一般社団法人ふくしま海と緑のプロジェクト 福島の海を伝え続ける出前授業の背景

2026-02-02 08:00

福島の海と聞いて、どんな景色や人の姿を思い浮かべるでしょうか。
豊かな恵み、美味しい魚、そしてそれを支える多くの人たち。けれど、その魅力や現状を、自分の言葉で説明できる人は意外と多くないのかもしれません。

そんな中、福島の海を「知ること」「伝えること」に真正面から向き合っている団体があります。一般社団法人ふくしま海と緑のプロジェクトです。海を守る活動というと難しく聞こえますが、同団体が大切にしているのは、まず関心を持ち、身近に感じてもらうこと。その想いは、子どもたちに向けた取り組みにも色濃く表れています。

今回行われたのは、福島大学の学生たちが小学校を訪れ、福島の海について伝える出前授業。単なる学習の場ではなく、海と人、そして未来をつなぐための一歩として企画された取り組みです。
この授業がどのような背景で生まれ、どんな学びにつながったのか。そのプロセスを追っていきます。

なぜ「福島の海」を伝え続けているのか

海を守る活動と聞くと、環境問題や専門的な取り組みを思い浮かべる人も多いかもしれません。けれど、一般社団法人ふくしま海と緑のプロジェクトが大切にしているのは、もっと身近なところから始まる視点です。

同団体が取り組んでいるのは、「福島の海を知ること」そのものを広げていくこと。魚や自然環境、漁業に関わる人たちの存在を知り、海が暮らしとどうつながっているのかを感じてもらうことを出発点としています。難しい知識を押し付けるのではなく、関心を持ち、考えるきっかけをつくる。その積み重ねが、未来へとつながっていくという考え方です。

特に力を入れているのが、次世代を担う子どもたちへのアプローチです。幼い頃に触れた体験や記憶は、その後の価値観に大きな影響を与えます。福島の海を「遠い存在」ではなく、「自分たちの身近なもの」として感じてもらうことが、将来の選択や行動につながる。そんな想いが、さまざまな体験型の取り組みに反映されています。

今回の出前授業プロジェクトも、そうした活動の延長線上にあります。イベントを行うこと自体が目的ではなく、福島の海と人とを結び直すための一つの手段。その背景には、海の魅力や現状を正しく、前向きに伝えていきたいという、団体としての一貫した姿勢があります。

想いを“学び”に変えるための準備──福島大学生の事前学習

子どもたちに何かを伝えるためには、まず伝える側が深く理解している必要があります。今回の出前授業プロジェクトでは、その前提をとても大切にしていたことが印象的です。授業を担当したのは、福島大学の学生たち。彼らは、いきなり教壇に立ったわけではありません。

プロジェクトが動き出したのは、出前授業よりも前の段階でした。学生たちは、福島の海や魚、いわゆる「常磐もの」について理解を深めるため、それぞれ担当する魚種を決め、調べ、話し合いを重ねていきました。文献を読み、意見を交わしながら、「何をどう伝えれば、子どもたちに届くのか」を考える時間が設けられていたのです。

このプロセスには、「正確に伝えること」と同時に、「自分の言葉で語れるようになること」が求められていました。単に知識を集めるのではなく、福島の海の魅力や課題について自ら問いを立てる。その姿勢そのものが、今回の取り組みの大きな特徴だったと言えそうです。

さらに、学びを深めるためのサポートとして加わったのが、さかな芸人として知られるハットリさんの存在です。専門的な内容を、どうすれば親しみやすく伝えられるのか。ユーモアや視点の切り替えを交えながら、学生たちの理解を後押ししました。難しい話を、難しいままにしない。その工夫が、後の授業づくりにも生かされています。

こうした準備期間を通して、出前授業を担当した学生たちは、「教える立場」であると同時に、「学び続ける立場」でもありました。福島の海について知れば知るほど、その背景にある人の仕事や想いが見えてくる。だからこそ、子どもたちに伝えたい言葉も、自然と具体性を帯びていったのではないでしょうか。

団体が大切にしている「知ることから始める」という考え方は、この事前学習の段階ですでに体現されていました。出前授業は、その延長線上にあるもの。学生たちは、団体の想いを自分たちなりに受け取り、それを次の世代へ手渡す役割を担っていったのです。

現地研修で見えてきた「福島の海」の今

出前授業に向けた準備の中で、学生たちは福島の海を支える現場にも目を向けていきました。相馬市といわき市で行われた現地研修では、漁業や研究、加工、食、環境といったさまざまな側面から、福島の海の姿に触れる機会が設けられています。

魚がどのように水揚げされ、どんな工程を経て私たちのもとへ届くのか。流通や加工の現場では、鮮度を保つための工夫や、限られた資源を無駄にしないための取り組みが日々積み重ねられていることが伝えられました。普段は意識することの少ない「魚のその先」に、多くの人の手と判断が関わっていることを知る時間だったといえます。

また、研究機関では、漁業を続けていくための資源管理や養殖、海洋環境の変化についても学びが深められました。海の状態は常に同じではなく、水温や環境の変化が漁業に影響を与える現実があります。そうした課題に向き合いながら、未来につなぐ方法を探る取り組みが続けられていることも、研修を通じて共有されました。

食の現場も、福島の海を語るうえで欠かせない要素です。地元で水揚げされた魚が料理として提供されるまでの背景には、素材を生かす工夫や、地域ならではの価値を伝えたいという想いがあります。知識として学んできた魚を、食という形で実感することで、海の恵みがより身近なものとして結びついていったことがうかがえます。

さらに、水族館での見学を通して、福島の海に生きる多様な生きものや生態系にも目が向けられました。漁業や食だけでなく、自然環境そのものを理解することが、海と長く付き合っていくための土台になる。そんな視点が、学生たちの中で少しずつ形になっていったようです。

こうした現地研修を通じて見えてきたのは、福島の海が決して一面的な存在ではないということでした。仕事として海と向き合う人、研究を続ける人、食を通して魅力を伝える人。それぞれの立場が重なり合いながら、福島の海は支えられています。その「今」を知ることが、出前授業の内容にも深みを与えていきました。

子どもたちに届けた出前授業と、その反応

現地研修と事前学習を経て、いよいよ出前授業が行われました。舞台となったのは、会津若松ザベリオ学園小学校と福島大学附属小学校。対象は小学5・6年生です。授業の目的は、知識を一方的に伝えることではなく、福島の海を「自分ごと」として感じてもらうことにありました。

授業では、魚の特徴や名前をテーマにしたクイズが取り入れられ、子どもたちの興味を引きながら話が進められました。たとえば、ヒラメとカレイの違いや、魚の漢字表記といった身近な話題から、福島の海の特徴へと自然につなげていく構成です。難しい説明を並べるのではなく、「知っている」「気になる」という感覚を入口にしている点が印象的でした。

特別サポーターとして参加したハットリさんの存在も、授業の雰囲気づくりに一役買っています。魚をテーマにしたユーモアのある話やイラストを交えた説明によって、教室には笑いが生まれ、子どもたちの集中力も高まっていきました。楽しさの中に学びがある。団体が大切にしてきた考え方が、授業の空気感として表れていたように感じられます。

また、今回の出前授業で特徴的だったのが、子どもたち自身が考える時間がしっかりと設けられていたことです。「福島の海の魅力を伝えるために、自分たちには何ができるか」というテーマで行われた話し合いでは、さまざまな意見が飛び交いました。実際に海へ行ってみたい、魚を食べて知りたい、家族や友だちに話したい。どの声からも、学びを自分の生活につなげようとする姿勢がうかがえます。

参加した子どもたちの感想からは、知識を得たというだけでなく、関心が広がった様子が伝わってきます。知らなかった魚に興味を持ったこと、実際に食べてみたいと思ったこと、水族館で魚を探してみたいと感じたこと。こうした反応は、団体が目指している「知ることから始まる変化」が、確かに芽生えている証ともいえそうです。

出前授業は一日限りの出来事ですが、そこで生まれた気づきや会話は、子どもたちの日常の中に残っていきます。その積み重ねが、福島の海を身近に感じる人を少しずつ増やしていく。今回の授業は、そんな広がりを感じさせる時間となりました。

この取り組みがつないでいくもの

今回の出前授業は、特別なイベントであると同時に、長く続いていく活動の一場面でもあります。福島の海について学び、考え、その魅力を自分の言葉で伝えようとする体験は、授業が終わったあとも子どもたちの中に残っていくはずです。

海は、ただ守る対象として存在しているわけではありません。人の暮らしや仕事、食文化と深く結びつき、日常のすぐそばにあります。そのことに気づくきっかけをつくること。**一般社団法人 ふくしま海と緑のプロジェクト**が取り組んできた活動は、そうした「気づきの入り口」を丁寧に広げていくものだと感じられます。

大学生が学び、子どもたちに伝え、そこから家庭や地域へと話題が広がっていく。その連なりの中で、福島の海は少しずつ「自分ごと」になっていくのかもしれません。今回の出前授業は、そうした未来への流れを静かに後押しする取り組みのひとつでした。

福島の海をめぐる取り組みは、これからも続いていきます。知ることから始まり、考え、伝えていく。その積み重ねが、海と人との関係をより豊かなものへと育てていくのではないでしょうか。


一般社団法人 ふくしま海と緑のプロジェクト 概要

一般社団法人ふくしま海と緑のプロジェクトは、福島県の海への理解を深め、その魅力を未来へとつないでいくことを目的に活動しています。イベントや情報発信を通じて、海と人との関わりを伝えるとともに、海洋ごみ削減に向けた県民参加型の取り組みなども展開。次世代を担う子どもたちが、福島の美しい自然を大切に思い、守っていく心を育むことを目指しています。

URL:https://fukushima.uminohi.jp/

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