「愛犬の2世が見たい…」お家での出産で起こることとは?基礎知識からリスクまで【現役獣医が解説】

2025-02-13 17:20

お家にわんちゃんを迎えて、まず飼い主さんが選択することになるのが避妊手術や去勢手術をするか否かということです。病気の予防や望まれない子供の妊娠を防ぐ目的があります。もし出産をすることになったらご家庭ではどのようなケアを必要とし、どんなリスクを考えなければならないのでしょうか。

わんちゃんの出産について

妊娠している犬

私たち人間のお産であれば、どのくらい妊娠期間があって、胎児の誕生はどのようなものかということが想像がつくでしょう。

ではわんちゃんの場合、妊娠から出産までどのような流れになるのかご存知でしょうか。

妊娠・出産までの期間

まずわんちゃんの場合、発情や妊娠までの流れや機能が人間と異なります。

未避妊の女の子の場合、生後半年くらいで初めての発情にいたります。小型犬などで早い子の場合、半年を迎える前に初回発情を迎える場合もあります。

発情を迎えると、陰部からの出血があるため飼い主さんでもわかりやすい変化と言えますが、出血量も個体差があり、気にする子の場合は舐めとってしまうなどの行動が見られるため、気づきにくいわんちゃんもいます。

陰部の腫大や乳腺の発達なども併せて見られるため、普段からわんちゃんをよく観察していると変化に気づきやすいかもしれません。

発情出血は人間の月経とはメカニズムが異なります。そのため、発情出血が見られた10日~2週間前後くらいで排卵が起こる仕組みになっています。

発情期を迎えると、女の子はフェロモンを発し、そのフェロモンに未去勢の男の子は反応します。
近くだけでなく半径1キロくらいの距離にまで、発情した女の子のフェロモンは広がるとされています。

フェロモンを感じ取ると、未去勢の男の子はそわそわしたり、何かに反応するように甘えた声で鳴くなどの行動変化に気づくことが多いです。

男の子同士で女の子を奪い合うような喧嘩になったり、性格が変わったように凶暴化することもあるでしょう。

交配をすると約2か月くらいの妊娠期間を経て出産にいたります。

胎児について

わんちゃんは基本的には多胎と呼ばれ、子宮内に複数頭の胎児を妊娠します。

わんちゃんの子宮はYの字型をしていて、子宮角と呼ばれる左右に分かれる部分に何頭かずつ胎盤を通じて育つことが一般的です。

わんちゃんでも死産や流産は起こりえるため、その場合死産胎児は上手く排出されず、子宮内に遺残してしまう場合もあります。

交配をして妊娠の可能性がある場合、まずは超音波検査での肺の存在の確認を行い妊娠しているかどうかを確定させ、出産が近くなったらレントゲンで頭数の確認を行います。

このとき、レントゲンで胎児の状態が確認でき、胎児の頭がどちらの方向を向いているかで逆子であるかどうかの判別も可能です。

逆子である場合、産道で引っ掛かってしまうこともあり、介助が必要になったり難産になる危険性もあるため注意が必要です。

出産の様子

交配後約63日くらいで、わんちゃんの体に出産の準備が始まります。

人間の出産と同じで陣痛が徐々に強くなり、赤ちゃんが誕生します。人間は痛みを伝えられますが、わんちゃんは痛みを伝えることができません。

おなかのハリなどやそわそわするなどの普段との行動の違いで出産が始まったことに気付ける場合もありますが、専門家でない場合気付くのは難しいかもしれません。

出産が始まって、スムーズに赤ちゃんが生まれてくれればよいですが、赤ちゃんの体位や大きさ、陣痛の進み具合などによって難産に陥る場合もあり、その場合は介助が必要です。

長時間赤ちゃんが生まれてこれないと、赤ちゃんもお腹の中でなくなってしまったり、お母さんも体力の消耗や出血などで死に至る危険性もあります。

どのくらい経過をしていて、きちんと産まれているかどうかということや、多胎であるため、おなかにいるであろう赤ちゃんがきちんと全頭生まれているかどうかということを把握する必要がありますが、そのためにはわんちゃんにつきっきりで観察をする必要があります。

またわんちゃんの性格によっては、出産の際にとても神経質になって、飼い主さんでも近くにいることを許してくれない場合もあるため、思うようにサポートできない可能性も考えておかないといけません。

必要なサポート

相談する飼い主

必ずしも安産とは限らない出産だというお話をさせていただきました。

こんなときに頼りにすべきはどんな人たちなのでしょうか。一人でおうちのわんちゃんの出産に臨むことは難しいケースも多いです。

ブリーダーさん

まず出産の前に交配の際にもサポートしていただく必要があるのがブリーダーさんです。ブリーダーさんは交配や出産のプロです。

お家に女の子のわんちゃんがいるご家庭は、お相手をどのように決めるかをまず考えなければなりません。

男の子のわんちゃんとも一緒に生活している場合や、知り合いの方と交配をする約束をしている場合、ブリーダーさんにお相手を見つけてもらう場合など様々なケースが考えられます。

このとき、注意すべき点がいくつかあります。まず、わんちゃん同士を対面させただけで自然に交配が進むことが少ない場合が多いです。

そこで、人間がサポートをしたり、落ち着いて交配できる環境づくりなどをする必要があり、ブリーダーさんのサポートやアドバイスが必要となるケースが多いです。

また、飼い主さん同士の約束で交配を試みた場合、女の子の体にかかる負担が大きいことや産まれてくる赤ちゃんの貰い手、お世話の関係、費用などトラブルの種になり得る問題がたくさんあります。

そのため、お母さんのわんちゃんの体格や毛色、血統などを考慮して、ブリーダーさんにお相手を探してもらうことが一般的です。

産まれてきた子犬ちゃんたちを販売することは資格がないとできないため、一般の家庭では里親さんを探すことは可能ですが、販売はできません。

子犬ちゃんたちの飼い主さん探しでブリーダーさんの協力が必要な場合もあります。

かかりつけの動物病院の先生

妊娠がわかってから出産まで、そして子犬ちゃんが産まれてから医療の専門家である動物病院の先生のサポートが必要です。

お産を得意とする専門の動物病院など、普段と違う動物病院にお願いする場合もあるでしょう。
できればかかりつけの先生であれば、健康状態を理解してくれている可能性も高く、相談しやすい可能性が高いです。

しかし、いざ出産をする場合、帝王切開は新生仔の状態によっては人手が多く必要になる可能性もあり、動物病院によっては出産の対応はしていないということも考えられます。

まず赤ちゃんを望みたいと考えた時に、かかりつけの先生にそのことも相談してみると安心でしょう。

出産を希望するにあたり、医療の専門である獣医師の先生から、おうちのわんちゃんの場合どのようなリスクが考えられるかなど、細かいアドバイスもしてもらえる可能性が高いです。

出産が近くなったら、よりこまめに連絡を取り合いながら出産に臨む必要があるケースが多いです。
信頼できる先生をきちんと見つけることがとても大切です。

飼い主さんご家族

出産が近くなると、おうちのわんちゃんの様子をしっかりと観察し、小さな変化を見逃さないことが、わんちゃんのリスクを軽減するためにもとても重要になります。

陣痛の始まりによって起こる行動変化や、出血の有無などが赤ちゃんやお母さんの体の状態を示すサインになるケースが多く、このサインを見逃してはいけません。

お仕事や学校などご家族のスケジュールもあり、一人の人がつきっきりになることは難しい場合も考えられます。

受診や手術に移行するかどうかの判断なども一人で決断するのではなく、家族で出産について学び、知識を共有したうえで判断することがとても大切です。

出産に臨むかどうかは一人の判断では決められません。まずはきちんと家族間で話し合いをしたうえで愛犬の妊娠出産に臨むかどうかを決めることをおすすめします。

起こり得るリスク

診察を受ける犬

わんちゃんの出産は安産と、昔から言われていて、安産の象徴と言われていましたが、実際に色々なトラブルが起こり得ます。

状態や経過によっては死に至る危険性もあります。どんなことを想定しなければならないのでしょうか。

死産や流産

まず考えられるのがお腹の中のベビーちゃんたちの異常です。

おなかの中で早期に亡くなって流産してしまう場合や陣痛が起こり生み出そうとしていた矢先に亡くなってしまうことなどの場合が考えられます。

おなかの中で亡くなってしまった場合、免疫反応によって最終的には吸収されますが、ずっと亡くなったベビーちゃんがお腹の中にいることで母体が危険な状態に陥ることもあります。

亡くなったベビーちゃんを母体が排出しようと分娩が起こる場合もありますが、起こらない場合もあり、その場合は手術が必要となります。

妊娠の確認のための超音波検査や、出産が近くなった際の超音波検査での心拍確認などによってベビーちゃんの生存の有無を確認することが一般的です。

母体への危険

妊娠することが母体に大きな負担をかけてしまう場合もあります。

赤ちゃんの大きさや頭数がお母さんの体の大きさに見合っていない場合や、妊娠してからのお母さんの健康状態などによっては妊娠や出産が大きな体力消耗につながり、死に至る危険性もあります。

プロのブリーダーさんたちはお母さんの妊娠が大きな負担にならないよう、産まれてくるであろう赤ちゃんの大きさを予測しながら、お相手となるお父さんの体格を考慮したり、もともとお母さんやお父さんの出生時の同腹の兄弟たちの頭数を考慮したうえでどんなお相手にするかを決めたり、出産に備えることが多いです。

持病や先天性疾患の有無などで妊娠や出産に臨めるかどうかをまず判断することも大切です。飼い主さんの判断では難しいケースもたくさんあるでしょう。

お母さんを危険な状態にさせないためにも、ブリーダーさんや獣医さんなどの専門家の意見を聞きながら進めることをおすすめします。

異常分娩

妊娠をしたらベビーちゃんたちを生み出すために、陣痛が来て出産につながることが一般的です。

しかし、赤ちゃんを生み出せるような陣痛が来なかったり、赤ちゃんの体位や大きさによって途中で動かなくなってしまう場合もあります。

陣痛が起こり始めるとどのような状態になるのか、どのような流れでベビーちゃんたちが生まれてくるのかということを学んでおく必要や、少しでもおかしいなと感じた時にすぐに専門家と連携をとれることがお母さんやベビーちゃんの命を守るためにとても大切です。

陣痛が起こってから長時間経ってしまうと赤ちゃんの体力も消耗してしまい、胎盤もはがれている状態であれば酸素をうまく取り入れられず、産道の途中で亡くなってしまう危険性もあります。

出産間近で母体に起こる変化や、お産でかかる時間などを理解し、家族間で情報を共有したうえで、見守ってあげる必要があるでしょう。

まとめ

母犬と子犬

愛するおうちのわんちゃんのベビーちゃんを見たいというあこがれを持つ飼い主さんもきっと多いでしょう。

わんちゃんは安産の象徴と言われたりもしますが、ママにとっても赤ちゃんにとってもお産は命がけで様々なことが起こりえます。

また、一分一秒を争い、自分で的確な判断をしなければならないケースも多く、飼い主さんもたくさんの勉強が必要だったり、専門家のサポートが不可欠だったりするケースが多いです。

一歩間違えば赤ちゃんだけでなく、愛するおうちのわんちゃんの命を失ってしまうこともあるでしょう。

今回、あまり触れることのない妊娠出産ですが、赤ちゃんを妊娠して出産することはわんちゃんも簡単なことではないということをお伝えできたらと、お話させていただきました。

出産が無事終えられても、赤ちゃんのお世話、成長した赤ちゃんの行方など、大変なことや考えなければならないことはたくさんあります。

よく学び、身近にサポートをしてくださる専門家の方の意見を良く聞きながら、出産をさせるかどうかということを考えてみていただけたらと思います。

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