうとしているのだ。それを知れたパネルディスカッションだった。

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